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二つの日記  作者: 小菊
1/7

ある令嬢の日記1

日記方式の小説です。

好みが別れるかもしれません。

もし良かったら読んでください。

なんという事でしょうか…。


私は目の前に広がる鬱蒼としたジャングルの島に流れ着き、絶望と少しだけ安堵しました。

この島はこんなにも生命に溢れて美しい鳥達が飛び交い楽園のようなのに、私達にとっては地獄のような地です。

恐らく食べ物に困ることはないでしょうが、地図にも載っていない無人島ではいつ助けが来るかもわかりません。

私は魔法が使えるので救難信号を出しますがそれすらも気が付いてもらえないかもしれません…。


傍らには先程私の首筋に剣先を向けていた、殿下が眠るように意識を失っていました。


これからの事を考えるとどうしていいものでしょうか…。

まず最初に殿下のお命が一番です。殿下のためでしたらこの命投げ出しても構いません。

けれど、私は殿下に処刑されるべき罪人です。もし、今それがなされたとして彼は一人で生きていけるのでしょうか…?

私はそう思うと死を安易に選ぶことが出来ませんでした。

殿下だけでも救出されなければなりません。

私はこの島で朽ち果てても良いのです。



ズキリと私の右手が痛み顔をしかめました。

海に投げ出された時に殿下の剣先を素手で握った為に出来た切り傷です。彼は愛する人から贈られたこの剣をとても大切にしておりました。


私は右手を庇いながら幼少からずっと欠かさず書き続けて、処刑される時も身に付けたいと願った鍵つきの日記帳に記します。


私は殿下の婚約者でした。

もちろん今は違いますが。

この地に流れ着いた経緯は長くて言い訳めいたものになります。


けれど、誰にも読まれることなどない日記ですのでここに懺悔を記していきたいです。




私は当然のように最初は殿下の婚約者候補でした。

殿下の艶々と輝く黄金のような髪の毛と、透き通るような水色の瞳は美しく。繊細でそれでいて男性的なくらいハッキリと整った目鼻立ちは皆の心を掴んで離しませんでした。

私もその一人でした。彼の事をお慕いしてました。

けれど、彼には他にお慕いする方が婚約者候補の中におりました。

彼女は…。そうですね。伯爵令嬢様としましょうか。

本来なら殿下の幸せを一番に考えるのでしたら、伯爵令嬢様が婚約者になるべきでした。


けれど、何を間違えたのか家格が上だった為に私が婚約者になってしまったのです。

それが分かった瞬間は愚かにも喜んでしまいました。

殿下と顔を顔を合わせた時に気が付いたのです。

彼は私の瞳すら見ていなかった事を…。

考えてみると私は愚鈍で外見すら醜く、殿下とのつり合いなど全く取れていなかったのです。

愛情の反対は無関心だとよく言ったものです。私は殿下から毛ほどに興味など持たれなかったのです…。

愛する人を蹴落として婚約者になった私など、殿下は信用できるわけがないと容易に想像できました。


だから、私には貞操帯が填められました。

『貞操帯なんて時代錯誤だ。』と思われるかもしれません。

しかし、殿下がそれを望むのであれば受け入れるしかありませんでした。

そこに私の尊厳など必要ありません。


殿下は私に無関心でしたが、やるべきことはきちんとされました。

本当なら嫌で仕方ないエスコートすらも、人前ではにこやかにしてくださいました。

しかし、役目を終えると光の灯らない瞳ですらも、私には向けないでどこかに行かれてしまいました。


ですから、せめて彼に恥にならないように私は正妃としての役割りをこなせるように日々努力してきました。


それすらも彼には物足りなかったのでしょう。




私は自分の至らなさで処刑されることになりました。



それは魔法学校の卒業パーティでの事でした。



『お前と婚約破棄する…。理由はわかっているな…?』

殿下が私に吐き捨てるように言いました。私を見たくないとばかりに視線すら逸らしていました。

彼の横には伯爵令嬢様が怯えたようにしがみついていました。

『お前は伯爵令嬢が俺と恋仲だということに腹を立て、彼女に犯罪紛いの嫌がらせをしただろう…?』

