第5話:トネア王国
「トネア王国は、人口50万人ほどの国さ。
面積も、隣国より小さいかな」
俺は、ルナに説明を始めた。
「数百年前から続いているという王家に統治されている。
関係ないけど、国内だけで、数十家ぐらい貴族の家系があるね。
そして、軍事力とか技術力とか、力ってつくものは、だいたい強いよ」
こうして説明すると、トネア王国ってやっぱ凄いな。
「ちなみに、トネア王国は、決して平和な国というわけではありません」
「と、言いますと?」
「6年前まで、トネアは戦争をしていたんだ。
勝ったけども、その後から、少しずつ犯罪が増え始めるんだ。
おかげさまで、騎士団は大忙しさ」
さて、この戦争、けっこう激しかったらしい。
俺はまだ騎士じゃなかったが、この時期から、国内にも、眼帯や義手をつけた人は、かなり多くなった。
「・・・戦争は、どこの世界にもあるんだね」
ルナがぽつりとつぶやいた。
ルナの口ぶりから、おそらく、この世界でも戦争はあったのだろう。
俺は思い出す。
右目を失った父。
物の少ない市場。
戦地に医者として連れて行かれ、表情が暗くなった母。
「・・・・・あんなの、無くなればいいのにな」
俺は独り言のように言った。
「・・・・」
「・・・・」
・・・話を変えよう。
「5年前かな?
王女様が誘拐されて見つからなかった事件があったんだ」
「事件」という言葉に、ルナが反応した。
「詳しく」
頼まれたら嫌とは言えない。
俺は、記憶の箱をひっくり返して、情報を思い出す。
「王女様が、自室から忽然と消えたのさ。
足跡などいろんな証拠から、辛うじて人攫いが侵入したのはわかったけど、それ以外の情報が全くなくてね」
「王女様見つかったの?」
ルナが質問した。
「いや、まったく進展がなくてね。
まあその事件があったから、王城騎士団が結成されたんだけどな」
「へ〜」
ルナはとても楽しそうだ。
きっと、推理小説が好きなのだろう。
「ねえ、他にないの?」
「事件?」
「うん」
もっと聞きたいらしい。
だが、俺はまだ騎士団のしたっぱだ。
加えて、俺は歴史に詳しくない。
他にも、探せばたくさんあるのだろうが、俺の知識で、今思い出せるのはこんなもんだ。
「他には、覚えてないな〜」
俺が言うと、事件は、諦めてくれたらしい。
ルナが何かを言いかけた。
「俺の口から説明できるのは、こんなもんかな」
もうネタがないので、先回りして、話を打ち切った。
ルナは、どこか不満そうな顔でこちらを見てくる。
「まあまあ。
思い出したら言うから」
「約束だよ!?」
「はいはい」
これで、ルナは満足したらしい。
ちょろい。
「じゃあ、こっちの番だね」
ルナが説明を始めた。