これからのこと
オレは居間に向かう道中で冬香さんにあの空間はなんだったのかを聞いた。
さっきオレがいた武器が置かれてた場所——冬香さん曰くあそこは万能道場と呼ばれている場所で、そこにはこの世界に存在するほとんどの武器が置かれていてその内の半分は金髪の男性——ネギルさんが直接手掛けたものだそうだ。
「ちなみにその武器は何種類あるんですか」
「えーと……ある程度集まってからは数えてないけど、二百種類以上はあったような」
「二百!?」
とんでもなく多いじゃん!どおりで壁一面に武器が大量にあったわけだ、しかもその半分はネギルさんが手がけたものって……軽く見渡したけでも入り口側の壁に大量にかかってたけどそんなにあったんだ。
ていうか一種類一本あるわけじゃないよな?二百種類以上ってことは……いやこれ以上はダメだな。オレは考えるのをやめた。
「ごめんなさい春翔君、うちの子がいきなり襲いかかってしまって……」
「いや冬香さんが謝ることではないですよ。それを言ったらオレも悪かったですし。それに昨日冬香さんが治療してくれたおかげか今は痛くないんですよ」
まあ肺はまだ痛いけど、あれだけの大怪我をしても結構動けたからオレの体は割と丈夫なんだなってわかったし。……そういえ朝座禅組んだ時よりも肺が痛くない。さっき飲んだ緑色の薬?のおかげかな。
「本当にごめんなさい。ほらクラムも謝りなさい」
「……すみませんでした」
「あー……うん。とりあえずさっき言ってたは不問にするよ。とりあえず許す」
そんなこんなで、冬香さんの案内でオレは居間と思われる場所に来た。結構広い、二十畳以上は絶対あるしなんならこの空間だけでちょっとした鬼ごっこができるんじゃない?ってぐらいには広い。
部屋に入ってすぐ左ネギルさんは居て、何かを炒めている。あっすごくいい匂い……そして机に料理が並んでるめっちゃおいしそう。
居間に着いたのはいいんだけど、これどうしよう。座らせたほうがいいのか?いや床ででいいか?
「クラム、いい加減自分で立ちなさい。ご飯なくなるわよ?」
「はいただいま!」
その言葉を聞いたクラムはオレの手を離れたが、まだ足の痺れが残っているのか少しふらつきながらネギルさんの元へ向かっていった。
「春翔君は好きな場所に座って」
そう言われたので適当に座る。目の前に広がる目玉焼きと米とあとは……黄色い汁物、これは昨日飲んだやつかな?すごく美味しそうな匂いがする……。
そんなこんなで、ネギルさんとクラムが料理を持ってきて机に料理が出そろい四人全員が座った状態になった。
「えっと……名前ははると、でいいんだよな?」
「ええ、合ってます。四季の春に飛翔の翔で春翔です」
「そうか。俺はネギルだ。ひとまず朝食を食べようか、話はそれからだ」
オレ達四人は手を合わせて食事を始めた。
※
なんか今まで感じたことないぐらい充実した朝食になった気がする。
なんかね、目玉焼きに醤油かけて米と一緒に食べるのがさもうね、言葉にできないぐらい美味しかったよ。日ノ国を出てからまだそんなに経ってないはずなのにすごく久しぶりに米を食べた気分だ。
そしてオレが昨日飲んだ汁物。あれはネギルさんが独自に考え抜いた汁物らしくて、特に名前は決まってないって言ってた。おかわりいるかって言われてついつい即答した……いやー、人の家にお邪魔している立場なのに恥ずかしい。
まあそれは置いておいて、これから話し合いが始まる。まあ話し合いって言ってもオレや冬香さん達が気になっていることを聞きあう時間だけどね。
「さて。朝ごはんも食べ終わったし、俺達の自己紹介をしようか」
そう言ってネギルさんは咳払いをして話し始める。
「俺はネギル。ネギル・クライレントだ。一応言っておくがクライレントが日ノ国で言う苗字だ。そして俺の隣にいる彼女が冬香・クライレント。その隣にいるのが俺と冬香の息子のクラム・クライレントだ。朝っぱらからうちの息子が迷惑をかけてしまって申し訳ない」
ネギルさんは頭を下げた。
「ちょっ、いやいやいや!頭を上げてください!さっきも本人から謝罪は受け取ったからもう大丈夫ですよ!」
「……そう言ってくれるとありがたい。クラム、今度は気をつけろよ」
「はいっ」
クラムは背筋を伸ばして返事をした。その姿を見てオレさ、なんとなく思ったんだよね。喉元過ぎればなんとやらって。
