第四種接近遭遇
「いや、誰だアンタ?」
「ロリー、そう呼んでほしいのはオーロラ・シルクという名前からだから」
「そうか、俺たち知り合いか?」
「会ったのは今日、初めて」
冷静さを取り戻したハヤトはこの少女の奇妙さはしゃべり方だけでなく服装にもあることに気付いた。
三角帽に仰々しいマントそれにブーツときた。まるで小説の中の魔女がそのまま出てきたみたいだ。自家製のテクスチャだろうか。いや、なんのタグもアカウントも紐づけされていないからバーチャルではなく本物の服だ。
それにただの一つもアカウントがポップアップしない。名前や性別すら非公開領域になっていた。そもそも彼女を示す生体シグネチャが一切ない。かといって工業シグネチャもない。だからこそ、彼女を映像だと思ったわけだ。
ハヤトはこの少女の正体を最近話題の超自然派だと予想した。
超自然派とは名前の通りバイオ技術やMR技術、トランスヒューマンの一切を認めない団体だ。建前上は自然に帰ることが救いらしいがそのわりにはあちこちのSNSで炎上している半宗教的組織である。
そもそも道端のダンボール箱の中でで体育座りをしてる人間がまとも人種のわけがないのだが。
「勧誘か?生憎だが俺は科学と技術を信仰してるんだ。」
「違うのは勧誘で正しいのはお願い」
ロリーは無表情のまま小首を傾げながら上目遣いになる。文献が正しいなら地球の雄性生命体はイチコロのはずだと信じながら。いつかではなく今ここで決めさせねば、今日は右も左もわからぬ土地で野宿になってしまう。
「ええと、それは」
「ハヤト、関わる必要ないわよ。さっさと帰りましょ?」
確かにハヤトには効果抜群だった。
残念ながらカエデには逆効果だった。
むしろキレ気味だ。
「なにデレデレしてんのよ!」
「だからもうちょっと考えて行動しようと言ったじゃないっすか、ロリー!」
ぴょこりとダンボールの中から黒猫が飛び出した。かなり流暢に日本語を話しながら。
これはかなりハヤトの気を引いた。
普通に考えればこれは猫型オートマタだ。しかし、となりに座る変人と同じように一切のシグネチャがポップしなかった。つまりこれは生身のノラネコということになる。ペットであるならば飼い主が誰かといった基本データがでるはずだからだ。
「おい、そこの黒猫お前はなんだ?」
「あたしはロリーの使い魔のアニスっす。それで、頼みたいことがあっ」
「よし決めた。お前らとはもう何も話すことはない」
一体どういう技術なのかはさっぱりわからないが変人ということは伝わった。もうこれ以上関わっているのはリスキーだ。
頼みなど厄介ごとに決まっているし、宗教の勧誘だったらなおさらだ。
「ほら、行くぞ」
再び楓の手を引いて家路を急ぐ。
触らぬ神に祟りなし。
それがハヤトの信条であり、大概のことはそれでうまくいっていた。
ところが今回はそうもいかないのだった。
何故だって?何故なら彼と彼女が出会うのは確定した未来であるからだ。
魔法少女がかくあれかしとそう決めたからだ。
***
「行っちゃいましたね。次どうするっすか?野宿の準備っすか?」
「むぅ、おかしいのは泊まらせてもらえないことかしら。きっと原因があるのはアニスなのよ」
「人のせいにしないでほしいっす。ふつうはそんな簡単に見ず知らずの人を家にあげたりしないっすから。ロリーは自分の会話力のなさを自覚するっす。」
「、、、誰かしら、そこに!いるのは!」
「っ!?」
アニスがロリーの差したほうを振り向くもそこには誰もいない。魔術的欺瞞工作も施されていないただの道だけだ。
「感じたのは監視かしら?」
「ロリーが言うならきっとそうなんすかねぇ?とりあえず、今からの行動方針はどうなったんすか?」
「はぁ、仕方なくするのは水の確保かしら。諦めるのが温かい食事と布団なのよ」
「魔力が異様に少ないっすからねぇ。魔法体系も不明っす、でも大都市ならアウトローからお詫びをもらうのが早いっすかね」
「まぁ何とかするのが魔法少女なのよ」
あえて治安が悪い地域に赴き、わざと自分をカモに見せかけ、襲ってきたところを返り討ちにする。魔法少女だからと言って、魔力を使わない戦闘が弱いわけないのだ。ついでに現地人から情報も手に入れれるのだから一石に二鳥である。
「やっぱり文献だけじゃ分からないもんっすねー」
「素敵なのは本物の体験かしら」
「、、、ロリーは言葉の勉強をもっとするっす。」
金を強奪するというのはジョークだと思ってるのは一匹だけだった。
一匹は親切な人に事情を話せば何とかなると考えていた。
もう一人はとりあえず殴って解決することだけを考えていた。