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アカシック Re:ワールド  作者: 因幡兎
8/17

契約と覚悟

 子供というのは無邪気でかわいいものだ。


「そんな考えが俺にもありました……」

「あははははははは!!!ひっかかった~~~~!!」

「かわいそうだよぉ……」

「いいんだよ!これくらいルカ兄ちゃんならにげれるんだから!」

「おいこらお前ら!!あんな規格外と一緒にすんな!!早く下ろせ!!」


「「やだ!」」



  何故木に吊るされているかというと今日の朝にさかのぼる。


「子供の世話?」

「いつも世話をしてくれているニーファさんが倒れちゃって」

「ああ、料理を作ってくれているおばちゃんか」


  ここでは一人1つ以上何か仕事をしている。しかし子供はその限りではなく交代制で世話をしているらしい。


「本当は狩りの班はしないんだけど。僕たちのノルマは終わってるからね」

「まあ、昨日の奴はでかかったからなぁ」


 昨日捕らえたのはイノシシだったが、最初に会った青熊よりも大きかった。

 全長15mくらいだったのだが木が同じ高さで驚いたものだ。


「あれくらいの奴は初めて見たんだよな」

「僕が来てからは初めてだね。皆喜んでくれてよかったよ」

「子供って何人いるんだ?」

「今は7人くらいかな。僕達二人で見るから3人ずつくらい」

「まあ、いいんじゃないか?暇を持て余すよりは」


 行ってみると6歳くらいの子供たちだった。この時点で警戒が緩んでしまったのだろう。

 竜人の男の子がクルップ。

 猫人の男の子がマルタ。

 サキュバスの女の子がクーナ。

 狼人の女の子がリリ。

 猪人の獣人の男の子がトルネラ。

 岩で出来たガーゴイルの男の子がギン。


「覚えた?」

「いや無理だろ」


 マルタ、リリ、ギンを湊が。クーナ、クルップ、トルネラをルカが見ることになった。

 しかし。


「……一人足りないね」

「ユイはね~なんか、でたくないって言ってた」

「ユイ?」

「人間の女の子だよ。僕達は魔族だから彼女はなかなか打ち解けてくれなくてね」

「じゃあ、その子は俺が見るよ。俺も人間だしね」

「お兄ちゃん……人間なの……?」


 子供たち全員が不思議そうに黒い右手を見た。


「いや、元人間かな。それよりこっちは任せてくれ」

「じゃあ、頼んだよ。気を付けてね」

「何をだよ?」

「いや、いいんだ。経験した方が早いからね」

「ルカ兄ちゃん早く~~!」

「今行くよ。じゃあ頑張って」


 走っていくルカの言葉に不審に思いつつユイという女の子がいる建物までやって来た。


「誰かいますか~?」


 ノックをしても返事がない。


「誰もいないのか?」

「……ユイのにおいがするからいるよ」

「わかるのか?」

「あたりまえだろ!リリはごっかんがするどいんだ!」

「ああ、五感な」


 マルタの答えに誇らしそうに鼻を鳴らすリリ。

 表情はわかりずらいがかなり行動に出やすいタイプらしい。

 尻尾ですらブンブンと揺れている。


「どうすっかな」


 さすがに勝手に入るのはまずいと思い困っていると、何故かレントがやって来た。


「やっぱり……出てきてないのか……」

「レントだ~~!やっほ~!」

「……レントがなんで?」

「どうしたんだ~?さぼり?」

「だから年上には敬語を使えって__て聞いてないし……」


 男の子二人がレントの周りで踊るという謎の儀式をし始めてレントが注意している。


「なんか以外だな……」


 湊の知っているレントはいつも眠そうにしているのだが今はなぜか大人っぽく見えた。


「なんか失礼なこと考えてるでしょ……」

「滅相もない。……レントはなんでここに?」

「ニーファさんに頼まれたんだ。多分ユイが『出てこないかもしれないから』って」

「それでなんでレントに頼むんだ?本人は?」

「言い終わったら倒れた」

「おい」

「ほかの人に預けたから大丈夫。僕に頼んだ理由はね。唯一僕が彼女の怖がらない魔族だから」

「見た目か」

「……子供っぽいって思ったでしょ」


 まあ、今回はおとなしく助けてもらおう。

 レントが入ってしばらくして出て来たのはレントと女の子。


「その子がユイ?」

「うん。ほらユイ。この人が湊君。さっき言った」


「……人でなしのお兄ちゃん?」


「ちょっと待とうか」

「おかしいよね?なんでいきなり人のこと人でなしで紹介すんだよ…!」


 レントの首をつかみ小声で言った。


「人じゃないから合ってるよ」

「人でなしってそういう意味じゃないよね!?わかって言っただろ!!」

「僕子供っぽいからわかんない……」


 どうやら先ほどの仕返しらしい。


「……なんか違った……?ごめんなさい…湊お兄さん…」


 なぜかユイが申し訳なさそうに謝る横で偉そうなレント。


「いや、君は悪くないんだ。全部レントが悪いんだ」


 まあ、出てきてくれたし良しとしよう。


「あれ?ギンとマルタは?」

「……二人とも、もりのほうにはしっていった」

「マジか。急いで追いかけないと!レントありがとな!」


 お礼を言いつつ三人で追いかける。


「見つかんねえ」

「あっち」

「凄いな。本当に鼻がいいんだな」


 複雑な分かれ道もどんどん進んでいく。


「なんか変なにおいもする」

「変な匂い?」

「まものっぽい」

「やばそうだな!?」


 まさか食べられそうになっているとか?


