第3話:池逢ルナ
ヒロイン登場です。
俺はフェクター。
トネア王国の騎士団に所属していた。
騎士団所属なのもあり、様々なトラブルを想定して生活してきた。
だが。
誰が"異世界に飛ばされた"というトラブルを想定するだろうか?
俺は遭遇していなかった。
だから今。
過去にあった悩み事ランキングで、文句なしで一位に輝けるほどに悩まされている。
異世界に飛ばされた現実に。
「・・・・・先に質問させてください。」
悩んだ末、敬語を使うことにした。
「何でしょうか?」
まずは、この世界の基礎について。
「トネア王国を知っていますか?」
「何その国?」
「ならいいです」
ここで、トネア王国について軽く説明しておこう。
トネア王国は、周辺国の中でも、大きな力を持っている。
その“力”とは、発言力や国の軍事力、そして技術力など、多岐に及ぶ。
全世界に名前を知られているレベルなのだ。
だが、周りに見える建物の材料や、足元の石のようなものは、そのトネア王国でも見かけなかった。おそらくここは、トネア王国より、技術が進んでいる国だろう。
技術が進んでいるということは、トネア王国より格上の国と考えていいだろう。
トネアより格上の国は多くない。
そんな国の貴族(?)がトネア王国を知らないということは、トネア王国が存在しないということだろう。
この段階で、ここが異世界なのはほぼ間違いない。
この人が嘘をついている可能性もあるが、それを気にするとどうしようもないので、考えないことにする。
「次の質問です。
この世界には、剣はありますか?」
「あったけど・・・・もう使われてないわよ。
常識じゃない」
「・・・・・・」
ふむ・・・。
どうやら、剣が使われてないのは常識らしい。
トネア王国や、その周辺国では、剣以外の武器が少ない。
やはり、トネア王国のない異世界で確定のようだ。
しかし、剣が使われないのが常識か・・・。
だとすると、俺はかなりやばい人として扱われているかもしれない。
「・・まって、てことはあなたも・・・・・・・いや、でも・・・・」
「・・・・・?」
何かつぶやいている。
「ねぇ、まさかとは思うし、違ったらすごく恥ずかしいんだけど・・・・」
突然、女が聞いてきた。
「何でしょう?」
「あなた、異世界の人?」
聞かれた。
唐突に。
隠すこともなく。
これに俺は、動転した。
「・・・・なぜ?」
こんなわかりやすい反応をしたのは、うかつだったかもしれない。
女は「やっぱり」と言った顔をしつつ、口を開いた。
「私はいけあいルナ。池に逢うと書いて池逢ルナよ。あなたは?」
自己紹介してきた。
池逢ルナ、というらしい。
さて。
名乗ってもいいのだろうか?
このルナという女、「トネアは知らない」と言っていたことから、おそらく、俺のいた世界のことは知らないだろう。
異世界の人に知られていいのか?
むしろ、異世界の人を関わらせてはダメなのでは?
「・・・・・・」
しかし、ここまで質問して、用が済んだら「何も教えません」は、人としてどうなのだろうか?
「・・・・・・」
しかもだ。
名前まで聞いたのだ。
せめて名前だけでも言った方がいいだろう。
そもそも、まだ異世界の事を聞かれるとは限らないのだ。
うん・・・・・・・よし。
「俺はフェクターと言います。
16歳です。
あなたの予想通り、異世界からきました。
剣を持っているのは、騎士としての仕事中にここに飛ばされたからです」
ルナは、意外そうな顔をした。
そして、納得したような顔になった。
「・・・そっかぁ、同い年かぁ。」
一度小声でつぶやいたルナは、改めて俺の方に向き直った。
「・・・こちらの世界のことは、私が教えるわ。
代わりに、あなたの世界のことも教えて」
俺にとって、最高の条件だ。
もし、俺のことも考えて言っているのなら。
ルナは、物わかりの早い女だ。
「わかりました」
俺は、この条件を飲んだ。