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二つの日記  作者: 小菊
3/7

令嬢の日記3

令嬢の日記はこれで完結です。

ようやく救難信号を受け取っていただけました…!




その方によると島に到達するまであと数日かかるそうです。

私はそれを殿下に逸る気持ちを抑えて伝えました。


「救援が来ます…!」


「本当なのか…?でかしたぞ!」

殿下は跳び跳ねんばかりに大喜びしました。

私はそれを見てなんて幸せなんだろうとぼんやりと思いました。

「はい。しかし、しばらくはこの島で生活するしかありません。幸い泉を見つけることが出来たのでお水は何とかなります。」

「おぉ、そうだったな。」

殿下は少しだけ勢いを無くしましたが、本当に嬉しそうです。

「食べ物はしばらくは取らないといけません。」

「あぁ、しかしお前は休んでいるんだ。私が果物をとってくる。」

殿下が優しい申し出をしてくださいます。この島に漂着してから何度も私に見せてくださる優しさに、喜びとほんの少しの申し訳なさを感じました。

「いえ、そんな申し訳ないですから。」

私がそれを固辞すると、殿下は「よい。お前には本当に助けられた。」と私を幸せの渦に堕とすような事を言ってくださいます。

だから私はこの場で死んでもいいと思ってしまいます。

「処刑の件は少しでも休んで国に帰って皆に謝罪すればいい。」

「はい…。」


殿下は私の今後の事すらも気遣って下さります。

それを思い出すと殿下によって処置してくださった私の右手が、喜びに震えて字が上手に書けません…。

殿下はそのように仰いますが決めたことは絶対です。私は国に戻れば処刑されるのでしょう。

殿下がそれを取り消しても、陛下はそれを許してくれないと思います。

殿下が望むなら国に帰って喜んで処刑を受けましょう。

でも、できれば殿下との想い出の詰まっているこの地で命を散らしたいと思っているのです。


私の命はどうせ短いのですから…。




「果物を持ってきた。」

殿下は私が驚くくらいのたくさんの果物を持ってきて下さいました。

その顔はキラキラと輝きまるで太陽のようです。きっと殿下が帰れば国中が光輝き幸せに包まれるのでしょう。

「ありがとうございます。」

私は何度も殿下に頭を下げました。なにも出来ないのに、こんなにも優しくされて何を返せばいいのでしょうか…。

「好きなだけ食べるといい。お前は今まで頑張ってくれていた。少しだけ休めばいい。」

殿下はそう言うと私の背中に手を添えて優しく横たえて下さいました…。

この島に来て社交以外で何度も殿下に触れられました。

その手つきは宝物を扱うように繊細で優しかったです。

何度もその美しい手で傷の処置をしてもらいました…。


あぁ、思い出すだけで…。


私は顔が熱くなるのを感じました。

「当然の事をしただけです。休むなんてそんな…。殿下を働かせてしまって申し訳なく思います。本来ならば私がしなくてはならないことですのに。」

「気にするな。なぜ今までお前の事を見ようともしなかったのだろう…。」

殿下は今までの事を惜しむように私の額を撫でて下さります。

直接肌に触れられたところからドロリと溶けてしまいそうな錯覚を覚えます。

それくらい殿下の手は私にとっては甘美な麻薬のようなのです。

もっと私を褒めるように頭を撫でて欲しいです…。

けれど、そんな強欲な事は願ってはいけません。

殿下の愛する方に申し訳ないですから。

「お気になさらないでください。私は大丈夫ですから。」

「国の為、私の為に働いて来ていたというのに。伯爵令嬢との仲を引き裂いた怒りで目が雲っていたのだろう。」

殿下は悔やみながら顔を歪めました。

そんなことをしてくださるだけで私はとても嬉しく思うのです。

「殿下のお気持ちはよくわかります。私が許せなかったのも…。仕方のないことなのです。」

「国に帰ったら伯爵令嬢と婚約をする。」

未来の喜びを隠せないように殿下は私にそう言いました。

「はい。それは勿論です。私は殿下の幸せだけを願っています。」

そして一晩中語り合いました。



