表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔法剣士〜in剣も魔法もない世界〜  作者: 柿ピー
第5章/ラスト1週間編
39/40

第39話:トネアへの帰還

 水曜日。

 トネアに帰るまで、あと2日。

 この日も、黒藻くんは家の前にいた。

 家を出る15分前にはもう家の前にいた。

 なんか怖いな。

 ちなみにこのことをフェクターに言うと、彼は「重いな・・・」という、実に常識的な言葉を出した。

 さて、昨日の夜にフェクターと確認しながら書いたメモ帳を再確認。

『◇水曜にやること

 1.校長の洗脳し直し

 2.黒藻くんを振る←容赦なく

 3.学校にある私物を全部持って帰る』


「ルナ、これ」

「何これ?」

 フェクターから手渡されたのは、一枚の紙切れ。

「召喚魔法の魔方陣。もう片方はリビングに置いとく。好きなタイミングで荷物を送ってくれ」

「ありがとう。助かるわ」

 私はそれをポケットに入れ、家を出た。


「おはよう」

「おはよ〜」

 なぜ家を知っているんだろう・・・?

 ・・・おぉっとこれは考えないんだった。


 お互い、無言で通学路を歩く。

 私は、黒藻くんをどうしたかったのだろう?

 "好き"という感情もなければ、"嫌い"という感情もない。

 こんなんで、彼は良かったのかな?

 とても今更な疑問。

 そんなことを考えると、自然とため息が出る。

「どうかした?」

「・・・ううん、なんでもない」

 そうだ。

 今日、私は彼を振る。

 記憶を消しやすくするために、彼を容赦なく振る必要がある。

 見上げると、とても、とても澄み切った青い空。

 今すぐにでも台風が発生してしまえば良いのに。

「池逢さん」

「何?」

「大丈夫?顔暗いよ?」

 ・・・これを振るのか・・・。

「大丈夫よ」

 あぁ・・・憂鬱だ。



 授業に集中できず、悶々と過ごすこと四時間。

 昼休憩である。

 そして今、私の目の前にいるのは───

「どうしたのかね?」

 校長先生だ。

 前の魔法で情報を詰め込みすぎたか、薄毛化が加速した校長先生だ。

「いえ、大したことではないんです」

 視線が頭に向かう。

「わしの頭がどうかしたかね?」

「いえ本当になんでもないんで!」

 怖い!オーラが怖いよ!!

