79 惑うはそれぞれの
しれっと再開します。
病気、怖いですね。
アザミが抱いた恐れは、予想外の形で的中する事になった。
何かが起こる、と抱いた漠然とした恐怖ではあったのだがホンの数日で成果は出た。出てしまった。
「まさか、こうなるとは思いませんでしたわ」
ややゲンナリとした、覇気に欠ける言葉が口から漏れる。
眼前には数日前で数倍、一週間以上という時間が経過して数十倍の価格となった食料品の値札。
食品だけではない。店売りならば鉱石のような素材から、衣類の様な完成品までほぼ全ての物資の値段が跳ね上がっている。
これは別段、商業組合が値を釣り上げた―――だけでは決してない。
事実、これは表向きの値段でしかないのだ。
(住人に対しては9割引き、ノアの関係者とわかる『手形』があれば8割引き・・・あからさま過ぎますわね)
値札と実際に購入する際の金額には多大な差異がある。
これは一店舗の問題ではなく、それこそ街全体と言い切っていいほどに範囲の広い動きだ。
大きく目に留まるのは値段だが、当然のようにその他方々で規制も始まっている。
冒険者互助組織で仲介する依頼なども顕著で対象を絞っていたり、直接人を選んで依頼する方向にシフトしていた。
これはノアたちが持ち込む成果が分量も品質も高すぎたせいで、同等の品質を求めようとすると対象を選別する必要があることも多少は影響している。
当然だが、ある程度のコツを伝授された黒百合の絆の面々や多少の交友からやり方を聞いているアザミやゼリオなどのグループが該当する。
個人でも実力が認められていれば仕事を回されているが、原因となった集団には一切仕事が回っていかないようになっているらしい。
(有り難い、とは言えないのですわ!)
割引が入っても物価が上がっており、街の雰囲気も決して良くはない。
特に、当初に予想していた兵士たちの様子が顕著で、イラつきを抑えきれずに目つきが鋭くなっている。ほぼ全員が。
例外があまりにも少ないせいで兵士たちが荒れているようにしか見えず、住人ですら怯えを隠しきれていない。
これが案外にも影響が大きく、特に夜の街の活気に深刻といえるダメージを与えていたりして、そちらでも不満が募っている。
(これで治安が悪くならないのですから、この世界はわからないですわね)
個人的な心情の態度を職務中に表へ出す兵士たちもどうかと思うが、現状の様な横暴を行っても暴動が起きないことには感心してしまう。
そもそも、個人を不快にさせただけの一件でこれほどまでに影響を与えていることが本格的に信じられない。
(又聞きではありますが、鍛冶師たちも憤慨してボイコットしているとか。何がどうなってそんな話になっているのか、訳がわかりませんわ)
それは直接、間接的な影響によって良質な鉱石の採掘量が大幅に下がったことで、一度は増えた仕事が一気に減ったからである。
伴って収入と職人のプライドに大きな傷が刻まれてしまった事で怒りの感情を抱くのは、その他に比べればむしろ普通な話だ。
ただし、武具の一大生産地であるレーロイドの職人が有するネットワークが街の中だけに留まらない事の方が問題となるだろう。
(これは『勇者』の方々も随分と手痛いでしょうが・・・危険な兆候にしか思えませんわ)
ノアは件の『勇者』の顔を完全に忘れ去っており、相手にもしていない。
危機感を持っていたのはフベルタ教の、それも極一部の人間が使っていると考えている精神干渉について、だ。
組織としてやっていることは褒められたモノではないが、だからと言って本腰を入れて敵対するのは面倒なのでやる気が無い。
よって、フベルタ教に盛大で深刻な傷を与えている今回の一件はノアが全く意図しない動きでもある。
これは、彼女が自分という個人の影響力を過小評価した結果であり、同時に周囲が過剰反応した事にもよるものだ。
正直、たった一人とその従者三名が自宅に引き籠っただけで引き起こされる様な事態ではないのは確かである。
