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アカシック Re:ワールド  作者: 因幡兎
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地獄の始まり

 


  「ディ…ストピア…?」

「自己紹介してなっかったね。僕はルカ=ブラン。よろしくね」

   

 白髪に赤い瞳。優しいそうな顔立ちをしている。

 今のように柔らかい笑顔をしていると人気者と呼ばれる部類に入るだろう。

 こんな状況じゃなければだが。


  「………」

  「警戒するのはわかるけど、今は安全だよ」

  「今は?」

  「説明する前に名前を聞きたいんだけどいいかな?」

  「……碧山湊」

  「よろしくね湊君」

  「そんなことより説明を_____ッ!!姫様は!?一緒に誰かいなかったか!?女の人も一緒につかまったはずなんだ!!」


  最後に見た光景が確かならエイナも捕まっているはずだ。


  「彼女ならさっき目を覚ましたから大丈夫。君も動けるなら歩きながら説明したいんだけど。怪我は大丈夫?」

  「……怪我?」


  体のあちこちをぺたぺたと触る。


  「怪我が……ない…?」


  大きく開いていた腹の穴は今は傷跡一つ見つからない。

  腕も切られたはずだが元通りになっている。


  「この黒い腕はあんたらが?」


  切られた部分から先が黒い皮膚のようなものに覆われていた。

  腕の感覚に違和感はない。


  「僕たちじゃないよ。まあ、そのあたりの説明もしたいからついてきてね」




  「湊さん!!」


  案内された部屋に入ると女性とエイナがいた。

  湊を見るなりエイナが駆け寄って来た。


  「姫様けがは!?」

  「私は大丈夫です!!湊さんこそ怪我はありませんか!?」

  「俺のことなんかいいんです!!」

  「どうでもよくなんかありません!そんなこと言わないでください!!」

  「言い合っているところ申し訳ないけど事情説明をしてもいいかな?」

  「あ…!すいません!!」

  「湊君もいいかな?」

  「・・・・・・大丈夫です」

  「よかった。ちゃんと話を聞いくれるんだね」

  「・・・まあ、今すぐに殺されるわけじゃないみたいなんで話くらいは聞きますよ」

  「まずは自己紹介からね」

  「はぁ?」

  「自己紹介は大事だよ?敵か味方かがわかるからね。ミーナ」

  「私がミーナよ。君たちからしたら怖いかもしれないけど魔族と呼ばれる部類ね」


 ミーナと呼ばれた女性が近付いてきて自己紹介してくれた。

   ショートカットで凛々しい雰囲気をしている。

  話しかけずらい雰囲気だが姉御と呼んだ方がしっくりきそうな人だ。


  「ミーナさんが私のお世話をしてくれているんですよ。私たちを見つけたのもミーナさんらしいです」

  「まあね。正確には見つけたのはグロッグだけど」

  「見つけた?」

  「そうだよ。自己紹介も終わったし説明しようか」

  「ここはとある研究組織の秘密の箱庭といった所かな」

  「箱庭?」

  「実際に見てみるといい。そこの窓からね」


  窓から外を覗くが森が続くだけで街と呼べるものは見えない。

 村のようなものが一つあるだけだ。


  「森しか見えないけど?」

  「そうだね。けどそれはおかしいと思わないかい?」

  「…城がない」

  「そう。見渡す限りの森じゃおかしいよね?だって君たちは城から来たのだから」

  「こっちの事情は分かっているわけか」

  「エイナに聞いたのよ。あなたも多分同じような状況だったでしょうし」

  「けど魔法なら転移魔法のようなものだってあるだろ?」

  「あるけれど逃げながらは使わないだろうね。居場所が相手側に筒抜けになる」

  「そうなのか?」

  「ええ。ロナウドなら魔法の準備段階で気づくでしょう」


  __あの人ほんとになんでも出来るな……。

 そんな一言を飲み込みつつ話を続ける。


  「ここが何処にあるかはわからない。けどなんの”目的”で使っているのかはわかる」

  「それは?」

  「実験さ」

  「どう…いう……」

  「君たちを攫ったのはきっと実験に必要だから。特に君たち異世界人は彼らにしてみれば極上の材料だろうしね」

  「なんで……なんで俺たちなんだよ……」

  「僕たちにはわからないよ」

  「……くそ!!!」

  「湊さん!?」


  湊は部屋を飛び出していく。


  「止めなくていいの?」

  「……時期に戻ってくるよ。ここから逃げる術はないのだから」




  「くそくそッ!!!」


  飛び出してもう1時間。

 どれだけ走っても疲れが襲ってこない。

 ずっと走り続けていた。

 なのに。


  「何で森から抜けないんだよッ!!」


  地球にいた頃とは違いかなりの速度が出ているはずなのに一向に村も見えてこない。


  「そう…そうだよ…向きが違うだけなはず!!一旦木に登ってみれば___!!!」

  「そろそろ落ち着いたかしら」

  「ッ!?」

  「不思議そうな顔をしているわね?『なんで追いつけるのか』かしら?」


 まさに考えていた事だ。


  「あなた進めていないのよ。まっすぐ進んでも意味がない」

  「そんなの__!」

  「やってみなければわからない?ならやってみることね。私は戻って待っているから」


  戻っていく後ろ姿を最後まで見ずに走り出す。


  「畜生ッ!!」



  「これで分かった?」


 さらに2時間。

 ずっと走り続けついたのは飛び出してきた建物の前だった。


  「嘘だ……多分途中で方向が__」

  「方向はおかしくなっていないよ」

  「だって!!」

  「認めれば?ここから逃げることなんて出来ないのよ」

  「………」

  「さて冷静になったところで行こうか」

  「……実験場かよ」

  「違うよ。最初に言ったよね?ここは地獄郷ディストピアだって」



  「あ、ルカ兄ちゃんだ!!ねえねえそのひとたちがあたらしいかぞく~?」

  「そうだよー。皆仲良くしてあげてね?」

  「わあ!きれいなひと~!!」

  「え?え?ちょ!?」

  「ちょっと!そんなことしたら駄目でしょう!」


 くるくるとエイナの周りをまわっていたがミーナが怒ると悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


  「……なんで子供が__」

  「……実験対象が大人だけだと思ったの?良心や道徳なんて持っていない外道な研究者しかいないのよ。あるのはただの好奇心だけ」

  「ここが僕達の楽園だよ。村と呼べるほどの大きさしかないけどね」

  「……そんな……」


  村と呼べるほどの大きさしか?


