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二つの日記  作者: 小菊
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ある王子の日記1

王子視点です。

どういう事だ…?


俺はついさっき目を覚まし、状況を把握するのに時間がかかった。

俺が横になっていたのはどうやら洞穴の中のようだ。

それにしてもここはとても暑い。

水…。水が飲みたい。


身に付けている物を手で確認しても、見つけられたのは少し小さめな日記帳だけだった。

これは気が向いた時につけているもので、特にすることもないので書いていこうと思う。


きっとすぐに救出されるだろうし、いつかこの日記を冒険記にでもして国民に読ませてやってもいいかもしれない。


本来なら現状把握するべきなのだろうが、たぶん誰かが俺を助けてここまで運んでくれたのだろう。下手に動かない方がいい。

ここの事は運んでくれた奴に聞けば把握できる。



まずはこうなった原因から書いていこうと思う。



俺は意外かもしれないがある国の皇太子だ。

こんなよくわからないところに居るのはある馬鹿女のせいだ。

そいつは婚約者だった。その過去すらも吐き気がするのだが…。

強欲で性格も頭も悪く、この世の醜悪なものを全て煮詰めた女が俺の婚約者だった。


アレは最初は大人しい顔をして、婚約者候補に名前が出る程度の存在だった。

だけど、周りが言うには優秀で家格が上だから俺の恋人を押し退けて婚約者になった。

本当のところは。

『彼女が我が儘を言って無理矢理、婚約者になったのよ…。でも、他の貴族と関係を持ってるのに。何故なのかしら…?』と今にも泣き出しそうな顔をした恋人からそう教えられた。

信用ならなかったからアレに貞操帯を填めてやった。

『その鍵。私にくださらないかしら…?』と、恋人が欲しがっていたので喜んであげた。

そんな事もどうでも良かったのですっかり忘れていた。それが後に重要になるなんて思いもしなかった…。



『お願い私だけを見ていてほしいの…。』

泣きじゃくりながら恋人が懇願するから、傷付かないようにアレを俺の視界には入れないようにした。

しかし社交の場ではそういう訳にもいかない、そういう時だけは無理をしてアレに接した。


宰相や父上にはアレに対する態度が酷いと何度も苦言を呈され。

『アレが婚約者なんて嫌です…!伯爵令嬢を婚約者に代えてください。』と俺は訴えた。

しかし、父上は『彼女の代わりになる人間はこの国には居ない。』と言い切ったのだ。


「この国に一人きりの王子である私の代わりも居ないはずです。」


俺が父上に進言すると呆れたようにこちらに一瞥くれて。

「もうよい。下がれ。」と言うだけだった。

だから益々アレが気に食わなかった。

父上に取り入るのが上手なところや…。そういう意味ではアレの代わりなど居ないのかもしれない。


アレは控え目なように見えて偉そうに何度も俺に物を言った。

恋人が言うから城下で炊き出しをしようとした時ですら『良いことだと思いますが、城下ではなくて作物が育ちにくいところでしてください。』と文句を言ってきたのだ。

あの時は本当に恋人からもらった剣で斬り捨ててやりたかった。

社交の場でアレがする婚約者面に何度も頭からワインをかけたくなった事か…!

