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ウィッシュスターストーリー  作者: multi_trap
第二章 勇者の彩る初級編
34/99

31 旅程の序章にて

凄く名前の設定を失敗していたり、冗長な部分も多いですが第2章開幕です。


色々と未熟な部分や粗もあるかと思いますが、楽しんでいただければ幸いです。



「うぉぉぉおおお・・・っ!!!」

「前に出すぎですっ!」


野太い声を上げて敵陣へ飛び込んでいった白髪の壮年男・カザジマに苛立ちを含んだ声が鋭く放たれる。

しかし、その声が届くよりも早く重量感のある戦槌(せんつい)を叩きつけていた。

その一撃は敵を粉砕するには十分な威力を持っている。

が、それは()()()()の話。


「グァガァァァアアアア!!!」


灰色熊(グリズリー)を元にデザインされた銀色の毛皮のシルバーベアは、自身を脅かす一撃を()()()()()()()()回避した。

身体構造上、不可能と思われる(なめ)らかな跳躍からの素早い反撃が攻撃後の無防備なカザジマへ襲い掛かる。


「くぅ・・・っ!」


その無茶をフォローするために金色の髪を揺らす戦乙女が間に滑り込む。

アルナは白銀の輝きを持つ大槍でシルバーベアの振るった凶爪を受け流し、たたらを踏んだ。

腕力や筋力で言えば常人を遥かに上回るアルナ達パートナーNPC(エインヘリヤル)ではあるが、体格に勝るシルバーベアの方が単純な力押しでは分がある。

それでも背後にカザジマが居るために引くことができず、不利な体勢のまま力勝負を続けなければならなかった。


「アル姉!」

「手伝うわ~」


そんな姉の危機を見て銀の髪の妖精・フィルが円月輪(チャクラム)を投げる。

同時に艶めく薄桃色の波打つ長い髪でスリングショット水着の変態美女カリフラワー・アコルが蛇腹剣(じゃばらけん)を撃ち放った。

自らの意思を持ったかのようにアルナやカザジマを避けて地面から飛び上がるような角度で紫の剣閃が煌めき―――空中のチャクラムを絡めとった。


「!?」

「あ、あら・・・?」


二人にとって想定外の結果だったが、わずかに身体を裂いたことでシルバーベアを後退させることができた。

SSOセブンスターオンラインというゲームであった頃からフレンドリーファイア(FF)は存在したがお互いの攻撃が干渉することはなかったので二人の驚愕はある意味で正しい。

しかし、現実となった戦闘の最中で呆けるというのは良い対応とは言いが固いものだ。


「フィルっ!」

「っ!?」


距離が開いたことで一呼吸を挟んだアルナが『羽音』に気が付いて下の妹へ警戒を促す言葉を放つ。

しかし、その時にはもう小柄な少女の体躯とほぼ変わらない大きさの巨大な蜂―――パライズピアスが至近に迫っていた。

シルバーベアの随伴(ずいはん)として現れる人によっては生理的嫌悪を抱く怪物蜂は人の腕ほどの太さの毒針を備える。

毒針による攻撃は麻痺―――ゲーム中では三十秒ほど行動不能となる状態異常を発生させる攻撃を多用してくるため、動けないところを一方的に(なぶ)られることも珍しくない。

