イタリアに蠢く愛憎
マフィアのボスの話です
あたしは、食事の帰り道、深夜のローマを男と歩いていた。
「君を一生大切にするよ」(イタリア語)
真実の口に手を入れて宣言する男。
迷信を迷信としか思っていない甘い男。
「それ手が抜けるかしら?」(イタリア語)
「当然じゃないか」(イタリア語)
笑顔で手を抜こうとした男だったが、幾ら引っ張っても抜けない。
「どうしたの?」(イタリア語)
あたしが素知らぬふりをして尋ねるが、パニックを起こしていた男には、届かない。
「馬鹿な! 何故だ!」(イタリア語)
青褪める男にあたしは、耳打ちする。
「真実を口にすれば抜ける筈ですよね」(イタリア語)
男が何かを言う前にあたしが質問を切り出す。
「ドールシステムは、どの組織に転売したの?」(イタリア語)
男の顔から一気に血の気が引く。
「そんな事を言えるわけが無いだろう!」(イタリア語)
肩をすくめ、あたしは、冷たい視線を向ける。
「それだったら永遠にそこでじっとしているのね?」(イタリア語)
必死に手を引き抜こうとするが抜けない男が忍耐の限界を超えたのか、叫ぶ。
「ボゴレスファミリーだ! ドールシステムは、奴らに転売した!」(イタリア語)
「そういうことだって、もう良いわよ、セン!」
あたしの言葉に答え、真実の口の中の空間を弄り、手を抜けなくしていたセンが答える。
『私に命令するな!』
真実の口が巨大化して、あたしに襲い掛かってくる。
「遊んでいるな。行くぞ」
傍に待機していたオケンが車でやって来る。
「そういうことだから急ぎましょ」
不満気な顔をしてセンが現れてオケンが待つ車に乗り込むのであった。
あたしも車に乗り込み、いくつか候補にあがっていた組織の資料からボゴレスの資料を取り出す。
「若いボスに代わったばかりのところだけど、最大勢力を誇るマフィアよ」
オケンは、資料を一瞥もせずに続ける。
「今、その本拠地に向かっている。しかし、このマフィアがドールシステムを持っているなんてな」
あたしが苦笑する。
「マフィアの大元は、自衛組織だって話を気にしているんですか?」
「八刃も、似たような物だ。異界の存在から自分の大切な物を護る為の組織。戦う為に力を求め、その維持の為に金を求める。世間一般では、犯罪組織と変わらない」
オケンの言葉は、意外だった。
「犯罪組織って、何か罪を犯しているの?」
あたしの問い掛けにオケンが苦々しい顔をする。
「金の為にその技を使う事を禁じていない。非合法な方法であくどい金稼ぎも平然と行われている。俺自身、殺し屋の真似事をしていた時期もある」
確かにオケンの能力があれば殺し屋としては、十分過ぎるだろう。
「恐ろしい組織に思えてきた」
出来るだけ落ち着いていったつもりだが、多少声が震えてしまう。
「当然だ。神や悪魔に喧嘩をうる事を大前提にした組織だからな。大切の者を護る為なら何でもする。正に恐ろしい組織だな」
オケンのバックの大きさに今更ながら畏怖する。
「そんな組織があたし達の知らない所で蠢いているのね」
『知らないのは、それだけじゃないわよ。この世界がどれだけ神と名乗る異邪によって蹂躙し続けられていたかも知られていないわ』
センが割り込んできた。
「それは、信じられない。そんな痕跡なんて何処にも見当たらないと思うけど」
あたしの反論をオケンが微笑する。
「大きすぎる物は、逆に見えないって言う事だ。宗教の幾つかは、異邪による蹂躙の痕跡だ。近代、宗教の力が落ちて来たというのは、科学の発展なんて言われているが、異界門閉鎖大戦の影響で異邪の出入りが極端に制限されてる所為だと八刃が予測している」
「信じがたい事実ね」
困惑するあたしにオケンが真剣な眼差しで断言する。