  「ふざけんなッ!!」


  村と呼べる”ほどに”人が誘拐されたという事だ。


  「研究者にとっては僕たちはただの動物だ。それより説明がまだだったね」

  「どっかの誰かが逃げたせいでね」

  「悪かったな……!こちとら平和に生きてきたもんでトラブルに対応出来ないんだよ」

  「あははは……それで一つ聞きたいんですが……」

  「なんでもどうぞ?僕達に答えられることならなんでも」


  「その研究者っていうのはどこ__ッ!?」


 エイナの言葉の途中で目の前に異変が起きた。

  突然、空間に穴が出来たのだ。

  穴から出て来たのは巨大な牛の化け物。


  「何だよあれ!?ミノタウロス!?」

  「あれが答えかな。確かにミノタウロスだ。ただし彼らに従順な、ね」

  「出てくるわよ。外道が」


 あとから出て来たのは白衣をきた男性。

  意識が消える前に見た奴らの中にいたのを覚えている。


  「おい。あれを」


 こちらを一瞥しミノタウロスに命令をする。


  「離せ!!このバケモノ!!」

  「湊さん!?」


  抵抗するが力で勝てるわけもなくずるずると穴の方に引きずられていく。


  「湊さんを__!!」

  「ちょっとごめん」

  「ぁ__」


  近づこうとしたエイナを気絶させミーナが抱きかかえる。

 それを見届ける前に穴に連れ込まれ一瞬で視界が変わった。


  見回すと建物の中のよう黒い大理石のようなもので出来ているようだった。

  部屋だけでなく廊下も同じようだ。

  連れ込まれた部屋で磔にされミノタウロスが出ていく。


  「くそ…取れないか……」

  「さて早速実験しようか」

  「お前らは何なんだよ!!なんで俺を攫った!?」

  「まずはこれからだな」

  「ちょ、ちょっと待て……そんなのシャレにならねえよッ!?」


  研究者の手にあるのは戦斧アックス

 どう考えてもそれでこの部屋を破壊するわけではないことはわかる。

 ゆっくりと振り上げられ湊目掛けて__


  「や、やめ___!!」

  「ふんッ!!」

  「______ッ_____!!!!!」


  声にならない悲鳴が響く。

  腹に叩きつけられ切り裂かれる激痛と血が勢いよく出ていく感覚。


 そんなことが場所を変え数回続き止まった。

  左腕はかろうじてつながっている。右腕は鎖に残り右腕のあった肩からは血しぶきが噴出している。


  「______」


  感覚としてあるのは激痛のみ。


  「ほう?この状態では死なないか」


  死んでいない。それだけは確かに激痛の中で分かる。

  床が見えた。黒かったものは今は血で真っ赤に染まっている。

 どう考えても血の量がおかしい。

  少ないのではない。出すぎていておかしいのだ。

  普通の人ならすでに死んでいるはずだ。


  「……あ?」


 ふと、右腕の感覚が戻っていることに気が付いた。

  激痛もいつの間にか収まり腹から飛び出していた臓器も元に戻っていた。


  「次はこれだ」

  「___ッ___!!!」


  指の先がゆっくりとのこぎりで切られていく。

  悲鳴が途絶えることなく実験という名の拷問が続いていく。




  「はぁ…はぁ…湊…君…」

  「落ち着け菜緒ッ!!」

  「落ち……着けな…いよ…だって__!!」

  「いいから一回休めって!!」


