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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

イルカが叶うた囀りを誰が詩う

作者: 風連
掲載日:2015/10/07

我が島は今や、観光の名所だった。

数あるイルカウォッチングの名所の中でも、色々な種類がいっぺんに見られるので、凄い事になっていた。

宿も船も予約でビッシリ。

嵐で帰りの船が出ないと観光客は喜び、本土の岸につながれて来られない方は悔しがるぐらいだった。

台風の多い年で、やっと通り過ぎてくれた昼下がりだった。

キーキー声の女性が、藪の向こうで騒いでいる。

子供の声もする。

観光客に何かあったのだろうか。

客の事故が1番怖い。

ホテルに勤めてる母が、言っていた。

事故なんか起こしたら、もう島に人なんか来ないと。

役場勤めの父もうなずいてたっけ。

藪を掻き分け、声の方に進むと、緩やかな崖したに、嵐で出来た海水の溜まりが、出来ていてイルカの赤ちゃんがはまっている。

てか、溺れかけていた。

まだ、1人では上手く泳げないのだ。

慌てて、腰までの溜まりに入り、持ち上げる。

「熱い、熱いってば〜‼︎。」

熱いのか、人の手が。

シャツを脱ぎ、そっと包み込んでから、背中の鼻を海面に出すと、呼吸が落ち着いた。

海水からでた分、重い。

「ありがとう。

あれは僕の育ての親なんだよ。

母さんは今、漁をしてるからさ。」

泣き崩れる外海のイルカが、ようやく頭を出した。

「ありがとうございます。

私にはどうする事も出来なくて。

この子の親になんて言ったら。

悲観にくれていたのです。」

待て待て、イルカだよね。

「話がわかるんだけど、、。」

泳ぐのが下手くそなくせに、子イルカが、馬鹿笑いをする。

散々笑ってから、嫌な眼をした。

「大丈夫だよ。

誰も信じない。

囀りを聴く事の出来る人間は、限られてるからさ。」

「さ、え、ず、りって、何?」

「詩だよ、唄、歌でもいいよ。

わからない、全てを囀ってる事。

で、あっちに出るのを手伝って欲しいんだ。

高波で、ここに投げられちゃったんだよ。」

「わかんないけど、わかったよ。」

傷つけないように、シャツを下に引いて、子イルカを外海の方に出すと、お世話係りが近ずいて、受け止める。

もっとデカイのも、その側にいたが、ジッとこちらを睨んでいた。

子イルカが海に出て行くと、そのデカイのが、野太い声で言った。

「腕白をありがとう。

今回は礼を言うが、覚えたからな。」

デカイ尾を鳴らして、水底に帰っていった。

溜まりで、しばらくボケっとしてたらしく、夕方と共に、蚊が寄ってきた。

濡れたシャツを着て、蚊の群から逃げる。

何も塩水のこんな場所まで来なくても良いのに。

デカイのに覚えられたらしいが、何も変わらず、観光の時季は、過ぎていった。

この島には、中学までしかないので、高校は本土に行く。

春、島からの出発の日、船をイルカ達が追いかけてくる。

皆んな喜んで観ていたが、こっちの心境は複雑だった。

あいつが、見に来ていたのだ。

「あっ見えた。

囀り出来る奴だ。」とか。

「あれあれ、あれだろう。」とか、仲間で、ワイワイ騒いでる。

「俺だよー。わかるかー。」

思わず、振り向くと、大きくなった、あの腕白イルカだ。

イルカ達に、馬鹿受け。

ビョンビョン跳ねて、騒ぎまくる。

誰か止めろよーー。

ひときわデカイのが船に、近ずいてきた。

観光客に、もみくちゃにされる。

海面から顔を出した、そのデカイのは、あの野太い声の持ち主だった。

「少年、帰ってこい。

囀りを聴く役目があるからな。」

デカい尾を打ち付けると、歓声の中、沈んでいった。

若いイルカ達は、ワイワイとついてきていたが、一頭、又一頭と、船から離れていった。

観光客達は、又来ようと、興奮気味に、甲板上でたむろっている。

ものすごく疲れた。

同級生達は、もうホームシックにかかってたが、それどころじゃない。

あの野太い声が、嫌に引っかかるし。

親が送ってくれていたから、甲板にいないと変だったし。

とにかく、疲れた。

イルカのいない陸に上がると、ようやくホッとした。

高校も、大学も、可もなく不可もなく、過ぎていった。

生活費の足しにバイトに明け暮れ、島には帰っていない。

島の観光は順調で、母の勤めていたホテルに、就職が決まってしまった。