「しかし、それが事実だ。人は、異邪によって虐げられていた。神と名乗る奴らの命じられるままに人生を決められ、その命すら奪われる。そんな現実に抗う者達、それが八刃なのだ」
そんな会話をしているうちに目的地に着いた。
そこは、ボゴレスファミリーの本拠地、多くの人員が居て、警察隊が突入しても制圧なんて出来ないだろうが、オケンとセンの前では、無力だろう。
「何者だ!」(イタリア語)
「俺は、オケン=カミヤ。八刃に所属している者。お前らが手に入れたドールシステムは、異界の技術を使ったもの、それを放棄しろ。さもなければお前達を壊滅させる!」(イタリア語)
オケンの宣言にいきり立つボゴレスの男達。
「舐めやがって! 殺してやるぜ!」(イタリア語)
拳銃が火を噴き、弾丸がオケンに迫り、あっさり弾き飛ばされる。
呆然とするボゴレスの男達。
「この人の後ろには、巨大な組織が有るわよ。上の人に話を通さず勝手な事をすれば、処刑されるかもよ」
車から出てあたしの言葉に男達が視線で会話し、慌てて言う。
「少し待ってろ!」(イタリア語)
慌しく中と連絡する男達。
『余計な事をして、オケンだったらこの程度の組織を潰すなんて朝飯前よ』
センの言葉にあたしは、肩をすくめる。
「そして、莫大な金額を後始末に使うの?」
闇の所属している八刃は、自らの存在を隠す事に固執している所がある。
今まで関わったどの事件でも、八刃の名が表に出る事を無かった。
その為には、どれだけのお金が使われているかは、想像も付かないほどだ。
「無駄な出費は、俺も望まない。少しだけは、待つ」
大人しく従う風に見えるオケンだが、待つのは、本当に少しだけだろう、三十分も待たされたら、躊躇無く行動を再開するだろう。
しかし、誰に幸運かは、解らないが反応は、直ぐ返ってきた。
「組織の幹部がお前と会うと言っている。付いて来い」(イタリア語)
奥からやってきた最初の男達とは、明らかに格が違う男がオケンを連れに来た。
「解った」(イタリア語)
簡単に答えて、付いて行くオケン。
「少しは、罠とかの心配しないのかしら?」
あたしがぼやくとセンが優越感たっぷりの顔で断言する。
『奴らがどんな罠を用意していても噛み砕けばいいだけのはなしよ!』
オケンも同じ考えなんだろう。
あたし達は、大人しく付いて行くと、そこには、正にマフィアの幹部が揃っていた。
「我らもこの世界の人間だ、ハチバの名前くらい知っている。あのホワイトハンドオブフェニッシュの仲間なんだろう?」(イタリア語)
幹部の問い掛けにオケンが頷く中、あたしは、センに小声で問い掛ける。
「ホワイトハンドオブフィニッシュって何者?」
怖いもの知らずと思っていたセンが怯えた表情を見せる。
『生身で山一つ消滅させた事もある、八刃の一家、白風の次期長。ハッキリいって本物の化け物よ』
想像できないが、その正体が巨大な竜であるセンがここまで恐れる以上、只者じゃないのだろう。
「ドールシステムは、我が組織が保有している訳では、無い」(イタリア語)
「嘘は、止める事だな」(イタリア語)
幹部の言葉に即座に否定するオケンだったが、幹部が首を横に振る。
「ドールシステムを手にしたのは、組織では、無い。若きボス、ゲディー様だ。そしてゲディー様は、ここには、居ない」(イタリア語)
「何処に言った?」(イタリア語)
幹部の答えを疑わないオケンにあたしが割ってはいる。
「そんな言葉を信じろって言うの?」(イタリア語)
幹部が一枚の写真を見せる。
「これは、ゲディー様とその親友とその恋人を撮った写真だ。ゲディー様は、その女性、パスを愛していた。自分の立場を考えて、身を引こうとしていたが、親友が亡くなり、傷心するパスを見て、ドールシステムを手に入れる事を決めたのだ」(イタリア語)
あたしは、写真に写る三人、特にゲディーの表情にその話が本当だと直感的に理解した。
