世界の中心で穴を開けた少女
ひとつだけある丸窓から外を眺めてみる。もう見えてるかなあ…………!
ああ、見えた。
地球は青かった。
いや、過去形にするのはおかしいかな。
とりあえず知識として青いとは知っていたけど改めて実感できた。地球とは青い惑星だ。まるで巨大な硝子細工のように……。
「ふつくしい……」
「ロリー!?言ってる場合じゃ無いっすよ!このままじゃ落下死してしまうっす!何でもいいから早く手伝うッす!」
「むぅ、わかってる」
思わず声が漏れて怒られてしまった。アニスは優秀な黒猫だがすぐパニックになるのが欠点だ。
成層圏から地球に小屋でダイブしているんだよ。私だって現状を何とかしたいとは思ってるけど減速を試みた後、私に出来る事は神に祈るくらいしかないんじゃない?
まぁ声にしたらもっと怒られそうだから何も言わないけど。
アニスも無駄なんか努力か止めたらいいきのに。初めてみる地球はこんなにも美しいのに。
*
茶髪でセミロング、黒いローブに白いブリーチをつけた《《いかにも》》な魔法少女ロリーと彼女の助手猫アニスを乗せた舟(実際はトタンの小屋のような見た目だが便宜上舟としておく)はロリーとアニス(主にアニス)の奮戦も空しくばらばらに壊れながら地球へ向けて落下していった。
ロリーは達観した様子で何故こんなところにくる羽目になったか回想し始めた。アニスは絶望した面持ちでこの自由落下、万有引力の法則に抗おうと壁に付いているあちこちのメーターを見て回りレバーをガチャガチャさせた。
ただし得られた成果といえばはロリーにうるさいと言われただけだった。
「ふにゃぁあああ!ロリーの実験の巻き添えで死ぬのはいやっす!まだ先月の給料も貰ってないのに!」
「やかましいわよ」
ロリーは杖でアニスをぽかりと殴った。
「私は魔法少女でしかも杖を持っているのよ。少しは落ち着きなさいよ」
*
もちろん彼女たちがこの成層圏からのダイブで死ぬことはない。死んでしまったら物語が始まらないからだ。だいたい杖を持った魔法少女はめったなことでは死なないものだ。奇跡的にいや、魔法的に一人と一匹は無傷で着陸する。
そんな彼女達を驚愕させるのは何十メートルもある四角く巨大な建物とかちこちで黒くて規則的な地面、せかせかした大量の人、人、人。たとえ聖京だろうとこんなに人は居ないはずだ。
「あー、あの地面に刺さった巨大な杭みたいなのに激突しそう。」
「ふみゅ!まさか異世界人は巨人族みたいにデカイんすかねぇッ!?」
*
とにかく一人と一匹は異世界《地球》に漂流してしまったのだ。
そしてこれから始まるのは1人の魔法少女が自らの安眠のためにがんばったりがんばらなかったりした結果、助手がとばっちりをくらう、そんな物語である。