第20話:召喚魔法
「文化祭、明日からだな」
夕食のとき、フェクターが聞いてくる。
私が顔を上げると、フェクターが実に楽しみそうな顔で見ていた。
「ちゃんと来てよ?」
「もちろんだ」
フェクターは大きく頷くと、完食したようで、空になった皿を洗いに行った。
文化祭の準備をギリギリ終わらせて、私が帰ったときには、もうフェクターは夕食を食べ始めていた。
最近は、フェクターが夕食を作ることも増えた。
そのためか、フェクターは、料理がどんどんうまくなっている。
今では、IHの調理場にも慣れた模様で、純粋に料理を楽しんでいるようだ。
日本に馴染んできたようで何よりだ。
私の学校の文化祭を楽しみにしているようで、私としては、とても嬉しい。
諸事情で両親が、いや、家族と呼べる存在がいない私は、心が和んでいるのを感じる。
家族がいるのは、いいことだ、と。
今は強く感じる。
風呂から上がり、自室に向かう途中、フェクターの部屋に行く。
軽くノックして、ドアを開ける。
「フェクター、風呂空いたよー」
「おう」
そこには、お菓子の包み紙ぐらいの小さな紙に何かを書いているフェクターがいた。
「よし、完成」
「何やってんの?」
「見ててくれ」
そう言うとフェクターは、その紙を持って立ち上がった。
彼が右手の紙に、見えないオーラのような何かを送ると、紙が発光した。
フィーン、というような高い音が聞こえ、光が弱くなる。
そこには、剣が召喚されていた。
柄頭から、切っ先に向かって姿がすーっと現れる。
この間、実に1秒。
私の知っている単語の中では、"実体化"に近いと思う。
「えぇぇ!?」
声が出ちゃった。
でも、それぐらい驚いた。
なんだかすごい技術だ。
あ、魔法か。
フェクターも、満足そうだ。
「これが召喚魔法さ。
まさか日本でも成功するとは思わなかったけど」
そう言うと彼は、またオーラを送った。
今度は、剣が先端の方から消えて行った。
「おー!」
逆もできるのか。
彼が立ち上がり、クローゼットを開けると、そこには、今消えた百均の剣があった。
え、真剣じゃないのかって?
真剣だったらもっと声上げるわ。
この召喚魔法では、魔法陣を使っているらしい。
さっき小さな紙に描いていたのはその魔法陣だったらしい。
魔法陣は対になっていて、片方の魔法陣に魔力を込めると、魔法陣の上に乗っていたものが対になる魔法陣の上に移動するらしい。
どうやら、さっきのオーラは、魔力だったようだ。
日本でもこの技術が使えるかどうか試すために、百円ショップのプラスチックの剣をクローゼットから召喚させたらしい。
さて、私もこの魔法のいい使い方が分かった。
「フェクター、今度それ教えて」
「いいぞ」
こうして私は、忘れ物しても家に帰らずに済む方法を手に入れることになった。
文化祭1日目。
合唱祭。
体育館には、綺麗な歌声が響いていた。
私のクラスは、30年前ぐらいの卒業ソングを歌った。
フェクターが来てくれたのが、嬉しかった。
そして、肝心の歌は。
それはそれは、過去最高の出来だった。
「うちのクラス、歌うまくね?」と、クラスの半分が思った。
結果発表の前から、完全に優勝した空気だった。
でもまあ。
結果は、一年の部の銅賞だった。
それでも盛り上がったのだから、私のクラスは単純だと思う。
でも、それでよかった。
トップ3には入れたんだから、いいじゃん。
・・・私も、単純だったようだ。