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ウィッシュスターストーリー  作者: multi_trap
第二章 勇者の彩る初級編
59/99

56 奇人たちのパレード



「ひ、ひぃっ・・・!?」


カザジマが小さく悲鳴を上げるのを聞いて、ノアは内心で嘆息吐く。


(まぁ、気持ちはわからない訳ではないけど)


奇声を上げて飛び出してきた存在は、はっきり言って見た目も奇妙というか気持ち悪いモノだった。

頭部は小顔といってもいい大きさではあるが、骨格ごと(ゆが)んでいるだろうと思える(いびつ)さ。

瞳は円形というか―――顔面造形のモチーフはかの有名な油彩絵画の『叫び』の一作なんだろうな、と理解できる。

しかし、身体の方はだらしない。というか、偉業とも思える比率で肩幅が異様に狭く、臀部は極端に大きい。

その上で腹部がでっぷりと突き出しており、ズボンをはち切れんばかりに押し出している。


「落ち着いて、カザジマ」

「ででで、でもぉ・・・っ!」

「大丈夫だから」


アコルとアルナが険しい視線を向けているが、彼女たちの場合は警戒の意味合いが違う。

二人は胡乱気(うろんげ)な様子ではあるものの、恐怖の感情は一切見えない。


「ひょ~?」

「その演技(ロールプレイ)が何なのかは知りませんが、久しぶり―――と、言うべきですかね。カイミン茶さん」

「をほぉ!? ノアちゃん様ぁっ!? きょんなちょこにぃぁっ!?」

「ちょっと何言っているのかよくわからないです」


発言や奇声だけでは判断がつかなかったが、特徴的過ぎる見た目を目視すれば記憶も呼び覚まされるというものだ。

いわゆる『ネタキャラ』冒険者(プレイヤー)の一人である『カイミン茶』なる人物の事は。


「・・・割と有名な冒険者(プレイヤー)よねぇ」

「それをアコルさんが言いますか・・・」


有名度合いで言えばゲーム内だけでの名声のカイミン茶と外部の動画投稿サイトで生放送もしているカリフラワー・アコルでは格が違う。


(いや、どうせプレイヤーしか存在しないのだから外部人気よりもゲーム内知名度の方が重要なのかも)


パートナーNPC(エインヘリヤル)を連れ歩く特異なプレイヤーであるノアも結構に有名人だったりする。

そうでなくても所謂(いわゆる)野良パーティで結構に活動もしているので知り合い程度の付き合いの相手はそれなりに居る。

それこそアコルやカイミン茶などは、元々はそういった薄い付き合いの相手だ。


「———うぇぇっ!? ノアちゃん様っ!?」


ひょこ、っと。

木々の間にカラフルな衣装が飛び出す。

青と黄のストライプに赤く丸い鼻、ハートや星を描いた化粧。

一応は道化師を意識しているはずの衣装は、何故かぴったりと張りついて彼女の身体のラインを強調しているかのようにも見える。


「てぃわちゃんびっくり☆」

「・・・すっごく殴りたい」


おちょくるような挙動に、何故だか風船を膨らませてウィンクを飛ばしてくる。


「え、っと・・・ノアさんの知り合い・・・?」

「てぃわバルーンさん。前に何度かパーティを組んだことがあるよ。一応」


見た目では道化師なのか色気担当なのかよくわからない人物だが、ゲーム内チャットでは大活躍の人物だった。

主に煽り要因として。


「わ~、ホントにノアちゃん様姫殿だぁ~☆」

「敬称どうなっているの、それ・・・」


げんなりとした様子でノアが呟くと、女道化師は何やら決めポーズを取りながらウィンクをひとつ。

かと思えば「うふぉぉぉおおおっ!」と奇声を上げる不気味な面相の奇形生物が槍を掲げて、ジャングルの奥地の部族が舞うような不思議な踊りを始める。

そんな様子にカザジマが怯え、イリスがドン引きし、アルナが眉を顰めて、アコルは苦笑を浮かべていた。


「・・・二人とも、下がって」

「ふぇ?」「ふぉひょ?」


疑問を浮かべる二人に構うことはなく、するりとカイミン茶の横を抜けて無造作にも見える足取りで茂みの一つに歩み寄る。

ハッと誰かが息を呑んだのと同時に白銀の影が飛び出したかと思えば空中で勢いを失くして地面へと転がった。

次いで、流れるような動きで左腕の手甲から鉄糸が編み込まれた鞭が伸び木立ちの狭間を鋭く打つ。


「ぎゃうんっ!」


獣の悲鳴が耳に届くが、気にするような素振りもなく踊る様に身を翻しながら腕を振るう。

併せて動く鞭が茂みや下草をあっさりと薙ぎ払ったかと思えば、いつの間にか出現していた水で構成された鞭があり得ないような軌道を描いて木陰に潜んでいた銀狼の首を()ね飛ばした。それに焦ったのかはわからないが、さらに三匹が飛び出してくるのだが抜き放った刃にあっさりと首を落とされる。

