第26話:バイトの時間
結論から言うと、警察は来なかった。
店長は、俺の「事務室に入れ」という言葉を忠実に守った。
それはもう忠実に、だ。
警察に電話もせず。
監視カメラの映像をモニターで確認することもなく。
要するに、テンパって、ただただ静かに事が収まるのを待っていたのだ。
パトカーが通ったのは、偶然だったのである。
やれやれ、困った店長だ。
しかし、だ。
俺と暗殺者は実力が拮抗していた。
パトカーに感謝だな。
もしパトカーが来なかったら、負けていたかもしれない。
なんにしろ、久しぶりの戦闘で、疲れたな。
店長もそれを察したのか、俺がぐったりカウンターにもたれていても、何も行って来なかった。
ドアについたベルが、チリンチリンと鳴った。
俺は顔をあげる。
どうやら、もたれたまま少し寝てしまったらしい。
少し寝たからか、気分がいい。
疲れもある程度取れた。
「いらっしゃい・・と、ルナか」
いつの間にか夕方になったらしい。
日が低い。
「その反応はないでしょ」
いつものようなやりとり。
ルナが本棚側に向かう。
工作コーナーか?
単純に考えて、何か作る気だろう。
だとしたら、何を作るのか、多少興味がある。
「何を探してんだい?」
店長の質問する声が聞こえてくる。
店内が静かなので、自然体でレジ前にいても、普通に聞こえる。
「実は、学校の文化祭でプラネタリウム作ることになりまして」
ずいぶん大変なもの作るんだな。
「作り方わかんないから、それについて書かれた本を探してまして。
ありますかね、そんな本」
「なるほど。
若者は大変じゃの」
若者は関係ないだろ。
「おいフェクター」
・・・なぜここで俺を呼ぶ?
店長のところにつく。
「聞いとったな?」
おいおい。
なんだその聞くのが普通だぜ、みたいな顔は。
普通に考えてマナー違反だろうが。
──聞いたけどな。
「・・・えぇ、まぁ」
「心当たりは?」
人を検索マシーンみたいに使うな。
──心当たりあるけど。
「2冊ほど」
「えっ、あるの?」
俺もそんな本ないと思ってたからね。
不思議に思うよ。
「ほい。...これと...これだな」
本を2冊手渡す。
週刊誌のような見た目の、フルカラーの本が1冊。
そして、いろいろな工作について載っている厚めの本が1冊。
まだあったことに、少し悲しみを覚える。
やっぱり、売れてなかったんだな。
バイトを初めて1週間後頃から、俺はバイトの時間の後に本の立ち読みをするようになった。
その時に、最初に手を出したのは、工作コーナーの本だ。
俺の趣味には、工作もあったからだ。
実際には作らなかったが。
工作コーナーの本をすべて流し読みするのに、2週間かかった。
だが、それだけ読んでいても、店長は、一度も注意しなかった。
その理由は、多分、こうして検索マシーンのごとく使うためなんだろうな・・・。
「じゃあ、こっちで」
俺が回想してる間に選び終わったらしい。
ルナが買ったのは、厚い方だった。
薄い方を棚に戻す。
プラネタリウム、ちゃんとできればいいんだが。
その夜、ルナはプラネタリウムを諦めたらしい。




