二体のジェネラル、そして助太刀
雄叫びが聞こえたのは四台目の馬車で、そこにはオークが十体いた。護衛の騎士達が二人一組でオークを相手している中でルアとホールミンはそれぞれ1人でオークと戦闘していた。
「おらよぉ!」
「どりゃぁ!」
ルアは心臓を貫いて、ホールミンはハンマーで頭を叩き潰してオークを殺した。あー……うん、大丈夫そう。ってそれよりもさっきの気配のことを聞かないと。
「二人とも大丈夫!?」
「ハルト!?俺らは大丈夫だが……なんでここに?」
「ここの辺りに明らかに他とは違う気配の魔物がいたんだ!だけど今はどこにも……」
僕が移動している間にどこかへ行ったのか?行ったとしても何処へ?文献では人間族や亜人族の女性を追う習性があるって書いてあったけど……。
僕が悩んでいるとホールミンはそういえば、と呟いた。
「さっき戦っている途中で見たが、ローブを被った奴がさっきあっちの森へ黒くてでかいオークを引きつけていたな」
「黒くてでかいオーク?……ちょっと待てホールミン。そのでかいオークってまさか……」
「ああ。おそらく、オークジャネラルだ」
「あー……ごめん、オークジャネラルってなに?」
二人はずっこけた。そりゃあそうだ、そもそも文献でしか見たことないし。ルアの説明曰く、オークリーダーと言う魔物の次に強く、隊の隊長的な存在で、普通のオークより知恵がありかなり面倒な相手らしい。危険度はAランクで、一体で大きい村一つを壊滅させることができる実力らしい。
でもおかしい。僕が文献で見たオークジェネラルは肌色を四、黒色を六の割合で混ぜたような色って書いてあったはず。さっきホールミンは黒いって言ったけど、完全に黒かったのか?地域差みたいなやつか?
「とりあえずわかった。それで、そのローブの人一人で相手してるの?」
「みたいだな。おかげでこっちは大助かりだが……」
とホールミンが言ったところでまたドゴオオオオオオン!と言う音と同時にグチャッという音が聞こえた。
反射的にそこを見ると他のゴブリンよりふた回りでかく濃い緑色のいかにも「俺様がリーダーだ!」と言いたげな布を着ている。
「なっ!ゴブリンジェネラルだと!?」
「ジェネラルってことは……結構やばくない?」
「ああ。結構やばいぞ、あれは……!」
今現在残っている味方の気配は僕たち三人込みで全部で二十一人。そのうち僕達の近くにいるのは冒険者二人と護衛の騎士六人
僕たちを含めて計十一人がゴブリンジェネラルを相手することになる。
最悪の状況だ。冒険者達はともかく騎士達はこの状況には戸惑っていて援護はあんまり期待できない。
「とにかく、俺達がやるしか——」
——ブモオオォォオォオォオ!!
ルアが喋っている途中でどでかい雄叫びが森から聞こえた。
「……向こうが危ないかもしれない」
「おい、まさか行く気なのか?んなことしたらお前もやられるぞ!」
ルアが怒鳴って僕に言ってくる。確かに二人の反応からオークジャネラル、というかジェネラルって名前がつく魔物は相当やばいのがわかる。特に僕が子供だから余計に心配なんだろうな。
「じゃあ一つ聞くよ?もしここに残ったとして、オークジェネラルがこっちに戻ってきたら、ルアならどうする?」
「ッ!」
「もしそのローブの人がやられたらそのオークジャネラルはこっちに戻ってくると思うよ。だったら僕らも助太刀すべきだと思うけど」
「それは……」
ドグォオオオオォオォオオオオオン!!!
「ッ!」
「うわぁ!」
「な、なんだこの爆発は!?」
「ギャギャギャ!?」
「グギャア!」
突然爆発音が響き、敵味方共に混乱した。が、僕はその爆発の原因になったであろう膨大な量の魔力の方へと意識を向けていた。
「……。ルア、僕は行く。悩んでもいいけどすぐ決めてね」
僕は爆発がした音の方へと駆け出した。
「おおい待てって速えぇ!」
という声がしたが無視した。それどころじゃないからだ。
ふととある記憶が僕の頭に浮かぶ。
明らかに血を流しすぎている少年、それでも止血しようとする僕、しかし冷たくなり動かなくなった少年の姿、そして後悔と無力感で泣き叫ぶ僕の姿。
もう、後悔しないために足を動かす。
間に合ってよ、お願いだから!
