第34話:厄介事
俺は、あいつは戦闘より窃盗が得意だと思う。
割と本気で。
いつ盗られたかわかんなかった。
そう言うわけで、俺は小銭入れを取り返すために、的里高校に向かって全力ダッシュ中です。
俺は学校に着くと、近くの校舎に入った。
周りを見ながらモルデラを探す。
確かあいつの服装は・・・。
黒いパーカー。
周りを見る。人がそこそこ多い。
暑いからパーカーを着てる人もほぼいない。てか1人もいない。
廊下と教室を片っ端から覗いていく。
途中、ルナのクラスに再び立ち寄った。
例の風船剣をとって、また外に出る。
余裕で見つかると思ったが、全然見つからない。
さすが裏組織の実行部。
隠れるのもうまいのな。
───王女をトネアに返すのを手伝って欲しい・・・
ルナは。
トネア王女であることを知っていないらしい。
ルナは、今の生活が充実している。
それに、まだ16歳だ。
そんな簡単に王女の生活に返していいんだろうか?
そもそも、自分が王女であることに納得するだろうか?
納得して、帰ろうとするだろうか?
「簡単に言うけどなぁ・・・」
俺はため息をついた。
幾度か目の曲がり角。
そこに、知った後ろ姿が見えた。
こちらには気づいていない様子。
黒いパーカー。腰から下げた短剣。
「・・・見つけたぞ、モルデラ!」
小声で呟く。
周りを見ても、誰もいなさそうだ。
喧騒も意外と大きく、多少の声は聞こえないようだ。
つまりどう言うことかと言うと、魔法が使える。
俺は走りながら足元に『風玉』を発生させ、それを踏みつけた。
足元で風が発生。
その勢いのまま、大きく踏み込み、風の速さで駆け抜ける。
風魔法の応用編で、世間では『風走』と呼ばれる魔法技だ。
バランスを取るのが難しく、失敗した時のリスクが大きい。
なんでも、過去にこけて骨折したやつがいたらしい。
だから、俺はこれを一年半の苦労の末習得したが、正直、あまり使っていない。
「まさか使うことになるとは・・・」
思わず呟く。
現在の速度は、時速20km。
自転車とだいたい同じだ。
まあ最高速度は出さないんだが。
一気にモルデラとの距離が詰まる。
あと少し・・・!
「あれ、フェクター?」
このタイミングでルナ?
タイミングが過去最高に悪いよ!
「おー」
俺は平静を装った。
「どうかしたの?そんなに走って」
──ちょっと泥棒を追いかけてて
・・・なんて言えるはずもなく。
「や、別になんでも。じゃーな」
シュビッと手を振り、そのまま走った。
変な目で見られたが、今は取り返す方が大事だ。
幸い、モルデラは気づいていない。
あいつ耳腐ってんのか?
『風走』を発動。
今度は風圧をあげて、大きく加速する。
ゴオッという風音と共に、風景がかなりの速度で流れていく。
モルデラとの距離が大きく縮まった。
パーカーの裾を掴む。モルデラから、人体から聞こえたらやばそうな音がした。
「金返せぇぇぇ!」
「痛い痛い痛い痛い!わかった!わかったから!ちょっタンマタンマやめろぉぉ!!」
「ちょっと手荒すぎじゃないかな?」
モルデラは小銭入れを手渡しながらそう言った。
その顔は痛みと怒りで歪んでいる。
「お前普通に言っても聞かねーだろ?」
「当たり前だろ」
嫌なやつだ。
悪びれてくれ。
持っていた風船剣を魔法陣で自室に召喚した後、小銭入れの中身を確認。
・・・300円足りない。
無言でモルデラを睨み付けると、モルデラはポケットから300円を取り出した。
俺はそれを無言で受け取る。
モルデラはポケットからさらに50円取り出した。
「盗りすぎだろっ!!」
「んだよ。50円程度は盗ったうちに入らねえよ」
「いや入るよ!?何口走ってんのあんた!?」
この天然盗賊が!
俺はそれを小銭入れにしまう。
「ルナの件だがな」
俺は一応モルデラに伝えておく。
「いうだけ言っとくよ。そっからはルナ次第だ」
「ああ、それでいい」
モルデラは紙切れを取り出した。
はたしてそれは、手書きの地図だった。
「意見が固まったらその地図のとこに連れて来い」
俺は頷き、未だ騒がしい学校の中に向かった。
小銭入れは取られていない。
少し安心して、俺は小銭入れを開ける。
そこには小銭の代わりに石が詰まっていた。
「野郎!今度は許さんぞコルァ!」
しかし、ときすでに遅し。
モルデラは、もういなかった。
「・・・んの野郎ぉぉぉぉ!!」
校舎に、俺の声がこだました。
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夜。
外では、お出かけから帰ってきた家庭の車が音を立てている。
空には、綺麗な月が輝いていた。
ここ池逢家では、夕食後の、わりかし和やかな空気が流れていた。
俺は、宙に浮かせた『水玉』に洗剤を溶かして、汚れた皿を突っ込み、洗っていた。
右手で制御しながら、両手で皿を洗う。
こんな器用なことも、それなりにできるようになってきた。
ルナは風呂に入っている。
とても静かだ。
そして、俺はこの静けさが嫌いではない。
とても、穏やかな気分だ。
「風呂空いたよー」
「わかった」
俺は右手の『水玉』を解除。
水がバシャンとシンクに落ちた。
同時に、左手で『乾風』を発動。
皿を乾かす。
ふと、頭に「魔法の無駄遣い」というワードがかすめる。
それを「まあ減るモンじゃないし」と誤魔化す。
魔法の技術力が高まってるのは事実だし。
脱衣場で服を脱ぐと、ポケットから紙切れが出てきた。
そこには一言だけ書いてあった。
【王女の件結論早めに】
ビリィィィ!
「・・・・・」
俺は無言でそれを破り、ゴミ箱に入れる。
もう一度言おう。
俺は、とても、穏やかな気分なんだ。
風呂に入る。
のんびり、何も考えずに温まる。
そう、のんびりのんびり。
俺は穏やかな気分なんだ。
【王女の件早めに】
「穏やかにいられるか!!」
俺は髪の間から出てきた紙片を排水口に流した。
やたらと催促しやがって!
「どうしたの、そんな疲れ切った顔して」
心配そうに声をかけてくるルナ。
君のせいだ。と言ってやりたい。
「ああ、なんでもない。少し疲れただけだから」
そう言ってルナに視線を向ける。
ボタンを、閉めてない。
「ボタン全部閉めろとは言わんが、開けるのは上1つだけにしろよ」
「はいはーい」
この子が女王ねぇ・・・
にわかに信じられんな。
ボタンを閉め終わったルナは、テレビを見ながらくつろぎ始めた。
「・・・・・」
トネアの件は、明日言おう。
今日は文化祭もあったし、疲れてるだろ。
そうして、俺の長い長い1日は終わった。
しかし翌日、俺は「明日から本気出す」という思考の恐ろしさを体感することとなる。




