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始まりの日Ⅳ

 今回で異世界転移前の話は終わりです。


 ()()()と違う体育館。


 学校が建て替えられた時にまとめて新調された備品であるパイプ椅子が昨年度のより少し鮮やかなモスグリーンの()()()であろうターポリンシートの上にずらりと並べられている。


 それらは翌日に控える入学式の為に用意されたもので、毎年四月の始業式はそれらを使って行われるのだった。


 少し違和感を覚える。


 体育館に入った生徒はクラスごとに出席番号でその用意された席に着いていく。


 例によって俺も席に座り、隣の颯一と話していると、前を誰かが通った。瞬間、前を通ったことで生じた風に乗ってきたフローラル系の微かな匂いが鼻をくすぐる。


 話しに注いでいた俺の意識が剥がされるようにその人物に移る。


 俺はその人物にあたりをつける。


 そちらを向くとその人物と目が合ってしまう。


「ッ……」


 すぐに目を反らした。


 俺が目を反らした相手はやはり梛野(なぎの)だった。


 梛野未南(みなみ)。艶のある綺麗なショートヘアに引き締まった身体、少しきつめの美しさを感じさせる目とスーッとした高い鼻、綺麗な色の潤った唇でできた整った顔、左目尻にあるほくろさへ装飾品のように見える校内随一の美人。おまけに成績優秀、運動神経抜群、品行方正と非の打ち所のない完璧さ。


 しかし、俺が目を反らした理由は決してそんな彼女と目が合った気恥ずかしさなどではない。


 目を反らした理由。それは目だった。


 彼女の目は数多(あまた)の輝く星々が美しさを(もたら)し、深さを認識させる夜空のような瞳、まるで静かに全てを見ているような眼で何処どこか哀れむような悲く冷たいさを感じさせる目だった。


 それが堪らなく嫌だった。それこそまるで彼女が知り得るはずのない本当の自分を見透かしているようで。


 だからか、何人も前を通ったはずなのに彼女だけ意識がいってしまった。


「秋斗どした?」


 颯一が俺の顔を覗き込んでいた。


「なんでもない」


 と、作るように答える。 


 すると、


「只今から○○○年度始業式を始めます。一同起立」


 という教頭先生の声がスピーカーで体育館中に渡り、始業式が始まった。


 その状況に安堵(あんど)する。話を反らす必要がなくなった。


 校長の毎度似かよっていて聞き飽きた汚言葉に、やる気の無い国歌と校歌、生徒指導からのそこまでの拘束力を持たない注意喚起であろうそんな諸々が動揺や緊張で全く耳に入らないうちに終わっていった。


 しかし、そんな俺も周りのざわつきに意識を引かれる。


 それは新任教師の自己紹介の何人目かのことだった。


 壇上に上がってきた男に周りはざわついていた。


 その男は百七十後半くらいの高身長に、後ろで縛られた長い髪に日本人とは思えない西洋人のような顔立ちの二十代後半から三十代ぐらいの印象の人だった。


(確かに、少し異様だな)


「おはよう生徒諸君。私の名前はアイザック・フォン・マクドエルです。以後お見知り置きを」


 すると、その男はさらに普通を(いっ)した口調で話し始めた。


 そのおかしな口調と変わった名前に体育館中が更にざわつく。


 しかし、そのアイザックと名乗った男はそれを気にした様子もなく


「私は異世界から貴方達を御迎えに上がりました」


(やばい奴が来……)


パチン!


 俺がそんなことを思っていると、男は指を鳴らした。


 瞬間、バタバタと人が倒れ始める。そして、綺麗に中央に陣取っていた俺達二年二組以外の全生徒と全教師が倒れた。


 (撤回……やばい奴が来た)


 すこしやばい系の人だと思っていた俺もその光景に本当にやばい奴が来たのだと再認識した。そして、そうなのだとしたら先程の言葉も本当なのだろう。


 そして、他の人達はというと、その光景に大半がパニックに(おちい)る。


「静かにしてください」


 そう男が言うが無理な話だ、パニックに陥った生徒には言葉すら届いてるかどうかすら不明だ。


 それを見かねた男は、


「威圧」


 と言った。


 瞬間、男の前に魔法陣だろうものが現れ、ゾッとするような寒気と圧力が走り抜けた。


 その禍々しい寒気と圧力に俺以外全員がしゃがみ込むか椅子に座り込んだ、いや倒れ込んだ。


 かく言う俺も立っているので精一杯だった。


「ほう」


 男がそう零すが、顔を面として見る余裕がない。


 すると男は、


「皆さん三十名には今からこちらの世界へと来て頂きます」


 と言いながら壇上を降り俺達の方へ歩いて来た、そして前まで来るとしゃがみ床へと手をかざしだした。


 すると、それに呼応するかのように床に敷いてあるターポリンシートから幾重(いくえ)にも魔法陣だろうものが浮かび上がり、俺達とその男を不可思議に生じた光が包み込んだ。


 その(まばゆ)い光のせいで目を閉じることを余儀なくされた。


 少しして、(まぶた)越しに光が止んだことを確認してから目を開ける、すると目に飛び込んできたのは全く知らない所だった。

 御拝読ありがとうございました。

 誤字脱字誤植等ありましたらご報告下さい。

 明日も続きを投稿さしていただきます。今週は毎日二十四時投稿を目指しています。そして、異世界での話は明日からを予定しています。(諸事情により明日は二十四時から六時となると可能性もあります。)

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