オタサーの姫川
鳴楼高校漫画研究会。
僕はそこの癒やし担当部員だ。みんなからは「姫」なんて呼ばれたりもする。僕は恥ずかしいから止めてって言ってるんだけどね。
今日も部員達は癒やしを求めて部室へやってくる。
「なぁ姫川、お前また太った?」
「もー、太ってないもん!!」
僕のぷにぷに二の腕を揉む部員の腕を払い除け、頬を膨らませる。
すると部員は僕の頭を撫でながら小さく笑った。
「はは、ごめんごめん。っていうかお前の頭、本当に触り心地良いなぁ」
「んっ……にゃー」
「あっ、お前ばっかりズルいぞ! なぁなぁ姫川、久しぶりにおっぱい揉ませてくんね?」
「えー? またぁ?」
僕が渋ると、部員は手を合わせながら擦り寄ってきた。
「頼むよ、購買のパンいくつでも奢るから!」
「……イチゴ生クリームサンドも買っていい?」
「もちろん!」
「もぅ、しょうがないにゃあ」
僕が許可を出すと、部員は後ろから胸を鷲掴みにして激しく揉みしだいた。
「あーやっぱ姫川の胸すげー」
「ちょ、ちょっとそんな乱暴にすんのやめなよ。姫川困ってんじゃん……」
注意してきたのは最近入部してきた吉田君だ。
小柄で色が白く、大人しいし前髪で目が隠れていて表情がよく読めない。正直、ちょっと二ガテ……
「あ? なんだよ吉田ぁ、お前だって揉みたいんだろ」
「い、いや僕は別に」
「じゃあ揉んで欲しいのか? おらおら!」
「ちょっ……やめてよ」
部員はしばらく吉田君に戯れついていたが、ふとその動きを止めた。
「お前……意外と可愛らしい顔してんな」
「え?」
「おい、たしか文化祭用のコスプレ衣装あったよな?」
「えっ……ええっ!?」
吉田君は半ば強制的にドレスを着せられ、ツインテールのカツラを被せられた。
ドレスから見える足はほっそりとしており、顔を赤らめて体を隠そうとするしぐさは少女そのものだ。部員たちの目は吉田君に釘付けとなった。
「うお……本当に女みてぇ」
「っていうか結構可愛くね?」
「むむむ、これはまさしく美少女……!」
「ちょ、ちょっと吉田こっちこい」
部員は吉田君を手招きし、そしておもむろに抱きついた。
「おおっ! お前細いな……本当に女抱いてるみてぇ」
「ちょちょ! 俺にも俺にも!」
「待てよ順番だぞ!」
チヤホヤされる吉田君。
輪の外で突っ立ってる僕……
とうとう我慢できなくなって、僕は机を殴りつけた。
「酷いよみんな! みんなのために僕、こんな喋り方してるのに……」
驚く部員たち。静まり返る教室。
そのうち一人の部員が伏し目がちに口を開いた。
「ごめん姫川……でもお前、確かに声は可愛くて胸もあるけどやっぱり見た目が……」
「なんで!? みんな僕のこと可愛いって言ってくれたじゃん!」
「だってお前、太ってるし……」
「頭ボウズだし……」
「ヒゲ生えてるし……」
「っていうか完全に男じゃんお前」
「!! もう良いっ、皆なんか知らない!!」
僕は床を揺らしながら部室を飛び出た。
ここは鳴楼高校、創立百年の由緒ある男子校である。




