決着
〈遡ること一分前、春翔視点〉
「だあああまずいまずいまずい!」
僕は今までにないくらい急いでいた。さっきの爆発とその後に感じたオークジェネラルの気配からして嫌な予感は的中した。
だって今感じてる気配がすごい獰猛なんだから。
会ったことない僕でもわかる、ここにいるオークジェネラル達は普通じゃない!
どうしたらいいか悩んでいると後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。
「ハルト!はぁ、はぁ、やっと追いついた……!」
「ルア!来てくれたのか!今ローブの人が死にそうなんだけどどうしたらいいかな!?」
「なんだって!?近くに石か何か、何か投げるものがあれば直ぐにでも…!」
「うーんどうしたら……ん?投げる?」
僕はルアを見た。正確にはルアとルアの剣だ。
「お、おい……なんだよ、そんなジロジロ見て」
ある考えが僕の頭に浮かんだ。ちょうどローブの人とオークジェネラルが見えた。
「……いけるかも」
「は、何がだ?」
「ルア、救世主になるいい機会だよ」
「は?どういこ……ってえ?」
僕は魔力で腕を魔力で強化しルアを持ち上げた。ルアはさらに困惑しているみたいだが気にしない。
「おい待てなにを……っては!?ちょっと待てハルトっておい!」
「行ってこいルアァ!!」
「ふざけんなクソやろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
そして思いっきりルアをぶん投げた。
僕の思惑通り、ルアは飛ばされた後すぐに空中で体制を立て直してオークジェネラルの左胸に剣を刺した。結構深そうだな。
しかしオークジェネラルはルアを握り潰そうと左手を出したがルアはすぐに剣を抜きオークジェネラルの攻撃を避けた。
さすが、対応が早い。
「よいしょぉ!」
僕はルアを投げたあと、そのままオークジェネラルに突っ込んで刀を振り上げ、オークジェネラルの首を斬るつもりで刀を振った。
しかし、オークジェネラルはその場で高くジャンプし、僕に向かって棍棒を振り下ろした。
「うおっ!?」
僕は動揺して技を中断してしまった。が、空中に魔力を集め、固まらせてそれを蹴ってギリギリ棍棒を避けた。
あ、危なかった……!とゆうかあそこで跳ぶのか。ちょっとちびったかも。
刀を使って体制を立て直し、ルアの所に向かった。
「ルア大丈「大丈夫なわけあるか!なんで俺を投げたんだよ!せめて武器にしろ!」」
即答、しかも文句言ってきた。……ということは剣であればなんでもいいってことかな?いやふざけてる場合じゃない。
「それについてはごめん。まあそれは置いといて」
「いや置いとくな」
「ローブの人回復させた?」
「スルーしやがった。とりあえず気休めにだが回復薬を飲ませておいた」
チラッと見ると。ローブの人は木にもたれかかって休んでいた。すっごく怪我してるけど間に合ってよかった。……とりあえず後でルアにちゃんと謝ろう。
「さてと……あれ、どうやって殺る?」
「それなんだがな、俺にちょっと考えがある。俺とホールミンで考えたスイッチっていう連携法があるんだが、やってみるか?」
すいっち?聞いたことないけど面白そうだな。自分の力も試したいしやってみよう。
「よしやろう」
「オーケー、俺が最初に切り込む。スイッチって言ったらハルトは俺と入れ替わるように突っ込んでくれ」
「入れ替わるね、りょーかい」
ルアふっと笑って突っ込んでいった。
オークジェネラル……長いから黒豚でいいや。黒豚もルアに気づき棍棒を振ってくる。意外と早い。だがそれをルアはギリギリで躱した。そして右足を根本から切断しようと剣を振った。が
「な!と、通らねぇ!」
ルアの剣が足の脂肪によって挟まった。オークジェネラルは鬱陶しそうに右足を振って剣ごとルアを飛ばした。ルアはなんとか体制を立て直しもう一度突っ込んだ。
オークジェネラルはもう一度棍棒を振りかざした。ルアはそれを受け止た。あれを刀で受け止めるのは無理そうだ。
「スイッチ!」
ルアが棍棒を弾いた所で合図が入った。僕は体強化でルアと入れ替わるように突っ込んだ。
その際、僕は空気中の酸素を目一杯吸い、血液に吸収した酸素を全身の細胞に駆け巡らせる。
これは集中の呼吸法と言って、技の精度、及びその威力をあげる呼吸法。藤花家に伝わる呼吸法で、藤花専校で最初に教わる呼吸法だ。これを技を出すときにする事で一時的に技の精度と威力が鬼の如く上昇する。
「はっ!」
それにより僕はオークジェネラルの足をを少し深く切り裂く事が出来た。オークジェネラルは膝をついたが、僕の腕にはとてつもなく硬い岩を切ろうとした時のような振動が腕にきた。
「がががががががが」
硬った!一応斬れたけど何これすっごく硬い!おかげで変な声出ちゃったよ!?