「それで、何処に行った」(イタリア語)
オケンが淡々と尋ねると幹部が首を横に振る。
「ドールシステムを私財を売り払って手に入れたゲディー様は、パスと共に姿を消した。我々は、次のボスを決める為にここに集まっている。だから、ドールシステムの件は、もう我々と関係ない」(イタリア語)
オケンが幹部達に背中を見せてその場から離れる。
あたしもついていきながら呟く。
「追いかけられる?」
「目的の人間が解っていれば、探索出来る術だったら幾らでもある。術の妨害もないだろうから直ぐに解るだろう」
オケンの言葉通り、ゲディーの居場所は、一時間もしないうちに見つかった。
郊外の小さな屋敷、そこにゲディーが居た。
「もう来たのか。噂は、聞いているDDCの遺産を追いかけている者だな? ドールシステムを渡せというのだろう?」(イタリア語)
そこに居たゲディーは、写真に写っていたのと同一人物とは、思えない程老けていた。
あたしの顔でその感想に気付いたのかゲディーが微笑む。
「ドールシステムを使った代償だ。でも、今は、幸せだよ。決して手に入らないと思ったパスの愛が手に入ったのだから」(イタリア語)
「ゲディー、世界で一番愛しているわ」(イタリア語)
そういうパスは、正に人形の様であった。
「人形遊びは、そこまでだ。ドールシステムを放棄するつもりがないのなら、覚悟をしろ」(イタリア語)
睨むオケンにゲディーが指を鳴らすと、どこからともなく大勢の人間が現れて、ゲディー達の盾になった。
「ドールシステムで操り、私を命懸けで護る様にしてある。こいつらには、何の罪も無い。そんな人間に危害を加えられるかな?」(イタリア語)
絶対の自信をもって宣言するゲディー。
「面倒な事をして」
あたしだけが途惑っていた。
『我は神をも殺す意思の持つ者なり、ここに我が意を示す剣を与えよ』
神威を手にしたオケンは、躊躇無く盾になった人間を切り裂き、ゲディーに迫った。
「相手が何者でも関係無しか?」(イタリア語)
ゲディーの冷めた問い掛けにオケンが答えた。
「完全に治療できる様に斬っている。多少は、入院するが、操られたままよりましだろう」(イタリア語)
ゲディーが天を仰ぎ見る。
「残念だ。この幸せがもう終わるのだから。ドールシステムの為の装置は、これだ」(イタリア語)
取り出された小さなペンダントをオケンは、確認して破壊した。
すると、パスが愕然とした顔をしたと思うとゲディーを睨む。
「最低よ! 人を操って好き勝手な事をして、私は、一生貴方を許さない!」(イタリア語)
睨み駆け出すパスを見送ってからゲディーが告げる。
「ドールシステムの知識は、私の頭の中にもあります。完全に抹消したければ私を殺す事です」(イタリア語)
「その必要は、無い。お前程度の脳みそで正しく異界の知識を理解できる訳が無いからな」(イタリア語)
オケンが背を向けるとゲディーが怒鳴る。
「馬鹿にするな! 私は、完全にドールシステムを理解している。ここで殺さなければまたドールシステムを作るぞ!」(イタリア語)
「万が一って事があるんじゃないの?」
あたしの問い掛けにオケンが首を横に振る。
「ありえない。そいつは、愛した人間に恨まれ続けながら生きる根性がないだけだ」(イタリア語)
言葉に詰まるゲディー。
「そいつは、最初からこの結末を予測していた。ドールシステムが壊されて、解放された相手から死ぬほど憎まれる事を予測してこんな真似をしたんだ」(イタリア語)
オケンの予測が理解できなかった。
「そんな訳無いよ、だってそれじゃ、何でこんな真似をしたの」
「悲しみに明け暮れるだけの人間で居て欲しくなかったのだろう。自分が憎まれても強く生きていて欲しかった、違うか?」(イタリア語)
オケンの問い掛けにゲディーが天を仰ぎ告げた。