私達は今まで出来なかった絆を急速に繋いでいきました。

私達にあるのは友愛です。

私は殿下とこの友情が繋げる事が出来て本当に嬉しく思います。


離れていても私は殿下の幸せだけを願います。







いよいよその日が来ました。


浜辺からもハッキリと確認できる大きな船が一隻見えました。

それはとても堂々としていて、殿下を救出する栄誉を誇らしげに胸を張っている様にも見えました。

その船から一艘のボードが現れました。

それは少しずつ私達の島に向かってきていました。


ようやく殿下が救出されるのです…!


殿下は何も言わないでその光景を見ています。

私は殿下の喉がゴクリと上下しているのを目に焼き付けました。

もう二度と見ることなど出来なくなるのでしょうから…。


ボートはようやく浜辺に着きました。近衛兵が乗っていたようです。

「殿下、助けに参りました。」

近衛兵が恭しく殿下に跪きます。

「っ…!ああ、待っていた。ありがとう…。」

殿下は唇を噛み締めながら近衛兵にお礼を言いました。

ボロボロの服を身につけた殿下ですが、心の気高さや美しさは全身に現れるようでそれすら絵になります。

殿下の言葉に感激したように近衛兵は顔を上げました。

その直後私を見て眉を寄せました。

処刑されたはずの人間がこの場にいるのはおかしいからでしょう。

「彼女は連れて帰る…。」

殿下が覚悟を決めたように私を見て言います。

「しかし…!」

「私が責任をとる…!」

近衛兵はそう言われるとそれ以上言えずに黙りこみます。

「では、そこのお嬢様はこのボートに乗ってください。」

近衛兵が不満そうに私に言いました。

もちろん私には国に帰るつもりなどありません。

「ま、待ってください。私がボートを押します。貴方が濡れてしまっては申し訳ありませんから。先に乗ってください。」

近衛兵は私の申し出に全てを理解したような表情でこちらを見ました。

「では、お願いします。」

近衛兵と殿下はボートに乗り込んだのを確認して、私は渾身の力でボートを押しました。

水に浮いているといっても二人分の体重がボートに乗っているのです。

それなりに重たいです。けれど、私は無理に笑顔を作りました。

最後くらいは笑顔でお別れしたかったのです。


ボートが私の手から離れた瞬間に殿下はこちらを見ました。

「お前も早く乗れ!!」

慌てたようにこちらに手を伸ばしましたが私は「出来ません」と言いそれを掴みませんでした。

「殿下。お幸せに…。それだけを願っています。私はここで命を散らしたいのです。我が儘をお許しください。」

殿下は私の言葉に驚いたような表情になります。

「来るんだ!」

殿下が必死に手を伸ばすので今にも海に落ちてしまいそうです。

近衛兵が殿下を制止しています。

「申し訳ありません。さようなら…。」

私が落ち着いた口調でお別れを告げると、殿下は納得などしていない様子でこちらを見ました。

しかし、ボートはどんどん遠ざかりもう手は届きません。

殿下は諦めたように私に言いました。

「…。さようなら…。」

殿下の両目からは光輝く物が見えたような気がしました。

私などの為に涙を流してくださっているのかもしれません。



私は精一杯笑顔で殿下に手を振りました。

殿下も同じように手を振ってくださいます。




たとえ離れていても私達は友情という形の糸で繋がっています。

私は殿下を忘れることはないでしょう。

私はボートが船に引き揚げられたのを確認して浜辺に座りました。

もう、殿下のお顔を見ることは叶いませんが最後に彼は私に確かに「ありがとう。」と言ってくださった気がしたのです。














この島はやはり楽園です。


私は残りの人生を殿下の事を思いながら、過ごすことが出来る幸せを噛み締めました。

この幸せの渦に飲み込まれ溺れながら、息の根が止まるその時まで命の火を燃やし続けます…。

これを読んで意味がわからなかったら活動報告を読んでください。

ネタバレあります。

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