表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔法剣士〜in剣も魔法もない世界〜  作者: 柿ピー
第5章/ラスト1週間編
37/40

第37話:進展の月曜日

 俺は、古文堂で、店長に急遽国に帰る、と伝えて、バイトを辞めたい事を伝えた。

 店長は、「おー、そうかそうか。いつでも帰ってこい」と、本当にこんなんでいいのか、と思ってしまうようなゆるーい返事をした。

 しかしこの時、高校では、ルナが魔法を使っていたのだが、その事を知る者は、ルナ以外にいない。



 私──ルナは、深呼吸をしていた。

 目の前には、「校長室」と書かれたプレートの張ってあるドア。

 いつもは軽そうに見える木製のドアが、今はさながら魔王のいる部屋のごとく大きく、重く見える。

 現在、午前8時。

 あと十分で朝のホームルームである。

 そろそろ入らないと、ホームルームに遅れてしまう。

 私は、覚悟を決め、ドアをノックした。

 コンコン。

「失礼しま──」

 校長室には、誰もいなかった。

「──した」

 がちゃん、とドアを閉める。

 はぁぁぁ、と、ため息が出る。

 私の緊張を返せ。


「おはよう。今日は遅かったわね」

「おはよー」

 教室に入ると、麗乃と黒藻くんが席で話していた。

 最近よく一緒にいる気がするが、気のせいだろう。

 黒藻くんは、とても複雑な顔をしている。

「おはよ」

 私は、挨拶だけして、机に突っ伏した。

「ど、どうしたの?」

 彼がおずおずと聞いてくるが、まさか中退する事をいうわけにもいかない。

 結果的に、私は「ちょっとね・・・」と前置きして、

「なんか、疲れた・・・」

とだけ言った。



 昼休憩。みんなが弁当を開き始める。

「ルナ、食べよー」

「ごめん、ちょっと用事が」

「そ。どこ行くのよ」

「ちょっと、職員室に」

 もちろん、嘘だ。

 まあ、職員室と校長室は隣接してるし、問題はないだろう。

 私は、校長室に向かった。


 ボス部屋、もとい校長室前。

 やはり大きく、重く感じる木製のドアを、今度はためらいなくノックする。

「失礼します。一年の池逢です。少し相談があって来ました」

「はいどーぞ」

 今度はちゃんといた。


 我が校──的里高校の校長は、どこにでもいそうな年配の先生だ。

 特徴をあげるとするならば、白髪交じりの髪、銀縁メガネ等々色々あげれるが、一番大きい特徴は、何と言ってもその顔である。

 とても、温厚そうな顔をしている。

 人相にはその人の昔の行いが出るというが、だとすればこの人は、いったいどれだけ温厚に過ごして来たのだろうか?

 そう思うレベルの優しそうな顔をしたおじいさんだ。


「それで、要件は何かな?」

「私、高校を中退したいです」

「ほう・・・」

 私は、どんなに温厚な顔の人にも、やはり黒い一面がある事を改めて確認した。


「待ってください。ちゃんと理由がありますから・・・!」

「ふむ、理由だけなら聞いてやらんでもない」

「ありがとうございます」

 私は、これから使う魔法の事を思うと、とても申し訳ない気分になる。

 でも、私が帰るには、これが最善なのだ。

 だったら、やるしかない。


 私は息を少し多く吸うと──

「『私想化矯正(マインド・コントロール)』!」

「何を───・・・・」

 校長が動かなくなったのを見て、私はため息をついた。

 そして、校長を見つめながら唱える。

「池逢ルナは一身上の都合で中退。行き先は県外、書類はもう池逢家と校長自らが提出終了。それから・・・」

 唱えるのは、一晩かけて考えた池逢ルナの設定だ。

「・・・であるからして、生徒には県外に転校とだけ伝えること。完了(エンター)!」

「・・・ハッ!私は一体、何を?」

 校長が動いたのを確認し、私はホッとひと息つく。

 ちょっと矛盾する事を言っていたかもしれないが、私がいなくなるからなんとかなるだろう。


 私が使った魔法『私想化矯正(マインド・コントロール)』は、トネア王家に伝わる洗脳魔法だ。

 簡単にいうと、記憶操作魔法。

 洗脳したい人に向かって発動させ、設定を唱えると、対象はその設定を事実だと捉える。

 設定が長文でなくとも、簡単な記憶操作なら行える。

 しかし、今回の記憶操作は簡単なものでない。

 この国から死ぬ訳でもなく行方不明になり、かつ誰にも迷惑をかけないようにするには、設定を細々と考えてから伝える必要があるのだ。

 途中からメモ帳をチラ見していたが、しっかりかかったのだろうか?


 不安なので、校長に尋ねる。

「理由は、これでいいですね?」

「ふむ、私はいつ中退を許可したのだ・・・?まあいいか。しかし池逢、一身上の都合とはなんだ?」

 どうやら、しっかりかかっていたらしい。

「親の転勤です」

「君が決めたなら否定はせんが、しかし高校をやめる必要は」

「向こうで編入試験を受けるつもりです。安心してください」

 もちろん、嘘だ。

「・・・まあ池逢は成績は高いので、問題はないでしょう。頑張ってください」

「はい。ありがとうございます」

 こうして、私は高校を中退にこぎつけた。


 放課後。

 私は、久しぶりに1人で帰ろうとしていた。

 なんでも、麗乃は新聞部の方で〆切が迫っているらしい。

 帰宅部の私は、他に一緒に帰る友達も居らず、1人で帰ることになったのだ。

 今日はたまたま荷物が多いので、ある意味好都合かもしれない。

「またね、麗乃」

「うん、また明日」

 この挨拶も、あと数回しかしないと思うと少し寂しく感じる。


 さて、私のクラスは一階にある。

 故に、階段を降りなくていいのが、メリットの一つだ。

 階段を通り過ぎると、昇降口はもうすぐだ。

「待って」

 誰かが誰かを引き止める声も、ここでは頻繁に──あれ、今ここに人はいないぞ?

