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二つの日記  作者: 小菊
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ある王子の日記2

王子視点2です。

俺は確かにアレに道連れにされるように海に飛び込んだはずだ。


だから俺をここに運んできた人間はもしかして…。

すぐに想像ができた。



アレは少しして顔を見せた。

俺は見たくもない罪人の姿を見て一気に不愉快になった。


「殿下。お水と果物を持って参りました。」


そこに出されたのはほんの少しの果物と水だった。

いくらなんでもこれだけしかないとは、島の中がどういう状態なのか知りもしないがいくらなんでも少なかった。


絶対に独り占めしているのだろうな…。


「水がこんなに少ないなんて…。」

俺が咎めるように呟くとアレは申し訳なさそうに顔を下げる。

それを見て俺は益々不愉快になっていった。


そもそも、なぜコイツは罪人のくせに自ら命を絶たずに生きているのだ?


「お前はなぜ罪人なのに生きている。この場で命を断つのが国の為とは思わないのか?」

俺は傍らに置いてあった剣に手を伸ばし、吐き捨てるように問いかける。


「はい、わかっております。けれど、この状況では殿下一人にさせてはおけません。」


分かりやすい命乞いに俺はアレを軽蔑した。

「少ないながらも食べ物と水の用意をいたします。救難信号を出し続けますのでどうか殿下が保護されるまでは生かさせてください。」

「お前の口からそんな言葉がでるとはよほど命が惜しいのだな…。」

アレに俺は呆れていたが、冷静になって考えてみると。

はっきり言ってこの暑い中動き回るのは嫌だった。

俺ならアレよりもずっと多くの果物や水を用意するのは簡単だろう。

役に立たないと思ったら剣もあるし、いつでもアレは処刑する事は出来る。


だったら利用してやろう。


アレが頼むから食料を用意させてやるのだ、量が少ないのは我慢してやる。


「はい。魔法で現在救難信号を出しております。まだ、発見されておりませんがすぐに見つけてくださると思います。殿下の手を煩わせることはいたしません。どうか貴方様が保護されるまではお見逃しください。」


精々利用してやる…。

どうせすぐに保護されるのだ。役に立てなければ処刑してやる。

俺はそう思うとアレと話すのが嫌になってきていた。

こんなにも話したのは久しぶりかもしれない。

あぁ、嫌な気分になってきた。

「わかった。罪人などに面倒などみてもらうのは虫酸が走るが我慢してやろう。なにも言わずにどこかに消えろ。」

アレは何も言わないでその場から去っていった。


この島の事を聞くのを忘れたがアレに聞くくらいなら、自分で探索した方がずっとましだ。

どうせ、すぐに保護されるからその必要もないだろう。

世話をしたから温情をかけろとアレが言ってこないだろうか…?

もし言ってきてもその場で斬り捨てるだけだし別にいいか…。



俺は少しだけ洞穴の周囲を散策してやめた。

日差しが強く暑かったからだ。

洞穴といってもこの島は熱帯のような気候だからとても暑く過ごしにくい。

俺はずっと汗を掻いていて水浴びがしたくて仕方なかった。


アレにはそういう気遣いもできないのか…?


アレが昨日持ってきた果物と水は全て食べ尽くした。

アレには一日に一回だけ俺に食べ物を持ってくるように命令した。



まだ来ないのか…?


「殿下。食料を持って参りました。」

とても嫌な気分にさせられる生き物に声をかけられた。

俺はアレの持ってきた食べ物を見て大きなタメ息が出た。

少ないし嫌いなバナナが入っていた。

「ああ、水と食料はこれだけなのか?この島は暑すぎる…。私は水浴びがしたい。」

相変わらず少ない果物だ。飲み水も少ない。水浴びもさせてくれない無能なアレに俺は呆れた。

「申し訳ありません…。」

「お前は本当に無能で役立たずだな。婚約者だったときからそうだったが…。本当に婚約者だった過去すら消し去りたい。」

俺はアレに失望していた。

もともとアレの事を土を這うミミズ程度にしか考えていなかったが、失望する事にも驚いた。

少しは期待していたのかもしれない…。

もう、アレに対して言葉を出すのも勿体なかった。

「はい…。わかっております。」

アレはその通りとばかりに頷く。



殊勝そうに返事をするアレを見て腹立たしさが増していく。

そもそもアレが俺と一緒に海に飛び込まなければ助かっていたというのに…!


「お前のせいで私はこんなにも苦しんでいるのだ…!」

俺は苛立ちを隠せなかった。

アレと婚約破棄さえできていれば俺は今頃、伯爵令嬢と結婚していたはずだった…。


何もかもコイツのせいだ…!

まだ救出が来ないのも処刑されるのが怖くて、救難信号を送っていないからじゃないのか…?

そう思えてきた…。

「まだ助けは来ないのか…!?」

俺は怒りを抑えることなく問いかける。

「申し訳ありません。まだ救難信号を見つけてもらっておりません。」

本当になんて役立たずなんだろうか…。一緒に漂着した相手が別の物だったらまだ良かった…!

