第6話:日本
フェクターの説明が終わった。
私───ルナは考える。
正直、簡単には信じられない。
言っていることが本当なら、彼は、珍しいことにもトネアという異世界から来たようだ。
覚えてないらしいが、事件もあったらしい。
その事件について、いつか思い出してくれることを願う。
だって気になるもん。
「じゃあ、こっちの番だね」
私は、この国──日本について、説明を始める。
「この国は、日本って言うんだ」
まずは何を説明しようか?
法律?常識?国?
あ、そういえば、この人剣持ってるな。
剣は持ってるとまずいだろう。
よし。
「まず、剣は持ってちゃいけないよ」
「えっ?ダメなの?」
フェクターは、私が予想していたより、かなり反応が薄かった。
もっと驚けよ。
「うん。
銃刀法って法律があってね、銃とか剣とか、人を殺せるものは、持ってちゃいけないよ。
それ、真剣でしょ?」
かなり短く銃刀法を説明して、一応確認する。
フェクターは頷き、剣をゆっくり抜いた。
本当に刃があった。
金属でできた剣。
彼は、近くに生えていた高さ2メートルほどの細い木の前に立った。
右手に剣を持って、剣を正眼に構えている。
彼が右手の手首から先だけを素早く横に動かすと、剣が鋭く振られた。
ヒュンッ!という綺麗な音が聞こえ、光が一瞬反射した。
バサッという音がして、音のした方を見ると、木が切断されていた。
「・・・・これで、わかったかな」
フェクターがつぶやき、剣を鞘にしまった。
その剣が真剣ということがはっきりして、思わず息を飲む。
「・・で、銃って何?」
驚いて黙っている私と反対に、微笑みながら質問する彼を見て、私は今さらながらに異世界の、剣を持っていいという常識を理解した。
説明再開。
「銃は、遠距離の人にも攻撃できる、人1人で扱える最強の武器よ。
撃たれたら、高確率で死ぬわ。
まあそんな武器があるから、剣が使われなくなったわね」
私は銃をそう説明した。
彼は、「魔法に似てるな」と言っていた。
いつか魔法も見せてくれるのだろうか?
さすがに使えないだろうけど、できるものなら使ってみたい。
「この世界であった戦争は、最近のはだいたい、銃と爆弾が使われてるわ」
爆弾は、あちらの世界にもあるらしく、フェクターは何も聞いてこなかった。
私は、その他にもいろいろ説明した。
お金に車、電気にガス....
彼が一番反応したのは、意外にも学校だった。
「ガッコウって、行かないといけないのか?」
「フェクターは16歳でしょ?
じゃあ義務じゃないわ。
行ってる人の方が多いけど」
フェクターは、顎に手を当てた。
学校について悩んでいるようだ。
「・・・・まあいいか」
彼はそう言うと、手を下ろした。
解決したらしい。
「ガッコウはいい。
家の買い方を教えてくれ」
やはり、悩んでいたのは学校のことだったらしい。
解決したのはいい。
だが。
「は?」
家を買う・・・・?
急だな。
どうしよう。
・・・あっ、そうだ!
「そんなことより、ゲームって知ってる?」
これぞ秘技、「話をそらす」!
・・・・・まあ中二病的発言は置いといて。
うまくいったか!?
「なんだゲームって」
かかった!
よかった、ゲームの事話してなくて。
「ゲームって言うのはね・・・」
ゲームについて説明する間に、私は、家についてどう答えるか考える。
「・・・って言うのがゲームでね、他にもいろいろ種類があるんだ」
「そのカードゲームなるものに似たものなら知ってるぞ。
ルールは違うようだがな」
「どんなの?」
ああ、いかん。
気になる事を聞いてしまった。
でも、今は家よ家。
「ルールはな、まず、3枚のカードを・・・」
ああどうしよう。
どっちにも集中できない。
あ、でも住むだけなら・・・。
「・・・・という時は、そのカードを・・・ん、どうした?目が泳いでるぞ」
「ハッ!」
どうやら、家を気にしすぎたらしい。
聞き忘れてた。
「いや、家のことなんだけど」
「・・・それ考えながら聞いてたのか?」
「うん」
あ、驚いてる。
「とにかく、住む場所なら、なんとかなるわ」
「本当か!?」
「多分」
あ、すごい驚いてる。
でも、そんなことより大きな問題がある。
「さっき、剣を持っているのはまずいって言ったでしょ?」
私が問うと、フェクターは頷いた。
「ああ、やばいらしいな」
「じゃあわかると思うけど、あんた、町には行けないよ」
私が言うと、フェクターは、しばらく真顔で首をかしげていた。
だが、2秒ほどすると、その顔が驚きの顔に変わった。
「じゃあここに来るまでもまずかったのか?」
「見られてたら、まずかったわね」
「・・・・・!」
フェクターの顔が少し青くなった。
「見られてないから、大丈夫よ」
「本当にか?」
いやいやフェクター。
そう問われると、自信をなくすじゃん。
「・・・多分」
また、フェクターの顔が少し青くなった。
なかなか、面白い。
でも、本当にどうしよう。
そうこうしている間にも、夜は近づいていた。
フェクター達が今いる世界は、読者のみなさんがいる現代日本と、基本的に同じです。