  湊が攫われてから1日、菜緒は休まずに探し続けている。

  当麻がどれだけ止めても聞く耳を持たずに走り回って探していた。


  「湊君を………見付けなきゃ……」

  「その前にお前が倒れたら意味ないだろうが!!」

  「私は……大丈夫だから……」

  「そんなわけねえだろうが!!」



  「失礼します」



  「わぷ!?」


 いきなり現れたロナウドが菜緒の口に何かを放り込んだ。


  「……何ですかこれ?」

  「ただの栄養補給ですよ。そのまま飲み込んでください」


 いわれた通りに飲み込むと確かに少し顔色が良くなった。


  「ありがとう……ござい……ま……」


 パタリと倒れこんだ菜緒をロナウドが支える。


  「……ほんとは何食べさせたんですか?」

  「いえいえ本当に栄養補給ですよ。ただし副作用で眠くなりますが」


 にっこりといつもと変わらない笑顔に少しホッとした。

 まだ1ヶ月も経っていないのに笑顔を見ただけで不思議と家にいるような安心感がある。

 それだけこの人にカリスマがあるのだろう。


  「それだけ追い詰められていたのでしょう」

  「……平然と人の心読むんですね」


 それが心遣いだというのもわかっている。


  「一度戻りましょう。菜緒様も限界ですが当麻様も限界かと」


  確かにそうだと今更ながらに気づく。

  今自分の顔を見ると菜緒ほどではないがひどく真っ青だろう。


  「偉そうに菜緒に言えないなぁ……他の皆はどうしてますか?」

  「同じように憔悴しきっていたので皆様部屋で休息をとっていらっしゃいますよ。話はぐっすりと眠った後にでもしましょう」

  「そうですね」


 ゆっくりと城に戻っていった。

  握りすぎてついた当麻の手の傷には一切触れずに。



  「はぁ……はぁ……はぁ……がふッ……!」


 もう何度目かもわからないくらい血反吐を吐いた。

  何度も腹を切り裂かれ腕を切断され。けれど死ぬことが出来ない。

 そんなことを繰り返されているのに心が壊れることもない。


  「ふむ……」


  何かを書き込む。これも何度目かわからない。


  「順調かね?」


  一人二人と部屋に入ってきた。


  「ああ先輩方。順調ですよ。それに興味深いです。これを」

  「おお!始源龍の血が安定しているのか!!これは凄い……!!」

  「彼の適性だったのかもしれない。今までの召喚術師はダメでしたからね」

  「次はこれを使おうと思ってます」


   液体の入った注射器。


  「あれか」

  「吸血鬼の血。彼には初期段階で投与していませんから」

  「ああああッッ!?!?!?」


  血が全身をめぐる感覚がする。

 めぐりながら全身をズタズタに引き裂いていく。

  意識が落ちる。ゆっくりと。



  暗く深いどこともわからない。

  体の感覚もない。

 これが死だろうか。

 いや、違う気がする。

 ゆっくりと視界が開いていく。

 そこに広がるのは燃え広がり続ける炎と__黒い龍。

 その龍は時々ノイズが走るように色を変化させ続けながら暴れていた。

 胸に広がる感情はただ怒りと悲しみのみ。

  足元で何かの声がする。


 ―――まだ残っていたのか。


 そんなことを思いながら”それ”を握り潰す。

  大切だった。

  闇の中で唯一の希望だった。

 それをこいつ等は___!!