 ここまで薄毛を気にしてると、なんだか申し訳なくなってくる。

 心の中で全力で謝り、

「『私想化矯正(マインド・コントロール)』」

 魔法を使った。

「はぁ・・・」

 ため息が出る。


「失礼しました〜」

 校長室から出て、ポケットからメモ帳を取り出す。

「さて、次は・・・」

『2.黒藻くんを振る←容赦なく』

 ・・・・・。

 昼食のついでにやるか。


 教室にて。

 いつものメンバーで弁当を開き、雑談。

「私、明日引っ越すの」

 会話が途切れた一瞬をつき、出来るだけ自然に言った。

「そう言うわけだから、黒藻くん、今日までね」

 何が、とは言わない。

 ついでに、麗乃の方を向く。

「ごめん、黙ってて」

「いや、知ってたよ?」

「え?」

「え?」

 なんだその心外そうな顔は。

 ちらりと黒藻くんを見る。

「・・・ごめん」

 やっぱりか。

 や、別にいいんだけどね。


 黒藻くんは、案外あっさりと了承した。

 本心ではどう思っているかわからないが、そんなことは考えてもキリがない。

 だから私は、考えないように・・・

 そういえば。

「黒藻くんなんで私の家知ってたの?」

「・・・いや、何と無く?」

「・・・・・」

 怪しい。

 絶対何か隠してる。

「あのー池逢さん?」

「『白状(オープンシングス)』」

 この魔法は、トネアの憲兵や王族に継承される魔法だ。

 使い手の技量次第だが、かけられた者は思考が無意識のうちに声と成り口から出てくる。

「池逢さん?いったい今のは?」

「なんで知ってるの?」

「いや〜言えないよストーキングしたなんて・・・あれぇっ!?」

「ほう?」

「や、やましい気持ちはなかった・・訳でもなくて、ただ、可愛いと思ったから・・・うぇぇっ!?」

 ・・・少し面白くなってきた。

「今は?」

「正直未練しかない・・・うぅぅ」

 ・・・超面白い。


 そして、3分後。

「うぅぅ、こんなはずじゃ・・・」

 可哀想になってきた。

 そろそろ解呪するか。



 放課後。

 みんなが帰った後、ロッカーの中身を全て机の上に置く。

 その下では、魔法陣が下敷きになっていて、端の方が教科書の隙間から見えている。

 その隙間に指を入れ、魔法陣へ魔力を入れる。

 しばらくすると、教科書がこの教室から喪失した。

 魔法陣の魔力のせいか、少し土臭い匂いが湧いた。

「え!?」

 その声に驚き、教室の後ろを見ると、クラスメイトが1人、立っていた。

「・・・・」

 さて、どうするか。

 いや、こんな時のための魔法か。

 私は手をかざし───

「『忘却(フォーゲツ)』」

 記憶を消した。


 消してから思った。

 手品で誤魔化せたのでは・・・と。


「よし・・・と」

 全ての荷物を送った。

 後必要なのは・・・

 何もないな。


 ◇ ◆ ◇


 それは、突然だった。

 夕日が差し込み始めた頃だった。

 俺──フェクターはリビングでお菓子を食べていた。

 日本のお菓子は美味い。

 これが人工甘味料とかの力なのか、トネアのお菓子と何かが違う。

 特に、このポテチとか言うやつ。

 俺の好みにぴったりハマった。

「これは持って帰って研究する必要があるか?」

 夕日を浴びて、パッケージがキラキラと光っていた。

 そのとき、目の前の魔法陣が光った。

 立ち上がる間も無く、ものが送られてきた。

 ・・・次から次へと。

「え、ちょ、ま、多っ!?」

 ドサドサと転送されてきたそれは、確実にリビングに積まれていく。

 実に様々なものが送られてきていた。

 そして、最後に来たのは。

「え、机・・・!?」

 こいつ、思い出のあるものは全て持って行く気か!?

 机が、教科書タワーの上でバランスを崩す。

 在ろう事か、それはまっすぐこちらへ転がって来た。

 背後には、壁。

 両はしには、テレビと棚。

 逃げれん。

「嘘だろぉぉぉぉ!!」

 残念なことに、その悲痛な叫びは机には届かなかった。


 ◆ ◇ ◆


 それは偶然だったのだ。

 物を送り終えた私は、疲れたので伸びをした。

 これがいけなかった。

 伸びをしたとき、たまたま魔方陣に当たり、紙がひっくり返った。

 魔方陣は、まだ魔力を含んでおり、そのまま魔法を発動させた。

 まあつまりは、机を転送してしまった。

「・・・まあいっか」

 この時はまだ、家に帰ると大変なことになっているなんて想像もしなかった。

 だから。

「ついでに椅子も送るか」

 ・・・なんてことも言えて、実際すぐに実行した。


 帰宅。

 する途中で、私は麗乃と黒藻くんを見つけた。

 遠目でもわかる。

 あれは、麗乃が告ってる。

「このタイミングでか・・・」

 ため息。

 そして予想通り、麗乃は振られた。

 仕方がない。

 やってみるか。


 私は駆け寄り、まず黒藻くんに『私想化矯正(マインド・コントロール)』をかけた。

 洗脳ってほんと便利。

 チョチョイと記憶と意識を弄り、私に向けていた好意を麗乃にまっすぐ向けた。

 麗乃には、『忘却(フォーゲツ)』をかけ、ここ五分間の記憶を消した。

 きょとんとする2人を尻目に、私は2人から距離をとった。

 電柱の裏から伺う。


「・・・・、・・・・・・・・・!」

「・・・・・」


 顔を見るに、オッケーだったらしい。

 しかし麗乃よ、それでいいのか?

 そいつ、つい昨日まで私に好意を向けてたんだぞ。

 怪しまないのか。

 むしろ怪しめよ。


 こうして、彼はまたリア充に返り咲いた。

 この先どうなるかはわからないが、まあ大丈夫だろう。


 ◇ ◆ ◇


 翌日。

 今日、トネアに帰る。


 電子的なアラーム音が部屋に鳴り響き、意識を現実へ戻させる。

「・・・やべっ」

 今日は時間を無駄にしないと決めたのに。

 目覚まし時計のスイッチを押し、アラーム音を消す。

 午前6時。

 カーテンの間からは陽が差し込み、鳥が騒がしく鳴き喚いていた。


 起きると、すでにルナはトーストを食べていた。

「トーストだけでいいのか?」

 ルナは首を横に振りながら、トーストを飲み込む。

「まあ大丈夫よ」

「いいわけないだろ。なんか作るから待ってろ」

 キッチンに立ち、冷蔵庫を開く。

 さて、今日は何にしようか?


