ジェントルメン(17)
3019年 4月10日
朝、奴隷達は荷物をまとめていた。俺も荷物をまとめて合流する。
最後にリンガーレイフォンと一試合すると言うと、子供達が見たいと言うので連れて行くことにした。
しかし修練場はいつも人がいっぱいなのに、リンガーレイフォンしかいなかった。
開始一番「隠し事は無い?」と聞かれたので、無いと答えておいた。
勘ぐられている。
まあ、王都で誰が気づくかと言えば、筆頭は間違いなくリンガーレイフォンだ。
俺の実力を知っている。俺が出て行った時期と照らし合わせれば、何となく察しも付くかもしれない。
もちろんそれを否定できるように俺しか出来ないこと……例えば電気ショックなどはしなかった。なので確証までは行かないだろうと踏んでいる。
しかしリンガーレイフォンはそれ以上の追求をしてこなかった。
「この勝負、勝った方が何でも命令できる。どう?」
「やだ」
断られるとは思っていなかったのか、目を瞬かせていたリンガーレイフォンだったが。ああと納得した顔をして次は笑顔を浮かべて同じことを言ってきた。
断ると妙に感心された。
「……さすがは師匠。効かない」
そういうことの為に笑顔を教えた訳ではないが……まあ、有効活用しているならそれでいい。
したたかさは、生きて行くのには必要だ。特に暴力で解決すればいいと考えていた節もあったから、まだマシになったと言える。
試合自体はぶつかっては離れるを繰り返すような戦いになった。リンガーレイフォンが引くことを覚えたことで、印象としては攻めにくい。
勝ちにくいが、負けにくい戦い方をする様になった。不利になると引き、有利になると畳み掛けてくる。実にやりにくい。
しかし、スタミナは俺の方が上だ。徐々に追いつめ、剣を弾き飛ばして勝ちをとる。
大分剣の使い方にも慣れて来た。
まあ、あれだけ強制的に実戦をさせられれば慣れもするか。
勝ったことでとりあえずこれまでの礼を言って、出て行こうとしたがリンガーレイフォンから呼び止められた。
「宝石騎士になれとは言わない。仕事を受けるつもりはある?」
なんのこっちゃと思っていたら、ジェントルメンの騒動で宝石騎士の二人が実力不足を理由に辞めたらしい。実際のところ、辞めさせられたのかもしれないが……まあ、なんにしても手が足りなくなったと言うことなのだろう。
「私にも今までとは違った仕事が回ってくる。手が要る」
迷ったが、一先ず石鹸が優先だ。しばらく間を空けて訪ねてくるか、手紙でも送れと言っておいた。
奴隷達にはえらく感心されるし、子供達も興奮しているようだ。
まあ、これで働かせやすくなったと思うことにしよう。
港から王都を出る際に検問があったが、俺はスルーされた。ジェントルメンの偽装は上手くいっているらしい。
思ったより時間は取られたが、家に戻れる。予定より大分長く居たから工事は終わっていると思いたい。