『お前は場末の娼婦にもなれない。それくらいの価値だ。』と何度も言いそうになった。



しかし、それにも転機が訪れた。

アレが俺の恋人に犯罪まがいの嫌がらせをした事と姦淫の疑いがでたのだ。

俺はアレに貞操帯を填めていた事すらその時にはすっかり忘れていた。

恋人が言うにはこっそりと鍵を作り貴族の子息相手に娼婦紛いの事をしていたそうだ。

確かに婚約者になる前から性に奔放だったし、我慢などできないのは創造できたので驚きもしなかった。

アレとそんな事が出来る貴族の子息には呆れたが、脅されたのなら仕方なかったのだろう。


信用できないアレに確認するまでもない。いつも俺の恋人が言うことは正しい。


だからアレが全て悪いのだ。




そして俺は魔法学校の卒業パーティでアレを断罪することにした。

時期的に父上が他国の王族の結婚式に招待され不在だった為、この日が好都合だった。

父上が不在の間に処刑も済ませようと思っていた。



ついにその日がやってきた。



『お前と婚約破棄する…。理由はわかっているな…?』

俺はアレに吐き捨てるように言い、不快な存在に視線すら向けないようにした。

俺の横には恋人が怯えたようにしがみついていた。

『お前は伯爵令嬢が俺と恋仲だということに腹を立て、彼女に犯罪紛いの嫌がらせをしただろう…?』

アレは怒りの篭った視線で恋人の方を睨み付けたのだろう。彼女は怯えたように顔をぐしゃりと歪めて抱きついてきた。

本当になんて醜くて愚かな女なんだ…!

