第30話:合唱大会の日
召喚魔法は、ルナからしてみたらかなり不思議なものだったらしく(当然か)面白がってもらうことはできた。
ただ、思ったより調べるのに時間がかかり、魔法陣に関して全て完了したのは文化祭の前日だった。
すでにゲーム当日が目前に迫っている。
ゲームといえば。
いい加減暗殺者の名前聞いときたい。
暗殺者って文字数多くて言いにくいし。
もう略して暗ちゃんでいいか。
暗ちゃん。うん、言いやすいな。
暗ちゃんという呼び名を決めて、俺は布団に入った。
金曜日。
ルナを送り出して、俺は家事をする。
家を出るのは、いつもより遅い時間。
古文堂にはバイトを休むことをもう伝えている。
いつもより悠々と掃除機をかけると、ちょうどいい時間になった。
俺は魔法陣とゲームの範囲が書かれた地図、そしてお金を持つと、街に出た。
「今日は合唱大会か」
俺は誰に向けるわけでもなくつぶやいた。
──つもりだった。
「合唱大会はあっちの体育館だぜ」
しかし。
どういうわけか、独り言に返事が帰ってきた。
「ああ、誰かと思えば暗ちゃんか」
「ちょい待てや。なんだ暗ちゃんて」
「暗ちゃんは暗ちゃんだ」
そう怖い目で見んなって。
この時、もし次のクラスがルナのクラスでなければ、俺はここでゲームを勝手に初めていたかもしれない。
それくらいこの要件がめんどくさくなっていた。
『次は、一年三組。曲は──』
ルナのクラスか。
よし、これだけは絶対に見るぞ。
なんせ知り合いはあのクラスにしかいないからな。
「魔法剣士さーん。無視しないでくれー。
なになに、知り合いでもでんの?あ、あの右の人?それともあっちの男子?」
「うるせえ、しばらく黙ってろ」
なんでこいつはこっちが暇じゃない時にくるのかねえ。
「フッ...私は黙れと言われて黙る人間ではない!」
「『サイレント』」
俺は消音魔法を彼の顔にかけた。
静かになった。
さて。
ルナのクラスの歌はよかった。
ただ、少し声量が少なかった気がする。
結果は、やはり金賞では無かった。
銅賞だった。
6クラス中3位はいいほうだろう。
俺は微笑ましい気分になった。
そして、帰ろうと思って後ろを向いた。
「─────」
口パクで何かを訴えている暗ちゃんがいた。
正直忘れてた。
体育館の前のほうでは、在校生が駄弁っていた。
ルナと目があったので、軽く手を振ってから、体育館を出る。
もちろん、暗ちゃんもついてきた。
校門を出てから5分ほど歩き、人通りの少ない場所まで行くと、俺はサイレントを解除した。
「──かばーか!おたんこ...あれっ」
もう一回黙らせようかな...。
俺はそんな思考をなんとか押さえ込み、暗ちゃんに質問を開始する。
「なんで今日きたんだよ」
「きちゃ悪いか?」
「悪い」
即答である。
これには暗ちゃんも少し黙り、気まずそうに口を開く。
「だって、暇だったし...」
休みの日の趣味なしぼっちかよ...。
「だいたいお前、なんでゲームをしようって言ったんだよ?」
「遊び心は大切だよ?」
あんなシリアス感のある雰囲気だったのに遊び心?
ため息が出る...。
「あと、こっちのほうが重要だが、トネアのほうであんたらを送り込んだのは誰だ?」
「ゲームに勝てたら教えてやんよ」
自己中...。
まあ、まだトネアに戻れんわけだし、こいつはゲームにはくるだろうし、それでいいか。
「わかった。それをもし守らなければ容赦はしない」
「それでいいよ。本気で戦いたいし」
さらっと危ないセリフを吐く暗ちゃん。
いいんだよな・・・?
約束・・・守ってもらえるんだよな・・・?
今の口ぶりだと、守らないほうにも取れるが・・・
聞き返そうと思った時、暗ちゃんの姿はすでに無かった。
あの自己中野郎...
不安でしかない。