第27話:ゲームルール
暗殺者の襲撃から一夜明けた。
いつものようにバイトに行く。
「おはようございまーす」
「今日も頼むぞ」
「はい」
いつものやりとり。
いつも通りに仕事をしていると、いつも通りに正午になる。
実に平和だ。何も問題が起きない。
「フェクター、休憩じゃ」
「はい」
昼食にする。
昼食は事務室で食べるので、レジ前に呼び鈴を置いて、昼食中に客がきても対応できるようにする。
今日の昼食は唐揚げとキャベツのサラダと味噌汁、それに白米か。
唐揚げ美味いな。
サクッとしてる。
塩味もしっかりしてて濃いめだ。
まさに俺好み。
「美味いです」
「自信作じゃよ」
「あ、ドレッシングとってください」
「ほい」
うん。
やっぱりキャベツにはごまドレッシングだな。
店内に戻ると、客がいた。
いて欲しくない客が。
「10分も待たせるとは・・・。
さすがの私もイライラしたぞ」
「じゃあ呼び鈴使えよ・・・」
待っていたのは、暗殺者だった。
後ろには、店長がいるので、ここからは声の大きさを小さくする。
「で、何の用だよ?
もう昨日みたいなのやだぞ」
と、言いつつ、俺は魔力を込めて、ウィンドボールの準備をする。
「違う。
ここは狭いからな。魔法使いの方が優位になるだろう。
私がしたいのは、交渉だ」
交渉、だと?
「どのような?」
「ゲームをしようか」
「ゲーム?」
ベタだな。
「私に攻撃を当てる事が出来たらあなたの勝ち、出来なかったら私の勝ち」
後ろを見る。
店長は、こちらに背を向けて、事務室でお茶を飲んでいた。
店長に魔法も見られないし、厄介事はさっさと片付けるか。
俺は暗殺者に向き直る。
「『ウィンドボール』」
「うおぉ!?待て待て待て!」
ひょいひょい避けんなよ。
てか待てってか?
「待たん」
俺は、はたきを持った。
暗殺者が、なにを思ったかこっちに向かって走ってくる。
そこに向かって、はたきを振り下ろす。
暗殺者はかわすと、俺からはたきを奪った。
そしてその勢いのまま。
カウンターと壁を蹴って本棚の上に立った。
商品の本を盾のように持って。
俺は右手をそっちに向ける。
「本をおけ。撃てん」
「いいから話を聞け」
知らんわ。
俺はこの平和を知った以上、平和に過ごしたいんだよ。
なのに2日連続で来て。
イライラするよこっちも。
「ゲームをするのは2週間後の土曜日だ。
範囲は、この地図に書いといた」
そういうと、暗殺者ははたきと紙を投げてきた。
キャッチすると、紙には地図が書いてあった。
「言いたい事は以上だ。
再来週、楽しもうじゃないか」
そういうと、暗殺者は、ダッシュで走り去っていった。
やっと静かになった。
──ん?
本持ったまま?
「ちょっと万引き犯から本取り返してきます」
「任せた」
俺は、ダッシュで暗殺者を追う。
「待てや万引き野郎!」
「待てと言われて待つ奴はおらん」
「じゃあ自分でも待てと言うな!」
途中、ルナの学校の前を通った。
家からけっこう遠いな。
今日からは欠かさずねぎらっておこう。
本を取り返すのに、30分かかった。
疲れたな。
夕方。
「こんにちは〜」
「いらっしゃーい」
ルナが来たようだ。
本の整理してて見えないが。
「バルーンアートの本とか、あります?」
「おーい、フェクター」
やっぱり呼ばれた。
店長の方に行く。
ルナと目があったので、昼に決意した通りに、「学校お疲れさん」と、ねぎらいの言葉をかける。
「フェクター、風船芸の本、とってきてくれ」
「はーい」
人を検索マシーンのごとく使うなよ。
「今日、何かあったの?ふらふらしてるわよ?」
案内中、ルナに聞かれた。
「ちょっとね」
疲れてんのかな?
ごまかすしかないけど。
ちょうど本棚についたので、本を3冊渡す。
「これが入門編。んで、これとこれがよりマニアックなやつ」
「そんじゃ、入門編の買うわ」
「100円な」
マニアックな方の本を棚に戻す。
「フェクター、今日は終わりんさい」
店長からのありがたい指示。
「んじゃ、お言葉に甘えて」
店長が、ルナになにかを小声で言っていたが、気にしない。
しかし、今日の万引き犯の追い回しは大変だったな。
あれがこの仕事の本分なら。
「仕事って、こんなに疲れるもんなんだな」
俺は、ぽつりとつぶやく。
「・・・? まあそうよね。
え、もしかして、客が一気に増えたとか?」
「まあそんなとこだよ」
なんか状況が複雑で、説明する方が大変だ。
ルナは、疑問そうな顔をしている。
まあ何にしろ。
2週間で対策をしっかりしないと。
あの暗殺者のようなタイプはなにするかわからないしな。
第一。
俺以外に被害が行くのは避けたい。
ゲームの範囲には、的里高校も含まれていた。
文化祭で、ヤツがなにもしなければいいが...。