治療薬での対策もあるが、前衛が動きを止められている間に高い攻撃力と強靭な体躯を持つシルバーベアが暴れればそれだけで壊滅することもある。

割と凶悪な組み合わせの敵集団(エネミーグループ)だが、五番目の街・リッシュバルまで辿り着く様な一行(パーティ)にとっては大きな脅威とはならない。

ここに辿り着くためには麻痺対策はもちろんだが、個の戦闘能力も十分に成長していなければならないからだ。


「はぁっ!」


ひらりと舞うように、けれど疾風のように鋭く。

矛盾を孕んだ緩やかで素早い一閃が緑色の輝きと共に駆け抜けた。

打ち付ける一撃に巨大な蜂は深い緑の体液をバラまきながら粉砕される。


「すみません、アルナ姉さん。少し抜かれました」


セミロングの栗色の髪を後ろで結った白い枝のような角のある竜人(ドラグニア)はパンっ!と音を立てて鉄扇を開き油断なく構える。

拳法にも似た独特の構えと翡翠色のチャイナドレスのスリッドから覗く艶めかしい太ももが眩しい。

もっとも、露出度という点では上が男女ともに居るので、その程度で動揺する味方はいなかった。


「いいえ、助かったわ。イリス」


鉄扇を構える上の妹へ返しながらアルナが大槍を構え直すが、表情は険しい。

連携として失態を演じたのは周囲のパライズピアスを相手にしていたイリスたちではなく、アルナ達の方だからだ。

四人がかりだというのにシルバーベアを処理することに時間を掛けすぎた。

むしろ十匹以上の巨大蜂をほぼ抑えきっているのだから感謝こそすれ叱咤(しった)するようなものであるはずがない。

構えた銀の大槍を握る手に力を籠めシルバーベアへ向き直り―――


「時間切れ」


―――熊の頭が(はじ)けるように仰け反った。

遅れて乾いた射撃音が耳に届き、閃光の残線が視界に映る。

それが『銃撃』だというのを認識したのはその段階になってからだった。


「イリス、動きを止めるよ」

「承知いたしました!」


涼やかで落ち着いた声音に返答しながら、イリスはゆるりと流れる水のように舞いながらシルバーベアへ距離を詰める。

反射的に振るわれる凶爪を鉄扇で受け、体技によって(さば)き、さらに踏み込んでいく。

同時に、アルナの横をすり抜けるように黒い髪をたなびかせて疾風のように人影が駆け抜ける。

次々に光弾を両手に持った拳銃から撃ち放つが冒険者(プレイヤー)従者(エインヘリヤル)、そして魔物が備える障壁装甲(フォースアーマー)によって決定打にはならない。

それでも顔面をこれでもかと叩く弾丸の雨はシルバーベアの動きを牽制(けんせい)するには十分なモノだった。

彼女はそのわずかな時間であっという間に距離を詰めたと思うと、両手に持っていた拳銃が淡い輝きと共に空に溶けてその両腕が武骨で漆黒の籠手に覆われる。


「「はぁ・・・っ!」」


新緑色の風を纏うイリスの掌打(しょうだ)と漆黒の籠手による拳打がほぼ同時に炸裂した。

どんっ!と籠手から射出された銃弾が重い音を立て、轟っ!と唸りを漏らす掌打がシルバーベアの腹部で爆ぜた。

巨体が地面から浮かび上がるほどの威力があったが、巨大な熊の肉体は原形を保ったままわずかに後退するに留まる。


「アルナ!」

「はい・・・っ!」


だが、数秒も猶予があれば十分だった。

二人の間に割り込むように突進したアルナの大槍の刃がシルバーベアの顔を貫き、相手が断末魔を上げる間もなく一度引き抜いた切っ先を振るって首を落とした。

鋭い銀閃によって頭を落とされた熊の首元から鮮血が噴水のように噴き出して周囲を染め上げる。


「やりました! マスター!」

「・・・うん、そうだね」


血塗れになりながら、喜色を宿した面持ちで楽し気に声を上げる彼女に、ノアの表情は引き()った。

ゲームだった時にはRPGの要素が強かったため一撃で敵の首を斬り落とすなんて芸当は不可能だったことを考えれば、新しいことができたアルナの喜び様はわからないでもない。

