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無能の少年

「……え?」


日ノ国(ひのくに)の首都、桜街(さくらまち)にある藤花屋敷で、僕は現当主の藤花武(ふじばなたけし)様の一言に呆然としていた。


「い、今なんと……?」

「聞こえなかったか?もう一度言う。、お前を藤花家から勘当する」


それを聞いて僕は唖然とした。何か罪を犯したわけでもないのにだ。


「な、なぜ僕を勘当するのですか武様!?」

「しらを切る気か無能が!」

「貴様は我ら藤花家の象徴である花輪眼かりんがんを、未だに開眼してないではないか!」


今度は家臣の龍馬(りゅうま)炎理(えんり)が僕を罵倒した。藤華家の血が入っている者は五歳になると花輪眼を開眼できるようになる。しかし、僕は十歳になったにも関わらず、未だに開眼できていない。


「か、開眼できないから僕を追放するのですか?

「それだけではない!我ら藤花家は日ノ国を統べる王家『陽天家(ようてんけ)』を支える由緒正しき家系。それなのに貴様は屋敷を抜け出しては桜街の人間と交流していると聞いたぞ!」


それはお父様が「民との交流は大事だぞ」って言ってたからちょいちょい抜け出してきただけなのに。まあちょっと城下町に行き過ぎたかもしれないけど、その為に剣術も魔術の勉強を頑張った。


おかげで同期の中では上位の成績だ。だが、周りがどんどん開眼していく中で僕だけ開眼できていないので稽古に遅れが出るようになった。


「貴様の成績がいいから貴様が城下町に行くのは黙認していた。だが開眼できなければ話は別だ!」

「そしてお前を追放するもう一つの理由がある。それは、2年前の藤花英才学校の実践訓練における死亡事故だ!」

「っ……!!!」


それを言われた瞬間、血が止まらず体が冷えていく少年の姿と出血作業をして真っ赤になった手を絶望と無力感で呆然と泣いている光景が一つの絵画のように頭に浮かんだ。


こんなの忘れたくても忘れられない、忘れることなんかできるわけがないし忘れちゃいけない。


それを引き合いに出されたら僕は下手に回らざるをえない。僕は言い返すのを我慢して下唇を周りにいる大人達にバレないように噛んだ。


「どうだ?これは納得せざるを得ない理由だろう?」

「今すぐにここから出て行け!」


出て行け!出て行け!と周りにいる大臣たちが騒ぎ立てる。


「あ、あの。僕の父と母はなんと言っていますか……?」


俺は恐る恐る当主様に聞いた。そういうと当主様はふん、と笑った。


「旅行中である奏多(かなた)様と(あや)様からの伝言は受け取っていない。が、春翔が出ていくのは問題ないと申していた」

「……」


それを聞いて唖然とした。まさか父様と母様がそんなことを思っていたなんて……。僕はショックのあまり情けなくポロポロと涙をこぼした。


「そ、そんな……こんなことが……!」

「とにかく今すぐにここから出て行け!出て行かないのなら──」


僕の周りにいた兵士達は武器を向けた。


「ここで殺す」


武様はそういうと菊の花輪眼を開眼し、僕に殺気を向けた。このままだと俺は死ぬ、そして藤花家(ここ)にはもう居場所はない。そう悟った僕はよろよろと立ち上がって当主様にこう言った。


