第24話:日常への襲撃
今日は6月の第一月曜日。
いつものように掃除をすませ、掃除機を片付ける。
日本にきて2ヶ月。
この、剣を振らない生活にも慣れてきた。
俺は荷物を持つと、家を出る。
鍵をかけるのを忘れない。
今は午前8時15分。
バイトの時間が迫っている。
「おはようございます」
「あいよ。今日も頼むぞ」
店長と、いつもの挨拶。
俺は、いつものように事務室で制服に着替える。
「今日は、何からします?」
「いつも通り頼む」
「りょーかいです」
俺は、はたきを持って店内に出る。
店内の本棚をくまなくはたいて回る。
たとえ客が来なくとも、場は清潔に保たないと、もし来た時に悪印象を与える。
・・・と、店長が言っていた。
はたき終わると、箒でゴミを回収。
掃除後、掃除用具をカウンターの裏に置く。
ここまで40分。
あとは、一日中、本を整理する。
「...今日も、客来ませんね」
「じゃの」
・・・今日も、古文堂は平和です。
こんな平和が、無限に続けばいいのに。
昼食後、レジ前で待機する。
ここまで、客ゼロ。
この世界の活字離れは深刻だな。
と、人が店内に来た。
──やった、客だ!
と、思った矢先、その客が、こちらを向いた。
男だ。パーカーを着て、暗い目をしている。
「...見つけた」
そう言うと、客は、ニヤっと笑った。
俺は、警戒レベルをあげる。
唐突に。
その男が、魔力を発した。
「...死ねぇ!『アイスピック』!」
「なっ!?」
男の手のひらが俺を指し。
そこに、氷の針が発生。
それが、俺に向かって、飛んでくる。
間一髪でかわすと、後ろで、氷の砕ける音。
これは──!
──魔法!
この世界にないもの。
なぜここにトネア人が──?
まあなんにしろ、店長は危険だ。
「店長、事務室に入れ!」
「任せた!」
事務室のドアが閉まる。
──そこで「任せた」ってのもどうかと思うぞ!
そんな言葉を飲み込む。
「『サイレント』」
一応、ドアに消音魔法をかけておく。
男は、短剣を抜いていた。
トネアでなら、どこにでも売っているような、普通のダガー。
刃渡り35センチほどか。
これは、こっちも武器がいるな。
「さて、と」
男に向き直り、はたきを構える。
「誰だ、お前」
「それは、些細な問題だろう?」
だめだこいつ。
人の話は聞かないタイプの人だ。
「...悪いが、日本では、魔法は超常的なものだ。剣も法律で禁止されてる。使うのは控えてくれ」
「断る」
ですよね〜。
つまり。
「一旦黙らせて、情報を頂こうか」
俺は、冷や汗をかきながらも、ため息をついた。
どうやら、俺の平和は邪魔されたらしい。
俺は、はたきを右手で構え、左手に魔力を送る。
「平和を奪ったこと、後悔させてやる」
異世界な戦いは、古本屋で幕を開けた。