恐らく恋人に成り代わりたいと思っていたのだろうが、そんな事出来るわけがない。



『なんの申し開きもございません。』

アレは顔を伏せながらその場に跪いた。

その姿を見た俺はとても爽快だった。人目さえなければアレの頭を恋人に踏ませてやりたいと思ったくらいだ。

俺はアレに視線もくれないでただ淡々と何の感情も伴わず、アレの罪状をその場にいる連中に告げていった。


『そして、お前には姦淫の罪状がまだある。宰相とその息子に色目を使っただろう…?お前が何度も執務室に通う姿を見たと言った者が出ている。』

宰相とその馬鹿息子とはなんの関係もないだろうが、『婚約者殿』が男と二人きりになるのはいささか問題があるだろう。


たとえ関係などなくても疑わしきは罰するべきだ。


『宰相様の執務室に何度か伺いました。けれど…。』

アレが口を開いたが声も聞きたくなかった。

それに、認めるのは悔しいが頭のいいアレにうまく口車に乗せられて、処刑が出来なくなってしまうのは嫌だった。

だから申し開きを聞かずにさらに続けた。

『お前に色目を使われたと話す貴族の子息が何名もいる。貞操帯の意味もない淫乱とはな…。』

『え…?』

アレはそこまで調べられている事を知って青ざめていた。




『待ってください!!』

宰相の馬鹿息子がアレの前に立ち庇うように身体を隠す。


関係ないと思っていたがやはりこの馬鹿もアレと関係を持っていたようだ。

何も言わなければ罰を与えられなくて済んだというのに…。

恋に溺れた愚か者。アレの処刑が終わったらこの馬鹿にも何かしら罰を与えてやろう…。

『やはりお前はそういう女だったのだな…!この淫売!!コレに騙されるなど貴様はとても愚かだ。』

嗤いそうになるのを堪えてアレと馬鹿を罵る。

『彼女は必死に正妃の勉強をしておりました。それしか見えないくらいに。ですからこのような事はできるはずないのです。貞操帯とは…。』

馬鹿はアレを助けようと必死に庇う。

貞操帯の事はどこか咎めるようだが淫乱なアレには必要な物だった。

そもそも純潔かどうかも怪しいが…。

『黙れ…。コイツと同じ名前の女子がその名前を名乗るだけで蔑みの対象になるのは忍びない。今からこの女の名前を取り上げる!そして二日後に死刑とする!』

俺はそれ以上聞きたくないと話を遮り気分よく正義の裁きを下した。

実はアレの名前を覚えられずに何かある度に、誰かに聞くという面倒な事をしていた。

これからはそんな事をしなくてもいい。

堂々と恋人の名前を呼べる…。

俺は嬉しさに身体が震えそうになった。



『こんなのは間違っている!』


馬鹿は異を唱えるが誰も賛同などしなかった。

アレは誰からも慕われないような女だ。現に馬鹿以外は庇う素振りも見せないじゃないか。



『良いのです。私は納得できています。もう、関わらないでください。貴方にご迷惑をおかけすることは出来ません。』

アレは馬鹿以外に庇われないことで全てを悟ったのだろう。

それだけ言うと近衛兵に両脇を抱えられて、牢に連れていかれた。



『許しませんよ。絶対に。許されません。冤罪ですよ…!彼女がするわけがありません。』

馬鹿はアレを信用しているのか俺に楯突いた。

『証拠もある。もしそれが間違っていたとしても俺の下した刑は絶対だ。無実でもここまでの大騒ぎを起こしたアレはその責任で処罰されるべきだ。』

俺が馬鹿に気分よく演説しながらせせら笑うと。

『その言葉忘れないでくださいね…。』

馬鹿は憎しみを込めた瞳で俺を見ていた。

『アレの代わりはいくらでもいる。俺の隣の伯爵令嬢が今日から婚約者とする…!』

俺が不敵に笑うと馬鹿は『貴方は間違っている…。後悔しますよ!』と叫んでいた。

そんなわけないだろう!

本当に腹の立つ男だ…。

馬鹿は不敬で捕らえようとしたが『これ以上は外聞が悪くなります。』と側近に言われたので我慢した。


けれど、失脚するような証拠など探せばいくらでも出てくる。

『もし証拠がなければ作ればいいでしょう…?この国は貴方の物です。そう決めればみんなが動いてくれますよ。』

傍らにいる恋人がそう甘く囁く。

アレの処刑が終わったら馬鹿を追い詰める事にしよう…。

俺はニヤリと笑い次の獲物を定めた。


思い通りにいかない事は許せない。この国は俺のものだ。

この国の王子は俺しか居ないのだから…。




俺は二日間。アレの処刑が執行されるその日まで今か今かと待ちわびていた。

馬鹿が父上に報告したようだが国の恥となるような理由で、滞在期間を短くすることは他国に弱味を見せることになる。

だから父上はアレの処刑が終わってからの帰国になるのも想定していた。


何人かがアレと面会しようと何度も牢屋に行ったらしいが、誰とも会わせないようにした。

脱獄でもされたら困るからな。


処刑は海に突き落とすものにした。

アレの死体を国に埋葬するのも許せなかったからだ。

アレの処刑は自らしたかった。散々俺たちに腸が煮えくり返るような思いをさせてきた女をこの手で葬りたかった。


それにしても…、アレは悪運の強い女だ。

この時期の天候はとても良いのに、死刑執行の日は大時化だった。



国王の帰国も近く。予定通りに処刑を済ませたかった俺は無理を言って船を出した。

船長は『無事に帰れないかもしれませんよ。』と脅しにもとれるような事を言い出した。

本当に偉そうだな。処刑が終わったらこいつも処罰してやろう。

『無事に帰れるようにするのがお前の仕事だろう。国益の為に勤めをちゃんと果たせ。』

と言ってやった。

なぜか皆が不満そうに俺を見ているような気がした。

それは全てアレが悪いというのに。


処刑方法の説明をしてもアレは取り乱す事もなく返事をしただけだったそうだ。

泣きわめくなりすればまだ可愛いげがあったというのに…。

本当に最期までいけすかない女だ。


船がある程度進んだらアレの首筋に俺の剣が当てた。

愛する人から贈れた剣でアレの息の根を止められるのはとても気分が良かった。

『早く落ちろ。一緒の空気も吸いたくない。お前を手にかけるのも煩わしいくらいだ。だが、お前が死んだのを確認しなくては伯爵令嬢が不安で仕方ないだろう…?早く死ね。』

『申し訳ありません。』

アレは俺に口先だけの謝罪をして甲板から船首に向かって歩いて行った。

口先だけの謝罪など聞いても吐き気しかしなかった。

かなり風が強く飛ばされそうで、それでも歩くアレのしぶとさにある意味感動していた。

いよいよ飛び込む段階になった時だった。

船の底から大きな何かが吹っ飛ぶような音がして、そのまま船が斜めに左へ傾いていった。


本当に突然だった。

何があったのか確認する間もなく、俺はアレに腕を掴まれ道連れにされるように船から落ちた。

この小説はムーライトでも投稿しています。


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