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やさぐれ少女と灰色の日々  作者: 氷空 梓
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【#1】

「……ん、……田さん」

 梅雨空の夢を虚ろに見ていた私の耳に、遠い声が聞こえてくる。

「……山田明朱さん!」

「………!?」

 それが突然クリアで大きな響きになって、私は現実世界に帰ってきた。

 姓は山田(ヤマダ)、名は明朱(アッシュ)。それは私のことだ。私が産まれた時にはキラキラネームなんて存在もなかったくせに明朱なんて仰々しい名前、昔から嫌だった。

 しかも漢字が明らかに私と合ってない。「明」という字が。

「聞いてるんですか、山田さん?」

「はい…すみません」

「全く…あなたはただでさえ仕事が遅いんですから、居眠りなんてしないでください! 今片付けてもらってる書類が終わらなかったら残業ですからね」

「はい」

 時は、あの梅雨空の場面から五ヶ月流れていた。初冬の寒空が窓の空に広がっている。今日は曇りで、あの日と似ている。

 あの時の彼とは別れた。嘘吐きで酷い私は次の「彼氏にしていい候補」ができるまで付き合っていてもよかったが、寂しさよりも彼と一緒にいる時間の面倒くささのほうが勝ったのだ。だから別れた。

 私が愛情を彼に向けていないことはあっちにもなんとなく伝わっていたようで、揉め事にはならなかった。「友達に戻ろう」ということになったが、正直もう遊ぶことはないだろう。彼は私と別れたその日から、一緒にやっていたゲームにログインしなくなり、共通の友達と作ったラインのグループも抜けた。「友達に戻る」とは何なのかと言ってやりたくなるが、つまりはそこまで私を好きでいてくれたということだ。こんなに酷い女を。

「山田さん、手が止まってますよ」

「はーい」

 お局の指摘には空返事をしておく。

 ぶっちゃけ、皆が働いている時間にそこに混ざって働くよりは、皆が帰った後に一人だけ残業しているほうが好きだ。これを言うと友達からは謎の生命体を見るような目で見られるけど、一人だと誰にも気を遣わなくていいし作業効率も上がる。

 それに、残業した後の夜も深い時間に歩いて帰るのも好きだ。女の子が一人で危ない、と言われるが、夜もやっている店の明かりは点いているし、家の近くの医院は営業を終えた後も私みたいな人のために看板の電気を点けっぱなしにしていてくれる。危ないことなど何もなく、夜のしんとした空気を吸いながら、時に自分のアパートも通り越して歩く。

 そういう時間が、このやさぐれ女の息抜き。

「………はあ」

 職場に鳴り響く電話の音、同僚を上司が叱る声、パソコンのタイピング音を聞きながら、私は溜め息を吐いた。



 お局に言われた通り、私は残業をし、午後十一時の夜道を歩いていた。

(……なんか、このまま外にいたい)

 明日も仕事なのに馬鹿かと言われるだろうが、狭苦しいワンルームに帰りたくない時が度々ある。

 私は家の近くの公園に立ち寄り、ベンチに腰掛ける。

(そうだ、今日はここで『反乱ゲーム』やろう)

 こんな私にだって、ハマっているゲームのひとつやふたつ、ある。それが『反乱ゲーム』で、元は皆で集まり、顔を合わせてするアナログゲームだ。

 ある国で人が「王様側」と「市民側」に別れて争いをしているという設定で、その名の通り「市民側」がレジスタンスを組織して「王様側」を討ち、反乱をしようとしている。これに対して「王様側」は兵士をスパイとして派遣し、レジスタンスに潜入させ、反乱軍の殲滅を目指す。これに気付いた「市民側」は昼間にメンバー全員での討論の時間を設け、「こいつは王の下にいる奴じゃないか」と判断した人を一日に一人ずつ処刑していく。逆に「王様側」は夜、忍び足でメンバーの部屋へと向かい、一晩に一人を撃ち殺していく。「市民側」の勝利条件は全兵士の処刑。「王様側」の勝利条件は兵士の数と同じになるまで市民を殺し、レジスタンスを鎮圧すること。

 つまりは昼の討論がキーとなる「嘘吐きのゲーム」だ。なんて私に合ったゲームだろう。

 友達を呼んでやったり、アナログで『反乱ゲーム』ができる店なんかもあるけど、私は友達が少ないし知らない人と顔を合わせてやるのは気が引ける。そこで使うのがオンラインでゲームができるアプリ。よくぞこういうものを作ってくれた。運営様に感謝。

 ツイッターみたいに各々の発言が名前、アイコン付きでログとして残り、ゲーム中はいつでも読み返せるのもアナログにはない便利さだ。これに慣れている私にはきっとアナログは難しいだろう。

