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ニューヨークに光る刀身

一人の情報屋の女が出会う、死を纏った剣士が現れた

 ホテルの一室。

 あたしは、ターゲットの男と一つのベッドの上に居た。

「良かったぜ」

 自分独りで満足した男の横であたしは、作り物の笑顔を向ける。

「貴方のも凄かったわ」

「そうだろう、そうだろう」

 満足気に高笑いを上げるが、勿論お世辞だ。

 あたしは、男の胸に指を這わせて言う。

「ねえ、それより、さっきの話の続きをお願い」

「良いだろう、俺が手に入れたのは、あのDDCの技術なんだよ」

 自慢げに話す男。

 しかし、その情報には、それだけの価値があった。

 DDC、それは、嘗て世界を席巻した武器商人、ダークドラゴンカンパニーの事を指す。

 そのDDCが主に取り扱った商品、それは、まるで小説に出てくるようなファンタジーな物、ドラゴンを用いた兵器だった。

 DDC自体は、世界連合が認めた、DSSドラゴンスレイヤーシステムによって壊滅したが、その際に流出した技術が、この業界では、一番の人気商品だ。

 男も、様々な伝手を使い、その一つを手に入れたらしい。

 あたしは、その情報を掴み、こうしてベッドを共にする事で、詳細な情報を得ている。

 男の話を頭に刻むあたしの名前は、ミラージュ=ハンドレット、今年、十八歳のヨーロッパ系のアメリカ人だ。

 生まれたのは、ニューヨークのスラム。

 生き残る為に、色々な事をしてきたが、今は、こうやって体を使って情報を集めて売る、情報屋だ。

 男に抱かれる事なんて、もう単純な業務作業と割り切っている。

 美人に産んでくれた事だけは、麻薬で死んだ母親に感謝しても良い。

 その御蔭でこうやって、馬鹿な男から貴重な情報を得られるのだから。

 情報の売り先を考えて居た時、廊下が騒がしくなる。

 そして寝室のベッドが空き、男の部下が入ってくる。

「ボス! 襲撃です!」

「何処の奴等だ!」

 男も即座に立ち上がり、拳銃を手に取る。

「大丈夫?」

 あたしの言葉に男が笑顔で言う。

「当たり前だ、俺が死ぬ訳無いだろう」

 誰も貴方の心配なんかしていない。

 そんな中、銃撃音と共に、悲鳴が連続し、そいつが姿を現す。

 一目でアジア系と解る外見、その手には、映画で見たサムライブレードが握られていた。

「俺の名は、オケン、ハチバの一つ、カミヤの次期長、オケン=カミヤだ。一度だけ言ってやる、お前が持つDDCの技術を放棄しろ」

 淡々と語るそいつは、年頃は、あたしと同じくらいだが、その目がまるで死神のようだった。

「ガキが舐めやがって!」

 男は、拳銃を発射する。

 この距離、外すわけも無いが、一瞬、あたしは、そのオケンが手に持ったサムライブレードで弾くかもと夢想した。

 しかし、現実は、そんな想像を超えていた。

「嘘……」

 オケンは、避けもしなかった。

 弾丸が当たる前に弾かれたのだ。

「化け物が!」

 ただ引き金をひき続ける男とその仲間達。

 だが、弾丸は、オケンに当たる事は、無かった。

 そして、オケンが男達を始末するのに、三分も掛からなかった。



 男達の死体が転がる部屋、あたしは、部屋の隅で震えるしか出来なかった。

 目の前にいる者が、同じ人間とは、思えなかったからだ。

「お前もこいつ等の仲間か?」

 オケンの言葉にあたしは、首を横に振る。

「違うわ! あたしは、ただの情報屋。こいつ等とは、情報を掴む為に一緒に居ただけよ!」

 それを聞いて、オケンは、ズボンのポケットから札束を取り出すとあたしの前に放る。

「調べるのも面倒だ、そのこいつ等が手に入れたDDCの情報を残らず調べて俺の所に持って来い」

 そのまま、オケンは、去っていった。



 翌日、あたしは、情報屋仲間の中でも古株の男、マイケル=ジョーダン(多分偽名)に昨夜の事件を話す。

「運が良かったとしか言えないな」

 あたしも頷く。

「そうね、それで、あの男が言っていた、ハチバって、何なの?」

 マイケルは、嫌そうな顔をしながらも説明してくれた。

「お前だってこの業界に居るんだ、科学で説明できない事があって、その業界もある事も知っているだろう?」

「まあね、正直、関わりあいたくないけど」

 そっちの業界の連中とは、何度か接触した事があるが、どいつもこいつもモラルって言葉を知らない奴等だけだった。

「その中でも禁忌とされるのがハチバ、日本の言葉で八つの刃と書いて、八刃と読むらしい。特別な血を引く戦闘集団。カミヤは、その中の主だった家の一つの名前だ」