「……わかりました。私物をまとめて出て行きます」

「ふん、早くそういえばいいものを。さっさと荷物をまとめて出て行け」


僕は当主様に頭を下げて謁見の間を後にした。



俺は自分の荷物をまとめて少しだけ物が少なくなった部屋を見て、目を閉じた。ここには沢山の父さんと母さん、そして姉さんとの思い出がある。


家族でいろいろな話をした。


姉さんに勉強を教わった。


母さんに花輪眼の使い方やコツを教わった。


父さんが本を読んでくれた。


そんな家族の思い出が走馬灯のように一気に浮かんできた。


「ひっぐ……うぅ……」


思い出しているとまた涙が出てきた。泣いている場合じゃないのに、早くでないと殺されるかもしれないのに。


部屋を出ると兵士に裏門へ行けと言われたので、僕は城の裏門に向かった。



裏門に行くと兵士に一つの袋を渡された。


「あの、これは?」

「これは道中の資金だ、武様に感謝しろ」

「……ありがとうございます」

「それから、これは武様からの伝言だ。『これから先、藤花の名を名乗ることを禁ずる。関わるのなら今度こそ命はない』だそうだ。武様に感謝するんだな」

「……わかりました」


僕は頭を下げて進もうとすると呼び止められた。


「最後に一つ確認しなければならないことがある」

「?」


振り返るとその兵士は僕の目の前に来ていて、腰にあった刀に触れようとしていた。


しかし、兵士の手が触れようとした瞬間、まるで他人の手を拒むように刀が手を弾いた。


「っ……」

「……え?」


兵士は呆然とするがそれは僕も同じ。それを理解すると庇うように刀を隠す。だけど同時にその行動に納得がいった。


「……これは誰かから命令されたものですか?」


相手は沈黙。でも表情と気配でなんとなくわかった。


「なら、僕からいうことはありません」


僕は頭を深く下げる。


「今まで、大変お世話になりました、(平賀弥彦(ひらがやひこ)さん」


俺は兵士──弥彦(やひこ)さんに頭を下げて裏門にある森に向かって走り出した。


僕は知ることはないのだが、弥彦さんは僕が去った後、彼は静かに泣いたらしい。



三日かけて僕は日ノ国の隣にあるネビル大陸に移動するためネビル大陸と日ノ国の定期船に乗った。現在は定期船の上だ。


移動してる時誰かが後ろからついてきてたけど……いつの間にかいなくなってた。あとなんか声?が聞こえたり。声っていってもなんとなくこっちみたいな、まるで道が道案内してくれてる感じがしたんだ。……何言ってんだろ僕。


そういえば、渡された袋の中に一枚手紙らしきものがあったのを思い出した。


ちょうど落ち着いているし読んでみよう。


手紙を開くと丁寧だけど、少し急いだであろうことがわかる字でこう綴られていた。


『春翔君へ

この手紙を読んでいるときはもう既に海の上かな?それともネビル大陸に着いているかな?この手紙を書いているときは、君が出て行くと聞いて急いで書いたものです。読みにくかったらごめんなさい。


この手紙を書いたのは、春翔君に伝えたいことがあったから書きました。


藤花兵士団の兵士達は春翔君を見てすごく士気が上がったんだ。君の剣技や戦闘中の足捌きなどの技術はとても素晴らしい。


最初は花輪眼を開眼できていない藤花の子供が兵士隊の兵士に模擬戦を挑んできたときは「ふざけているのか?」と思った。最初は一般の兵士に酷くやられても必ず一撃は入れたのはすごく覚えてる。日が経つ内に十対一でも君は勝つことができるようになってしまった。まあ俺には敵わなかったみたいだが、何回か俺に一撃入るんじゃないかってヒヤヒヤしたよ。


君が英才学校の授業が終わっても、卒業しても毎日兵士団に遊びに来てくれたおかげでうちの兵士隊は「あんな小さいガキに負けてたまるか!」とやる気が上がって訓練をより一層頑張るようになった。これは君のおかげだ、本当にありがとう。


おそらく今頃は、春翔が桜町を出ていったって聞いてみんな寂しがっているだろう。もちろん俺もその一人だ。もしこの街に何かあってもいいように、君が好きだと言っていた街を守るために訓練を頑張ろうと思う。


他にも書きたいことはがあるけどこのくらいで。面と向かって言えないことを許してくれ。


最後に、藤花兵士団は君にとても感謝している。俺達に出会ってくれてありがとう。


追記

今度仲の悪かった魔術師団の人たちと合同訓練を行うようになった。これも君のおかげだ、ありがとう。


藤花兵士団団長 平賀弥彦(ひらがやひこ)


いやうん、いきなり兵士団のとこに行って突然模擬戦を挑んで、最初ボコボコにされたのが悔しくて後日最終的に十人同時に相手してフルボッコにしちゃったわけだけど、これでプライド折れたらどうしようって思った。だけどそれは奇遇だったみたい。


だけど、僕はそんなことよりも別のことを思っていた。


「そっかぁ、僕を、認めてくれたのかぁ……」


手紙を読んで涙を流していた。


いや、読んでいる途中で泣いた。


今まで、僕自身を認めてくれていたのは僕の家族とあいつだけだった。だけど、この手紙を読んで僕は他の人達にも『藤花春翔』、一人の人間として認めてくれていた。仲良くしていたけど心のどこかで僕を1人の人間として見ているのか不安だった。

だからその事実があるだけで僕は凄く嬉しい。


それに、僕が好きだって言った街を守るって言ってくれて凄く嬉しかった。


「ありがとう、弥彦(やひこ)さん。僕も頑張るよ。さようなら」


さようなら、父さん、母さん、姉さん、城下町のみんな、さようなら。お元気で。


俺はもう見えなくなった日ノ国に向かってそう念じた。

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