第29話:魔法陣の実験・take2
暗殺者がきてから、初めての土曜日が来た。
俺は、魔法陣を描いた紙とお金、水筒をナップザックに詰め、家を出た。
向かうのは、山にある廃神社。
魔法陣の実験だ。
異様に長い階段を登る。
蛇の這うような音は、聞こえないふりをする。
俺が最後にここを通ってから一か月といったところか。
案の定階段に人が通った形跡はない。
廃神社は、相変わらずボロボロだった。
境内には、落ち葉や枝が落ちている。
俺は、境内の真ん中に行く。
ここでいいか。
「『ウィンドボール』」
俺はウィンドボールを使って落ち葉を吹き飛ばす。
そこに荷物をおろした。
魔法陣を適当に取り出し、地面に置く。
魔力を流し込むと、魔法陣が淡い光を帯びた。
光が強くなった。
そして──
パヒューン、といったような、気が抜ける音がした後。
パーン、と。
空中で、大きな花火が炸裂した。
ただの爆発じゃなくて、あのカラフルな炎を円状に出すアレだ。
「・・・・・」
俺は、もう一度花火を発動させる。
今度は、魔力を少なめに、かつ、緑色の花火をイメージしながら、だ。
パヒューン...パーン!
「・・・おぉ」
結果、緑色の小さな花火が上がった。
どうやら、この魔法陣は、魔力量によって花火のサイズが変わり、発動者のイメージによって色が決まるらしい。
軍とかなら使えそうだが・・・俺にはあんまり使えそうにないな。
二つ目、三つ目の魔法陣は、発光しなかった。
つまり、効果のない魔法陣だった。
次の魔法陣。
俺は魔力を流し込む。
発光したので、効果はあったのだろう。
しかし、そのまま何秒たっても何も起こらない。
日の当たった背が暑い。
「ハズレか?」
不安なので、とりあえず言ってみる。
その時、俺は自分の影が薄くなっていることに気付いた。
いや、違う。
さっきまで快晴だったのに、空がどんより曇ってきたのだ。
「魔法陣のせいかな?」
期待を胸に魔法陣に魔力を注ぐ。
すると、頭上から、ゴロゴロという何かヤバそうな音が聞こえてきた。
俺が手を魔法陣から離すと。
ピカ...ドーン!
「ぅゎああぁぁ!!?」
目の前が真っ白になった。
いや、比喩じゃなくて、まじで視界が真っ白になった。
てかまぶしっ!
反射によって、まぶたが落ちる。
目を開けると、まず、無傷の魔法陣が映った。
そして、さっきまで自分の影があった位置には、焦げた土があった。
「まじかよ...!!?」
どうやら、落雷したようだ。
落雷を合図に、雲が四方に散っていく。
すごい魔法を発掘した。
いろいろ試してわかった。
どうやらこの魔法陣、発動者が3秒以上見つめた位置(この魔法陣以外)に落雷する魔法陣だったらしい。
なかなかいい魔法だな。
1時間後──
「これで最後か」
俺は、10枚目の魔法陣を手に取る。
魔力を流し込むと、淡く光った。
しかし。
「あれ?発動しない?」
いくら魔力を注いでも発動しない。
空を見ても、石を見つめても、変化はない。
その時。
俺は気付いた。
ペアの方の魔法陣も光っている。
俺は魔力を流すのを中断して、魔法陣の上に石を置く。
魔力を注ぐと、石がペアの魔法陣の上に出現した。
「やったぜ」
召喚魔法の魔法陣もかけていたらしい。
安心した。
こんな感じで。
俺は魔法陣を試して見た。
当たり、6枚:ハズレ、4枚
魔法陣には詳しくないが、見たことも使ったことのない魔法の魔法陣が6枚もできたのは奇跡だろう。
俺は荷物をまとめると下山した。
帰宅する時に、ついでにコンビニでキャラメルを購入。
欲しいのは包み紙だ。
まあ食べたかったのもあるが。
「おかえり。さっきまでどこ行ってたの?」
「廃神社だが、どうかしたか?」
「その辺り雷落ちたり花火上がったりしなかった?」
「・・・さあ、知らんぞ」
また隠し事が増えた・・・。
午後。
俺は、部屋でキャラメルを食べる。
欲しいのはあくまで包み紙だ。
ひとりで食べるのもなんなので、ルナにもいくつか渡す。
包み紙は、手のひらサイズ。
これに召喚魔法の魔法陣を書き込む。
これが意外に難しい。
魔法陣が細かいからだ。
その分、書き終わった時の達成感もあったが。
これは、いくらか試してからルナに見せよう。
魔法陣の効果を深く知らないまま使うと危ないらしいしな。
トネア騎士団の上官が言ってた気がする。
こうして、俺の魔法陣作成は、万歳できる結果に終わった。