私には全く身に覚えがありませんでした。

無意識に伯爵令嬢様の方を向くと、彼女は怯えたように顔をぐしゃりと歪めて殿下に抱きつきました。

誓いますが私はそのような事をしていません。

殿下がお慕いする方は存じておりましたが、だから何かしようとなんて思いもしませんでした。


これは私が脇目もふらずに正妃として努力しているせいで、彼女への嫌がらせを止めることが出来なかった事への断罪なのでしょう。



なんて私は愚かだったのでしょうか、殿下に少しでも気にかけてもらいたいが為に努力してきた事が彼女を傷つける事に繋がってしまったのです。


『なんの申し開きもございません。』

私は顔を伏せながらその場に跪きました。



殿下は私を見下ろすのも嫌だったのでしょう。

彼にとって私は家畜以下なのだと思います。家畜ならその身を食べて貰うように差し出す事ができますが私には出来ません。


殿下は私をただ淡々と何の感情も伴わず、私の罪状をその場にいらっしゃる皆さまに告げていきました。

『そして、お前には姦淫の罪状がまだある。宰相とその息子に色目を使っただろう…?お前が何度も執務室に通う姿を見たと言った者が出ている。』

殿下の仰る通りで私は何度も宰相様の執務室に通いました。

けれど、それは殿下との婚約破棄を口添えしてくださるようにお願いする為でした。

結果は否でしたが…。

私がしたことは、婚約破棄が出来なければただ無意味で愚かな事でした。

『宰相様の執務室に何度か伺いました。けれど…。』

宰相様にご迷惑をかけられないので弁明のために口を開くと、それすらも殿下は許さないと話し出しました。

『お前に色目を使われたと話す貴族の子息が何名もいる。貞操帯の意味もない淫乱とはな…。』

『え…?』

殿下のお言葉に声を失いました。確かに何人もの男性と接触することはございました。

けれど、それは日常会話程度です。

きっと殿下以外の男性と目を見て話したのが罪なのでしょうか。付け入られる隙があること自体が私には許されないのですから…。




『待ってください!!』

宰相子息様が私の前に立ち庇うように、殿下から私の身体を隠してくださいました。


『やはりお前はそういう女だったのだな…!この淫売!!コレに騙されるなど貴様はとても愚かだ。』

殿下は初めて感情の籠った声で私を罵りました。

『彼女は必死に正妃の勉強をしておりました。それしか見えないくらいに。ですからこのような事はできるはずないのです。貞操帯とは…。』

『黙れ…。コイツと同じ名前の女子がその名前を名乗るだけで蔑みの対象になるのは忍びない。今からこの女の名前を取り上げる!そして二日後に死刑とする!』

殿下はそれ以上聞きたくないと話を遮り正義の裁きを下しました。

私は申し開きすらするつもりもなく俯くだけでした。

私は二日後に正妃候補としての役割りを果たせなかった罰を受ける事になりました。

ただ、私が願うのは殿下が愛する人と添い遂げられる事です。


『こんなのは間違っている!』

宰相令息様は異を唱えますが誰も賛同などしません。

私は誰からも慕われないような人間だったのです。このような女に正妃など勤まるわけがありません。

だから殿下からは冷たい視線すら向けられなかったのでしょう。


今どれだけ庇われてもいつか隙を見せた私は、このように断罪されてしまうのでしょう。

遅かれ早かれこうなっていたのです。

でも、私は彼には申し訳がなさを感じました。なにもお咎めがなければいいのですが…。

『良いのです。私は納得できています。もう、関わらないでください。貴方にご迷惑をおかけすることは出来ません。』


私はそれだけ言うと近衛兵に両脇を抱えられて、牢に入れられました。



…そろそろ殿下が起きる頃だと思いますので今日はここまでにしておきます。


殿下にはこの島で取れた少しの果物と、海水を煮て用意した水を渡してきました。

殿下は罪人の私の顔を見たせいで不愉快そうに顔を歪められました。

「水がこんなに少ないなんて…。」

不思議そうに呟かれましたので、私が無能だったばかりに少ししか用意できなくて申し訳なさに俯いておりますと。

「お前はなぜ罪人なのに生きている。この場で命を断つのが国の為とは思わないのか?」

殿下に吐き捨てるように問いかけられました。

