下準備(31)
3019年 1月28日
名案が浮かばないまま、気がついたら朝だった。
またもや、ドーレスが呼びにくる。また逃げ損なった。
査定の人も見学に来るし、ますます逃げにくい上に、どうもこの二人、俺が何か仕出かした罪人かなにかのように思っている節がある。
もう営業妨害だと言っても過言ではない。
おまけに二番隊の奴等も俺を睨むし。全員、武器持ってるし。
「なんだ、戦争でもするのか?」と軽口を叩いたら返事も無い。ゲンナリする。
リンガーレイフォンは装備も万端。やる気十分な様子だった。
「正々堂々」
などと言う。どうも彼女の言う正々堂々とは剣の、剣だけの戦いであるらしい。
そんなもん勝てるわけが無い。
おまけにまたもや真剣を持ち出してきた。
木剣にしようと言うが、真剣勝負だと聞きもしない。しょうがないので俺だけ訓練用の剣を使う事にした。刃がつぶしてあるので安全……と言うには痛そうだが、刃が付いてるよりは安全だ。
それを馬鹿にされたと思ったらしいすごい早さで切り込んできた。
正攻法で戦いつつ、負けようと思うのだが、これが中々どうして。
リミットを完全に解除しても、簡単には行かない。
しかし向こうは逃げ回る俺が手を抜いていると考えているようで、こっちに剣を振りながら怒るし、回りの奴等からも野次が飛んでくる。
そのまま、戦い続けても良くないのは間違いない。落とし穴を掘る暇もない。
最後の手段を出す事にした。
剣を投げ、視界を防いでからのタックルおよび、背面に回って腰をホールドし、バックドロップ。からの剣を持った腕に対して逆肘固めだ。
軍隊乱闘名物プロレス技だ。
如何に体格差があり、相手が鍛えられていて居ようとも、パワーでは負けない。関節の数が違うわけでも無し、一度固めてしまえば抜け出せない。
足下で暴れるリンガーレイフォンもしばらくすると静かになった。
ギブアップと受け取って手を離すと、リンガーレイフォンはゆっくりと立ち上がった。
全体的に元気が無い。回りの観客も声も無い。
「私は弱いか?」
そう聞かれたので「しらん。喧嘩慣れしてないんじゃないか?」というと、目を芝炊かせていた。
「とにかく、決闘はおしまいだ。もうしないからな」
そう宣言して、逃げるように宿に帰ってきた。
ああ。ドーレスの言葉が耳に蘇ってくる。
こうしてつらつらと書いては見たがまったく心が落ち着かない。だが言いたい、俺は悪くない。悪くないだろ。読み返してみても俺が悪いとは思えない。