「ナイスだハルト!」
そこへルアがさっき傷をつけた足に向かって雷を纏った剣を刺した。
「ショックボルト!」
「ブモォォォォオォ!!」
ルアの剣は黄色の光にバチバチバチッ!という音を聞いて、あれ食らったらやばそうだな、と僕は思った。予想通り、オークジェネラルはすごく痛そうに悶えた。とゆうか何気に日ノ国を出てから魔法初めてみた。
ルアはそのまま剣を刺したまま足を切断、黒豚は尻もちをついた。
「ウィンドスラッシュ!」
黒豚に風の刃をバツ印に切るが深くは斬れなかった。
「ルアしゃがんで!」
僕はルアが傷を入れてくれた部分に魔力を込め、刃を上向にした状態ででバツ印の中心を突く。あんまり深く刺さらなかったけどこれで十分!
「どっこいしょぉ!」
「ブガアアアアァァ!?」
その傷から滝登りをする鯉のように上に傷ができ、さらに黒豚を怯ませることができた。
「すいっち!」
「よしきた!」
ルアはさっきよりも剣を黄色く光らせ飛び上がった。
「脳天カチ割れ!メテオボルト!」
ルアの剣が黒豚の頭をかち割らんと振り、僕達の勝ちになる——はずだった。
「ブモォォォォオォオオォオオォォォォ!!!」
「ッ!何っ!?」
頭に剣を振ろうとした瞬間、突然黒豚が暴れ出しルアを吹き飛ばした。
「ルア!」
僕は咄嗟に飛び出した。そして一瞬とあるものを見た僕は駆け出した。僕は魔力の跳んで黒豚の刀で首を斬る。が、黒豚が左手で僕を掴もうとしてきた。
「うわ!?」
咄嗟に空中に魔力を固めて横に跳び後ろにまわり込んで刀を振るう。
ガキン!
「は!?」
「!?ブモォォォォオォオオォ!!!」
「うおっ!ちょっ、待てってうおあ!」
また暴れ出したオークジェネラルによって僕はルアと同じ方向に吹き飛ばされ地面に転がった。
「いったぁ……」
「ハルト、大丈夫か!?」
「うん、とりあえずは」
ルアの手を借りて起き上がる。参ったなこれ。
「僕思うんだけどさ、あれ多分頭とか心臓を潰しても倒せないんじゃないかな」
「はぁ、どういうことだ!?」
「なんとなく、そんな気配がする。さっき首を切ろうとしたらガキンって硬いもの同士がぶつかったおとがしたんだ。もしかしたらそこ弱点なんじゃないかな。それに、さっきの雷の魔法?傷はついていたから体の内側に電気がいってるはずだね。実際くらったから痺れたし……さっき僕とルアがつけた傷もあるからそれなりに血は流れてるはずなのにすっごくピンピンしてるじゃん」
あんな傷回復魔術とかないと後々致命傷になるし。さっきの雷もあの黒豚に耐性がないとまず動きが鈍くなるはず……ということは電気に耐性があるとみてっておいおいおいおいおい。
「……なあハルト」
「ルアの目は腐ってないと思うよ」
「いや何も言ってないんだが……足、生えてね?」
「……そうだね」
ルアが指をさした先にはさっき僕とルアが切り裂いたはずの傷が一つ残らず再生しているオークジェネラルがいた。あと顔がすっごいにやけてる気がする。
「再生持ちか……どうする?」
「とりあえずあいつの首斬りたいから首を固定したい。やり方はなんでもいいや」
「ずいぶん雑な作戦だな……。けどそうするにしたって2人でやるのは厳しいぞ?この剣だって付与魔法をしてやっと傷入れられたのに……」
うーん、どうしたものか……。
「……あの」
「ん?」
「わ、私もやります。やらせてください」
後ろを向くと、さっきまで倒れていたローブの人──ではなく装備がボロボロの空色の肩まで伸びた髪の女性がいた。
「それはいいがお前、さっき大怪我を負ったばっかりだろ。動けるのか?」
ルアの疑問はもっともだ。おそらく、さっきの爆発はこの人がやったものだろう。本当に間に合ってよかった……!