「話を戻そう。そしてここは五大神代試練の一つである破滅の森、俺達は破滅の森の中心部に近い場所に住んでいる」
……昨日も聞いたけどあの野郎とんでもねぇ場所に飛ばしやがったな。
まあそんなことはいい、最終的に助かったし遅かったけど花輪眼があることがわかったからいいけどさ。いやよくはないけど。
「ここに住んでいるのは俺と冬香の職業が理由だ。冬香はクーヴァという街で医者をやっていて、その薬の材料をこの森で調達して調合したりするのにに都合がよくてな」
「あ、お医者様だったんですね」
通りで部屋からちょっと植物が潰れた匂いがするなって思ったけどそりゃあそうか、気配的に目の前の三人以外に人間の気配はいないし冬香さんがここに連れてきて包帯やらなんやらのことをしてくれたのはこの人達しかいないか。
「ちなみに俺は冒険者として依頼をこなしていて、その依頼には棄権地域での素材採取の依頼があったりするからっていうのが理由だ」
「なるほど」
それでこんな場所にいるのか。納得。
……ちょっと待って?それでいくと一つ疑問が。
「冬香さんに質問いいですか?」
「ええ、どうぞ」
「昨日オレに花輪眼見せてくれましたけど、あれを持っているってことは藤花の血が流れている、ということですよね」
「ええ」
「ではお二人に質問します、ここに住み始めたのは何年前ですか」
「何年前だっけ?」
「クラムが生まれる5年前だから……15年前だな」
「十五年……は?」
おいおいおいおい十五年前って、オレはまだ生まれてなかったけどそのあたりは確か……。
「でもどうしてそんなことを聞くんだ?」
「ネギルさん、日ノ国の歴史をご存知ですか?」
「ん?ああ、ある程度は」
「では十五年前、日ノ国が鎖国していたことについては存知ですよね」
「そうだな。……っ!?」
「……」
やっぱりか。オレはネギルさんの反応を見て確信した。
そして冬香さんの雰囲気が明らかに変わった。観察するようにニコニコ笑っているがそこ目は警戒度が上がった猫のように見える。
「さこく……ってなんだ?」
「鎖国っていうのは、簡単にいえば外との交流を完全になくすこと。日ノ国では今回の鎖国では百五十年間、外の国との交流を絶って物だけじゃなくて人の行き来を禁止した。そしてオレのいた日ノ国では十年前に鎖国令が解かれたばっかりだったんだ」
「えっ!?じゃ、じゃあさっきの話だと母ちゃんは日ノ国って国をルールを破って国から出てきたってことか!?」
クラムの言う通りそうなるな、文献だと日ノ国に出入りする人間に対しては相当厳しかったって書いてあったし、しかも港とか関門とかかなり厳重な警備体制をとってたみたいだし。
なんか事情があるんだろうな、ネギルさんの顔が焦りが出てる。気にはなるけど質問を変えよう。そう思いながら口を開いた。
「大丈夫よネギル」
しかしそれは冬香の力強い言葉が響く。
「冬香……」
「鎖国のことに反応してしまった以上隠す必要はないし、私昨日考えたのよ。藤花の血が入ってる人間、しかも子供が一人で私を追ってくる……考えてみたらありえないのよね」
「……そうか」
なんか知らないけど二人の間でなんかいい感じな雰囲気が漂う。とりあえず話は聞けそうかな?というわけでもう一つ質問というか要望を。
「冬香さん」
「なんでしょうか」
「敬語外してくれませんか?自分で言うのもあれですけど、オレにだけ敬語使うってのも面倒ではないですか?」
「え……?わ、わかり、わかったわ」
「ありがとうございます」
さてさて要望も許可が出た、ということで質問を再開しよう。
「なんで鎖国中の日ノ国を出たのですか?」
「んー……この人との駆け落ち、かな?」
……はい?この人今なんつった。駆け落ち?駆け落ちってあの恋愛の駆け落ち?オレは色々ツッコミたい気持ちを抑えて冬香さんに質問した。
「……ちなみになぜ駆け落ちをしたのですか?」
「それを話すには私の昔話をしないといけないわね。私ね、十五歳になった時にある事情で家出してこの大陸に来たの。そしてその時にネギルと会ったの」
「まってまってまって」
え?十五歳で家出?しかも日ノ国を出た??ちょっとまって十五歳の時ってことは見た目と子供がいることを考えて三十、いや三十五って考えると……二十年前!?つかこの人二階も鎖国中の日ノ国から出たってことか!?