 いつもとさして変わらない朝食を作り、いつも通り皿を魔法で洗う。

 洗いながら、ルナに問う。

「ルナのことは、トネアに行ったら王女様って呼べばいいのか?」

「・・・しょうがないわよね」

 いや、そもそも王女であるルナに今後も会えるのか?

 会えないのは、友達を失くしたみたいで嫌だ。

「まあ、たまに呼んだりするわよ」

 目線も合わさずに言われたその言葉に、俺は少し安心した。

「ありがとう」

 もう、心配事はほとんどない。



 10時に、モルデラがやってきた。

 もう、やるべきことはやった・・・はずだ。

 名残惜しいが、もう行こう。

「そういえば、どこにゲートがあるんだ?」

 俺のその疑問に、モルデラは半笑いで答えた。

「安心しろ。すぐ着く」

 ふと思い出した。

 ──転送したら、土臭い匂いがしたって、ルナが言ってたっけ。

 これが、昔──五月のバイト帰り──とつながった。

「まさか!」

 モルデラが、ニヤッと笑った。


 魔法陣の元へ行くと言いながら、池逢家の庭に出た。

 しかし、庭には魔法陣はない。

「どこにあるんだ?」

「まあ見てろって」

 そういうと、彼は一本の鍵を取り出した。

 鍵の名は『解呪鍵(ブレイクスペル・キー)』。


 『解呪鍵(ブレイクスペル・キー)

 その名の通り、鍵に当たった魔法を無力化する便利な鍵だ。

 魔方陣に使った場合、これが当たっている間だけ、効果が消える。

 俗に言う、対魔法師特殊装備。

 値は恐ろしく効果で、持っている者はとても少ない。

 壊れない限り永久に使えるので、ハイコストハイリターンだ。


 モルデラはそれを花壇のレンガに当てた。

 次の瞬間。

 レンガは、防水・耐衝の"蓋"になっていた。

 なるほど、『偽装(フェイク)』か。

 さらにその上から結界まで張ってある。

 つまり、見つけられることはまずない。

 しかも、それぞれがかなり上位の魔法なので、よほど強い魔法師でないと見破れないはずだ。

 モルデラがそれを退かすと、魔法陣が現れた。

 土臭い匂いが、あたりに広がる。


 あの日。

 五月の、古文堂をキレイにしたあの日に、おそらく(モルデラ)は日本に来ている──はずだ。

 だからあの日、土の匂いがいつも以上にしたんだ。

「その様子だとフェクター君、君は私がいつここに来たかがわかったようだね」

 モルデラのその言葉に、頷く。

「お前は、五月に来たのか」

「そうだよ」

「すぐそこがうちなのに、俺を探しだしたのか?」

「・・・そうだよ」

「だから恨みのこもった声で見つけた!なんて言ったのか」

「・・・・そうです」

「逆恨みじゃねーか!」

 まさかこんなことを突っ込むことになるとは、あの日の俺は夢にも思うまい。


 荷物を先にトネアに送った。

 そして、俺とルナはトネアの服装に着替えた。

 俺は、トネア製のシャツとズボン、鎧を身に纏い、腰に剣を吊り下げた。

 ポケットには魔法陣を入れた。

 ルナは、いかにも王族という感じの、派手なドレスを着た。

 そしてモルデラは。

「お前、着替えねーのな」

「マント羽織るから大丈夫さ」

 そういう問題だろうか?

 まあ、モルデラが言うから大丈夫なのだろう。


 モルデラが魔法陣に手をかざした。

 魔法陣が発光する。

 そして─────


 目の前にあるのは、石でできた壁だった。

 窓の外には、懐かしく感じる景色。

 高い樹木に、石でできた家。

 道を闊歩するのは、馬車と騎士達。

 アスファルトの道路やカーブミラー、自動車やビルなど、日本らしいものは1つもない。

 しかし、感じるのは、実家のような安心感。



「ああ、俺たちトネアに帰ったんだな」

「ええ、ほんと何年ぶりかしら」

 俺たちは、無事に帰還した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