初めての定期便、そして襲撃
馬車に揺られて三十分ほど。僕、ルア、ホールミンはすぐ気が合いお互いのことを笑談していた。
「そうか、ハルトは日ノ国から来たのか。なら納得だな、ここらじゃあまり聞かない名前だからな」
「服装もそうだが、そのカタナっていう武器もこっちじゃあなかなか見ないから新鮮だぜ」
確かに着物や袴はここに来てから一度も見たことがない。だから今僕は結構注目を集めている。てゆうか今も見てる人は何人かいる。まあもっとも、僕は特に気にしてないけど。
「日ノ国の人達はネビル大陸とか他の大陸や国に行く人は少ないからね。ちなみに、ここだと刀はどういう風に思われているの?」
「ここだと……そうだな、あんまり聞かないが剣に比べて頼りないとかか?俺らが普通に使っている剣は分厚いからな。それと比べると頼りなく見えるんだろうな」
ルアの持っている剣は緑色で真ん中に黒のラインが入っている剣だ。ルアいわく鋼緑亀というどでかい亀の甲羅から作られたもので、その甲羅はとても硬く、強度があるのに見た目からは考えられないほど軽い、というものらしい。
「まあ価値観は人それぞれだと俺は思うけどな。ところでカタナってのは切れ味がいいって聞いたことあるが本当なのか?」
「うーんどうだろう。刀のような刃で作られた武器しか見たことないからわからないかな。まあ刀は王都に着いたら見せてあげるよ」
「それは楽しみだな!なあルア!」
「ああ、早く見てえ」
ははは、と笑いながら僕達は馬車の旅を楽しんだ。
この先に見える森が、運命の分かれ道になるとは知らずに。
※
馬車は森の道に入り、近くにいる護衛の方々は警戒度を上げるように馬車を囲んだ。ちなみに、今回の定期便の馬車は五台、一台につき五人、計二十五人の護衛の方が馬車に付いている。
「しっかし相変わらずなんだな。オレらもたまにこの定期便を使うんだがなんで王都の定期便はこんな、いかにも魔物が出ますよ、て言ってるような森をルートに設定したんだろうな」
「確かにな。そうすりゃあ無駄に見える資金も減らせたりするのにな」
「言われてみれば確かにそうだね。定期便の社長様は何を馬鹿な事を考えてこのルートにしたんだろう」
「ハルト、お前何気に毒舌だな……」
この森に入って早々に僕ら三人はこの森に嫌な予感がした。
※
更に森を進み中間地点らしきところに来たところでその予感は的中した。
「はは、それは災難だったね二人とも」
「俺はもうあのクエストだけは絶対にやりたくねえ」
「俺もだぜルア。ハルトも行ったら若干トラウマになるんじゃねえか」
「そうかもしれな──ん?」
「どうした?ん?」
「なんだ、この気配」
最初に僕が、続けてルア、ホールミンが何かが馬車に近づいてきてることに気がついた。
「ホールミン」
「ああ、こいつは大所帯だぜ。ざっと50は」
「……いや、六十五体、魔物がこっちに向かってきている」
「はっ?」
「わかるのか!?正確な数が!」
「うん。少なくとも、小さいの五十四体、大きいのが十一体、こっちに向かってる」
「……なあハルト、お前本当に10歳か?」
冗談では済まされない数、実力の敵がいる。僕等三人ならともかく一般人もいるんだ、めちゃくちゃ危険だ。
「護衛の人達に知らせねえと」
「……いや、その必要は無いみたいだぜ」
何故ならとホールミンが付け加えた瞬間、騎士達が武器を構えると同時に五台の馬車を囲むように二足歩行の小柄な緑の魔物と同じく二足歩行で大型の豚の顔した魔物が現れた。
「なっ!なぜここに魔物が!?」
「今日は魔物が出ないんじゃなかったのかよ!」
「とにかく乗客を守れ!絶対に通すな!」
これにより乗っていた乗客も混乱し、馬車の中は外へ逃げようとしている客とそれを抑えているごった返した状態になった。
「ホールミン、ハルト、俺達も行くぞ!俺達はこんなところで足止めを食らうわけには行かねえんだよ!」
「おうよ!」
「うん、行くよ!」
僕達三人は一斉に飛び出した。
これが日ノ国を出た僕の初戦闘か。とにかく馬車を守らないと。
「ハルト、一応言っておくが緑のやつがゴブリン、あの豚顔がオークだ。ゴブリンは素早く、オークは力が強い。気をつけろよ」
「情報ありがとう。僕はこっちをやるから2人は他のところに行って馬車を守って。大丈夫、さっき話したように大人十人まとめて相手したことあるから」
そう言うとルアは、ははははは!と明るく笑って僕に拳を突き出した。
「そうか。和ませてくれてありがとな。じゃあ頼むぜ!」
「うん、死なないでよ」
「てめえもな、ハルト!」
僕も同じようにルアの拳にコツンと拳を合わせた。
そして二人は顔を他の馬車に向かっていった。……ルア、冗談だと思ったのかな?兵士団十人VS僕の模擬戦で大人をボッコボコにしたこと。
まあ、後で言えばいいや。僕は愛刀を抜いて魔物達にこう言った。
「覚悟してね?僕の剣筋は結構いいって弥彦さんに言われてたから」
瞬間、僕は飛び出し、ゴブリンの首を撥ね飛ばした。
突然だが、僕は追放される前藤花英才学校という藤花家の血が流れている人や優秀な人間だけが入れる英才教育機関で武術や魔術について学んでいた。その授業の中に魔物との実践訓練があったから魔物との戦闘に関しては一応大丈夫だ。
それについてはまた次回解説しよう。僕は振り返ってすぐもう一度魔物の群れに突っ込んだ。
すれ違いざまに斬って斬って斬りまくる。心臓を突いたり上半身と下半身を別れさせたり刺した魔物をそのまま投げつけたり四股を切り裂いたりした。
後ろから僕よりも背が高いオークの気配、僕は跳んで回転切り、オークの首が刎ねる、血を吹き出しながら倒れる。
この時、僕が九歳の時、兵士団や魔術師団のみんなにお願いして魔術を放ってもらいながら、兵士団の攻撃を避けるっていう自分で提案しておきながら地獄だった訓練をしたことを思い出した。いやー……なんでこの記憶が出てくるの。
倒れたオークの死体に着地し、五体しか残ってない魔物達にこう言った。
「あれ〜、もうおしまいなの?」
と。僕がニコッと魔物達は後ずさった。今にも逃げ出しそうな奴もいる。
さてと、このままこいつらを全滅させて
ブモオオオオォォオォオォオ!!
突然、何か雄叫びが聞こえた。あっち側は確かルアとホールミンが向かった場所だ。そして──
「ッ!なんだこの気配……!」
僕は他の魔物とは明らかに格が違う気配を纏った魔物の気配を二つ感知した。感知した、というよりも生えてきた?だめだ、僕もわからない。
これはまずい!ルアとホールミンが危ないかもしれない!
「ねえ騎士さん!あとはできますよね!?」
「あ、ああ。ここまでやってくれれば大丈夫だ」
僕はお願いします!と言って気配のする方へ向かった。