第21話:シフト
文化祭2日目。
合唱好き意外にとっては、こっちが本番と言っても過言ではない。
私は、登校すると、風船で飾りつけた教室に向かう。
教室には、もうクラスメイトがほぼ揃っていた。
校則で禁止されているスマホを使って教室の写真を撮っているらしい。
先生はまだ来ておらず、フリーすぎる時間だ。
麗ちゃんまだ来てないしどうしようかな、と考えていると、後ろから声がかかった。
「池逢さん」
振り向くと、黒藻くんが立っていた。
「おはよ。
どーしたの?」
「これ、返すね」
そう言うと、黒藻くんはバルーンアートの本を渡してきた。
私は、「興味がある」と言ってきた黒藻くんに、この本を貸していた。
「どうだった?」
「今ここでは出来ないけど、その本に載ってたのならほぼできるようになったよ」
「へー・・・え?」
彼は器用だったようで、3日でバルーンアートができるようになったらしい。
まったく、羨ましい限りね。
私は本を鞄に押し込む。
同時に、チャイムがなった。
あちこちで、スマホを機内モードに設定してポケットや鞄に入れている人が見える。
しばらくして、先生が入ってきた。
「では、ホームルームを始めます」
先生からの、とても軽い諸注意読み上げ。
その後、私たち生徒は、校内のあちこちに散らばった。
私のクラスのシフトは最初だった。
ペアは、黒藻くん。
のんびりと、風船を眺めながら待つ。
それにしても、ちょっと眠いな。
魔法を見て興奮したのかな?
あー、意識飛びそう。
「ぉーぃ、…おーい…池逢さん起きて」
「ハッ!」
寝かけてた。
危ない危ない。
「私、どれくらいぼーっとしてた?」
「3分くらいかな」
そうか、3分寝かけてたのか。
早く動かないと、本格的に寝るかもな。
シフト終了まで10分。
客、ゼロ。
「こんちはー」
訂正。
客、1。
「いらっしゃい・・・ってフェクターか」
「・・・どういう意味だよ」
「そのままね」
初客は、フェクターだった。
予想通りかな。
嬉しいけど。
「知り合い?」
黒藻くんが聞いてくる。
「うん。
フェクターよ。うちにホームステイしてる」
嘘だけどね。
フェクターに黒藻くんを一応紹介する。
黒藻くんがお辞儀すると、フェクターも慌ててお辞儀する。
フェクターは、「ほぉ〜」と言いながら風船を見て回る。
「風船、よかったらどうぞ」
黒藻くんがおずおずと言う。
結果。
フェクターは、剣の風船を持って教室から出て行った。
「綺麗なもんだな」という、褒め言葉を残して。
「「持って帰ったー!?」」
私たちは、突っ込まざるをえなかった。




