66 選択を選択できず
「さすが、マスター」
ノアが独りでトワイ・ヨトゥルを打倒した頃。
その様子を視界の端で確認したアルナは笑みを浮かべて小さく呟いた。
様々な戦闘方法を試行するために武器を持ち変えるというのは、本来では好ましいとは言い難い。
それぞれの武器には、それぞれの特性があり、扱い方を習熟していく事で、必勝の型を編み出していくべきだ。
もちろん、それは複数の武器種を十全に使い熟すということの難易度がとてつもなく高いという所から来ている。
先は果てしなく遠く、上限などありはせず、技術は常に進化し続けるのだから当然の話ではある。
だからこそ、矜持と信念を胸に相棒ともいえる自分の得意武器を定めて実力を伸ばしていく者が大多数を占めるのだ。
しかし、ノアは馴染んできた刀を、その技術を一旦とはいえ手放す事を躊躇しなかったことにはアルナですら驚く出来事であった。
もっとも内心での躊躇いは存在していたのだが、それをアルナが感じ取ることは無かっただけである。
(マスターが常に新たな道を模索するのであれば、私もその力に―――)
一助になりたい。
その想いが強くなっていたのは、アルナが自分に対して三姉妹の中で最も役に立っていないと感じていたからだ。
ノアから直接評価を聞けば確実に否定されるのはわかっていたが、それでもアルナ自身が納得しない。
そう思う原因は日常生活の中にある。実はノアを含めた4人の中で最も生活能力が低いのがアルナなのだ。
ゲームとして考えれば当たり前とも言えるが、同行者として育てていたアルナは戦闘能力に特化した育成がされている。
対し、後発とも言えるイリスやフィルは物資作成技能である『錬金術』を考慮に入れた育成方針を取られた。
これが何の因果か、現在は料理や洗濯といった家事の方面への影響を与え、結果としてアルナは生活能力が一段劣っている。
単純に苦手なだけなら練習していけばいいのだが、最近色々と学んでいるとはいえ一般的な独り暮らしの男性と同等程度のノアに負けている時点で察することが出来るだろう。
だからこそ、せめて戦闘に関しては、と考えてしまうのは仕方のない事だったのかもしれない。
「・・・できれば早々に終わらせたいところなのですが」
意気込んではいるものの、だからといって焦るようなことはしない。
今回、アルナが主戦型として選んだのは近接戦闘と射撃攻撃を両立させる突闘銃型という戦技特型。
その中でも銃剣は近接では斬撃を、中距離では射撃を扱うために柔軟性もあるが極端に苦手とする相手というのもまた存在する。
金属の皮膚を持つ巨人トワイ・ヨトゥルもまたそういった手合いの相手だ。
そもそも狭い通路の多い坑道では銃器の類は扱い辛い。
爆発音による衝撃で崩落を誘発することもあるし、空間が限られるので味方を避けての射線が通り辛く、跳弾によって自分はもちろん味方をも傷つける事もある。しかし、だからこそ使う価値があるのだとアルナは思う。こればかりはノアが自分で訓練するわけにはいかないだろう、と。
けれども、現状を考えれば若干の後悔があった。
(単発では防御を、抜けませんか・・・っ!)
