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パリに走る闇

パリの芸術家を利用して使われるDDCの技術とは?

 あたしは、エッフェル塔が見えるホテルのレストランで現地の有力者とディナーをしていた。

「ミスハンドレット、君は、本当に美しい」(フランス語)

「ミスターの魅力に比べれば、私なんて、道端に咲く、雑草の様な物ですよ」(フランス語)

 あたしは、謙虚にそう相手を持ち上げると、不相応な自信が触れたのか、嬉しそうに言う。

「道端の花でも、君は、確かに私の目に留まった。さあ、この芸術の都の夜を二人で楽しもう」(フランス語)

 そういってテーブルの上にあるあたしの手を触ってくる。

「ええ、ミスターの事をもっと教えて下さい」(フランス語)

 その言葉に、自分の不正の数々を自慢げに語る。

 この手の連中は、アメリカでもフランスでも変わらない。

 自分一人が選ばれた人間で、後の連中は、自分の駒くらいにしか思って居ない。

 今、聞いている話を市民が知れば、リコールされてもおかしくない。

 それでも、あたしが知りたかった話が出てくる。

「そうそう、あのDDCの技術を手に入れた企業があってね。それの実験を許可してやった。これが傑作でね、若手芸術家を使って擬似世界を構成するなんて突拍子も無いものだ。その中では、自分達の都合の良い現象を起こせるらしく、色々と彼等の利益に繋がっているらしい」(フランス語)

 事前に仕入れた情報通りだ。

 あたしが席を立ち、窓に近づく。

「ミスター、一緒に夜景を見ませんか?」(フランス語)

「いいね」(フランス語)

 あたしの隣に来て、いやらしい目つきであたしの体に手を回す。

 そして、その顔が一気に強張っていく。

「……ド、ドラゴン!」

 窓の外にドラゴンが現れたのだ。

 逃げ出そうとするがその手をあたしが掴む。

「放せ! 私は、お前みたいな雑草と違う! 私が逃げる間、盾になっていろ!」(フランス語)

 あまりにも予想通りの反応に苦笑しかできない、あたし。

「安心して、命までとらないから」(フランス語)

「何を言っているのだ!」(フランス語)

 その時、ドラゴンの頭の上に乗っていた男が、窓をぶち破り、入って来た。

「間違いないな?」

 あたしが頷く。

「こいつが、例の実験を裏でサポートしている政治家。詳しい情報も持っているわ」

 あたしの言葉に、その男、オケンが近づき告げる。

「詳しい話を聞かせてもらうぞ」(フランス語)

「お前は、何者だ!」(フランス語)

 現地の有力者の言葉にオケンが答える。

「俺の名は、オケン、八刃の一つ、カミヤの次期長、オケン=カミヤだ。DDCの技術を狩る者」(フランス語)

 青褪める現地の有力者。

 その頃になってようやくボディーガードが現れ、拳銃を向けてくる。

「馬鹿、止めろ! こいつは、人間じゃ無い!」(フランス語)

 現地の有力者は、オケンの組織、八刃を知っているのか、慌てて止めるが、銃弾は、止まらない。

 無数の銃弾が、あたしとオケンに向かって放たれた。

 しかし、当たる前に弾かれる。

『銃弾を弾いてやった、少しは、感謝しろ』

 テレパシーで話しかけたのは、銃弾をドラゴンワールドと呼ばれる、自分の周りに展開した特殊な空間で防いだ、窓の外に居る竜、ダークスタードラゴン、センだ。

 あたしは、肩を竦めて言う。

「どうせ、オケンのついででしょ?」

『馬鹿を言うな、オケンだったら、この程度、自力で防げる』

 センの言うとおり、拳銃なんかが通用する人間じゃ無い。

『我は神をも殺す意思の持つ者なり、ここに我が意を示す剣を与えよ』

 オケンが呪文と共に、手に自分の力で作り出したサムライブレード、神威カムイを握り、抵抗する者達を切り捨てる。

「抵抗は、無駄だ。DDCの技術は、全て破棄すると通達してある」

 ちなみそれは、決まりでも何でも無く、八刃の一方的な通達でしかない。

 しかし、それに正面から反抗する者は、居ない。

 居るのは、目の前に居る様な、密かに流用しようとする者だけだ。

 惨劇を見て、失禁し、震える有力者。

「だから、言ったのだ、八刃なんて人外に関わるなんて愚かだと」(フランス語)