「さっき回復薬を貰ったのでなんとか動けるようにはなりました。……それに、死ぬはずだった私を助けてくれた。だから、できることはしたいんです……!」
「じゃあ働いてもらわないとだな。えっと……」
「ニーラです。ニーラと呼んでください。敬語も不要です」
「了解。オレはルア、こっちがハルト」
「よろしっ危ない!」
全身に魔力を流して体強化、2人の腕を思いっきり引っ張る。さっきまでいた場所に黒豚の棍棒が地面を抉っていた。あのままそこにいたら……と思うとゾッとした。
「た、助かったぜハルト」
「ありがとうございます……!」
「うん」
僕達は逃げながら話すことにした
「僕はとりあえず首を斬りたい。だからまず足と腕を動けなくしよう」
「ですがそれはかなり厳しいのでは?見ていた限りだとかなり硬そうでしたが……」
「ああ。だから今俺が出せる最高火力を叩き込めば少なくとも腕か足1本ぐらいなら持ってけるはずだ」
「もう一本は?」
「……わからん」
「じゃあルアが腕をやったとしてどうやって他の部位を斬るかだね。問題はニーナさんだ、今の体力であいつの足止められる?」
「……おそらく、足を止めるぐらいしか」
「それじゃあ準備が整わない……どうしよう」
様子見のためにチラッと黒豚の方を見ると何故かニタニタと気持ち悪い顔をしながら僕らを見ていた。やっべぇ。あればめちゃくちゃうざい、爆破したい。
……ん?爆破?
「ニーラさん、さっきの大爆発はどうやって起こしたの?」
「えっと……私の剣なんですけど、水剣・爆といって液体物を全て爆発させることができるものです」
「液体物を全て、か。……それってさ、あいつの血も爆発させられる?」
「あのオークの血を、ですか?やったことないのでわかりません……体から血が出ればいける、と思います。でもそれなりの量がないと……」
「そっか、わかったよ、じゃあこれ飲んで」
僕は懐から自分の親指ほどの長さの筒を出し、ニーラに渡した。
「僕の師匠的存在の人からもらった回復薬。これなら魔力も体力も動けるほど回復するはずだよ」
この回復薬は弥彦さんからもらったもので、いつか役に立つ時が来るかもしれなよ、と言われてもらったものだ。ちなみに五つもらった。
「え、でも……」
「いいから飲んで。一応ルアにも渡しておくよ」
「サンキュ」
よし、後はあのオークジェネラルを殺っちゃおうか。オークジェネラルは未だにニヤニヤニタニタこっちに向かってくる。
「じゃあ作戦はこう。僕が合図したらルアはその最高火力の技を使って」
「それはいいが少し時間が……」
「じゃあ僕が時間稼ぐから二人は準備して。どっちかの名前を言うから名前を呼ばれた人からあいつに技を放って。技を放ったらすぐにあいつを抑えて。そして抑えてるところを僕が斬る。この作戦でいこう」
「それはいいがハルト、本当に切れるんだろうな?」
「実戦ではやったことないんだけど、ちょっと試したくて」
逃げてる最中に一つ思い出したことがあって、それを実行するつもりだ。
「じゃあ二人とも、準備はいい?」
「おう!」「はい!」
ルアは剣の刃に手を添えて、ニーアさんは僕の回復薬を飲み剣を構えてそれぞれ準備を始めた。
「作戦開始!」
僕が駆け出すとタイミングを見計らったかのように黒豚もブモォオオオオ!!と叫びながら突っ込んできた。
縦に棍棒を振ってきたので右に避ける、すれ違いざまに腹を切る、傷は浅い。
背中に向かって振り上げ、途中から金属のような感触、魔力を使って無理やり刃を通す、黒豚が怯む、空中に浮かぶ、脳天カチ割ろうと振りかぶる、黒豚は後ろに跳んで避ける。
僕と黒豚は武器を持って対峙、そんな簡単に傷は入れられないか。そして雨が降ってくる。気配的にニーナさんの魔法かな。
確実に奴の首を斬るビジョンをイメージすると同時に、弥彦さんに言われたことを思い出していた。
——どんなものにも、必ず弱い部分が存在する。そこを突くことができれば確実に実戦で強くなれる、と。
つまり、奴の首には必ず弱い部分があるはず。体の構造を考えると弱そうなのは関節部分、つまり。
「付け根を狙う!」
僕と黒豚は同時に駆け出す。
愛刀に魔力を込めて、棍棒を背中を地面にすべらせ股下を通り、付け根を斬る!