私もその通りだと思います。けれど、この状況で殿下を置いて命を断ってしまうと彼がどうなってしまうのかわかりません。

せめて安全だけでも確認できれば…。

私は無様に殿下に命乞いをいたしました。

「少ないながらも食べ物と水の用意をいたします。救難信号を出し続けますのでどうか殿下が保護されるまでは生かさせてください。」

「お前の口からそんな言葉がでるとはよほど命が惜しいのだな…。」

呆れたように殿下は言いました。

「はい。魔法で現在救難信号を出しております。まだ、発見されておりませんがすぐに見つけてくださると思います。殿下の手を煩わせることはいたしません。どうか貴方様が保護されるまではお見逃しください。」

私は殿下のお顔を見ることは出来ませんでしたが、きっと軽蔑しきった表情をしていると思います。

殿下の為と言いながら生きながらえようとする醜い心根に、吐き気をおぼえたのかもしれません。

「わかった。罪人などに面倒などみてもらうのは虫酸が走るが我慢してやろう。なにも言わずにどこかに消えろ。」

それだけ言われましたので私はそのようにしました。


殿下には申し訳ないので、早く救難信号を見つけてもらいたいです。








そうでした。まだ懺悔の途中でしたね。


私は牢屋で二日間。死刑が執行されるまで待ちました。その間誰も会いに来ることはありませんでした。

私は誰からも必要のない物だったのです。

牢番は私には気遣わしげな視線を向けてくださっていたようでしたが、かえってそれが申し訳なかったです。

何か望みがあるかと聞かれましたので、『私が幼少から記している日記帳が欲しい』とお願いしました。

『もっと凄い我が儘を言われると思っていた。欲がないな。本当にアンタは大きな犯罪を犯したのか?』

彼は苦笑いして言いましたので。

『えぇ、私は処刑させるような悪いことをいたしました。』

とお答えました。

もしかしたら牢番様にとっては大した事ではなくても、殿下にとっては処刑したくなるくらい許せない事だったのだと思います。



自分で私の処刑執行しようとするくらいに。




二日が過ぎ近衛兵に連れられて私は大きな船に乗せられました。

その時に牢番から日記帳を渡されました。とても大切な物なのでこれと一緒に朽ち果てたいと思っておりました。


その思いに嘘はありません。心残りさえなくなればいつでも命を断つ覚悟は出来ております。


近衛兵から処刑の説明をされました。

私の処刑は海に落とすものに決まったそうです。助かる可能性を残したある意味恩情なのでしょう。

憎しみながらも殿下のかけてくださるお情けに私は嬉しさで身体が震えそうでした。

近衛兵は何か言いたそうに私を見ていましたが、それは聞きませんでした。

もしかしたら、彼に何か処罰が下るかもしれませんでしたから。

私は名前すら必要のない罪人ですから。




その日はとても大時化でした。しかし、予定通りに処刑を済ませたい殿下が無理を言って船を出したそうです。

近衛兵が誰かに愚痴るところを聞いてしまいました。


船がある程度進んだら私の首筋に殿下の剣が当てられました。

『早く落ちろ。一緒の空気も吸いたくない。お前を手にかけるのも煩わしいくらいだ。だが、お前が死んだのを確認しなくては伯爵令嬢が不安で仕方ないだろう…?早く死ね。』

『申し訳ありません。』

私は殿下に心から謝罪いたしますと甲板から船首に向かって歩いて行きました。

かなり風が強く飛ばされてしまいそうでしたが、殿下の目の前で死んでみせないといけないので必死に歩きました。

もちろん殿下に剣を当てられたままです。

いよいよ飛び込む段階になった時です。

船の底から大きな何かが吹っ飛ぶような音がしてそのまま船が斜めに左へ傾いていきました。


その時の事は恐ろしくて朧気にしか覚えていません。

船が揺れたときに剣が殿下の手から離れてしまったので慌てて剣先を素手で掴みました。

私は殿下の腕を掴み咄嗟に船から飛び降りました。



転覆する前に船から降りたのが幸いしたのか、私達は流されて楽園のような地獄の島に漂着しました。

読んでくださってありがとうございます。


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