振るった刃が鋼の肉体に掠り傷をしか負わせられずに、舌打ちでもしそうなほどに内心で苛立ったが、それを表情に出すことは無い。
銃剣は斬撃と射撃を両立させる、と言えば聞こえはいいが、バランス調整という名のデメリットも相応にあるのだ。
そのひとつが一撃の威力の低下。
攻撃手段を絞るというのは現実で考えれば悪手にもなるが、ゲームであれば特化させた方が強力になるというのはSSO以外においても一般的だ。
逆に分散させているのだから総合火力は別にして一発一発の破壊力が下がってしまうというのは仕方のない事だろう。
似たような武器種はいくつかあるが、銃剣の場合で言えば斬撃だけ、あるいは射撃だけでの攻撃力が他の武器よりもかなり劣っているのだ。
結果として天然の鎧ともいえる金属の身体に痛撃が与えられていない。
「っ!」
炸裂音と共に吐き出される弾丸は狙いを違えず瞳へと突き進むがまばたき一つで弾かれる。
金属の塊のような巨人とはいえ、人体を模している以上は防御力が低い場所というのはあまり変わらない。
目や口内、関節部分などがそれに当たるのだが、相手も警戒しているからか簡単には攻撃が通らず歯痒い思いがある。
もう少し連射性能が高ければ跳弾を利用した多角的な攻撃で翻弄しつつ間隙を縫うように痛撃を与えることも可能だろう。
また、金属の肉体は斬撃はもちろん、点での攻撃である射撃も相性が悪い。
(マスターのように打撃を通せば―――否。それでは意味が無い)
現在のノアの術理を利用した羽衣を介す攻撃は浸透勁にも似た特殊な効果を生み出す。
敵の物理的な防御力を無視できる打撃攻撃はトワイ・ヨトゥルのような相手には絶大な効果を持つ。
逆に術に対する高い防御力を持つ相手には今のアルナのように斬撃や射撃といった物理攻撃の方が有効なので相性ということなのだが。
またアルナの副戦型は現在、攻盾戦型であり、普段使っている片手剣と盾も持ってきてはいる。
他にも片手で扱うことのできる槌や打撃と共に射撃を撃ち込む発砲拳などの予備の武器も準備があった。
だが、それではわざわざ環境的にも扱い辛い武器を選んで手にした意味が無いのだ。
「術理が使えないのは痛手ですが、方法が無いというわけではありません」
くるくる、と。
バトンのように銃剣を弄びながら、真剣な眼差しで巨人を見据える。
敬愛する主が戦い終わっているということもあって時間が掛かりすぎているとは考えているが負ける要素は欠片も無い。
痛痒を与えることこそできていないが小さな傷をつけることは可能であるというのと、相手の攻撃が大振りな拳や足でのものなので回避が容易いからだ。
このまま数時間だろうが、数日だろうが戦い続けられると考えるアルナにとって敗北はありえない。
しかしながら、当然それに主であるノアや同道者たる4人を付き合わせるなどという選択肢もまた存在しない。
「行きます」
握りしめた拳を振り下ろす様を見て誰にともなく言葉を零す。
タンっ!と響く乾いた銃声と共に放たれるのは緋色を纏う弾丸。
攻撃の貫通力を上げる術技ストライクピアスによる輝きを宿す一閃が狙い撃つのは指の付け根であり、指と指の間。
骨の隙間とも言うべき場所をピンポイントで狙い撃てば、相手が右拳を振り下ろす勢いも利用して僅かにでも攻撃が皮膚へと食い込む。
「ガ―――」
鋭い痛みに相手が悲鳴を上げるよりも早く、銃弾の後を追ってアルナは間合いを詰めていた。
爆発したかのような踏み込みから身体ごとぶつかっていくかのような突進。それと共に手に持つ赤い輝きを纏う銃剣による刺突。
術技ストライクピアスは銃撃だけでなく、槍や剣による刺突でも効果を発揮するとても便利な技だ。
緋色の輝きが収束する刃の先端が尾を引きながら、繰り出される刺突は弾丸が穿った位置と寸分違わず同じ場所を貫く。
