ある令嬢の日記2
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漂着して二日が経過しました。
島の中を見回して分かったことですが、幸いな事に鳥以外の獣はいませんでした。
食べられそうな果物は人の手が届かないところに、美味しそうに熟れて沢山実っておりました。
そして、泉はありませんでした…。あったのは沼でした。これは、恐らく少し前まで泉だったものだと思います。
鳥以外の獣が居ないのはこのせいでしょう…。
水がなければ生きられませんから。
本当にこの島は楽園のような地獄です。
外敵もおらず食べ物は豊富にあるというのに、それには手が届かないのですから。
そして何よりも大切な水すらも簡単には手に入らないのです。
以前読んだことのある。無人島に閉じ込められた二人の男女の苦悩を描いた小説よりもずっと地獄なのです。
ズキリと右手が痛みました。
私の傷口は膿が出て、ジュクジュクと熟れた果実のようです。
私は殿下と比べたら魔力自体が少ないので、救難信号を送るのもやっとです。
この魔力を傷の手当てに充てるべきでしょうが、私にとってそれよりも殿下が早く救出されることの方が重要なのです。
私のしていることは自殺行為なのでしょう…。
私は命を削りながら今日も海水を煮て真水を作り出しています。
殿下の空腹が紛れるように、少しでも多くの果物が取れるように島を見回りします。
この島自体は果物に溢れておりますが、私の身体の能力では高い木には登れません。
魔法で取ることもできますがそうすると同時進行でしている。水が作れなくなるか救難信号を中断することになってしまいます。
取れる量は自ずと少なくなっていくのです。
私が無能なばかりに殿下は飢え渇いています。
あぁ、そろそろ日が沈みます。
一日中島を走り回ったので日が沈むのが早く感じます。
殿下には一日に一回のみ食料を持っていく事を許されました。
それを今から持っていきます。
殿下はなるべく日差しの当たらない洞穴で過ごされております。
日差しが当たらないといっても、この島は熱帯のような気候なのでそれなりに暑いです。
殿下はいつも横になり、汗ばんで気だるそうにしております。
どうやら問題なく過ごされております。
少しだけ安堵しながら殿下に声をかけます。
「殿下。食料を持って参りました。」
殿下は私自身を見ることもなく、持ってきた食料を見るなり大きくため息をつきました。
「ああ、水と食料はこれだけなのか?この島は暑すぎる…。私は水浴びがしたい。」
殿下は望む量の水すら用意できない無能な私に呆れ果てていました。
「申し訳ありません…。」
「お前は本当に無能で役立たずだな。婚約者だったときからそうだったが…。本当に婚約者だった過去すら消し去りたい。」
殿下は果物の方を見て私に失望の言葉を紡ぎだします。
こんな言葉すら殿下に言わせるのも申し訳なく感じます。
「はい…。わかっております。」
私はその言葉に頷くしかありません。その通りですから…。
「お前のせいで私はこんなにも苦しんでいるのだ…!」
殿下がこのようなお辛い体験をなさる原因を作ったのは間違いなく私です。
婚約破棄さえできていれば彼は今頃、伯爵令嬢様と御成婚なさっていたはずです…。
少しだけ胸が苦しくなってきました。
「まだ助けは来ないのか…!?」
殿下は中々助けが来ないことに苛立ちを隠せないように、私に怒りを露にして問いかけてきます。
「申し訳ありません。まだ救難信号を見つけてもらっておりません。」
私がどれだけ救難信号を送り続けても誰もそれを受け取ってはくださりません。
もしかしたら無視されているのかも知れません…。
私が罪人ですから殿下と一緒にいる旨も一緒に発信しているのですが、それすらも嘘だと思われているのかもしれないのです…。
「本当にお前は何の役にもたたないのだな…。一緒に漂着したのが家畜だったらずっと良かった。」
殿下は弁明すら出来ない私に冷たく言いました。
やはり私は家畜以下なのでしょうね。
私が用意できる果物やお水では、彼の飢えや渇きが癒えることはないのでしょう。