※
〈ルア視点〉
「……あいつ本当に10歳なのか?速すぎるだろ、足」
ホールミンが唖然としたように呟いた。馬車の中であいつ、「僕は今年10歳になったばっかりだよ」って言っていたが年相応の速さじゃねえ。へたすりゃあ俺らより速いぞ。
「で、どうすんだよ」
「そう言われてもな……」
ここに残ってゴブリンジェネラルをやるか、ハルトの方に行ってオークジャネラルをやるか、そのどちらかだ。
「うわああああ!」
「たっ助けてくれええええ!」
「ギャギャギャギャ!」
さっきの爆発からの混乱が解け、ゴブリンジェネラルが再び暴れ出していた。こうしている間にも被害者が増えていってる。くそっ!どうしたら……!
うじうじ悩んでいると、ホールミンがハンマーを構えてゴブリンジェネラルを見据えた。
「行ってこいよ、あいつの所に」
「ッ!それだとお前が……!」
「俺たち二人でガーディアンズに行くんだろ?ならこの先ジェネラル系の魔物をを1人で相手することも少なからずあるはずだ。なら丁度いいじゃねえか!まずはAランク、ひいてはSランクに上がるための練習だ!」
「ホールミン……そうだな。頼んでもいいか?」
「もちろんだ。行ってこい!」
「ああ、死ぬんじゃねえぞ!」
「お前もな!」
そして、同時に駆け出した。あれほどホールミンが頼もしく感じたのは初めてかもしれない。
ハルト、俺も行くぞ!
※
〈???視点〉
私は今、1人でオークジャネラルと戦っている。だけど、そろそろ限界が近い。
「ブモォ!」
「くっ……!」
私は縦に降ってきたオークジェネラルの棍棒をギリギリでバックステップすることで躱した
しかし、オークジェネラルはそのまま突っ込んできて左手で私の腹に向けて拳を放ってきた。それに気づいた時には既に遅く私は腹パンを食らっていた。
「ぐあっ!」
私はそのまま吹っ飛び何本か木を破壊し、岩にぶつかって血ドベを吐いた。
「ヒー、ル」
治癒魔法を使うけど身体中に激痛が走る。すごく痛い!
そしてオークジェネラルがブモオオォォオォオォオ!!と雄叫びをあげながらこっちに近づいてきた。
こうなったら私が今出せる最強の技を使うしか道はない。
私は魔剣を構えて魔力を練り始めた。
私が今使っている魔剣は水剣・爆という魔剣で効果は液体物を全て爆発させることができる魔剣だ。
「ジュビア!」
なので私はオークジェネラルに水属性の魔法をありったけぶち込むため、水属性中ランク魔法であるジュビアを放った。そのおかげで辺り一面に水溜りができた。
「収束!」
そして水溜りの水を操りオークジェネラルの周りに水を蛇のように巻きつけた。オークジェネラルは鬱陶しそうに水を手でどかそうとしているが手が水に沈むだけで効果はなかった。
体に鞭打って、身体中にある魔力全てを水剣・爆に集中させた。
オークジェネラルは未だに水をどかすのに夢中だった。そして水剣・爆を構えた私に気づいたが既に遅い。
私は最後の力を振り絞り今出せる全ての魔力を使ってオークジェネラルに突っ込み水を斬り裂いた。
「ウォーターエクスプロージョン!!!」
瞬間
ドグォオオオオォオォオオオオオン!!!
と、とても大きな爆発が起きて私はまた吹っ飛んだ。なんとか地面に水剣・爆を刺して遠くまで吹っ飛ぶのは防いだ。これでやられてくれるといいけど……。
しかし、私の願いは叶わなかった。
爆発による煙が晴れてきた。そこにいたのは満身創痍だが二本足でしっかりと立っていたオークジェネラルだった。しかも傷が消えて——すなわち再生されていた。
「そ、そんな……」
なんであれを喰らって生きてるの?どうやって耐えたの?という疑問が私の頭の中でぐるぐると回る。私はオークジェネラルがやられてなかったことへの絶望と全ての魔力を使い切った疲労から地面に膝をついてしまった。
そうしている間もオークジェネラルは私を殺すために近づいてくる。既に私は戦意喪失していた。
ああ、私の人生はこれで終わるのかな。18年かあ……短かったけど、悪い人生じゃなかったかな。
私は目を閉じて体の力を抜いた。
今いくよ、父様、母様。
「───え?は!?ちょっと待てハルトっておい!」
「行ってこいルアァ!!」
「ふざけんなクソやろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
誰かの叫び声がした。そして、ザシュッという音と何かが苦しむような声がした。
「おんどりゃあ!」
「ブモァ!」
今の一瞬でなにが起こったかはわからない。私はなにがあったか確認する為に目を開けた。
そこには頭を抑えて倒れているオークジェネラルと金髪の剣士の男がいた。
「っておいおい、ボロボロじゃねえか。大丈夫か?」
私はその人がおとぎ話に出てくる白馬の王子さまに見えた。