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矢のごとく(24)
2950年 5月17日
宇宙っていうのは、本当に黒い。艦長席に座るとそう思う。
いわゆるコックピットだが、俺が操縦をする必要性はまるでない。
むしろ俺が操縦すると危ない。俺の操作で命が危ない。
お飾りのキャプテンシートの上に、お飾りのキャプテンが座っている訳だ。
クリスマスツリーの星になった気分だ。
いかにナノマシーンで視力を強化しても光の速度で飛んでいるシャトルの中で危険を察知する事はできない。
人のスペックでは無理なのだ。
人の英知の結晶のコンピューター様には叶うべくもない。責任を取るだけの楽なお仕事だ。
光っていた星が後ろに行くと見えなくなる。
艦長席から見えるのは正面の光だけ。
後ろからの光は、この船に追いつけないのか、俺が知覚できないのか。
それはわからないが、実に前向きだ。