呼び戻されたのだ。

同級生の何人かが、役場や土産物屋やら、とにかく、島に帰ることになっていた。

未だに島の住人は島出身者に手厚いのだ。

アパートを引き払い、いらない物を処分し、島に帰る。

来た時より、荷物が少ない。

船は新しくなり、観光客が、多いのがわかる。

最近は小形のクジラも出没するのを、船内のパンフレットで、知る。

帰ると、あのホテルへ向かう。

デカくなっていた。

古い七階建ての横に新しい十二階建てが、そびえている。

後ろは岩山なので、迫力がすごい。

一緒にホテルに就職する新人達と、支配人のところに挨拶に行く。

俺以外の二人はホテルが用意した寮暮らしだから、先に帰る。

支配人の久保田くぼたさんは、母の部下だったから、話が早い。

母は、定年を迎えていて、畑や花作りに精を出していた。

父は三才下だったので、もう少し、役場勤めが残っている。

「ただいま〜、腹減った。」

庭から、声がする。

「お帰り。

キッチンに支度してあるから、食べてなさいな。」

相変わらず、サッパリした親だ。

台所に行くと、煮物のオンパレード。

ブリと大根とイカのブツ切りの煮物が、昔から大好きだったので、ジャーから、ご飯をよそい、お汁をあたためながら、腰を半分浮かして、かきこむ。

ここの特産の海藻のお汁も、美味い。

瓜の古漬けを歯切れ良く食べていると、手を洗いに母が来た。

「あんた、久しぶりなのに、変わらんねー、食べ方。」

間引きした葉物を洗い、サッと炒めて出してくれる。

何を食べても美味い。

佳子よしこは、学校かい。」

母がケラケラ笑う。

「これだから男の子は。

もう先だってから、土産物屋で、働いてるおるよ。」

お茶を入れながら、母が隣に座る。

「彼氏、居るんよ。

あんた、もうすぐ、おじさんね。

わたしらは爺ちゃん婆ちゃんさね。」

イカが、口の横にぶら下がる。

2つ違いでも、女の子は、凄い。

「あんた、彼女は。」

口に飯をいれたま、頭をふる。

「いたら、帰らなかったかね〜、こん島に。」

俺が島に帰ってきて、就職して、落ち着いた頃、妹の結婚式だった。

研修やらは、本土で済ませてきていたが、やはりホテルの仕事は忙しい。

俺は、夜中から明け方までの勤務が、多くて、地元に残った奴らとの交流もままならなかった。

親の後を継いで、漁師になり、漁と観光客のイルカウォッチングで、生計を立てているから、まあ、時間が合わない。

だから、島に帰ってきていても、なんとなく、しっくりこなくて、1人の時間が多かった。

ホテルは、予約を断るのが仕事で、古い七階建ての方も昔より値段が高いのに、満室が、続いた。

俺が島に帰ってから、イルカが増えたと、母が言っていたのが、気になる。

もうすぐ赤ちゃんを産む妹が、里帰りしてきて、話し相手が増えた。

それぐらい、島では暇人がいない。

定年のない仕事をしている人たちが多く、皆んな一日中、いそがしい。

こんな母親でも、ホテル業務に、駆り出されることがあって、二人で、受付に並んでると、地元民に、からかわれる。

新人の1人が、ついていけずリタイヤしたからだ。

本土から代わりの人が来るまで、母がパートで、働く。

朝方、帰宅すると、妹が、起きてきた。

「寝てろよー。

ご飯ぐらい、なんでもないし。」

「にいちゃん、臨月だと、腹が重くて、寝てばかりもいらんないんだよね。」

よっこらしょと、座椅子に座る。

座椅子じゃないと、ひっくり返りそうで、怖いそうだ。

母と入れ違いなので、今は二人きりだった。

こういう時に、産まれるとかは、無しで、と、祈る。

妹から、島の事を聞くのは楽しい。

泳いでるとイルカがついてくる話に、身を乗り出してしまった。

「なんか言ってたか。」

妹に、馬鹿にされた。

「イルカが話すかね。

鳴いてはいたわ。」

母そっくりな口調だ。

なんとなく、海を避けている。

ホテルの行き帰りも海の見えない方の道を歩くし、散歩も山に行くし、人付き合いも、海をさけるから、釣りにも出ない。

悶々とした日々が続いていた。

久々の休みで、母もいるので、のんびり散歩に出た。

あの藪の前に出ていた。

藪を抜けると、今は乾いているあの溜まりが、あった。

その向こうに、イルカがいた。

「お前、海が嫌いか。」

イルカがゲラゲラ笑う。

あいつだった。

腹をくくって、側に降りる。

水のない溜まりの淵に腰掛け、イルカと話す事になった。

「待ちくたびれたぞ。」

