第22話:文化祭の出歩き
フェクターの風船持ち帰り事件(?)から10分。
「シフトおーわりっと」
私と黒藻くんは、うーん、と伸びをする。
「ああそうだ池逢さん」
「?何か?」
「誰か一緒に回る人いる?」
「別に。今のところ文化祭ソロプレイよ」
「じゃあ一緒に回らない?」
─ソロプレイ精神的にきついしな…よし乗った。
「うん。行こっか」
私たちは、次のペアにシフトを交代して、教室を後にした。
体育館と本校舎をつなぐ渡り廊下は、大変な賑わいを見せていた。
その賑わいの中心は、チュロスやパンケーキといった屋台だ。
「けっこうみんなチュロス買うのね〜」
「安いからね」
という私たちも、例に漏れずチュロスを買う。
「プレーン?抹茶?」
「プレーンで」
「またどうぞ」
早速かぶりつく。
まだ温かいそれは、砂糖の味が効いていて、とても美味しかった。
隣でも、黒藻くんが一心不乱にぱくついている。
「...あれ、黒藻くんって抹茶派なのね。
ちょっと意外だわ」
「普段は甘党だよ」
キリッと言う黒藻くん。袋に残った抹茶パウダーも残さず食べる。
ちなみに、プレーンもまだ売り切れていない。
...嘘くせえ。
特別棟。
文化部の部室が密集している。
中でも、美術部と文芸部は、画集やしおり、文集を全力で売り込んでいる。
見ている限り、より売れているのは、安いしおりだ。
「画集くださーい」
「80円」
みると、黒藻くんが画集を買っていた。
私は、文集を購入。
100円だった。
知り合いの多い文芸部のものは、買って損はない。
そうこうしているうちに正午になった。
再び屋台をみると、チュロスとたこ焼きが売り切れていた。
私は、焼きそばを買った。
やっぱ祭りといえば焼きそばよね。
階段で座って食べていると、黒藻くんがパンケーキを持ってきた。
...お前は女子か。
「このまま何もなく終わればいいね」
パンケーキを頬張りながらの黒藻くんのセリフ。
「...フラグとしか思えないセリフはやめようね」
不安になるなぁ。
ということで。
私たちは、教室に戻ってみることにした。
ワイワイガヤガヤな教室。
──なんだ、大繁盛じゃん。
なーんて一瞬でも思った私はバカだった。
よく聞くと、子どもと言うより、少し大人びた声が多かった。
そう、言うならば高校生のような──
がららっ、とドアを開ける。
「なんだ、池逢か」
「はよ閉めろ。スマホ使えんだろ」
...やはりというかなんというか。
騒いでいたのはクラスメイトだった。
言うまでもないが、スマホは校内持ち込み禁止だ。
「...スマホ率高っ」
黒藻くんの呆れたような声。
ドアを閉める。
まさかクラスメイトの半分以上がスマホをやっているとは...
私たちは、すぐに教室を後にした。
今日悪いことが怒るなら。
それはスマホがバレることだろうな。
「今から軽音部のコンサートだってさ」
「じゃ、行ってみますか」
何事も無かったのかのように会話する私たち。
ワタシタチハナニモミテイナイ...
この高校には、体育館が二つある。
四年前にできた、二階建ての新体育館。
開校当初からある一階だての旧体育館。
コンサートがあるのは、旧体育館だ。
軽音部のコンサートは、まだ始まっていなかった。
「ああそうだ池逢さん」
「何?」
なぜか、改まっている様子の黒藻くん。
「引かないでね」
「...?」
どうしたんだろう。
タイミング悪く、ここでステージの幕が上がった。
同時に、曲スタート。
わーっ!という謎の歓声。
私たちは、後ろの方で見ている。
──いいねこれ!
やっぱ文化祭はこうでないと!
控えめながら、私も空気に乗っていた。
そして右では...
普段からは想像もつかないほどの盛り上がりを見せる黒藻くんがいた。
「・・・・・」
──ああ、引くなってそういうことか。
引きはしないが、私は、黒藻くんを微笑ましく見ていた。
......びっくりした。