「春翔君?続けても大丈夫?」
っといけないいけない。オレは大丈夫です、と答えた。
「日ノ国を出て五年くらい経ってある日、藤花家の人たちが来て無理やり日ノ国に連れ帰られてある人と婚約しろって言わたんだよね。許婚ができたって言われてさ。
「いいなずけ?」
「子供が小さい時から結婚の約束するってことだな。例えば俺と冬香の親が大きくなったら冬香と結婚させようって約束する感じた」
「なる、ほど?」
「最初は抵抗したんだけど無理やり日ノ国に連れ去られてその人と婚約させられそうになったの。その時にネギルが私をまた日ノ国から連れ出してくれて……そして誰も私を追えないような場所に住もうってことになってこの〈破滅の森〉に住むことになったの。ここならいくら花輪眼を持っている人間でも簡単には来れないからね。これが私たちがここき住んでいる理由よ」
なるほど、意外と重い理由だった。ただ、聞いちゃいけないんだろうけど気になることがある。
「あの……すごく聞きにくいのですが聞きにくいのですが、その許婚って誰だったのですか?」
冬香さんは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……そいつは少し、いや、かなり自信家なんです。同世代の中でも私とタメを張れるぐらい実力が高くて、でも人の能力に合った場所に分ける人事の仕事は勿論、自信家故に少し傲慢なところはあるけど実力で黙らせるほど……まあ強い人だったの。だから色んな人たちから慕われていたし、私もその部分だけはは尊敬してたの。でもそいつは私が藤花専校に入学した時から私に付き纏ってきたの。私にばかりずーーーーーーーーーーーーーーーーーっと付き纏ってくるようなやつで何度も近づくなって言っても全然効かないし周りに助けを求めても羨ましいとかそういう年頃とか言ってなーんにもしてくれなかったし……ああどうしよう、思い出したらあいつもその周りもぐちゃぐちゃに切り刻んでやりたくなってきたわ」
冬香さんはの表情はだんだん怒りで顔が歪み敬語もとれて、しまいにはどこから取り出したのか、刀身が紅のように紅い刀を手に取り鞘から抜いていた。
……いやこわっ!ゆっくり話し出したと思ったら止まらないで怨念を込めながら言ってるかと思えば殺気出しながら刀抜くしなにしてんの冬香さんにちょっかい出した人!隣にいるクラムも怖がってるじゃん!なんかすっごい震えてるよ!
「落ち着け落ち着け。どうどう、どうどう……」
「グルルルルルル……!」
ネギルさんが宥めるけど獣みたいな唸り声をあげつつもなんとか殺気と刀を納めてくれた。
「……ごめんなさい。取り乱してしまいました」
「あっ、いえ。大丈夫です」
冬香さんは申し訳なさそうな顔をしながら謝ってくれた。思わず姿勢を正しちゃったよ、切り刻まれるかと思った。
そして次に発せられた言葉の俺は驚くことになった。
「武のことを思い出すだけでこんなふうになるなんて……私もまだまだね」
「……武?」
武?
たけし?
タケシ?
……。えちょっとまってこの人今武って言った?
「あの冬香さん」
「なにかしら」
「今、武って言いました?」
「ええ、言ったわね」
……へぇ〜そっかそっか。あの人が冬香さんを。あははなんでだろ、なんか感情が、ね?