「ま、待って……!」

「あ、悪い早かったか?」

「はぁ…!はぁ…!ごめんなさい遅くて……!!」

「いや、こっちこそごめんな」

「わっ!?」


 ユイを抱え思い切り走る。

 かなりの速度が出ているはずだがリリはついてきている。


「リリは大丈夫か?」

「獣人をなめたらだめ」


 どうやら平気そうだ。


「あそこ」

「無事か___おわ!?」


 足に何かが絡まりそれが一気に上に引っ張られる。

 とっさにユイは下ろしたが自分は逃げることが出来なかった。

 見事に木に吊るされて、現在の状態に戻るわけだが。


「魔物はどうしたんだよ!?」

「ああ、これ!!」


 ギンが持ってきたのはいつか誰かが狩ったのかわからない小型の魔物。

 鳥のような姿だが大きな一つ目でくちばしからは牙が見えている。


「お前それどうしたんだ?」

「おちてたの!」

「落ちてるものを拾っちゃいけません!」

「なんで?」

「なんでって__」


「きゃあぁぁぁぁぁぁ!?」


「ユイ!!」


 悲鳴のした方を見ると大きなドラゴン。

 その口にはユイが咥えられている。


「ギュオオオオオオオオオッッ!!」


 そのまま大きな羽を羽ばたかせ飛び去っていく。


「くそッ!?ておい三人とも行くな!」


 吊るされた恰好では追いかけることもできない。


「ここの森にあんなのいたのかよ!?」


 今まで一度としてドラゴンなんて見たことがない。


「湊君!!」

「ルカ!これほどいてくれ!早く!!」


 ほどいてもらいながらも経緯を話した。


「僕もドラゴンなんて見たことないよ!」

「とりあえず追いかけてるからルカはみんなに知らせてくれ!」

「ちょっと湊君!?……行っちゃった……」


 ふと周りの静かさに気付いた。


「あの子たちも行っちゃったの!?ああもう!!」


 仕方なく子供たちは湊に任せて呼びに向かった。



 道が複雑に入り組んでいるが何とか行けている。

 その理由はついてきた子供たちだ。


「あっち!!」


 トルネラがギンたちの匂いを嗅いで方向を教えてもらいクルップがクーナを担ぎ飛んで道を教えてくれていた。


「(おかしい。この森はこんなに深くまでいけないはずだ)」


 初日に飛び出し建物まで戻った時はこんなところまで入れなかった。

 突然のドラゴンと森の違和感。

 偶然なんて考えられない。


「みえたよ!」

「よし!お前らは隠れてろ!」

「まって!!マルタとギンが!」

「ッ!!」


 木々を抜け見えたのは追い詰められた3人と巣のような山に倒れているユイ。


「こわくないからな!!」

「ギン……」

「だいじょうぶ!リリとユイは俺たちが助けるから!」

「マルタ………」


 やっぱり男の子だ。


「ギュァァァァァァァァァァァァ!!」


 巨大な顎が迫る。

 大人ですら恐怖で逃げだしそうな光景の前でも逃げない。


「やらせねえッ!!」