 振り返ると、黒藻くんが早歩きで向かってきていた。

「あら黒藻くん、どうかした?」

「す、少し、話が」

 そういうと、周りを見渡した。

 ちょうどやってきたクラスメートを見ると、

「ついてきて」

と言って、階段を上って行った。

 私は、「ちょっと待って」と言い残し、下駄箱の近くに荷物を置いた。


「で、何?どうかした?」

 屋上。

 最近では解放されている高校の方が少ないという、人目につきにくいスポットだ。

 黒藻くんは、そこで待っていた。

 一体どうしたのか、ひどく緊張している。

 彼は私を見ると、

「ちょっと池逢さんに用事が、ね」

 と言って、微笑んだ。

 まあ用事がなければ呼ばないはずだから、当たり前な事を言っているだけなのだが。

 彼は深呼吸し、こちらをまっすぐ見た。


「僕、池逢さんが好きです。付き合ってください」

「・・・・・・」

 突然で、言っていることがなかなか入ってこない。

 そして三秒後、私は、彼の言った言葉を理解した。

(えええええぇぇぇぇぇぇえ!!?)

 心の中で叫ぶ。

「・・・本気・・?」

 彼は、即座に、かつ静かに頷いた。


 このタイミングで。

 よりにもよってこのタイミングで。

 私に、春が来た。


 どうすれば、いいのだろう。

 まさか私に恋するような人がいるとは思っていなかった。

 嬉しい誤算だが、私は、頭の中が真っ白になった。


──

 僕──黒藻悠介が池逢さんの事を気にし始めたのは、文化祭の後からだ。

 文化祭で一緒に行動して、友達になれたから、なんとなく視界に入れるようになった。

 普段の生活でふっと思い出すことはなくても、教室では、なんとなくその姿を探すようになった。

 うん、正直、見すぎたのだろう。

 つい2週間前、伊月さんから突然、

「ルナのこと好きなの?」

 と言われ、そこで自覚した。

 そして、それを言葉にしたわけでもないのに、伊月さんにばれた。

 それから毎日、伊月さんにいじられながらも、なぜか僕が告白する手はずを、伊月さんが整えてくれた。

 今日も、池逢さんが帰ろうとしたのを、僕が掃除から帰ってくるまで雑談して引き止めていてくれたのだ。

 そして僕は、勢いで告白した。

──


「ごめん、黒藻くん」

 私がここまで言うと、黒藻くんの表情がさらに固まった。

 だとしても、これだけは言っておかないと。

「私、引っ越すから」

「い・・いつ?」

「今週」

 私の答えを聞き、黒藻くんは少し考えた。

 そして、何かに安心したように息をついた。

「じゃあ、なかったことにしといて」

 そう言って、黒藻くんは足早に立ち去ろうとする。


 私は考えた。

 この先、こんなことができるのだろうか、と。

 そして私は、不可能だと言う結論を出した。

 王女が、まさか高校生のような恋愛をできる筈はない。

 そして、黒藻くんのことも、別に嫌いじゃない。

 クラスの男子の中では、一番交流がある。

 だったら。

 別に付き合っても問題ないじゃないか。

「まって黒藻くん」

 うわ、若干涙目になってる。

 なんか悪い事をした気分だ。

「もし、よければだけど、4日だけなら、黒藻くんの希望に添える」

 私はこの時の黒藻くんの顔を、きっと忘れない。

 そう思えるほどいい笑顔だった。


「4日だけでも、付き合ってください」

「はい」


 私は、彼の告白に、笑顔で答えた。



 夜。

 俺──フェクターは、ルナのテンションが上がっていることに気づいた。

 なんせ、足取りが軽く、ニヤニヤしている。

「随分ご機嫌じゃないか。なんかあったか?」

「あ、知りたい?」

 この数ヶ月、ルナと一緒に暮らしているが、こんなに上機嫌なルナは初めてみる。

「ねえ知りたい?」

「ああ。気になる」

「そう?じゃあ言っちゃおうかな〜。やっぱ言わまいかな〜」

「・・・・・」

 訂正しよう。

 こんなに上機嫌で、上機嫌を振り切って若干めんどくさいようなルナを、 俺は見たことがない。

 だが、ここまで引っ張られると気になるのも事実だ。

「教えてください」

「じゃあ言っちゃお〜う!」

 ルナは、たっぷり4秒ほど溜めてから、言った。


「私、恋人できた〜!」

おめでとう(はぜろリアじゅう)


 おぉっと口が滑った。

 しかし、ルナに恋人か。

 ・・・・。

「え、4日しかなくね?」

 言うまでもなく、トネアに帰るまでの日数である。

「いいのか?」

「良いのよ。了承は得てる」

「そ、そうか」


 お互い、それで幸せなのだろうか?

 生憎、俺は恋愛経験がないからなんとも言えんが。

 ルナが王女になるときに、心のつっかえになるんじゃないのだろうか?

 そんなことも考えた。

 でも、すぐに考え直す。

 ルナのことだ。

 しっかり考えて判断しているだろう。


 余談だが、このことはなぜか、モルデラに筒抜けだった。

 盗聴やストーカーの心配をするべきかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