先ほどまでの目にも止まらぬ刹那の剣技とは打って変わった、緩やかに舞うような優美とすら思える美しい剣筋で。


「フィル、風」

「ん」


巻き上がる深緑の色を宿す旋風。

小枝や木の葉が舞い上がり、周囲の(やぶ)を掻き分け隠れている狼の姿を晒し出す。


(妙に数が多い。あまり数が出てくる敵じゃなかったはずなんだけど)


疑問を抱きつつも鞭撃で飛び出した一体を弾き飛ばし、飛び掛かろうとした狼の足を水鞭で打ち据え、襲い掛かってきた相手を刀で斬り伏せる。

その時にはアルナも風の中に身を躍らせて打撃だけで済んでいる相手の息の根を止めつつ、さらに二体を仕留めたことで周囲から敵の気配は消えた。

1分も掛かっていないであろう殲滅劇ではあったが、ノアや三姉妹の表情は険しい。


「・・・流石に、嫌な感じだな」

「はい。これほど密集して襲ってくる種ではないはずですが・・・死体はどうします?」

「回収しよう。放っておいて死肉を漁るようなのが沸いても困るし、燃やしてしまうのももったいない」


環境なのか生態なのか、何が変わったのかはわからないが死体を放置するという選択肢は流石に気が引ける。

周囲の木々に燃え移らないように穴を掘ってその中で火葬するのも手段としてはいいのだが勿体無(もったいな)いと感じるのは仕方が無いだろう。

視線で促すとアルナとイリスが頷きを返して行動を始めるのを確認しながら、ノアは刀を鞘に納めて振り返る。


「をっひょ~! ノアちゃん様きゃっこいいじぇ~!」

「子連れ姫剣士ノアちゃん様さいこ~☆」


奇妙なポーズまで取っている二人の冒険者(プレイヤー)にとてつもない苛立ちを感じて軽く腕を振るう。

殆どタイムラグなしに飛んだ音速を越える鞭撃が異形の生物とピエロの顔面を打ち据えた。


「「ぶぎゅぅっ!?」」

「あらあら、美女の鞭で悶絶するなんてとんだご褒美ね」

「絶対、痛いだけだと思う」


茶化すようなアコルに、カザジマは渋い顔で返す。まるで自分が痛めつけられたかのように。

呻く二人の奇人を冷たく見据え、ノアは小さく嘆息を吐いて周囲に視線を走らせる。

感知範囲内には追加は居なそうではあるのだが、早々に追加が現れた先ほどの事を考えると油断はできない。


「音で察知しやすいからまだいいけど、気配を察知しにくい相手も血の匂いで寄ってくるかもしれない。フィルも、ちょっとだけ警戒度を上げてね」

「大丈夫」


本人としては力強いつもりなのだろうが、耳元に囁くような声が落ちる。

他の人には聞こえないだろうな、なんて思えばノアにも苦笑が浮かぶ。


「・・・ほんと、差があるわねぇ。私たちには狼が近寄って来たのもわからなかったのだけど」

「それもだし、当てられる気もしないよぉ」


アコルとカザジマはほぼ同時に深々と溜息を吐いた。

二人には木々の間を素早く移動する銀狼の姿を捉えることも、茂みに潜む気配を感じ取ることもできなかったからだ。

特にノアとゲーム時のレベル差がほとんどない筈のアコルとしては忸怩(じくじ)たる思いがあった。

こんな世界で目覚めてからの経験と訓練の差なのだろうが、だからこそ共に旅してきた仲間としては情けない。


「まぁ、何度も死にかけたし、参考にするべき相手が手取り足取り教えてくれているからね」

(エルアドラスと戦闘した経験もだけど、たぶん『ノア』と相対したのも影響があったと考えるべきかな)