「これは・・・ノアがこの街を去ってしまったら、どうなることやらですわ」
口の中での呟きを呑み込み、溢れ出しそうな嘆息をかみ殺す。
もちろん、今回の一件は『憤怒』を根底とした、ある種の抗議運動だ。
影響が本人や周囲の想定以上に広がって大事になってはいるが、それでもあまりに個人への依存が垣間見える。
良いか悪いかで言えば、悪い兆候だろう。
(個人の影響力が多岐に渡る組織へ広がっているということは憂慮するべきとも思いますが・・・この流れに逆らうのも難しいですわ)
今回はノアたちの行動がきっかけだったが、そもそもの下地としてフベルタ教や『勇者』への不満が積もっていたのが大きい。
真っ先に行動したのが個人として影響力が大きい人物だったのもあるが、それ以上に嫌悪と敵意を持たれていた相手だったという二重の効果が状況を作っている。
そして、この状況下で下手に声を上げるのは大多数派から謂れのない非難を浴びかねない。
現状の大多数というのは街全体にも近い規模なので敵対したら生活するのも困難である。
(わたくし一人ならばともかく、巻き込まれる娘たちが居ると考えると動けませんわね)
単独行動も多いアザミではあるが、取り巻きのような人間はそれなりの数が居る。
それは戦闘力や生活様式によるものだが、今でも冒険者としての勢力では上位三指の内のひとつ。
環境の変化の中で多少の変動があったとしても、付いてくる人間は決して少なくない。
上手くは無いが、数を処理する事にかけては彼女が最も強いとすら言われているのだ。
その戦闘力と戦う事を一切恐れない度胸だけでも今はカリスマが発生するくらいには希少な才能である。
「・・・困りましたわ」
しかし、そんな戦闘に偏った彼女と、同傾向の取り巻きたちは、だからこそ問題にぶち当たった。
それは「誰が美味しい料理を作るの?」という問題である。というか、生産系の全てにおいてアザミたちは難がある。
食事が最も頻度が高いが、ドレスや装飾品も自分たちが用意することはできないので値上がりしている現状は嬉しくない。
ただ、彼女が勘違いしているのは『値上がり』の原因がノアを起点とした一連の動きにあると思っている事だ。
物価が上がっているのは彼女がレーロイドへ訪れる前から徐々に進行していたことで、実はノアとは無関係である。
特に農作物関連は。
「どう、しますか・・・?」
「・・・」
取り巻きの一人に問いかけられて、アザミは顎に手を当て黙考する。
食料を購入したは良いが調理するのには自分達では心許ない。
頼めば『黒百合の絆』の面々が近辺の飲食店よりも良質な美食にしてくれる―――してくれていた、が。
(今は無理ですわね。ノアの件もあって、あちらは多忙を極めていますもの)
黒百合の絆というのは、実質的にノアの直弟子、あるいは直属の部下のようなものだ。
あの一団は現状、狩猟、採掘・採取、調理や物資の作成と様々な分野に置いてレーロイドで上位に位置している。
全てで最高ということは決してないが、今の状況下で全てを高いランクで兼ね備えているのは彼らしかいない。
ひと月にも満たない間にそのレベルまで引き上げたことも脅威的ではあるが、彼らはそれを自分の血肉として扱えていることもこの一週間で周囲に示してきた。
おかげで彼らは引っ張りだこだ。そもそも、ノアが取って来た商売のための作業もあるので多忙を極めている。
個人的な調理のために駆り出すのは躊躇われるくらいに。
「だからといって、自分達で料理を覚える気はありませんわ!」
「ですよねー」
何人かが困ったような、けれど同意するような笑みを浮かべた、
調理は結構に面倒な技能だ。そもそも現代とは違って食材の下準備が異様に面倒すぎる。
肉類や魚類を捌くのはもちろん、野菜ですら生で食するのは推奨されないのだ。
寄生虫や害虫の類ではないが、毒性のある花粉や鱗粉が表面に付いていることもあるらしい。
単純な水洗いでダメだと言われれば、ただでさえ料理が面倒と考える人にとっては手を出すのに躊躇うに十分な理由であった。
