初日
キーンコーンカーンコーン
いつも通りの音量の小さいチャイムを聞き、とある先生が立ち上がった。
手には生徒の名簿と顔写真を挟んだクリップボード。
後はハンカチとティッシュ、そして招き猫のストラップ。おっと、忘れてはいけない。とびきりの笑顔。
ワックスを塗りピカピカとなった廊下を踏みしめ、階段を下がる。
更に一度外に出てから向かいの校舎にはいり、そして突き当たりにあるちょっと古いドアの前で立ち止まる。フゥーと息を吸い、ちょっとして腹をくくって勢いよく開ける。
そして、初めて会う子達への挨拶を...
「おはよぉ……え?」
...失敗した。
再度繰り返すが失敗した。しかし、これは自分のせいではないと思う。
この前、やっと長い長ーい教員研修を終えて、やっとこさ憧れの先生になったこの自分こと、家治 新之助。
昨日の夜は、いったいどんな挨拶をしようと不眠で想像し頭の中で練習していたのに.....
いやー、それは考えつかんかったなぁ。
まさか、
ーーー生徒が黒尽くめの男とケンカしてるなんて。
いったい誰が思いつくだろう。いや、思いついたとしてもどう対処したらいいのだろう。
教員研修では習わなかったなぁ、これ。