「八刃……」

 改めて言葉にするだけで、何か恐ろしい物を感じる。

「とにかく、これ以上関わりあわないことだな」

 マイケルの言葉に、あたしは、肩を竦める。

「前金を貰っちゃったのよ」

「返せ、お前の手に負える相手じゃ無い」

 マイケルの言葉にあたしは、笑みを浮かべて答える。

「残念だけど、手放すには、惜しい金額なのよ」

 大きく溜息を吐くマイケル。

「どうなっても知らないぞ!」

 席を立つマイケルにあたしは、ウインクをしながら言う。

「このお礼は、その内、ベッドの上でね」

 マイケルは、手を振りながら言う。

「楽しみにしているから、死ぬなよ」



「さて、鬼が出るか、蛇が出るか?」

 あたしは、今手元にある情報をかき集めて、ネットの情報屋から買ったオケンの泊まる部屋の前に居た。

「どっちにしても、大金が手に入るかもしれない以上、逃げられないわね」

 あたしは、ドアを開けると、そこには、一匹の見たことも無い種類のトカゲが居た。

 顔が引き攣るが叫ぶのだけは、我慢した。

 そのトカゲは、暫くあたしを睨んでいたが、いきなり奥に戻って行った。

 あたしも奥にいくとそこにオケンが居た。

「遅かったな」

「すいませんね」

 軽く嫌味を籠めて言い返してからあたしは、オケンの前のソファーに座る。

「これが、あたしが持っている情報よ」

 あたしが差し出した資料に目を通して、オケンが言う。

「肝心な、DDCの技術が使われた物の隠し場所が無いぞ」

 あたしは、営業スマイルを浮かべて言う。

「そこから先は、別料金よ」

 ここが勝負だ、上手く行けば更に大金を出させられる。

 情報と言う形無いものを扱う情報屋にとってこういうやり取りこそが一番大切なのだ。

 下手に欲をかけば命を失い、あっさり出したら安く買い叩かれる。

 相手の僅かな表情も逃さない様にしていたが、予想外な展開になった。

「下らないやり取りをする気は、無い。これで話せ」

 そういってあっさり一万ドルを出してきた。

 あたしが予想した何倍もの金額だった。

 あまりにも払いが良い場合は、そのまともな取引を考えてない場合が多い。

「まさかと思うけど、情報を手に入れた途端殺すつもり?」

 オケンは、舌打ちをして言う。

「今死ぬか?」

 冷や汗が流れ落ちてくる。

 判断を誤れば間違いなく死ぬ。

「問題の場所には、あたしが直に案内するわ」

 それを聞いてオケンが頷く。

「好きにしろ」

 立ち上がるオケンにあたしが慌てて言う。

「何処に行くつもり?」

 オケンは、あたしの腕を掴み立ち上がらせる。

「決まっているだろう、問題の物の場所だ」

「今から! 夜中に忍びこむんじゃないの?」

 あたしの言葉を無視するように進むオケン。



 あたし達は、あたしの運転する車(オケンが即金で買った使い捨て用)で問題の品がある倉庫に来て居た。

「ここにあるパーツがそうらしいわ」

 あたしには、ガラクタにしか見えないそれを示すとオケンは、それらを確認し言う。

「間違いない。生体機械を流用した魔道兵器だ。後は、これを作った奴等をやればここでの仕事は、終わりだな」

 そして、車で待機する間、あたしは、この男の情報を引き出す為、何時もと同じ手段を使う。

「ねえ、時間があるんだったら良い事しない?」

 あたしは、好色そうな笑みを浮かべてオケンと手を重ねる。

 すると、その手にあのトカゲが乗り、あたしを睨む。

「このペット、ちょっと退かしてくれない」

 オケンは、苦笑する。

「センは、ペットでは、無い。俺のパートナーだ」

 苛立つのを堪え、笑顔を作り言う。

「でも、この子とじゃ、いい事出来ないでしょ?」

 次の瞬間、あたしの唇を奪うオケン。

 困惑した、そのキスは、あたしが今までした、どんなキスより情熱的で、刺激的だった。

 唇が離れた時には、あたしが脱力して居た。

「俺に色仕掛けをするなら、このくらいのテクニックを見につけてからするんだな」

 余裕たっぷりなその態度に、あたしは、悔しさを覚えた。

 相手より勝っていると思って居た分野で子ども扱いされた、それは、あたしの生きている意味すら揺らがしかねない事だった。



 月の光が倉庫を照らす中、問題の集団が現れた。

 そして、オケンが動く。

「俺の名は、八刃の一つ、カミヤの次期長、オケン、オケン=カミヤだ。一度だけチャンスをやる、大人しく全てのDDCの技術を放棄しろ」

 その言葉に、問題の集団は、困惑していたが、一人のインディアンが前に出て。

「お前が、DDCに雇われていた愚か者、オケンか! ならばお前だけは、許すわけには、行かぬ!」