ヒレでバシャバシャ海面を叩く。

「爺ちゃんに脅かされたからな。

囀りの聴こえる者は、詩を聴かなくちゃならないのは、運命だってさ。」

イルカは、嫌な眼をする。

「俺らは全て聴いたんだぜ。」

「俺は、君から聞くのか?。」

イルカのバカ笑いが、響く。

「歌姫は、俺の母ちゃんだよ。」

デカイのと白っぽいイルカが、現れた。

周りにいつの間にか、イルカの群れが、集まっている。

何十頭いるのか、凄い数だ。

「すまなかった。

わしの言葉が乱暴だったかな。

詩を歌うのは、彼の母親だから、安心しなさい。」

デカイのが優しいとなんか変だ。

白っぽいイルカが前に出た。

バカ笑いの息子が、サッと下がる。

イルカの歌う詩は、混乱の極みだった。

はるか昔、イルカもクジラも人も陸に上がり、繁殖していた。

皆んな毛むくじゃらで、太陽の驚異から、皮膚を守っていた。

ある日、毛のないイルカやクジラが産まれ、毛のない人間も生まれ出した。

身体が日に焼かれ、水に浸かるか、日陰にいるか、夜に行動するしかなかった。

皮膚は、直ぐ乾き、ひび割れたのだ。

いつの間にか、毛のない種族や家畜が、増えていた。

それは恐ろしい事だった。

血と肉を食べる為に、改良されていたのだ。

それらは、生きている獲物を好んだ。

生きたまま捕らえられて、血を飲まれ、心臓やらの内臓を食われる。

だが、絶対の力を持つやつらは、人間に崇められ、イルカやクジラを狩る。

悪賢いやつらは、イルカやクジラに、行動異常を、起こさせる。

時期が来ると、集まってしまうのだ。

簡単に捕獲された。

川や海に逃れても、陸に呼ばれると、逆らえないのだ。

人間は、食物としてだけではなく、運搬や残飯整理にも、やつらの手足となって働いていた。

いつしか、日差しに強い皮膚を手に入れた人間は、昼間も動けるようになっていった。

囀りを聴く人間が仲介者になり、やつらに新鮮な血と肉を与えていた。

だが、やがて、人にも、喰われるのが嫌だと言うのが出てきた。

やつらは塩に弱い事を知った、海に逃げたイルカから、知恵を授かった人間は、塩をあちこちに盛った。

塩の混ざった砂で、道を作り、家や家族を守った。

貝を護身用に首から下げた。

その頃は、イルカもクジラも海に帰って行ってたから、やつらの餌はほとんど人間だった。

山の中の住居を捨て、海辺に人は住み始めた。

料理に塩を使うと、血の塩味が強くなり出し、人は塩を食べ、他の家畜にも食べさせた。

塩なしでは、生きられなくなったが、やつらは、この星を捨てた。

毛のないまま、海に生きるイルカ達と人の暮らしは別れ、囀りを聴く者との契約だけが残ったのだった。

白っぽいイルカの唄は、終わった。

残酷な話だが、人間も、豚や鶏や牛を飼って今でも、喰っている。

羊は、人が毛を刈ってやらないと、永遠に毛が伸びてしまうように改良されていたし、豚は、毛が少ない。

毛はあるが、見た目ははげてる。

人が飼う動物の中で、犬や猫にやはり、毛が無いのがいる。

まばらに毛の生えた手を、しげしげと見る。

食べやすいなんて方向で、この手を見てる俺がいた。

あの腕白が、話す。

「時々、呼ばれた頃の記憶が蘇って、浜に打ち上がるのは、仕方ないんだ。

そう、なってるから。

でも、囀りを聴く事の出来る人間は、この詩を知らなくちゃならない。

俺たちが、知ってるように。

お前が、いる限り、この島に俺たちは、集まる。

もうすぐ、遠い海の奴らも来る。

お前の血筋に囀りを聴く者が産まれると、良いな。」

デカイのが、続ける。

「世界中のイルカや鯨が、来るだろう。

百年ぶりの囀りを、聴く者よ。

我らの声を詩を、聞いてほしい。

お前達も我らも、食べらる為に作られてはいるが、共に戦い自由を手に入れた種族だと。

我々は人間に食べられる事に誇りを持っている。

必要なら、この心臓も肉も歯も骨も差し出す。

あやつらをこの星から追い出した人間との、我らとの永遠の契約なのだ。

また、会おう。」

その言葉を最後にイルカ達は、大海に帰っていった。

ドキドキしたまま、身体が動かない。

イルカは、人の前にその身を投げ出すんだ。

何千年もの前の契約を守り、今も約束を違えずに。

妹のお腹の子が、気になったが、囀りを、聴く事が出来たなら、聞いた方が良いだろうと、思った。

この星の海が続く限り。

今は、ここまで。

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