  「GYAAAAAAAAAAAッ!!」


  龍の咆哮が響く。

  破壊の限りを尽くした。

  足元でまた声がする。

  無感情にそれを握り潰しゆっくりと手を開いた。


  腕の中のそれは”   ”だった。


  「どうして……」


  自分の呟きが聞こえる。

 こんなことのために俺は___。




  「うぁぁぁぁぁぁ!!」

  「ひゃあ!?」


  叫びながら飛び起きた。

  夢の内容を思い出せない。

 けれどとても重要で悲しい出来事なのは覚えている。


  自我を失い助けたかった人を自分で殺した。

  漠然とわかっているのにそれが誰か分らない。

  夢特有の曖昧な記憶。


  「ん?」


 そういえば起きた時に誰かいたような___。


  「……起きたのね」

  「………」

  「生きてるようで安心したわ。じゃあ私はこれで__」

  「さっきの可愛い悲鳴はミーナ?」

  「ッ~~~!?違うわよ!?」

  「え~でも」


 あたりを見回してもほかの人はいない。


  「いや~~ツンツンしてると思ったら案外かわ___」

  「それ以上言ったら刺すわ」

  「……ハイ」


 どこから出したのかわからない槍を突き付け鬼気迫った顔で脅迫__もとい…いや言い換えれないや。


  「何か?」

  「お世話アリガトウ感謝シテマス」

  「……まあ当り前よ」


 やっと槍をおろして落ち着いてくれたようだ。


  「……わかったかしら。彼らのことが」

  「……怖かった。途中から同じ人間に見えなくなった」


  無意識に震える腕を抑える。


  「……何をされたか、とは聞かない方が良さそうね」

  「……少し一人にしてくれ」

  「……わかったわ。部屋の前にいるから」


  最後のプライドでミーナを部屋の外に追い出すのが精一杯だった。

  出ていくのを確認した途端我慢していた涙が止まらなくなる。


  「……ぅぅ……うぅぅ……あぁぁぁ……!!」


  壁に何度も頭を打ちつける。

  何度も何度も。


  「何で俺なんだよッ!!なんで!くそ!!くそ!!」


 あの拷問の中死ぬことも壊れることも許されない。


  「何で……!!」


  出てくるのはそんな言葉だけだった。



  外の壁に寄りかかりながら彼の悲痛な声を聞いていた。


  「……なんで私なのかな……」


 いつもそうだった。自分が来て担当するようになって。

  来る人にルカと一緒に話をする。

 いつもみんな同じ。泣いて暴れてそれでも逃げられないと諦める。

 ここの人たちは狂っている。

  研究者も自分たちも。


  「どうしろっていうのよ……」


  静かに一人で泣いていた。



  「……悪い落ち着いた」

  「……別にいいわ。皆同じだから」

  「……?なんか目が赤いぞ_おぶ!?」


  重い一撃が腹に見事に決まる。


  「い、いい一撃をお持ちで……」

  「……?結構本気で撃ったんだけど……意識どころが命も奪うくらい?」

  「そんな危険だったの!?」

  「大丈夫よ。命までは取らないから」

  「さっきと言ってること矛盾してるよね!?」

  「仲良さそうで安心したよ」

  「どこをどう見たらそう見えるのかしら?」

  「僕の見間違えでした」


 構えていた槍を下ろすミーナ。

 こいつはここのボスか。


  「よろしい」

  「槍で脅すの日常的?」

  「あ?」

  「いや、なんでもないです」

  「湊君に紹介したい人達がいるんだ。来てもらえるかな」


  案内された広場には大勢の人達が集まっていた。

 ここにさらわれた人達の数の多さに改めて愕然とする。


  「こんなにいるのか……」

  「緊張する?まあ、誰だって大勢の前で話すのは緊張するさ」

  「そりゃ見られていると思うと緊張するだろ………ん?」

  「どうかしたの?」

  「……確認したいんですが誰が大勢の前で話すって?」

  「湊君が彼らの前で話すんだよ」

  「何を?」

  「自己紹介?」

  「どんだけ自己紹介好きなんだよ!?俺もうしたよね!?こんな罰ゲームする必要なくね!?」

  「自己紹介大事なんだよ!?」