「―――グォオオオッ!!!?」
絶叫と共に巨人が仰け反る。
相当な痛みなのか右腕を左手で押さえているのを見ると、縦に裂けるように亀裂が幾つも走っていた。
「なるほど。金属であるが故、ですか」
人間を含めた生物の皮膚よりも柔軟性が低く、トワイ・ヨトゥルの身体は力を込めると硬化するという特性があるようだ。
そんな風に分析しながらも以前には無かったダメージの受け方だとぼんやりと思う。
判然としないのは、彼女がゲーム時代の記憶を夢の中の出来事のように感じているからだろう。
ともかく、巨人の腕は岩をつるはしで穿ったかのような割れ方で肩まで傷が広がっている。
好機だと判断するには十分すぎるダメージにアルナは踏み込もうとして―――
「―――うぉぉぉおおおおっ!!!」
暗がりから竜人の少年が飛び出し、両手の剣を眼前の巨人の足へと叩きつけた。
そう、叩きつけたのだ。刃筋が立っておらず、技もなく、ただ、ただ力任せに。
アルナから見れば初めて剣を持った、と言われても疑わないであろう稚拙な双撃。
なにせ、ノアは十数分もすれば基本の型を整え、1時間もかければ独自の条理に従って刀術と言える戦闘技法を身に着けたのだ。
それを最も傍で見ていたアルナだからこそ、目の前の光景があまりにも信じられなかった。
「《赤き稲妻よ敵を撃て! クロスサンダー!》」
一条の赤い雷光が暗闇を駆け抜け、巨人の胴体を貫いたかと思えば十字を描く様な広がりを見せる。
貫通したようには見えても電撃は巨体の表面を流れただけで効果が無かったというのはアルナだから気が付いたというべきだろう。
何故なら、腕に負った深い傷のせいでのた打ち回り痛みに呻き声を上げているのだ。
何の意味もなくとも攻撃によってダメージを受けたと錯覚してもおかしくは無い。
「へ、へへっ! 俺たちだって戦えるぜ!」
「き、効いてます! 僕だって・・・僕だって・・・!」
何故?
色々な意味でアルナはそう思う。
決して彼らは戦えているわけではなく、不意を打ったくせに何の効果も無かっただけである。
斬撃とも打撃ともつかない攻撃は傷ひとつ付けることが出来ず、下手をすれば味方すら巻き込みかねない広範囲の術理は表面を撫でていっただけ。
そもそも暗がりから飛び出してきた二人の少年は八門目の広場で別れ、帰路についたはずだった。
レネアという妙に素直な少女が満面の笑みで軽く手を振って坑道を戻っていく姿を確認してから先に進み始めたので間違いない。
また、主道は一本道と言っていいので追跡自体は簡単かもしれないが、迷宮を進んでいる間は特に奇襲を警戒しているので接近に気が付かないはずがなかった。
もちろん、アルナだけなら稀に見落とす事もあるかもしれないが、他に五人も居るのに誰も気が付かないというのは少々あり得ないだろうという話だ。
(・・・ここでの戦闘が始まってから追い付いてきた、ということですか。タイミングを考えれば無いとは言えませんが)
いくら鋭い感覚を持っているアルナとはいえ巨人たちとの戦闘が始まってからは大きな戦闘音が響き渡り、広い空間だということもあって通路の奥の様子までは把握できない。
光源もノアやアルナ、カイミン茶たちが腰から下げている角灯くらいのもので闇を見通すことができるかと言えば確実に否。少なくともアルナにはできなかった。
これが視覚や聴覚以外の―――第六感とも言うべき術理を利用した―――感知方法であれば気が付いたのかもしれないが、この分野に関して彼女はフィルに劣っていると自らも認めるところだ。
注意していたならともかく、戦闘中まで想定の相手を警戒できるほどの練度ではない。自分や主に視線や殺気を向けてくるようなら話は変わってくるのだが。
(しかし、何故追ってきたのでしょうか?)