もっと努力しなくては…。
「はい…。」
「お前じゃなく伯爵令嬢だったらもう救出されていただろうな…。」
殿下の言う通りです。
私以上に優秀な伯爵令嬢様でしたら今頃救出されていたのでしょう…。彼女はとても人望がおありですから。
家格が上というだけで私が婚約者になってしまった事がただ申し訳ないです。
「そのお通りだと思います。」
「もうよい。喋るな。お前が近くに居ると虫酸が走る。早く消えろ。明日は今日よりも多くの食料を用意しろ。独り占めなどするなよ。」
殿下はこれ以上喋りたくないと私に向かって手を払いのけるような仕草をしました。
私は殿下の言われるままに一晩中海水を煮ました。
いつもの倍は水が用意できたと思います。
これで多少は渇きが癒えるといいのですが…。
寝る間を惜しんだお蔭で果物を取る方に魔力を当てられそうです。
狙うのは沢山房がついているバナナです。
狙いに集中し取り零す事もなくバナナを取ることに成功しました。
熟れていないバナナもあるので熟す度に殿下にお出しする事ができます。
少しだけですがこれで食料の問題は解消されました。
これで殿下の飢えが少しでも癒えるといいのですが。
私は時間になったので殿下のところへ食料を持っていきました。
「殿下。食料を持っていきました。」
殿下は私を見ようともせずそれに一瞥くれると。
「今日は昨日よりも少しだけ多いな。」
口調はそこまで厳しくなかったので、少しだけ喜んでくださったように思えました。
「バナナが多いな…、嫌いなんだが。次は別のものを用意しろ。ところで、私は水浴びをしたいと言ったはずだが…?いつできる?」
殿下は不快そうに胸元を開けて私を見て言いました。
彼の望みを叶えられない私に呆れているのでしょう。
「お前は臭い…。心根が腐りきっていると身体にもそれが表れるんだな。」
殿下は鼻をつまみ眉を寄せながら不快感を露にしています。
「申し訳ありません。私も水浴びをすることができておりませんので…。」
私の身体から漂う臭いで殿下に不快な思いをさせてしまっていたなんて…。
「もう、私がいる時に来るな。お前の存在が気分を害する。」
殿下は寝返りをうち私から顔を反らしました。
もう、私に顔を向けることも嫌なのでしょう。
「はい…。」
「救難信号を見つけられた時だけ顔を出すのを許す。それ以外は顔など見たくない。私はお前が望むから食料をもらってやっているのだ。」
私は殿下の顔を見ることすらもう許されないのですね…。
「申し訳ありません。」
「本当ならお前が来ることすら許せない。喋るな。消え失せろ。」
私はなにも喋らずに殿下の前から消えました。
実は右手に力がほとんど入りません。
傷口はもう熟れた果実というよりも、腐るのを通り越したバナナのように黒く変色しています。
手の内部は蛆虫が動き回っているのか時々ボコボコと小さく盛り上がります。
私から漂う悪臭は間違いなくこれからでしょう。
生命エネルギーを使う魔法を無理して使った事が原因だと思います。
もう、魔力を治療に回しても私は助からないと思います。
少しだけ医学の心得があります。
蛆虫は私の腐った部分を食べているので、本来ならば傷口は綺麗になるはずですが。
それすらも超えるくらいに私の手は腐敗しています。
きっともう長くないでしょう。
そう思うととても死ぬ事が恐ろしくなってきました。
殿下の為なら命など惜しまないと言っている癖にです。
私と顔合わせしなくなった殿下は恐らく、私が死んだことすら気がつかないでいると思います。
そうなると水すらも用意するのに苦労するこの環境で、彼は生きていけるのだろうかと思うと恐ろしいのです。
この不安を書き綴りたいけれど、もう私の右手は限界のようです。
もう何も書くことは出来ないでしょう。
私はいつ死んでも構いません。
殿下が早く救出されることを願っています。
書いていてどんどん鬱になっていきました。
普段こんな真面目な内容の小説なんて書かないので。
語り口調が書きにくい…!
令嬢の日記は3までです。
次で終わります。
どんな内容なのか楽しみにしてください(笑)
ハードル上げてみました。
面白いかわかりませんけど…。