プロローグ
処女作となりますが是非ともよろしくお願いします。
「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ……あ゛あ゛ぁ゛ぁぁ……ぁ」
と言葉や呼吸と言うには些か難しいむしろ呻き声に近い男の上げた音が寂静な空間に響き渡る。
男はそんな音を上げながら独り洞窟のような岩肌で囲まれた空間を歩いていた。
「グウゥゥゥ……」
男の気配に何かが反応したのか威嚇のような濁った太い唸り声がする。
男は視界の端に声の主であろう3m近くある熊のような獣が赤く鋭い眼光をこちらに向け、岩陰からゆっくりと出てくるのを視認し、その獣の方を向く。
「グゥアアァァ!!」
正面で互いの視線が交わると同時に、獣が咆哮を上げる。高鳴る咆哮が辺りを揺らす。
そして、重心を落とし、男目掛けて突進を始める。突進してくる獣は足で地面を陥没させ物凄いスピードへと到る。
しかし、男はそれを物ともした様子もなく軽く身を翻して躱す。
結果、突進を躱された獣はそのまま男の背後にあった岩にぶつかり、辺りに振動と衝撃波を引き起こしながら岩を粉砕した。岩の破片が飛び散り、砂埃が舞う。舞った砂埃で獣の姿が消える。
僅かな時間、辺りを静寂が包み込む。
そして、獣は巨体で砂埃を大きく隆起させながら男の前に現れる。
「グウォォォオオオオオ!!」
興奮したのか、獣は先程とは比べ物にならないほどの凄まじい咆哮を上げる。殺気が一層濃く獣を纏う。
そして、獣は男を正確に捉え、巨掌を男へと向けて振り下ろした。
ズンッ!
鈍く重く短い音がする。
しかし、それは獣によるものではなかった。
流石の獣も状況を理解できず困惑したのか、完全に静止し音のした方へと目を運ぶ。
そこには、獣が巨腕を振り下ろして丁度指と爪が当たる所にいたはずの男が獣の腹元にいた。そして、男は腕を獣の腹へと刺していた。
獣がこの状況を理解するのに少しの時間を要する。
獣が理解し刺さった腕を引き剥がそうとした瞬間、男は刺していた腕を横へと薙ぎ払った。
獣の身体が抉れるように引き裂かれる。
「ギュア゛アァァァ……」
引き裂かれた獣の傷口からは大量の血が吹き出し、獣の上げた断末魔が響き渡る。
ドンッ!
と獣は地面へと倒れ、骸へと化す。
男はその獣……獣だったモノに目もくれず、自身に飛沫した獣の紅い血も当たり前かのように気にも止めず、歩き出す。
それもそのはずだ、男のボロボロになった身体や頭髪、衣服の至る所に乾いた血から垂れる血、ドス黒い血から赤い血までいろいろな血が大量についていた。それこそ、自分の血さえまだついているかもしれなかった……
それは、男が戦ってきた証明となっていた。
残酷な証明。残酷の証明。
しかし、男にとってそんなことはどうでもよかった。
何故なら、そんな些事なことを気にしている余裕など男には無かった、そんなことをこの残酷な世界は許してくれなかった。
だから、生きるために必要なこと以外を切り捨てた……切り捨てざるを得なかった。
無駄な感情、無駄な意思、無駄なもの全てを……
そして、命を心を身体を残った全てを生きるために費やした。
それは男の様子からも窺えた。
目には生気が宿っておらず、少し長く伸びた髪は途中から色が抜け落ちており、爪は荒々しく、血にまみれた身体はあちらこちらに多様な傷がある。身に付けている衣服も破れ、千切れ、血などで汚れ元の様子はもう失われていた。
それでも、そうなってしまっても男の……時任秋斗の脳裏にもまだ過ぎるものがあった。
それは、とある記憶ともう朧げになっているはずの青年。
思い描いていたものとは大きく異なる異世界召喚に、失望し、絶望し、今に至るまでの不幸で辛く甚いあまりに悲惨な記憶と大切な掛け替えのない存在……
御拝読ありがとうございました。
誤字脱字誤植等ありましたらご報告下さい。
イラストの方も初心者ですので参考程度にしてください。