しかし、金髪美女が血に濡れたまま満面の笑みで喜んでいる様子は猟奇的でもあった。

ちなみにノアとイリスは彼女のトドメを邪魔しないように入れ替わりで後退したため血を浴びてはいない。


「とりあえず・・・解体と()ぎ取りをやって水浴びでもしようか」


苦笑交じりに言って、ノアは臭気と鮮血に表情を硬くするカザジマとアコルへ肩を竦めて見せた。





リッシュバルを出て一週間ほどの時間が経った。

このわずかな期間での変化は多岐に渡るために簡単には言葉にできない。

その中でも特に大きなものは同道人の二人と、街を離れたことによる生活環境だろう。

SSOというゲームには屋外(フィールド)での野営というシステムは存在していない。

オンラインゲームとしての性質でもあるが、特定のプレイヤーの都合で『夜』を飛ばすことができないからだ。

そもそも疲労も空腹も、眠気というシステムもないゲームキャラクターにとって夜通しの活動は苦ではない。

宿や私室(マイルーム)での休息は回復手段でしかないわけだが、今の状況では昼夜の別なく行動するのは不可能だ。

冒険者の身体は体感でもかなり優秀で強靭だが、食事も睡眠も必要とする程度には常識が残っている。

いっそ休息すら必要ないほどに超人となっていれば話はもっと簡単だっただろうに。


「・・・う~ん。これで大丈夫かな?」

「はい。問題ありません、ノア様」


愚痴(ぐち)ともつかないことを思いながら、信頼するパートナーの一人であるイリス指導されつつ『陣』を構築した。

特に名称が決まっているわけでもないこの『陣』は、名付けるなら退魔陣とか嫌魔陣となるだろうか。

いわゆる魔物が近寄り辛くなる領域を創り出すというもので、四か所に描いた魔方陣を繋いだ内側の安全が一日ほどの間だけ増すというものだ。

魔方陣は平坦(へいたん)な場所に正確に描かなければいけない、四か所の魔方陣の高さがほぼ同じである必要があるなど、幾つかの条件があるが野営や休息には必須である。

というのも、例えば先に戦ったシルバーベア+パライズピアスの集団が休息しているところに襲い掛かってきたらノア達も全滅を(まぬが)れない。

けれど、この陣を使うことで巨大蜂一匹が襲ってくるくらいまで数と危険度を引き下げることをノアたちは三日ほど掛けてすでに検証していた。

この陣の効果は大きいが、盗賊や山賊といった人型エネミーなどには効果がなくそれ以外の魔物に対しても、数は減っても完全な安全は確保できない。

そのため、野営であろうが昼食のための休憩であろうが見張りを立てる必要があるのだが・・・。


「フィル、疲れていない?」

「ん。大丈夫。早く汗流したい」


四つの魔方陣に淡い輝きが宿ったことを確認してから見張りをしてくれている妖精へ歩み寄る。

手ごろな大きさの岩に腰かけて周囲へ意識を向けている少女の頭を撫でてノアは苦笑を浮かべた。

現代において見張りを必要とする野営を経験した人間というのは少ないだろう。

もちろん自衛隊などを含めた従軍経験などがあれば『無い』と言い切ることはできないが、ゲームを嗜む人間となるとずいぶんと数が減る。

少なくともノアはこうなるまでキャンプで夜番など担当したことはないし、それはアコルやカザジマにしても同じだった。

何に気を付ければ良いのか、どのように時間を過ごせばいいのか、といった単純な夜に起きていればいいという部分以外の面を理解していないのだ。

そういった見張りの能力や機微(きび)といったものを、アルナ、イリス、フィルの三姉妹に依存(いぞん)する形で何とか(まかな)っていた。

任せきりというわけにもいかないので、彼女たちから学ぶためにノアたちプレイヤー組と基本的に二人一組で行うようにしている。


「汗を流すのはアルナ達が終わってからね」

「ん」


今のように沐浴などを行うときは三人ずつというのも暗黙の内に決まったことだった。

一人、肉体的に男性が混じっているが三姉妹はおろかアコルにすら異性として見られていないのでノアと彼を分別するだけで済んだ。

ついでに言えばノア的にはアコルとも別にして欲しかったのだが「女同士だから」と彼女が気にしないので稀に一緒に入浴することがあったりするが。

逆に、ノアの裸体は神聖なモノ―――本当に神だと思っているわけではないようだが―――と言い切るアルナとイリスによってカザジマからは徹底的に護られている。

自分たちの肉体はノアの創り出した至高のモノと言い切り見せつけることを厭わないのは同じ過程(キャラクリエイト)で生み出されたのにどうなのだろうか。


「とりあえず、陣も出来たし野営の準備を先に済ませよう」

「では、わたくしは食事の用意を」


すでに日は半ばを過ぎ、もう少しで夕方になろうという時間だ。

冒険者は夜目もかなり効くが日が落ちれば基本的に屋外の敵の出現率が上がり厄介な相手も出現しやすいので日の入り前に準備するべきだった。

ノアは慣れた様子で霊倉の腰鞄(アイテムバック)から分解された天幕(テント)を取り出す。

この霊倉の腰鞄(アイテムバック)はとても便利なチートアイテムだが、いくつかの問題点もある。

その中の一つが手で持ち上げることができない物を収納しておくことができないというものだった。

現代の一人用のものならともかく、素人が半ば手探りで作ったテントは地面に固定しなければまともに扱えないので分解形式にして複数部品を持ち歩いている。


「さて、と。手早く組み立てちゃおうかな」

「手伝う?」

「フィルは見張りを頼むよ。それも大切な仕事だから」


微笑みかけると、彼女は深く頷いて真剣な表情で遥か彼方を見据え始めた。

エインヘリヤルである三人は気配の把握も高レベルなようで目視の重要性はそれほど高くはないのだが。

ともかく、手早く必要な分のテントの部品を一旦地面へと並べていく。その中には細かな物も多い。

重要な支柱は毎回、杭で固定しなければならず、その杭やロープなどの細かい物が霊倉の腰鞄(アイテムバック)の容量を圧迫してしまう。

この霊倉の腰鞄(アイテムバック)の容量はゲーム時に課金で上限を引き上げることができ、それがそのまま現状も個性のように残っている。

快適なプレイのために最大まで上げていたノアとアコルは比較的余裕があるが、三姉妹や無課金だったカザジマは戦闘用品や日用品を詰め込めばすぐに限界を迎えてしまう。

ただし、九割以上が同一の物資に関しては容量を消費することなく複数所持することができる。ゲームに置いては『×〇〇』と表示されるようなものだろう。

ちなみに、調理済のサンドイッチバスケットとスープ入り容器で、時間経過や衝撃に対する耐性と共に確認した。

サンドイッチの具材やスープの種類が違うと容量が簡単に埋まってしまうが、多少の容器の歪みや調味料の過多の差くらいなら後入れ先出し(スタック)形式で物資を引き出すことができる。

そんなわけで、テントを複数所持することは当然、冒険者の身体能力をもってすれば複数のテントを設置することもさしたる労力ではない。


(最初の頃は寝ている間に崩れたりして大変だったけど・・・)


ゲームシステムにあった物資作成技能『錬金術』を駆使して作ったテントではあるが、何度かは失敗している。

上手く支柱が立たず天幕を支えられなかったり、わずかに設置が曲がっていたりするだけでも崩れて中の人が潰されることになった。

耐久力も尋常でない冒険者やその従者が怪我を負うことはなかったが、すでに失敗談を懐かしく思ってしまうほどだ。


「まぁ、天幕(テント)の設置は慣れたものと言ってもいいか」


二つ建てたテントが崩れないかを確認して、沐浴場と化している小川の方へと視線を向けて小さく嘆息ついた。






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