「あれ? アザミん、こんなとこで何してんだ?」
「あら、その失礼で品の無い物言いはクズ男さん?」
「ちっげーよ! ゼリオだよっ!?」
軽々とした態度で声を掛けてきた男と、その取り巻きへ不信と侮蔑の視線を投げる。
本来なら、自分達で入手した資金の使い道など勝手にすればいい、というタイプの思考回路を持つアザミではあるが、女遊びに全額入れ込んでいるとなれば良い感情を抱けない。
両者合意の上とはいっても、男女の関係を金で買うということに忌避感を覚えるくらいには、アザミや彼女の取り巻きが乙女なのである。
そういった感情が根底にあるせいで対応が厳しく、この二つのグループは折り合いが悪いのは当然の成り行きだった。
「それで、何か用かしら? クズ男さん?」
「いや、だから・・・いえ、イイです」
ここ最近、(特にノアやその周囲の人々に)様々な面でプライドを叩き折られているせいで腰の低いゼリオ一行。
夜の戦闘力について大暴露されたゼリオ本人が―――噂話として広がってしまったので―――最もダメージが大きかったとかそうでなかったとか。
そして、何故かノアは男でも女でも骨抜きにする魔性の妙技と、相手を絡め捕るような蠱惑な肢体を持っていることになってしまった。
男性向けのお店で同性から熱烈にアタックされたことから派生して、噂がねじ曲がった結果である。事実かどうかは同衾した者のみが知る。
「んなことより、こんなとこで何してんだ? 例の執事の練習用食材の買い出しか?」
「あなたに教える筋合いはありませんわ!」
そりゃそうだな、と苦笑が返った。
とはいえ、食材販売所の前で話をしていれば目的など察することは難しくない。
また、ノアの従える三人ほどではないが、アザミの執事もそれなりに有名だった。
紅茶とコーヒー、そしてパンケーキだけはとても美味しいモノを作成できる、と。
それが誉め言葉なのかどうかは別だが。
「ま~、美味いもん喰いたいよなぁ」
「不本意ですけど、それには同意いたしますわ!」
実は外食産業とも言えるアレコレもこの一週間で大きな影響を受けている。
そもそもレーロイドにはレストランのようなモノはほぼ無く、市民が使う様な大衆食堂と呼ぶ類のものが2軒しかない。
屋台やら軽食を提供する店舗自体は多々あるのだが、それらを含めて味については―――比較対象が出て来たこともあって―――さほど上等なモノとは言えないものだ。
しかも、ノアが提供したいくつかの方法を実践するだけで店売りの食事よりも余程美味な食卓を構築できるとなれば自炊に比重が傾くのも自然な話。
それでも自分の手で、となると面倒さが勝ってしまう者も多いのは、無精者と切って捨てるには色々と問題があるだろう。
ライトかヘビーかはともかく元々がゲーマーという人種だというのはもちろんあるが、それ故に年齢層も幅が広い。滅多にいないが、そもそも家事を行うには年齢的に幼い子まで、だ。
現代的な考えであれば、独り暮らしの経験が無ければ家事自体やったことが無いというのも極端に珍しい話ではない・・・らしい。
(最低限の調理法なんて、義務教育の過程で学ぶものではありますけど・・・家電製品なしで調理できる子はそう多くは無いですもの)
正直、現状での調理とは屋外料理のようなものだ。
ある程度の調理器具は入手できるようになったが、手造りのために飯盒ですら形状を似せているだけで完璧な性能というわけではない。
物によって容量が微妙に異なっていたりしていて、通常の使用方法を再現するだけでは炊飯ですら失敗する始末。
焚き火で食事を作るという経験どころか、キャンプの経験すら無い一般人には難易度が高いだけでなく、重労働に過ぎる。
結果、ほとんどの冒険者の最近の食事の品質は下がる一方なのだった。
「「はぁぁぁ~~~・・・」」
どちらからともなく、嘆息が漏れた。
実際には品質の良い食材の入荷によって多くの飲食店は質を向上させているのだが、ノア一行から齎された物を思えば物足りなく感じてしまう。