 不思議な舞踊を始めるインディアン。

「やると言うなら相手をしてやる」

 オケンは、右手を前に突き出して、あたしには、解らない言葉を紡ぐ。

『我は神をも殺す意思の持つ者なり、ここに我が意を示す剣を与えよ』

 その手にサムライブレードが生まれた時、倉庫が内側から崩壊し、あのガラクタが変化していく。

 西部劇に出てくるインディアンの村にあるトーテムポールの様に見えた。

「これぞ、DDCによって命を失った一族の怨念の形。DDCが無き今、お前でこの恨みを晴らさせてもらう!」

 トーテムポールの口から炎が吹き出される。

 流石にオケンもそれを避ける。

「確かに、恨みを受ける筋合いは、あるな」

 オケンは、あっさりと認めた。

「ならば、大人しく、ここで果てるが良い」

 インディアンの言葉に、オケンは、答える。

「筋合いがあっても、俺は、受ける気は、全く無い!」

 そのままインディアンの仲間達を切り捨てるオケン。

 動揺するインディアン。

「貴様、自分で認めておきながら、どういうことだ!」

 オケンは、サムライブレードを突きつけて答える。

「まさかと思うが、俺が正義の味方だとでも思ったのか? 俺達八刃は、自分達の道理で生きている。お前等の恨みなど知ったことか!」

 清々しいまでに自分勝手だ。

「貴様の様な奴の為に! 貴様だけは、絶対に滅ぼす!」

 トーテムポールから次々と炎の玉が吐き出される。

 オケンは、それらをかわし、トーテムポールに近づき、サムライブレードで斬り付けるが、弾かれた。

「無駄だ! そのトーテムポールには、我等の祖霊が宿っている。お前が例え人外であっても、何百年もの間、一族を護り続けた祖霊の力を増幅し、発動させるそのトーテムポールは、破れない!」

 インディアンの言葉に、オケンは、苦笑する。

「なる程な、ならばこちらも全力で行こう。セン!」

 オケンの言葉に答えて、あのトカゲが飛ぶ。

 そして再び、あたしに解らない言葉を叫ぶ。

『魂の契約にもとづき、我に力と化せ、ダークスタードラゴン! 超竜武装チョウリュウブソウ

 次の瞬間、トカゲが巨大な闇色のドラゴンと変化したと思うとオケンに向かって落下した。

「オケン!」

 叫ぶあたし。

 しかし、強烈な突風が晴れた時、オケンは、爬虫類の鱗模様のマントとプロテクターを着けて立っていた。

 そしてサムライブレードには、竜の飾りがついている。

「これで終わりだ。ブラックコメット!」

 オケンが振るサムライブレードの軌跡は、まるで黒い彗星の様だった。

 それが、トーテムポールと触れた時、トーテムポールは、崩壊していく。

「馬鹿な! 個人の力で、何百年もの積み重なった祖霊の力を破れるわけがない!」

 オケンは、淡々とした口調で言う。

「所詮は、人の思い。神に逆らう我等に勝てる道理は、無いな」

 そのまま振り下ろされたサムライブレードでインディアンは、絶命した。



 その後、オケンから連絡を受けたという、連中が来て、何一つ痕跡を残さず破壊していった。

 その風景を眺めながらあたしが言う。

「貴方は、本当に最低ね。恨まれる筋合いがあると認めときながら、あっさり殺す?」

 オケンは、苦笑する。

「俺も殺される気は、無かったが、やられたふりくらいしてやっても良かった」

「だったらどうして?」

 あたしの問いにオケンは、逆に問い返して来た。

「あいつらは、俺を殺せば満足したと思うか?」

「それは……無いでしょうね」

 あたしの言葉に頷きオケンが言う。

「DDCの技術を悪用し、関係ない者にまで危害を及ぼす前に始末した。それが俺のけじめだ」

 そして、作業員に確認をし、立ち上がる。

「ここでの仕事は、終わった。次のDDCの遺産を探しにいくとするか」

 そういって背を向けるオケン。

 あたしの情報屋としての感は、このまま別れろと告げていた。

 しかし、あたしは、声を掛ける。

「他にもDDCの技術の情報を持っているわ」

 振り返るオケン。

「幾らだ?」

 こうしてあたしは、多くの死を纏った男と深く関わり合う事になった。

 それが、恋なのか、それとも強い力への憧れなのかは、解らない。

 でも、この出会いが、あたしの一生を変えた事だけは、間違いないだろう。

雰囲気が全然違うぜ!

オケンは、元殺し屋だけあって、人を殺すのに躊躇が全くありません。

他のシリーズと違い、シリアス街道まっしぐらになる予定です。



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