 三人の前に飛び出し、指輪の形状を変える。

 全てを叩き切る大剣を前に構え顎から三人を守る。


「ミナトにいちゃん!?」

「よくやった!!けどお前らは勝手に行き過ぎだ!少しは人のいうことを聞け!」

「だって!おれたちのせいでユイが!」


 そうか。あの死骸がドラゴンの餌だったのか。


「これに懲りたら物を拾うなよ!?」


 ドラゴンの鉤爪をさばきながら隙を伺う。


「隙が出来たらお前らは隠れろ!ユイは何とか助けてやるから!」

「いやだ!おれたちもたたかうんだ!」

「邪魔なんだよ!お前らを守りながら戦えねえから隠れてろ!!」


 苦々しそうにうなづく。ここで暮らしているからこそ命がどれだけ簡単に奪われるかしているのだろう。


「気に食わねえッ……!!」


 まだ親に甘えたい頃だろうに親から離されて。

 それでも懸命に生きている命を奪う?


「そんなことさせねえよ!」


 ”そんな理不尽は誰が許した?”


 声が響く。

 __運命なんて言葉があるなら。それを作ったくそったれの神様だ。


 ”それを許すのか?”


 翼の攻撃を受け止めてかろうじて跳ね返す。

 __答えは否だ。許せるわけがない。


 ”ならば抗うか?”


 __当たり前だ。

 巨大な口が開き真っ赤な光が覗いた。

 あれは躱せない。守ることもできない。


 ”ならば捧げよ。お主の心臓を”


 __後ろの奴らを守れるなら、捧げてやるさ。


 ”契約はなされた。その強靭な鋼の真名を述べよ”


 頭の中の気配が消えた。けれど真名は覚えた。



「『世界を憂う神の子よ!汝は獅子なり。不死の英雄汝の名はジークフリードッッ!!』」



 巨大な炎の奔流が迫る。

 頬が熱い。焼けるような熱さだが龍の攻撃ではない。

 炎の奔流が過ぎたとき目の前にいたのは一匹のライオンだった。

 赤く燃えるような鬣に巨大な体には金属のような鉤爪。

 龍の攻撃を受けたのに傷が見当たらない。


「お前が……ジークフリードか……?」

「グルル……!」


 うなずくように喉を鳴らす。

どうやら従ってくれるようだ。


「なら……あの子を助ける!」

「グルォォ!!」


ドラゴンの迎撃をジークフリードに任せ、まずは三人を避難させた。


「あれ…なに…?」


魅了されたようにリリが呟いた。

ジークはドラゴンの攻撃を受けても怯む様子がない。


「鋼の英雄、ジークフリード」

「ギン?」

「おれ、母さんに読んでもらったことがあるんだ。鋼の精神と不死身の肉体で世界を救おうとした英雄だって」

「そうかもな」


 よく見れば傷が瞬時に塞がっている。だが。

「足の傷だけ治りが遅いな」


 ほんの少しだが、足を庇いながら戦っているように見える。


「見てあれ!!」


クーナの声に目を向けると巣の方にもう一匹が現れていた。


「嘘だろ……」

その口には赤い血。

そして子供の腕。


「あ…ああ………」


救えなかった?