少年たちが未熟だというのは、まだ理解できる。
アルナ自身には深くはわからないことだが、他の人々のエインヘリヤルが主たる人物に物事を教えられるほどの能力を持ち合わせていないというのは把握していた。だから、彼らがカイミン茶やカザジマにすら大きく劣る技量しか持ち合わせていないというのは、指導者や参考になる相手が居なかったからだとも考えられる。
だとしても、実力があまりにも劣っていると理解させられたはずの彼らが無用に危険を冒して後を追ってきた理由が丸きり理解できないのだが。
「手ぇ出すなよっ! こいつは俺たちでやる!」
竜人の少年が叫ぶのを聞いて、アルナは心底不思議そうに小首を傾げる。
彼らの実力では戦いにはならないだろうとは思うのだが、幸か不幸か理解できない言葉を吐く冒険者はそれなりの数に出会っていた。
未だにカイミン茶などは言動が理解不能ということもあって、目の前の少年たちも同類だと判断する。ならば、切り札のひとつふたつ用意があるのだろう。
そもそも、戦闘中に横槍を入れてきたのは彼らなのだが、それに関しても特有の、アルナには理解しがたい思考の結果だと割り切る。
(戦技を試すことが出来ないのは残念ですが、素材という意味では必要ありません。問題なし、ですね)
獲物を横取りされるのは面白くは無いが、執着するほどかと言われると答えは否だ。
トワイ・ヨトゥルの素材はそれなりに優秀だが、巨体一体分もあれば予備も含めて十分に事足りる。
いざとなれば再度、黄昏坑道を訪れて狩りをすればいいというのもある。再出現についてはアルナもノアも現状でも機能しているのかは判然としていないので、もう遭遇できなくなる可能性はあるのだが。
逆にそれを確認する為だけにもう一度訪れてもいいとノアがこの時に考えていたのかは本人のみぞ知る。
「・・・考えるだけ無駄ですね」
良くも悪くも思考を切り替える能力は高い。
乱入による戸惑いを切り捨て、軽くバックステップで距離を取る。
それでも巨人から視線を外さなかったのは、やはり少年たちが巨躯を相手に勝てるとは思っていないからだろう。
もっとも立ち位置を調整して視界を広げれば、4色の輝きを纏いノアが2体目の巨人と対峙する姿を確認することが出来る。
周囲が暗闇だけにその姿は派手に目立っていたので探すまでもなく視界に入った。
「俺たちだって・・・俺たちだって自分の力でここまで来たんだ! こんな奴らに負けるわけねぇっ!」
「そ、そうですっ! 僕たちだって・・・っ!」
自分に言い聞かせるように叫びながら巨人に向かっていく少年たち。
その言葉には僅かに不快感を覚える。ノアこそ苦にしている様子はないが、試行錯誤や研鑽の量は共に過ごしてきた分だけ把握している。
何より大きいのは、知人の中でも特に戦闘を苦手とする人物の一人であるカザジマがどれほど苦労しているのかを知っているからだ。
以前と違う、というのは大前提として、アコルやカイミン茶たちですら修練の跡が見えるというのに彼らにはその様子が伺えない。
(よく生きて来られましたね)
それが正直な感想であったが、実は少年たちは今まで坑道の入り口付近で少量の鉱石を拾って、糊口を凌いでいたと知ればまた違った思いを抱いたかもしれない。
運が良いのか悪いのか、生活が苦しくなったからと息を潜め、逃げ惑いながらほとんど戦闘することなく八門目―――ひいてはこの場所まで彼らは辿り着いてしまった。
しかし、彼らのそもそもの勘違いとして黄昏坑道は単純に奥へ進むほどに高価な物資を得られるというわけではなかったということか。
敵から素材を得るには解体が必須であり、鉱石を掘るにしてもピッケルの類を準備して採掘を行う必要がある。鉱石を掘るにしても壁に向かってつるはしをがむしゃらに振り回せば良いというわけではない。
そういった点で抜け目ないのがノアであり、ハンドピッケルを、予備を含めて人数分用意しただけでなく鉱床の見分け方や情報を事前に一定量集めていたりしている。
結果として、すでにゲームキャラクターとしての発見技能も加味して十分に成果が出ていた。
落盤対策に爆発物や、毒ガス対策のガスマスク、術理あればこその特殊な補強材なども用意している辺り、念の入れようという意味では結構なレベルだ。今までも準備に関してはアルナや他の皆とも相談して決めて安全を優先している、というのに、いざという時には自分で飛び出して行くのだから台無しにしている感覚は拭えない。