右足から血が噴き出るけど黒豚はまだ余裕そう。だったら倒れるまで続けてやらぁ!
避けては斬って、斬っては避ける。これを何回か繰り返す。
そして、ニヤニヤしていた黒豚の顔がだんだんと怒りに染まってきた。黒豚の攻撃が僕に全く当たってないのに僕の攻撃だけが当たってるという状況にイラついているみたいだ。でもそれは僕も同じ、ヤツの再生能力のおかげでいくら傷をつけても浅い傷だったらすぐ回復してしまう。
ここは我慢だ、焦って突っ込むな。僕自身にそう言い聞かせる。
「ブモオオオオオ!」
「お怒りか?奇遇だな、僕もお前に怒ってるよ!」
黒豚は痺れを切らしたのかこちらに向かって突っ込んでくる。対する僕は両手で刀を持ち腕を右側に引いて突きの構えで走り出す。
僕と黒豚の距離があと五歩ぐらいのところで黒豚は思いっきり跳び上がった。それを追うとその先には準備をしているルアとニーアさんの姿が。
「しまった!」
僕は急停止して二人を守るために駆け出すが、間に合いそうにない。
跳び上がった黒豚の棍棒が二人に当たり——
「エレクトロ……」
ルアが雷を纏った剣を黒豚が来るのに合わせて後ろに引く。黒豚はそれに気づくが空中にいるので何もできない。
「バーストォ!!!」
「ブモォオオオ!?」」
下から稲妻が走り、爆発。黒豚は黒焦げになり体勢を崩して地面に転がる。
「うおおおぉぉぉおおおお!!」
その隙を逃さずルアは黒豚の腹に乗って剣を刺す。
「エレメントバインド!」
するとどこからともなく鎖が黒豚を縛りあげ、黒豚の体が固定された。なんとかなってよかった、僕も準備しよう。
「ニーア!俺に構わずやれ!」
「っ……!ウォーターエクスプロージョンッ!」
黒豚の周りに——正確には下半身と両腕に水が集まって纏わりつき爆発した。
僕が感じた爆発はこれか、そう思いながら刀を納刀状態で構え、目を閉じる。
勘当される一週間前、卒業祝いで弥彦さんから伝授してもらった技をここで放つ。まさか披露するのが学校ではなくネビル大陸の、しかも初実戦になるとは思わなかったけど。
集中の呼吸で空気中にある酸素を明一杯吸い体中の細胞に行き渡らせる。
もっとだ、循環させろ。奴の首を、確実に斬るために、体中の動力を、ありったけを一撃を入れるために……!
……キラッ。何かが光った。
「今だハルト!やれぇ!」
一瞬、一筋の桜色の光が見えたのと、ルアの合図が聞こえたのは同時だった。その時には既に体が動いていた。
奴は足や腕が消えた上、鎖で繋がれ拘束された状態だった。
「!?ブモォ!ブモォア!」
「ぐっ!力が、強い……!」
は四股を失っているにもかかわらず暴れ出す。このままだと照準がずれて仕留め損なってしまう。
「おとなしく、しろ!!!」
「ブガアアアアアアア!!?」
ルアが左手で雷を出す、黒豚の動きが止まった。
これで狙いは定まった!僕は閃光のごとく奴の首に突っ込んだ。
「平賀流剣術……」
チャキ、と刀を抜く。すると奴の首に桜色の光の線がみえた。何かはよくわからないが、その光に向かって刀を振った。
「閃光一閃!」
瞬間、シュン、と刀を抜くがして、奴の首は真っ二つに別れた。