それはノア達のせい、というよりは、現代の品質の料理を知る肥えた舌をしている冒険者達だから、と言う方が正しいのかもしれない。
特に問題なのが調味料。合成調味料の類はもちろん、醤油やら七味やらすら味も品質も大きく劣る。比較的簡単に作れるマヨネーズですらも、だ。
何と驚くべきことに、この世界の食文化というのはこのホンの数か月で一気に劣化してしまっている。
ノアたちは自前で用意しているのであまり気にしていないようだが、ゲームに描かれなかった制作・製造の技術が、その下地となる積み重ねというモノが欠けているのだ。
調味料で言えば『完成品の醤油』はあるのに製作技法の試行錯誤がごっそりと抜けているということでもある。
難易度の差異はあるが、PCの完成品を見て鉱石やらの原材料から新しく作れ、と言われるかの如く、完成品から製法を推測する事は困難を極める。
結果として、最初から保存されていた調味料や醸造酒などを消費し切ると極端に食の質が下がってしまうのは仕方のない事なのだろう。
パートナーNPCが特殊な知識を引き出せる可能性を知った今ならば、将来的には現代の製品と同等かそれ以上のモノを期待できるが、今すぐにどうこうということはできない。
科学や知識的な問題もあれば大量生産のための工場など土地や施設の用意などの問題もあるので、結局は『錬金術』という一種のチート技術による生産になるのだろう。
それ故に一般に出回ることはそうそう無いことは容易に想像ができ、食文化の衰退は火を見るよりも明らかなのだが、それはそれである。
だが、だからこそ自炊をしないということは数百年前レベルの食事の味と付き合っていくということであり、今の味ですら維持できなくなるということで―――。
「・・・やっぱ、色々と勉強しねぇとなのかねぇ・・・」
ゼリオがしみじみと零すと、思わずアザミも同意の頷きを返してしまった。
SSOというのは生産系のゲームではなかったので手出しを渋っていたが、彼らとて現代社会で生活してきたのだ。
義務教育も相応に受けているということを考えれば、この世界の多くの人々よりも知識はあると考えていい。
しかし、ノアのように上手くやれるかといえば―――無用な軋轢を作るか、騙されて良い様に使われるだけか。
後ろ盾も無く、地盤とも言える足場も無いのだから変に商売欲を出せば火傷で済まないことが想像できて、取り巻きたちの表情もあまり芳しくない。
「ノアに手ほどきを受けておくべきかしら?」
「にょふょぉをぁ~っ!! それはやめておくのが無難ですなぁっ!!」
「っ!?」「うぉぁっ!? どっから出てきやがった!?」
突如出現した奇怪な叫び声に歪な表情と体躯の怪物―――否、冒険者。
カイミン茶などという名の彼はこうなってから色々な意味で有名だったが、ノアと友好関係にあることでさらに名は高まった。
何せ、直々に狩りやら解体に採取と直接手解きを受けた稀有な人材である。実力もそれなりなので仕事はできるのだが、見た目のせいで浮いてしまっているのは仕方が無いとするべきか。
本人たちがどう思っているのかはともかく、彼らは彼らで同好派閥には正式に所属しないという道を選んだのは無関係というわけではあるまい。
黒百合の絆という最有力候補にも結局は名を連ねていないのだから、彼らの胸中や考えは部外者には理解できることではないのだろう。
ともかく、アザミは無様に悲鳴を上げなかった自身の胆力に感謝して優雅に微笑んで見せた。
「ごきげんよう、カイミン茶さん。それで、どういうわけかお聞きしても?」
「簡単な話にょわす! かの方法はノアちゃん様と御三方だからこそのものにょろわ~!」
挑発されているのかとすら思う言動だが、それを無視して神妙な頷きを返す。
ノアが上手くいっているのは、彼女を支える三姉妹の主のアイディアを完璧な形で実現する能力があるからこそ、だ。