感覚が鋭くなった、というよりは、扱い方が上手くなった、という感じだ。

それは身体の使い方にしても同じで無駄が削れていった結果に一段上の力に見えている、と。

間違いなく技量は向上しているが、自分の力なのかというと疑問に思うところではあるのだが。


「———お~い、何かあったのか?」

「ひ、きゃぁぁぁああ!?」


様子を覗うような声に野太い悲鳴が響き渡る。

先に声を掛けてきたのは不要に警戒させないようにするためだろうに、と思いつつ視線を向ければ、ノアとしても一瞬目を見開いた。


「あら~、これは太くて大きな立派なきのこ」


そういう問題ではないと思う、と弾むようなアコルの言葉に、口には出さず内心で返す。

現れたのは正直に言えば『人』に分類される何かであるとは到底言い切れない存在。

形容するのなら『茸おばけ』。骨格から人類とはことなるであろう、巨大な茸に手足が生えた歪な怪人だった。

人間大なのだから、太くて大きいのは確かだが―――。


「配色が気持ち悪い」

「うるせぇな! こんな事態になるなんざぁ、わからなかったんだから仕方ねぇだろぉっ!」


青紫に赤い斑点の浮かぶ笠に身———というか肌は薄桃色という、完全に毒きのこな見た目だった。

それ以外にも首や腰といった関節部分がどうなっているのかとか疑問に思う部分も多い。

そもそも、どうやってこんなキャラメイクが成立したのか、という所からになるので考えるのも面倒であるわけだが。

何より、おばけ茸が叫んだようにゲームキャラの肉体を得て生活する事になるなんて思っていた人間は居ないだろう。


「まぁ・・・お気の毒に」

「まったくだぜ。まともな人間扱いされねぇしよぉ」


見た目が完全に人間じゃないからな、とはノアにしても流石に口にできない。

それがわかっているからこそ先に声を掛けてきたのだろうし、奇妙な存在はすでに悶絶している二匹を確認している。

その二人に向ける視線はすでに氷点下のモノだったが。


「あの二つの知り合い?」

「ノアちゃん様、物扱いはさすがに―――痺れるぅ! かっこいい!」

「黙れ、変態ピエロ!」

「あぅんっ!」


鞭に尻を打たれてどこか嬉しそうにコミカルな倒れ方をする様を見て、毒きのこは額?に手を当てて溜息を吐いた。


「ああ。オレみたいな奴とパーティ組むのなんざ、似たような境遇の奴らだけだからな」

「なるほど」


見た目が全てではないというのは中身との不一致もあって現在の状況の方が、重みがあるだろう。

しかし、だからといって奇抜な相手に背中を預けられるのかというと話は違ってくる。

幸か不幸か、ノアの場合はすでに妙な二人を引き連れているので拒絶感もそこまで大きくなかった。


「オレはワラタケ。あと・・・おい、大丈夫だから出てきていいぞ!」


毒キノコことワラタケが樹木の上へと声を掛ける。

枝の上に陣取っていたと思われる存在は器用にスルスルと幹を降りてきた。


「猫っ!」

「猫が猫履いている」


カザジマの少女としての心が歓声を上げた。

が、正直なところその姿はノアには少々不気味に見える。

猫耳姿というよりは顔の造形や体毛の雰囲気から二足歩行の化け猫に近い。

その上で、どこぞのファンシーショップか子供向け店舗に売っていそうなデフォルメされた猫の顔がつま先にくっついているブーツ。

手には肉球グローブ、着ている服にも猫がプリントされており、少々やり過ぎ感がある。

小柄で背には洋弓(アーチェリー)を用意しており、服装からは性別を判別するのは少々難しい。


「え、と。ボクはミャッツって言うんだけど・・・お姉さんたちは?」


身をくねらせる壮年の男にドン引きしながらも、化け猫は比較的に冷静な言葉を口にした。

ただ、そんな猫の視線が呼吸や仕草の度に揺れるアコルの大きく露出した胸元に吸い寄せられるのを見るに男性なのだろう。

その視線を感じつつもアコルはホンの僅かに口元に嗜虐(しぎゃく)の笑みを乗せて見せつけるように胸を張る。


「私はカリフラワー・アコル。こっちの男の子がカザジマ。それで―――」


男の子、という表現は筋肉隆々の大男に当て嵌るのだろうか。

そんなことを思いながら、流れ的に紹介されるのを待っていると、唐突に異形の存在がガバッと勢いよく立ち上がり槍を天に掲げる。


「ふぉひょよぉおっ!ノアちゃんさん様姫殿女神様だぁっ!」

「ノアチャンサンサマヒメト・・・ええと?」

「ノア。よろしくね」

「フィル」


お互いに中身を名乗らないのは身体との差異の関係も大きい。

今の自分をプレイヤーとしての心で受け入れるのはノアとしても難しいところがある。

完全に人外の見た目の四人やカザジマにしても似たような思いがあるのだろう。

アコルについてはノアには良くわからなかったが。


「終わりました、マスター」

「ありがとう、アルナ。イリス」


処理を終えた二人に(ねぎら)いの声をかけつつ周囲の気配を探る。

野生の動物でも血の香りに寄ってくる可能性があったのだが、今のところは追加が現れる様子はなかった。


「ともかく、移動しよう。街にも着いておきたい」

「そうですね。解体用の倉庫もさほど(あき)はありませんから」


イリスが困ったように微笑む。

倒した魔物の解体を出来るだけの余裕があるのなら別ではあったが、本来なら出現しないはずの敵だということもあり不穏な気配がある。

そう何度も襲撃されるとは考えたくなかったのだが、警戒するに越したことは無い。


「ひょっふぁ~! でわでわ! レーロイドへ向けてしゅっぱぁつ!」

「いや、何でカイミン茶が仕切っているの・・・」


そもそも何らかの用があって街の外に居たのでは?

とノアは思ったのだが、奇妙な踊りを披露しながら戦闘切って歩く怪人の背に小さく嘆息吐いて視線で仲間たちを促した。






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