 そこには、先程までの自信が無く、絶対的な力に打ち砕かれた無力な男が居た。



 オケンが泊まる一流ホテルのシャワーで返り血を洗い流して、あたしがルームサービスでとったワインを飲んでいると、小さく変化したセンがいう。

『何時まで、付きまとうつもりだ?』

 明らかに不機嫌そうな言葉。

「あら、今回もあたしの腕で、有力な情報が手に入ったでしょ?」

『あの程度の情報なら、現地の情報屋に金を払えば手に入る』

 センの返答にあたしは、指を振る。

「甘いわね、情報屋は、繋がりを大切にするわ。金を積んでも、今回の様な現地有力者を売ることは、あまりないわ」

 不服そうな感じで睨むセン。

 最近、気付いたのだが、このセンと言う竜は、オケンを好きらしい。

 それが、男女間のそれかは、解らないが、オケンとの時間に割り込むあたしを邪魔者扱いしているのだ。

 そんな敵意に満ちた視線を受けながらあたしは、シャワーだけを浴びて、とっとと出て行ったオケンに近づき言う。

「でも、何で芸術家なのかしらね?」

「今回の技術は、簡単に言えば、センが使っているドラゴンワールドの再現だ。ドラゴンは、長い年月を経る事で、自分の想像の世界を具体的に構成する事が出来るが、人間には、それは、難しい。それを多少なりにも可能なのが、芸術家と言う独自の世界を持つ者だって事だ」

 オケンの説明にあたしは、センを見る。

「詰り、センって芸術家より、高等な世界想像力を持つって事?」

 正直、解りやすい嫉妬をするセンがそんな高等な事が出来るとは、思えない。

「ドラゴンの感性と人のそれとは、大きな隔たりがある」

 あっさり答えオケンが冷やしたビールを飲み干して言う。

「明日から、狩りの開始だ」



「止めろ! 来るな!」(フランス語)

 ピカソが書きそうな化け物を何体も生み出す、画家の卵。

 しかし、そんな物がオケンに通じる訳も無い。

 あっさり神威に切り捨てられ、世界を創造する装置を破壊される。

「二度と、この技術に手を触れるな」(フランス語)

 オケンの言葉に、壊れたおもちゃの様に首を振る画家の卵。

 そして、オケンと共に、現金で買った四駆の日本車に乗って、次のターゲットの場所に向かう。

「しかし、あの技術ってどういう風にお金儲けに繋がるの?」

 あたしの言葉にセンが嘲る顔で言う。

『その程度の事も解らないのか? この世界の人間は、自分で物質を変更させる事も出来ない。しかし、あの世界なら、好き勝手に物質を変化させられるのだ』

「それって、もしかして単なる石炭をダイヤに変化させたり出来るの!」

 驚くあたしにオケンが言う。

「そういう単純な金儲けならほっておいても構わないんだがな。その気になればウランやもっと危険な物質を作る事も可能なんだ」

 顔を引き攣らせてあたし。

「詰り、武器商人が関わっていたってこと?」

 オケンが頷く。

「元々、DDCも武器商人だからな。そっちの流用方が一番メジャーなんだ」

 大きく溜息を吐くあたし。

「本気で、面倒ね」

『嫌だったら、とっとと帰れ!』

 センのお決まりの言葉に、あたしは、舌を出す。

「こんな金づるをそうそう諦められますかって」

 実際に、かなりの情報料を支払ってくれる。

 だけど、オケンといるのは、それだけじゃ無い気がする。

「次のターゲットの情報を話せ」

 オケンは、あたしやセンの気持ちを無視して、仕事の話に戻る。

「あたしの調べだと、やっぱり画家なんだけど、少し気になるのは、最近、技術を提供した組織との接触も絶っている事。何度か、組織の方も接触を試みているけど、全部失敗している」