(本当に、マスターは仕方が無いですね)
自然と零れた笑みは、ノアが無茶をしたのが妹たちの為だったというのもある。
それほどまでに、命を懸けるくらいに大切に想ってくれているのだから、それに応えたいと願うのはある意味で当然だった。
元々の親愛の度合いが高かったことも影響しているとはいえ、このたった数か月だけでも以前までのモノと同等の量と遜色ないほどに愛情が深まったと感じるほどに。
だからこそ、主のためというのが行動原理のかなり上位に存在しており、逆に言えばそれ以外の理由が引き下げられていたりする。
「グォォォオオオアアア!!!」
「へ、へへっ! そんなに吠えたって俺たちにゃ勝てねぇぞ!」
そして、最も優先度が低いカテゴリーにあるのが友好関係になっていない『冒険者』への支援。
常日頃からノアが「冒険者は自己責任」と言っていることもあって、勝手に戦場に飛び出してきた相手などどうなろうと構わない。ノア自身も多少思うところがあってもそう振舞うだろう。だから、激怒を宿す瞳でトワイ・ヨトゥルが少年たちを睨み据え、襲い掛かろうとする様を見ても我関せずといった具合に冷めた目でその様子を見詰めている。
「行くぞ! うぉぉお―――ヴォベ・・・ッ!?」
例えコバエを振り払うかのように一蹴されようとも。
飛び掛かった際の角度の問題か、竜人の少年は横薙ぎに殴られたというのに真っ直ぐに獣人の少年へと向かって吹き飛ぶ。何度もバウンドしながら地面を転がり、自分の横を抜けていく姿に一瞬で震えあがりカタカタと奥歯が鳴る。
「ぼぼぼ、ぼぼ、僕だって―――」
「ヴォガァァァアアア!!!」
完全に虚勢ではあったが勇気を振り絞って短杖―――片手で扱えるような短い杖を握りしめたのだが、地面が爆ぜたかと思うような勢いの足踏みで礫が頬を掠めれば言葉を失ってしまう。
続けて放たれる怒気を含んだ咆哮に一瞬で戦意は砕け散り、ガクガクと膝が震えて涙を浮かべ顔が歪む。
「―――あ・・・ぁ・・・うわ、うわぁぁぁあああ・・・っ!!!?」
恐怖に負けた。それだけの話ではあるが、少年は転がるように巨人に背を向けて走り出す。
それを無様と笑うことは無いが、近場に転がっていた仲間の少年を放置して逃げ出そうとする姿にはアルナも眉を顰める。
しかし、そちらにばかり注意を向けているわけにもいかない。巨人が憤怒の感情を向けてくるのは、大きな傷を負わせたアルナへ向かって、なのだから。
彼女を睨み据え、地響きのような重い音を立ててトワイ・ヨトゥルが一直線に向かってくる。
「うをぉぁっ! 来るな! 来るなぁ・・・っ!」
その歩みの先に居るでもないのに竜人の少年が腰を抜かしたような尻餅をついた状態で威嚇のつもりか両手の剣をブンブンと振るう。
相手にもされていないのだから踏みつぶされることも無いだろう、と思えば自然と意識から外れる。しかし、彼女の居る方向へ向かって走ってくる犬の少年に関しては問題であった。
このまま戦えば巻き込まれる―――邪魔になる、と考えて彼を避けるべくサイドステップで距離を取るのだが―――
「うわぁーっ!? うわぁーっ!? やだっ、やだぁー・・・っ!」
―――不幸なことに彼は恐慌状態に陥っており、確実に人が居る方向へ・・・、アルナが腰から下げている角灯へと向かって限界を超えるかのような速度で突撃する。
「っ!?」
一瞬、躊躇ったのは少年を殴り飛ばすか、踏み台にして距離を詰めるか、回避して巨人の攻撃に備えるか、といった選択肢のどれを選ぶべきか迷ってしまったからだ。
戦うのなら少年たちは邪魔だし、手を出すなと言っていたのだから死ぬまで無視していても問題は無いが、そちらに対処して時間を掛けるのも問題がある。
そういった幾つもの選択の中で何を選ぶべきかを迷ったことで固まってしまった。
その一瞬が致命的であったと気が付いたのは、犬の少年が必死の形相で抱き着いてきた衝撃を感じたのと同時だった。
あんまりな失態だが、ハッとすれば動きが止まったアルナに対して巨人が腕を振り上げていて―――
「―――アルナ・・・っ!」
敬愛する主の声が彼女の耳に響いた。




