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始まりの日Ⅲ

今回も異世界転移前のちょっとした話です。

 辺りがだんだんと騒がしくなってくる。


 時計の針は八時近くを指している。いつもは予鈴の十数分前まで五、六人ほどしかいない教室もいつもの倍近くの人がいる。中にはいつもは遅刻ギリギリを攻めてくる人もおり、すでに教室の隅で新しいクラスメイトと談笑している。


 いろんな話し声がする。


 ――春休み何した? とか

 ――ヤンデレが怖い! だとか

 ――昨日のテレビ観た? だとか

 ――銃が消えた! とか

 ――刺される! とか

 ――ゲームクリアした! とかとか……


 新学期のことや休みの間のこと、よく分からない怪奇的な話や溜まった話題、支離滅裂(しりめつれつ)な会話が教室を飛び交っていた。


 時間が経つ毎に人数は割増で増えていき、先ほどまでとは一変し、騒がしいまでの活気溢れたいつもの学校へと塗り戻されていっている。


 ほんと、嫌になる。そんなことを思っても何も変わらないのは分かっている。それでも、このつまらない学校生活に嫌悪を抱かずにはいられなかった。


「だいぶ人増えてきたね」


 そんな俺の様子を見かねたのか横の席に座っていた優が食べていたパン(もど)きを口から離しそう言ってきた。


「あぁ……今から嫌に増えるぞ」


 すると、まるでその声に反応するかのように教室の扉が開く。そして、ぞろぞろ教室へと人が何人か入ってくる。


 七時五十四分。それは学校に電車で通学する人達が最寄駅に着く時間である。それから数分経った今、その人達が到着したのだ。


「秋斗ーーーー! 同じクラスじゃん!」


 その中の一人が声を掛けてくる。


「おう! やったな」


 声の主へ顔を向け明るく返事をした。


 話しかけてきたのは颯一(そういち)だった。


 田中(たなか)颯一、中肉中背の身体に癖のある焦げ茶色の短い髪。何かと請け負いたがるのに自称ニートだったり、期待されると流されやすいったり、おまけにゲームオタクでキャラが面白く、皆んなからはイキリ陰キャと言われながらも親しまれている。


 そんな彼は、


「ちょっと、待ってねー」


 と言って、白板に貼ってある座席表の方へと行き、座席表を見るや無駄にテンションを上げ喜びだす。


「YES!鷹巣クリニック」


 そして、訳の分からないことを言いながら俺と優の方へやって来て目の前で座った。


「やった〜♪ 前〜♪」


 知っていたが、俺の前に来るまでの一連の言動に

()で笑ってしまう。辺りの人も笑いながらみている。


(はた)から見たら変人だな)


 こいつを見るとそんなことを度々思ってしまう。それと同時に芯から明るく楽しそうに生きてるのが凄いと思う。


 たぶん俺には出来ないだろう。


***


 春休みのことからゲームのことまで、まるで春休み分をまとめて話しているかのような会話を優と颯一としていると、再び扉が開く。先程から十数分、次の電車通学組が到着した。遅刻しないで済む最後の電車、それに乗ってきた人がクラスへと入ってくる。


 入って来る人に取り繕うように明るく()()していると、最後に入って来た人が、


「よお!」


 と俺達に小ぶりに手を挙げる。


「おう! 俊康(しゅんこう)


「いや、俊康(としやす)だし」


 挨拶してきた人物は笑いながら俺の言葉を正す。


 その人物は俊康(としやす)だった。


 久保(くぼ)俊康、俺と身長差が大してない平均的な身長に黒髪の短めな髪。 風変わりしていて好き嫌い分かれ易い性格と妙なところで才能を出す変わった奴。


 そんな彼は座席表を見て席に荷物を置いて俺達の方へと来て颯一の隣へと座る。


「何話してたんだっ?」


 そう聞いてくる俊康に話してたことを言って、俺達は俊康を加えて、先程の話を再開した。


***


キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン!


 十分ほど話していると学校中から予鈴の音が鳴り響いた。


 その音を聞いた生徒達は自分の席に着き始める。


 話していた俺達も話を切り上げる。


「じゃ」


「じゃあ僕も」


 俊康と優がそう切り出す。


「二人には言ってもいいんじゃない?」


 去り際に、優は声のトーンを下げ、俺の耳元で囁いてきた。


「あぁ……」


 誰に言うでも無く、そう呟く。


「ん? どしたの?」


 颯一が首を傾げながら、秋斗へと尋ねる。


「いや、なんでもない」


「そっか! そういえば先生誰だろうね?」


 誤魔化す俺の言葉に納得したのか颯一がそう振ってくる。


「あぁそれなら……」


 言おうとした瞬間、教室の前の扉が開き彩姉が入ってくる。


「はい! 席に着いてない人は着いて」


 彩姉は教卓まで行くと凛とした声でまだ座っていない生徒にそう促す。


 座っていなかった生徒が自分の席へと向かう。


「今日から二年二組の担任を持つことになりました時雨彩香です。よろしく」


 そう切り出した彩姉の軽い自己紹介に喜びの声が上がる。


 彩姉は美人で優しく、生徒受けが良いため教室の殆どの生徒が喜んでいただろう。


「はい、静かに! 急だけど、三十五分から始業式だから皆んな体育館に向かって」


 彩姉が盛り上がる生徒達を(なだ)め、そう指示を出した。


 その指示で皆席を立ち上がり、各々(おのおの)仲の良い人達で集まり体育館へと向かって行った。


 俺も優達と体育館へ向かうことにした。

御拝読ありがとうございました。

 誤字脱字誤植等ありましたらご報告下さい。

 明日も続きを投稿さしていただきます。今週は毎日十二時投稿を目指しています。そして、異世界での話は明後日からを予定しています。

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