絶望が押し寄せてくる。


「まだ…!生きてるよ……!」

「そうだよ!リリのいう通りだよ!よく見て!!」


眼を凝らして見る。

ピクリ、と。

かすかにだが確かに動いて生きている。


「あの子も吸血鬼の血が混じってるのか…?」

そうだ。何故気付かなかった。ここの人たちは吸血鬼の血が混じって常人よりもはるかに丈夫なはずだ。


「今助けるからな……!」


 早く。

あの子が死んでしまう前に。いや、そんなことは当たり前だ。


”速さを求めるか”


先ほどとは別の声が響く。

__早く。

体が軽い。羽になったような軽さで2匹目のドラゴンに近づく。

素早く尻尾が迫ってくる。


__まだ遅い。

世界が歪む。

迫る尻尾がゆっくりとなり自身の体も先ほどとは真逆に泥にはまったように重く感じる。


”自身の世界は速いか?”


__まだまだ遅い。体が壊れようが関係ない。あの子を助けられれば足がとれようが関係ない。


”そこまでして何故求める?”


右目が疼く。

__世界の平和なんて大それたことじゃない。ただ自分を家族と言ってくれた人の幸せだけだ。


”ならば捧げよ。汝の世界の半分を”


一瞬右目が蒼く染まった。


”契約はなされた。その風と時の真名を述べよ”


気配が消える。だが真名が消えることは無い。


「『俊足なる狩人よ!汝の敵を射抜きその血で大鷲の羽を染めよ!アタランテッ!!』」



風が凪いだ。そう認識した瞬間には龍が倒れていた。

その横にいるのは一匹の大鷲。

刃のような羽を羽ばたかせ大空を飛んでいた。


 「オォォォォッ!!!!」

 「『盾の騎士よ!!尊き意志ですべてを救え!!ヘルヴォルッ!!』」


大きな悲鳴にも似た声を出しながら龍が迫ってくる。

口を広げ湊に食らいつく__寸前に巨大な角で顎を貫かれ絶命した。

目の前にいたのは一匹のユニコーン。

神々しい一本角を振るいドラゴンの亡骸を振り落とす。

残りは一匹。


「ガオオオォォォォ!!!」


大きく雄たけびを上げたのはジークだった。その足元には首を嚙み千切られたドラゴン。


「やった……」

「ミナトにいちゃん!!ユイが!!」

「どうした!?」


ユイのもとに走り傷を見る。

かなりの重症だが、ゆっくりと治っている。


「ミナト……お兄ちゃん……?」

「ユイ!!良かった……生きててくれて本当によかった……!!」

「綺麗だよ……?そのお顔……」

「顔?」


顔がどうしたというのか。


「湊君ッ!!」


駆けつけてきたルカが周囲の光景を見て唖然とした。


「君、まさか一人で倒したのかい?」

「ルカ!!遅えよ!!早くユイを見てやってくれ!!それと子供……た……ちも___」

「湊君!?」

「「「マスター!!」」」


誰か知らない声がする。

だけど何故だろうか。懐かしいような胸が張り裂けそうな。




「いつも心配ばかりかけて……」

「そういわないであげてください。いつも誰かを救うために頑張ってるんですから」


眠っている湊の横でエイナがミーナをなだめている。


「でも、確かに心配ですね。目が覚めたらちゃんと言っておかないと」

「そうよ。だから湊は目を覚ますわ。そしたら二人で説教してやりましょう」

「ふふ…!そうですね……絶対に」


湊が気を失ってから4日が過ぎた。

一向に目を覚ます気配がないが幸い息はしている。


「それに早く起きないとまた料理が増えるわね」


横の机を見ながら微笑んだミーナにつられてエイナも机の上の料理を見る。

あれから毎日子供たちがやって来て料理を置いていく。どれもこれも保存が効くものばかり。


「早くしないと腐っちゃいますよ」

「けど、戻んないわね……この姿」

 湊の髪を触りながら呟いた。


 白い髪に右は蒼、左は赤のオッドアイ。そして普段と違うのが涙のマークが消え右腕に大きな緑の結晶が現れたことだ。

黒い腕の甲にあり、取ることが出来なかった。

 子供たちがいうには戦っている最中に何回か突如として変わったらしい。

そのたびに獣が呼び出されたと言っていた。


「直接本人に聞くしかないか……」

「そうですね……早く起きてくださいね…?」






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