第4話:廃神社
ここまで話して気がついた。
トネア王国とこの異世界は、「言語がほぼ同じ」ということに。
トネア語がしっかり通じている。
さらに、トネア王国では、隣国から伝わり、以来使われ続けてきた「ボカズ語」も、ルナの言った、「池に逢うと書いて」という言葉から存在していることがわかる。
よく見ると、ルナの持っているカバンに書いてある文字も、ボカズ語だ。
字も同じらしい。
俺に都合が良すぎる。
まるで、誰かが仕組んだのかのように都合が良い。
いや、決して悪くはない。
これから過ごすのに、とても楽だ。
今は、気にしない。
今後、調べることにしようか。
覚えていれば。
だが、トネア王国について説明する前に、確認しないといけないことがある。
「ルナさん」
「何よ」
話しかけると、ルナは思っていたより不機嫌そうな声を上げた。
「敬語をやめて良いでしょうか?」
ーーー後から考えると、恐ろしく失礼なことを言っている。
今後は、もう少し考えて発言しよう。
幸いにも、ルナはまったく気にしなかった。
「ああそんなことか。
別にいいわよ。
なんなら、ルナって呼び捨てにしてもいいわよ」
俺は、ルナがフレンドリーで、本当に良かったと思った。
「・・・じゃあ、そうさせてもらうな」
「どうぞ、フェクター。
あ、フェクターって呼ぶね」
「・・うん」
考えて見ると、最初から一度も敬語を使ってないなこいつ。
前言撤回。
ここまでフレンドリーだと、いつか何か起こしそうだ。
少し 遠慮を覚えた方がいいかもしれない。
まあそれは後だ。
さっさとトネアについて説明しよう。
「えーっとですね・・・」
何から話すべきか・・・・。
と、ここで俺は重要なことに気づいた。
ここで話すと、塀の向こうに人が通った時に聞かれてしまう。
俺は構わんが、ルナに悪いだろう。
場所を移してもらおう。
「・・・・人が通らない場所で話した方がよくないか?
こんな話、聞かれたらお互いマズイだろ?」
ルナは、「なるほど」と言い、少し、下を向いた。
「・・・では、そこの山にある神社跡地に行こうか。
人はまったく通らないし。
知名度ないし」
そう言ってルナは俺の後ろ側にある山を指さした。
ということで。
俺は今、山の階段を登っている。
時間は昼ごろらしい。
そんな、そろそろ気温が上がりだす時間に、俺とルナは、手入れされず、人が通った形跡すら残ってない階段を登る。
聞こえるのは、風のざわめきと、鳥のさえずりのみ。
登り始めてはや10分。
階段に終わりが見えない。
両側には、延々と似たような木々が並んでいる。
近くの茂みからは、蛇が這うような音がしょっちゅう聞こえる。
俺は蛇が嫌いだ。
だから、俺は今、精神的にも体力的にも、少し疲れている。
ルナはどうなのだろうか?
少し、ルナと話すことにしよう。
「なあルナ」
「どうしたの?」
その声からは、疲れを感じない。
元気そうだ。
・・・・・・・・あれっ?
・・・・・・同い年・・・・・なんだよな?
「あとどれくらいで着くんだ?」
そろそろ休みたくなってきた。
「ちょうど見えてきたわ」
言われて坂の上を見ると、屋根のようなものが見えてきた。
よほど古いらしい。ところどころ穴が開き、今にも崩れそうだ。
全体が見えると、思ったより荒れていることがわかった。
壁に穴が開いている。
賽銭箱も、大きな横穴が空いていた。
残念だが、お金はもう入ってないだろう。
・・・・・・・・・・・・・いや、盗らないよ?
俺がいろいろ考えていると、ルナが説明を始めた。
「ここは15年前に、人がまったく来なくなって潰れた神社よ。
交通の便が悪すぎたのが原因だと、私は踏んでるわ」
ルナの説明を聞きながら、境内を見渡す。
苔の生えた石灯篭は崩れかけていたが、まだ形を保っている。
地面は膝までの高さの草が多く、水も枯れかけている。
時々、一滴落ちるが、その程度しか水が出ていない。
しかも、ここに来る前は明るかったのに、ここは薄暗い。
上を見上げると、周りの木々が生い茂り、狭い境内を覆っている。
遠くの木から、黒い鳥が飛び立った。
ここは、神社跡地というより、廃神社と呼んだ方が、違和感がなさそうだ。
まったく手入れがされてない。
だが、好都合だ。
たしかに、あんなことを話すのにはここはちょうどいいだろう。
近くにあった長方形の石に、ルナと腰掛ける。
「じゃあ、今度こそ教えてね」
俺はうなずく。
「じゃあ、そうだな・・・まずはトネアについてだ」
ルナの顔が、「待ってました」と言わんばかりに輝く。
俺は説明を始めた。