三人のエインヘリヤルの主たる彼女がやっていることは殆ど無限にも近い手札から無難なモノを選んで切っているだけに過ぎない。
けれど、自分がその立場にあったとして―――無難に場を収めていけるほど手段や方法を選択できるだろうか。
それこそ武器や防具を無差別に放出して無用に混乱を招いていた可能性しか浮かばず、アザミは内心で頭を振った。
「な~によりも! ノアちゃん様は天然でやっているにょほりゃっ! 天性の感覚を他者に伝えるなやふんだぶる!」
「よくわかりませんが、わかりましたわ・・・」
頭が痛くなる気がしたが、それでも話の概要は何となく理解できた。
ノアが行っている様々な面への調整は、彼女が自然と思考の中で必須と感じて行っていることである。
それを他者に説明しようとしても言葉の詳細は違うかもしれないが「必要だと思う事を出来るだけ想定して解決策を実行する」としか伝えられない可能性が高い。
もちろん、ノアとて全ての状況を想定して対策を講じているなどということはなく、上手くいっているのは運による面も大きいがそれはそれとして―――。
(ノアも策謀を巡らせるには未熟、ということですわね)
彼女とて中身は社会経験の無い大学生だったはずだ。
理論やセオリーを他者に教え伝えられるほど成熟していると考えるのは酷でもある。
というか、知っていても普通なら秘匿するような内容でしかない。
それを考えれば、技術も物資も方法も割と開示しているノアの方法は異端であり、何度も使えるものではないというのも確かだろう。
「ふぉんにゃ! そのような些事より! ミャッツを見かけませぬでしゃろ!?」
「? ・・・ああ、見かけたかどうかを問いかけているのですわね。見ていませんわ」
言動が不可思議すぎて理解が遅れたが単語のみを抜き出せば、ギリギリに理解できた。
アザミの言葉で理解した周囲の人々も視線を向ければ揃って頭を振る。
それを見てカイミン茶は顔を歪めた。悩んでいるのか心配しているのかは傍からでは判断しかねる顔の造形のせいで何を思っているのかは不明。
「むふぐぅ・・・すでに三日も見ていないのはいかなちょひょあろ~・・・」
真面目にしているのか、状況を楽しんでいるのかすら、漏れ出る言葉からは判断できなかった。
アザミやゼリオだけでなく、その場のほぼ全員が反応に困って視線を巡らせる。
ミャッツというのも見かけた事はあっても深い繋がりがあったわけでもないので不安視するのも感情的になることもできず困惑は深い。
「にょ~! それはそれとして! ご協力の返礼にワレの手料理を振舞わせていただけにょろ!?」
「? その必要は特にないのですわ」
見た目と言動はアレだが、カイミン茶はこの街でも有数の調理技能者の一人。
偏屈な三ツ星レストランのシェフのような存在でもあり、それこそ料理を振舞えばかなりの金を稼ぐことが出来るだろう。
そんな稼ぎ方が出来るのも、一時的なものではあるかもしれないが。
「にょあはっはぁっ!! これはノアちゃん様のアイディアなのであるにゃすほっ! 事あるごとに料理を振舞うのでおれちょあっ!」
「・・・なるほど? ですわ!」
顔繫ぎ、あるいは技能の流布、情報共有や仲間意識の構築。
幾つかの思惑が透けて見えたが、そのどれもが正解なようで、ノア自身は深く考えていない様な気すらしてしまう。
それを『天然』で行っているというのなら、確かにそれは才覚というものでしかない。
「おぉっ! サンキュー! 喜んでご馳走になるぜっ!」
「・・・厚顔ですわね」
「んだとぉっ!?」
男女が言い争う様に、取り巻きたちもそれぞれに言葉を重ね大きな騒ぎとなっていく。
最初から注目を集めていた集団は、いつの間にやら野次馬が集まり人だかりが出来上がる。
「―――」
そんな人込みを冷めた視線で睥睨し、裏路地へと抜けていくローブで顔を隠す男が居た。
頭からすっぽりと布を被り、体型すら偽るかの様でいてけれど、隠ぺいなど出来るはずもない『猫』の姿をした少年の姿があった―――