家畜ならまだ食べられたというのに…!

お前にはそんな価値すらもない。


「本当にお前は何の役にもたたないのだな…。一緒に漂着したのが家畜だったらずっと良かった。」

「はい…。」

俺は弁明すらしないアレに冷たく言い放つ。

「お前じゃなく伯爵令嬢だったらもう救出されていただろうな…。」

アレじゃなくて恋人ならここでの生活は、もっと甘く楽しいものになっていたかもしれない。

彼女はこんな奴よりもずっと美しく優秀だった。

なんでこんな奴と一緒に居なくてはいけないんだ…!

「そのお通りだと思います。」

「もうよい。喋るな。お前が近くに居ると虫酸が走る。早く消えろ。明日は今日よりも多くの食料を用意しろ。独り占めなどするなよ。」

俺はこれ以上喋りたくないとアレに向かって出ていけと手を払いのけるような仕草をした。



アレはいつもの時間に今日の食料を持ってきた。

俺はいつものように暑さに耐えられなくて横たわっていた。

今日は何だか悪臭を漂わせていた。

この臭いは、きっとアレの心根の汚さを表している。

風呂に入れなくなったアレにはそれを隠す事も出来ないのだろう…。

本当に心も身体も醜悪な女だな…。食欲がなくなりそうだ。

「殿下。食料を持ってきました。」

俺はアレよりも大切な食料に一瞥する。

今日は少しだけ水も果物も多かったが、水浴びができる量ではなかった。

「今日は昨日よりも少しだけ多いな。」

それにしても、またバナナか…。

バナナは嫌いなんだが…。

「バナナが多いな…、嫌いなんだが。次は別のものを用意しろ。ところで、私は水浴びをしたいと言ったはずだが…?いつできる?」

俺は不快そうに暑いと言外に含ませるように胸元を開けた。

コイツは俺の望みすら叶えられないのか…?

それに、俺の好き嫌いも把握出来ないなんて呆れて物も言えなかった。

やはりこの腐敗した臭いはアレの心根の臭いなのだろう…。

「お前は臭い…。心根が腐りきっていると身体にもそれが表れるんだな。」

俺は鼻をつまみ眉を寄せながら、人に物を言うにはかなり酷い事を言ってやった。

そもそも名前もなくなり『死んだ』アレは人としての尊厳など必要ないのだが…。

「申し訳ありません。私も水浴びをすることができておりませんので…。」

本当に今すぐに斬り捨ててやりたい。

まだ利用価値があるのでそれはしないが…。

「もう、私がいる時に来るな。お前の存在が気分を害する。」

俺は寝返りをうちアレから顔を反らした。

もうコイツと一緒の空間に居ることすら耐えられない。

「はい…。」

「救難信号を見つけられた時だけ顔を出すのを許す。それ以外は顔など見たくない。私はお前が望むから食料をもらってやっているのだ。」

本当は俺の居る空間に来られるのも嫌だが、救難信号を出しているのはアレなのでそれだけは許してやった。

そもそもアレが懇願するから、食料を用意させてやっているのに。

感謝されてもいいくらいだ。

「申し訳ありません。」

「本当ならお前が来ることすら許せない。喋るな。消え失せろ。」

アレは俯いて俺の前から消え去った。




あれから数日してもアレは顔を見せることはなかった…。

未だに救難信号が見付かっていないという事なのだろうか…?

あの日からアレが持ってくる食料も少しずつ減っていき、ついに昨日は何も置かれなかった…。

俺はいつまでも待っても水や食料が来ないことに苛立ちを感じていた。


あれだけ命乞いをしたくせにアレはちゃんと役割すらも果たせないのか…!

それならば、叩き斬ってやろう。


少しだけ島の中を探索した時にアレの拠点がどこなのかを把握してあった。


きっとそこで怠けているのだろう…。


俺は剣を構えながらそこに向かうが、もぬけの殻だった。


まさか…!

アイツだけ救出されたんじゃないのか!?


そんな筈ないか…。

そもそもアレは罪人で保護される理由などないはずだ。

では、どこに行った!?


どうせ、どこかで怠けているのだ。役割りも果たさずに…!


腹立たしさを少しでも減らすように、地面に大切そうに置いてあった熟す前のバナナを踏みつけた。

俺はバナナが好きじゃないって言ったのに…!なぜこれを出すんだ…!!

グチャグチャになったバナナを見て本の少しだけ溜飲を下げた。


アレもこのバナナと同じ運命だ…!



早くアレを探そう。



もう役に立たないし斬り捨ててしまおう。

水も食べ物の事はなんとかなるだろう。



とりあえず浜辺に向かうとアレは怠惰を表現するようにそこで寝そべっていた。


呑気に日光浴か…!

今、斬り捨ててやる…!!


俺が脇目も振らずに剣を構えて近づいた瞬間だった。


「やっと見つけた!お迎えに上がりました。」

一人の男の声がした。

その声音はとても切なく悲しそうだった。

俺は声がした方を…。海を向くとそこには一艘のボートがあった。

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