第7話:輝く夜
辺りは真っ暗になっていた。
俺──フェクターは、大きなコートを羽織って、ルナと山を下りていた。
なぜ、コートを羽織る事になったのか?
話は、1時間前に遡る。
〜〜〜〜〜
剣がおかしい、という事を知り、俺が青ざめている間にも、ルナは考えていた。
ルナは、「気にしすぎよ」と言っていたが、最終的には、意見を出した。
その意見は、「剣を隠して、目立たないように移動する」である。
いい案だと思った。
なぜ気づかなかったのだろう、とも思った。
そしてルナは、
「ちょっと待ってて。
用意してくる」
と言って山を下りていった。
俺は、
「気をつけろよ」
としか言えなかった。
俺は、建物の影──ちょうど階段からは死角になる位置に移動した。
女子にすべて任せるのは、いくらなんでも悪いだろう。
だが、何もできない。
俺は、いずれ何かを返そう。
でも、何を返せば・・・?
いくら考えても、今は意味があまりなさそうなので、家に関して考える事にした。
さっきのルナの反応を見るに、俺が家を買うのは、何かまずいのだろう。
やはり、野宿する事になるのだろう。
その時は、ここを使おう。
半日、誰もこなかったし。
屋根壁は、魔法があればなんとかなるだろう。
と、考えていると、コツコツと足音が聞こえ始めた。
影から出て、階段に目を向けると、そこそこ大きな布製のバッグを持ったルナが立っていた。
彼女は、俺を見て微笑みながら言った。
「これで、なんとかなるわ」
ルナがバッグから出したのは、黒っぽいコートだった。
裾が長い。
俺が着れば、膝下まで隠れそうだ。
渡されたので、上から羽織る。
「どうかしら?」
「ぴったりだ。
ありがとう」
心配そうな顔をしたルナに、俺はにやりと笑いながら頷きかけた。
袖を通すと、剣は外から完全に見えなくなった。
少しぶかいが、そのおかげで剣がコートの内側に入るゆとりがある。
俺の答えを聞いて、満足そうに頷いたルナは一言、
「ついてきて」
と言って、ゆっくりと歩き出した。
〜〜〜〜〜
そして俺は今、山を下山しきった。
空を見上げると、満点な星空と、丸い大きな星があった。
月もあるらしい。
トネアで見たものより丸い月。
銀色に光る満月。
だが、不思議な事に、星もはっきりではないが、十分見えていた。
とても綺麗な満月だ。
綺麗で、声も出ない。
「ほら、行くよ」
ルナが、空を眺める俺を促した。
「・・・ああ」
俺は頷き、目線を下ろした。
すると。
「・・・おぉ」
思わず、息が漏れた。
綺麗だ。
遠くに見える街も、電気と呼ばれる技術によるものか、星のように輝いていた。
空も街も、とても綺麗だ。
気をとりなおして、俺は歩き出す。
星のように輝く街に向かって。
「フェクター」
ルナが話しかけてきた。
「心配しなくても、毎日見れるよ」
なんだその言葉は。
まるで俺が景色に感動しているような言い方だな。
でも。
「・・そうか。
いい世界だな」
俺は、頷いた。
どうやら、自分で思っているよりも感動していたらしい。
「・・・・・」
ルナは、複雑な表情をしていた。
悲しみと嬉しさ、懐かしさが混ざったような表情。
本人は、いい世界とは思ってないのかもしれない。
「・・・行くよ」
でも、やっぱり最後は微笑みながら言った。
俺は、ルナに続く。
街に着いた。
誰も剣を持っていない。
やっぱり、自分の知っている世界とは違う。
剣を今見せると、大騒ぎになるだろう。
ルナは、曲がり角を迷うことなく、どこかに向かっている。
曲がり角をかなり多く曲がった。
もう、俺1人では、さっきの山まで戻れないだろう。
そんなことを考えながら歩くこと5分。
ルナは、一軒の家の前で止まった。
いたって普通の一軒家だ。
門を通り過ぎるときに表札を見ると、「池逢」の文字。
ルナの家らしい。
「確認するけど、家がないんだよね?」
ルナが振り向く。
俺は頷く。
ルナはなぜか頷くと、
「じゃあ、入って」
と言って、ポケットから鍵を出し、ドアの鍵穴に差し込んだ。
「・・・え?」
ルナの家・・・だよな?
なんだこの展開の速さは。
いや、でも・・これは。
・・・・いいのか・・・?
フェクターは、割とチキンなとこもあります。