 因みに、組織自体は、既にオケンが壊滅させている。

 新聞に載っていた、事故との偽装を見て、世の中は、嘘で満ち溢れていると確信した。

 少し考えてからオケンが聞いてくる。

「その男の情報を詳しく調べられるか?」

 あたしは、頷いて、その手の情報を扱う、情報屋と連絡をとり、幾つかの情報を掴んだ。



 草原の中に建つ小さな家。

 その前にあたし達が立つ。

「ここって、彼の故郷の家だと思う」

 あたしが説明するがオケンは、気にした様子もみせず、扉を開ける。

「どちら様?」(フランス語)

 幸せそうな女性、問いかけてくるが、オケンは、有無も言わさず、斬り殺した。

 それを見ていた男が慌てて駆け寄る。

「確りしろ! こんな傷は、直ぐに治る!」(フランス語)

 その言葉通り、どうみても致命傷の傷が癒えて、微笑む女性。

 安堵の息を吐いてから、オケンを睨む男。

「貴様、妻に何をするんだ!」(フランス語)

 オケンは、淡々と答える。

「それは、お前の妄想が作った、お前の理想の人形だ。人形遊びの時間は、終わりにしろ」(フランス語)

「違う! この世界こそ、本当の世界なんだ!」(フランス語)

 男、この擬似世界を構成した売れない画家は、元々は、妻子持ちだったが、流行り病で妻を失ってから、自暴自棄になり、借金を作り、組織に利用される事になった。

 そして、男は、自分の作った世界に妻を甦らせて二人だけの世界に篭ってしまった。

 唯一の肉親である子供まで、捨てて。

 あたしは、この世界の入り口にあった、外敵を排除する化け物に陵辱された、男の娘の屍を思い出してしまう。

 オケンは、神威で再び、男の妻を殺す。

「止めろ!」(フランス語)

 全身で妻を庇う男の手の中で復活する男の妻。

 しかしその顔にオケンは、神威を突きたてた。

 流石にその状態からの蘇生は、男の狂った理性でも不可能なのか、蘇らない。

 男は、表情をなくした顔で言う。

「これも夢だ。悪夢だ。悪夢は、終らせないといけないな!」(フランス語)

 次の瞬間、世界が変わる。

 それは、地獄、そして巨大な化け物達がオケンに襲い掛かる。

「死ね! 死ね! 死ね!」(フランス語)

「……完全に狂ってる」

 あたしが呟くなか、オケンが呪文を唱える。

『魂の契約にもとづき、我に力と化せ、ダークスタードラゴン! 超竜武装』

 センがダークスタードラゴンに一度変化し、その後、オケンに装備されていく。

 竜装剣士と化したオケンが、その刃に、センの闇を宿らせ、この擬似世界に向かって力を解き放つ。

『ランニングブラックホール』

 オケンの刃から放たれたのは、動くブラックホール。

 巨大な化け物達を吸収しながら男によって作られた擬似世界を崩壊させていく。

 そして、残ったのは、連絡をとろうとして化け物に殺された組織の人間と男の娘の屍。

 男は、それを見て、呻く。

「嘘だ! これは、全部、夢に決まってる!」

「次に行くぞ」

 オケンは、絶望する男を尻目にその場を立ち去る。

 あたしは、その後を追いながら言う。

「あの人は、ほっておいても問題が無かったんじゃないの?」

 それに対してオケンがセンを解放しながら答える。

「あの男は、間違いを犯した。間違いを犯した者は、夢に溺れる資格など無いのだ。嘗て、ライバルへの勝利の為にDDCに属していた、愚かな俺と同じだ」

 自傷的な言葉。

 それは、見えない壁となってあたしとオケンを隔てる。

 それを超えられるのは、今は、センだけだろう。

 でも、あたしもいつか。

 今は、その見えない壁越しに一緒に行こうと思う。

この優秀だが暗い男と明るい女の組み合わせって多いな。

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