「そんな上等な物じゃない。パスの恋人、俺の親友は、俺を庇って死んだ。それなのにパスは、俺を恨む事も出来ず、悲しみの世界に閉じこもってしまった。俺は、親友を殺してしまった罰を受けたかったそれだけだ」(イタリア語)
愛している人を愛する事も出来ず、その大切の人間を殺してしまった罪に悩み、そして自ら暴挙を行う事で憎まれ役を買って出る事で罰を受けようとする、哀しい話だ。
「憎まれ役をやるなら長生きする事だな」(イタリア語)
オケンは、それだけを言い残しその場を去った。
数日後、あたしは、オケンに一つの情報を告げる。
「ゲディーさんが死んだ。死体になって河に流されていたって」
オケンが立ち上がる。
「愚かな奴らだ。あの男の意地を認めて見逃してやろうと思ったが、止めだ」
情報収集を再開した。
あたし達は、再びボゴレスファミリーの本拠地に来ていた。
「ここには、ドールシステムは、無いぞ!」(イタリア語)
覚える幹部達にオケンが告げる。
「知っている。八刃の捜索の手が迫っていると気付いて、全てをゲディーに押し付けたのだろう」(イタリア語)
顔色が変わる幹部達。
「何を言っているか解らない。あれは、ゲディー様の独断で、組織が直接関わっていた訳じゃない」(イタリア語)
あたしは、持ってきたビデオを再生する。
『ドールシステムは、元々ボゴレスファミリーが政治家に強いコネを作る為に手に入れたんだ。しかし、ハチバが探索してる事を気付いて、騒動になった時、ゲディー様が自分を犠牲にしろと言ってきたんだ。それで、あの筋書きを考えたんだ!』(イタリア語)
そこに映っているのは、前回会った幹部の一人、拷問して吐かせた。
「その程度の嘘くらいは、見逃してやっても良かった。実際にこの組織には、ドールシステムの痕跡は、殆ど残っていないのだからな」(イタリア語)
オケンの言葉に幹部たちが安堵の息を吐こうとした時、オケンが続ける。
「ゲディーが生きて居たら、最終的な歯止め役になるだろうから、最低限の監視で済ませていた」(イタリア語)
その一言に一気に幹部達に緊張が走る。
「今すぐにここから全員退避させる。万が一の可能性を考慮して、ここを完全に破壊する」(イタリア語)
オケンの宣言に幹部達が騒ぎ出す。
「そんな無茶苦茶だ!」(イタリア語)
オケンが冷たい視線を向ける。
「万が一の用心だ。お前らがゲディーを始末したのと同じな!」(イタリア語)
幹部達が凍りつく中、オケンが呪文を唱える。
『魂の契約にもとづき、我に力と化せ、ダークスタードラゴン! 超竜武装』
センがダークスタードラゴンに一度変化し、その後、オケンに装備されていく。
『メテオフィールド』
振り上げられた神威から放たれた光は、ボゴレスファミリーの本拠地を一切の痕跡を残さず消滅させるのであった。
後始末を終えて、イタリアを離れるあたし達の前にパスさんが現れた。
「どうして男の人は、身勝手なんでしょうか? 親友の為にあたしを残して死んだり、その親友を死なせた事に罪悪感を覚え、自ら死んでしまう。残された女の気持ちなんて男には、関係ないって事ですか?」(イタリア語)
あたしが答えられないでいるとオケンが失笑する。
「そんな男達の事を思い続けるのも女の勝手じゃないのか?」(イタリア語)
哀しい笑い声をあげるパスさん。
「そうですよね。あんな男達が愛しくて、大切で、忘れられない私も十分に身勝手ですよね。二人とも自分達より私の事を大切してくれたっていうのに……」(イタリア語)
笑顔から零れ落ちる涙を止める事が出来ないままあたし達は、飛行機に乗るしかなかった。
大人が主人公なんでこんなダークな感じが似合います。
因みにボゴレスとゲディーとパスの名前は、ボンゴレスパゲッティーから来ています。