「…………。そういえばオレがここにくることになった一番最初のできごとを話していませんでしたね」
「そういえば聞いてなかったな。聞いて大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ、冬香さんにもちょっと関係しているが分かったんで」
「私に?あっ、まさか」
「そのまさか、武様——藤花武についてです」
そうしてオレは日ノ国を追い出されたことの顛末を話した。話している時にちょっと泣きそうになったけど我慢して話した。そんなこんなで話し終え、真っ先に反応してくれたのは冬香さんだ。
「あいつがそんなこと言うなんて……。しかも何?花輪眼を開眼できないから藤花家を追い出す?ここまでくるともう呆れしか出ないわ」
「でもそれおかしくねえか?春翔は開眼してんだろ?俺もさっき目の前で見てるしよ、そのたけしってやつはなんで追い出したんだ?」
「ふむ……開眼できないだけで勘当ってのは違和感があるな。直接話したことはないが、藤花武はそんな盲目的なことをする人間には見えなかった。今ある情報だと彼は人を見る目がなかった、という解釈に繋がりそうだが……」
「まあでも、春翔君が私達に会えたのは運がよかったかもね。もし勘当されずにあいつの元にいたら春翔君はずっと開眼できないままだったかもしれないし」
「あー、そうかもしれないですね。まあどのみちあそこにいても自分から藤花から抜けてただろうし」
三者三様の反応だけど、初対面のオレの話を真剣に聞いてくれたのがすごく嬉しい。そして同時に思うのは、あのままいたとしてもオレ自身が花輪眼を開眼させるために旅に出てたかも。まあほかにも理由はあるけど、とにかく遅かれ早かれ藤花家と縁を切っていた可能性は高い。
「まあとりあえずだ。話は変わるが、春翔はこれからどうするつもりだ?」
「あ」
ネギルさんの質問でハッとした。そうだ、オレは藤花家を追い出された人間だ。この大陸にはオレの知り合いなんてものはいない。しかも破滅の森というヤバい場所に転移させられるという事故が起こったからな……。
「その様子だと考えてなかったみたいだな。いや、状況的に考える暇がないか」
「……おっしゃる通りです」
たった一日でいろいろ起こりすぎなんだよ……定期便に乗ったら魔物の群れに襲われて強制転移させられるし、そこでいろいろひどい目にあうし、なんなら竜と戦って死にかけて冬香さんに助けられて……いや一日のうちにどんだけ出来事が詰まってるのさ。ネギルさんは冬香さんにチラッと目を向けると、冬香さんは一瞬迷うしぐさをしてうなずいた。
「そこで提案なんだが、春翔がよければうちに住まないか?」
「……え?」
まさかの提案に俺は驚いた。
「い、いいんですか?」
「ああ。いいよな、冬香?」
「ええ。正直に言えば、君が藤花の血縁者であるとはいえクラムと年が近い子供をほっぽりだすのは人として、大人としてよくないわ。それに、もし会うことがあったら、あなたが捨てたこの子はすごく強い有能な子だよ、って言ってやりたいしね」
「冬香さん……」
この夫婦はオレを受け入れてくれるようだ。
「クラムはどうだ?」
「オレは別に問題ないぜ、むしろ大歓迎だ!俺の周りには俺と同等に戦えるやつなんて少ないからな!」
「なら後は春翔次第だが、どうだ」
そこまで言ってくれたら、断る理由はない。
「こんなオレで良ければ、よろしくお願いします」
オレはそう言って深く頭を下げた。
「よし、それじゃあ今日はご馳走だな。早速狩りに行ってくる」
「わかったわ、いってらっしゃい」
そう言ってネギルさんは席を立ち何もないところからでかい大剣を持って外へ向かった。……ちょっとまって今何もない場所から武器ださなかった?え?オレまだ疲れてんのか??
いきなりのことに驚いていると冬香さんが解説を入れてくれた。
「あれはいわゆる空間魔法の類ね。まあ最初はびっくりするわよね、日ノ国だとみたことないでしょ?」
「え、ええ。世界って広いんだなぁ……」
「ふふっ。あ、念のためもう一回検査しましょう。さっきのクラムとの戦闘で怪我がどうなっているか確かめないとだから」
「わかりました」
オレは冬香さんについていこうとすると冬香さんはクラムに向かってこんなことを言った。
「そうだクラム、洗い物と洗濯、それからさっきあなたが使った武器の手入れをやっておいてね。ついでにいくつか手入れをしないといけない武具もあるからそれもやっておいて。やらなきゃいけないものには印をつけてあるから」
「うえっ!なんで!?」
「これはあなたが勝手に春翔君に戦闘を挑んだ罰よ。いいわね?」
「……はい」
冬香さんが圧のある笑顔でクラムに言うと、あいつは肩を落としてしょんぼりとしたオーラを纏わせながら机の上にある食器を片付け始めた。今の冬香さんちょっと怖かったな……オレも怒らせないようにしよう。が、それはそれとして。
ざまあみやがれ。ばーかばーか、勝手に襲ってきた報いだー。
「春翔君も、検査結果次第だけど怪我人である以上運動は禁止ね」
「……はい」