  「そこじゃねえ!何も全員集めなくていいだろ!?こう各々の家をまわって挨拶するとか___」

  「正直めんどくさい」

  「さらっとぶっちゃけた!?」


 いやいや駄々をこねる湊を無理矢理中心に引っ張っていく。


  「大丈夫だよ。エイナちゃんも一緒にやるんだから」

  「嘘だ~~!だっていないじゃん!!俺一人だとほんとに罰ゲームにしかならないって~~!」


  抵抗むなしく中心に到着してしまった。


  「お、お待たせしました……」


  少ししてエイナがやって来た。


  「……………おおう」

  「最初の一言がそれなのかしら……」


 あきれたようにミーナがつぶやいた。

  一緒に来ないと思ったらエイナの方に行っていたのか。

 いやそんなことはどうでもいい。


  「どうでしょうか…?」


 エイナの今の恰好が問題だ。

  先ほどまでは城で着ていたドレスでそれもさらわれたときに抵抗したのだろうボロボロになっていた。

  今はここの人たちが着ている服を着ている。

 動きやすそうでとても可愛らしい。

  髪のポニーテイルにしているためか活発そうな村の看板娘という感じの___。


  「ふっ!!」

  「ほげら!?」


  先ほどと同じ重い一撃が見事に決まる。


  「感想くらい言いなさいよ」

  「おお……なんかお花畑が~……」

  「もう一発いっとくか」

  「いえ十分であります!!」


 それでは改めて。


  「すごくかわいいです姫様」

  「ッ!!ありがとうございます!」

  「あの~……もう進めてもいいかな?」



  「「っ~~!?」」



  衆人環視のもと罰ゲームの終了が告げられた。



  無事に自己紹介も終わり、これから暮らす部屋に案内された。


  「僕と一緒の部屋ね。エイナさんはミーナと同じ部屋だよ」

  「部屋が空いてないのか?」

  「違うよ。担当が僕とミーナだからね。慣れるまでは近くにいた方がいいんだよ」

  「慣れるまで、ね」

  「……湊君は何か注射をされなかったかい?」

  「ああ、なんか吸血鬼の血?っていうのをされた」


 されたことを全部話した。

 まだ恐怖は残っているが先ほどよりは幾分かましになっている。


  「やっぱりか……それはねここの人たち全員がまずはじめに打たれるんだ。死にずらくなるように」

  「吸血鬼っていうと不死身になるんじゃないのか?」


 よくある話では吸血鬼に血を吸われると吸血鬼になる、や吸血鬼の眷属になると~~~など様々だが決まって不死身といわれるのがポピュラーだ。


  「人それぞれかな。身体能力が飛躍的に上がり不老不死になる人もいるけど再生能力が高くなるだけって人もいる」


  共通しているのは一つだけ。心の変化。


  「心が壊れなくなるだけじゃない。恐怖や不安いろいろな感情が少しずつ感じずらくなる」

  「じゃあ、俺の心が壊れなかったのもそれのおかげか」


 おかげというべきかその所為というべきか。


  「う~ん……君のはわからない。投与されたのがあとだからね。その前に常人なら心は壊れる。それに__」

  「それに?」

  「その回復力がわからない」

  「回復力か……」


 そういえば何かを言っていたような気がする。


  「始源龍」

  「まさかその血をッ!?」


 その単語をつぶやいた途端興奮気味に聞いてきた。


  「そんなことを言っていたんだよ。『始源龍の血が安定している』とか」

  「………そんな……」

  「何かあるのか?」

  「……君のその黒い腕。多分それは始源龍の血のせいだ」


 いろいろあって忘れていが確かに切断されたはずだった。

 そのあと何かを打たれた気がする


「そして君の再生能力や心の強さ。それも全てその血のせいだろう」

  「………なあ、ここからいなくなった人って__いや、やっぱりいいや」

  「……みんな死んだよ」

  「俺は__」


  「魔物が来たぞぉぉぉぉぉぉ!!」


  誰かの叫び声が聞こえ外が慌ただしくなっていく。


「ッ!!話はあとだ。行くよ」

「行くって__」


「魔物退治だよ」


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