 コードネーム「鮎」はただ名前の明朱をもじっただけ。アイコンは私と違って活発そうな男の子のイラスト。男キャラのほうが演じていて楽だったりする。

「今回は…『騎士』だ。市民側か」

 『反乱ゲーム』をする時、市民側にはただの市民ではなくて役がある人がいる。それも面白いところだ。

 今回私がなった「騎士」は、もともと王様側についていた国の騎士が考えを変え、自分の意志でレジスタンスに加入したという設定だ。夜に行われる兵士の殺戮から他のメンバー一人を守ることができる。守りが成功するとその夜は誰も死なない。でも自分を自分で守ることはできない。

 他にも、夜に他の誰か一人が市民側なのか王様側なのかの情報を入手できる「諜報屋」や、昼に処刑された人の霊と夜に話ができてその人が市民側なのか王様側なのかを知ることができる「霊感者」なんていう役もある。「裏切り者」という、市民側なのに王様側に加担する兵士の味方もいる。

(……よし、やるぞ)

 『反乱ゲーム』を一回やることを「一国」と言う。ゲーム一回がひとつの国の中での物語だからだ。

 結局、私は一時間、公園の中で一国をやっていた。昼の討論が十分、夜が五分を繰り返すゲームは時間がかかるのだ。



(あああ……眠い)

 翌日の会社、昼休み。

 眠いのは自業自得だ。昨日遅くまで公園でゲームをしてから、星のない夜空を何も考えずに眺め、家に帰ったのは結局午前二時。そこから風呂に入って寝た。

 ぼーっとした頭でスマホをいじる。

(……あ、フォローきてる。気付かなかった)

 『反乱ゲーム』で遊んでいる人はツイッターで繋がる。一国が終わった後のエピローグで「鮎 @ayuyun_0666 同国ありがとうございました!」というような発言を投げると、アカウントがある人で気が向いた人はフォローしてくれる。

 相互フォローが増えていくのは嬉しいし、仲良くしてもらえるのは嬉しい。誰かがゲームをやる時に誘ってもらえる。でも、ツイッターの中でさえ気を遣うから息苦しい。

「えーと…くずさん…ああ、昨日いたな」

 くず、という名前なのに議論が上手く、市民側をうまく騙して勝った兵士だった人だ。私もくずさんは市民だと思い込み、騎士だったが守ってしまった時もあった。

 ツイッターのプロフィールに「対面」と書かれている。アナログでもやっている人か…きっと対面の時も強いんだろうな。あと、住んでいるところがわりと近いことも分かった。もし私がアナログをしに行けば会うこともあるかもしれない…行かないけど。

 フォロバ(フォローバック。フォローを返すこと)をすると、くずさんからメッセージが来た。

『昨日はありがとう! 鮎さんが僕を守っていたのはびっくりしたけど市民に見られてよかった。また同国しようね』

 良い人だなあ、と思うと同時に、ちょっと苦手だなあ、とも思った。昨日知り合っただけで馴れ馴れしくしてくる人。彼はフレンドリーなつもりかもしれないけど。

『こちらこそありがとうございました! 俺の人を見る目はまだまだだな…と思います(笑) こちらこそ、またお願いします!』

 リプライを送る。「鮎」でいる時は元気いっぱいの男の子を振る舞う。そういうキャラだからだ。きっと深層心理で私が「こういう人間になりたい」と思っているんだろう。

 くずさんから返信が来た。

『いや、鮎さんの発言すごくよかったよ! 鮎さんを王様側に仕立てることはできなかった。鮎さんって対面でもやってる人?』

 褒められるのは嬉しい、というよりかは安心した。あのゲームでさえ活躍できなかったら、酷い嘘吐きの私はこれから先どこに棲めばいいんだろう。

『ありがとうございます、嬉しいです! でも今度王様側になった時は、くずさんみたいに市民らしくなれるように頑張りたい>< 俺は対面はやってないんですよ~』

 くずさんも会社員で、今ちょうど昼休みなんだろうか。すぐにリプライが来る。

『鮎さんは僕より市民っぽく振る舞いそう~。そっか、対面やってるなら対面での鮎さんの議論も聞いてみたいと思ったけどやってないんだね( ˙-˙ ) じゃあまたオンラインで同村しよう!』

 対面とオンラインは違うから、一緒に対面をやったとして彼の期待には応えられないだろう。

 昼休みが終わりそうだったので、やりとりはそこで終わった。

読んでくださり、ありがとうございます!

このように、この小説は明朱が『反乱ゲーム』で繋がる人たちとの触れ合いを通して変わっていく物語です。

今回は第1話なので説明っぽくなりましたが、「くず」含むフォロワーと明朱の話を見守っていただけると嬉しいです^^*

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