第5話 「マッド・ドーター物語」略してマ・ドー物語
目を覚ますとそこは異世界だった。
何故か私は、平原のど真ん中に立って、ビキニアーマと形容すべき実用性を明らかに犠牲にしたものを装着し、さらには帯剣していた。まるで冒険ファンタジーのに出てくる女戦士のようだ。
空にはドラゴンが飛び交っているし。目の前に地平線まで広がっている平原には、スライムらしき生物やら人間サイズの蜘蛛等、現実には存在しない生物がかっ歩している。
……夢だな。昨日は疲れていたもんな。変な夢を見てもしょうがない。
「寝るか!」
夢の中で寝ることによってどうなるのか。分かりかねることだけど試してみるのもいいかな。
そうこと決めた途端に目の前が暗転。
目の前に鎌を骸骨が現れて……。
ざんねん!!
わたしの ぼうけんは これで おわってしまった!!
そう言い残して去って行った。
あたしは一人真っ暗な空間に取り残され、暗闇でボウっと『ゲームオーバー』の文字が浮かび上がる。
「なんなのコレ!?」
自分の置かれた状況がさっぱり分からない。
さっきの景色は何? てかさっきの骸骨はシャ○ウゲイトのパクリ?
「それにゲームオーバーって……ゲーム?」
目を覚ます以前の記憶がぼんやりと戻ってくる。
そうだあれは確か――。
『キイ、キイ。パパとゲームして遊ばない?』
夜中の十時半。いつものように親父の碌でもない実験に付き合わされた後の事だった。
『嫌だ! あたしはもう寝んの! 話しかけんな親父』
疲れもしていたし、あたしは親父相手の機嫌は悪かった。
『そんなこと言わずにさあ。ヘッドマウントディスプレイで見える画面を見つつ脳波コントローラーで操作して拡張現実に対応したバーチャルリアリティで体感するゲーマーの夢が詰まったスッゴイゲームだよ』
『う……、確かにそれは気を惹かれるけど――断る!』
色々とゲーマーの琴線に触れる魅力的な単語が幾つか出てきて心が乱されるも、親父の事なので碌なことにならないと思い直した。
それから背中を向けて去っていく親父を後にし、自分の部屋の部屋に戻ってベッドに沈んで寝た。
これが戻ってきた記憶の始終だ。
あ! そういえば。
記憶の中の親父は、背を向けたときに口の端が上がっていなかったか?
あたしは、忘れていた。いや、きっと疲れていて油断していたのだ。
――親父がしぶとい奴だということを。
『ハロハロ。パパりんだよ〜ん。キイ、いい夢は見れている?』
犯人が親父だと確信した途端、タイミングよく頭の中に響く親父の声!
「うっせぇ! 親父! 今度は何をしやがった!」
『――! どならないでよ。まだ試作段階で声はそのまま出ちゃうんだよ?』
反応するってことは声は届くらしい。
「だから! 今あたしをどうしているって、聞いてんだよ!」
今、自分は親父によってどのような状況に置かされているのか分からない。不安で仕方がない。
『キイが遊んでいるのは、パパの自作したアクションRPGで……』
「ゲームの中身を聞いているんじゃなくて、あたしはどうやってゲームをさせられているんだよ!」
親父がこんな行動に出た理由はなんとなく分かる。大方、ドッ○ハックにでもはまったのだろう。
私が聴きたいのは、そういうこととかでもない。ゲームをさせられているからには、あたしはゲーム機に触れているはずだ。
所がだ。頭を触るがディスプレイもない、コントローラーもない。体を触ってもどこにも怪しげな配線をつけられた形跡はない。
『それはね。コノゲーム自体がキイ自身の見ている夢だからさ。
説明しよう――私の考えた最強のゲーム機ドリームサターンは対象者の見る夢を媒介としてゲームプログラムを投影させるのだ。
ちなみに、ゲーム時間の一秒が現実時間においての千分の一秒。時間が無い人もコレでやりこみが可能。正にアクセルワ……』
「わー、わー、わー! これ以上、喋んな!」
危なそうな単語が出てくるきたので、あたしはがなり立てて親父の言葉を紛らわすことしかできなかった。
突然何を言い出すんだ親父は……。誰か、親父の口にガムテープを張り付けて塞いでくれないだろうか。
『そうそう、このゲームを止めたいなら。ゲームクリアか登校時間が来るまで電源が切れないかね』
ゲームオーバーの文字が下がっていき、真っ暗な空間に明かりが指す。
そして、徐々に背景が明るくなるににつれ黒い文字が浮かび上がってきだした。
そこに書かれていたのは。
『マッド・ドーター物語』
略すと、パズルゲームの方が有名になってしまった某RPGシリーズのタイトルになりそうだ。
―Push start―
タイトルの下で明滅する文字。
プッシュって、どこを押すんだよ!
「とりあえず文字を触ってみよう」
タイトルへと近づいて文字を押してみる。
するとタイトルが上空へと引っ張られて行き、また景色が変わる。
そして、景色の移り変わりが完了すると再び目覚めたときの世界が目の前に広がっていた。
『キイの目的は、この世界のどこかで世界征服を破滅へと導く魔王を見つけ退治すること。それが出来ればゲームクリア!
まずは近所の村へ向かうこと』
お約束的な物語と目的、そして親父の思惑通りに事を運ばされている感が半端ない。
しかし、癪に触ってもゲームを終わらせる方法が思いつかない為、今は言われた通りに動くしかない。
仕方がない。でも、なんやかんやでゲームするのは好きだし少し気分はウキウキしていた。
辺りを見回し身近な村を発見。向かうことにする。
「あれは!」
村へ向かう道中、動く水たまりを発見。もしかしてアレが超有名なザコ敵、スライムなのでは。
「歩いて早々、雑魚とのエンカウント。これは幸先がいい。よーし、経験値頂き!」
Game Over
あたしは、再び真っ暗な世界に居た。
『知らないのキイちゃん? スライムは別名『忍び歩く水』と呼ばれ、音もなく人の背後をとって捕食し、じわじわと溶かして食い殺すんだよ。しかも、液体だから殴る切る蹴るとか通用しないし基本的に倒し方は無い。
それにザコって言ったってそれはDQの話だし、FFのプリ○系列は物理は攻守共に強いし、他のゲームなら状態以上やらボスやらと基本的に強敵設定だよ』
誰だよ! スライム=弱いのイメージを植え付けた奴。責任者出てこい!
あたしはリスタートしてスタート位置からの開始。セーブポイントに着く前だったのでまた最初から村を目指さないといけないが……。
『ラン○アーチン』
ぎゃあ! ウニっぽいモンスターを踏んでしまった途端、HPが一瞬にして溶けた!
『かり○』
病気となり、体中を寒気が襲う。HPが尽きるまで嬲り殺しにされる!
『しっこくハウス』
何の変哲もない民家からなんでこんな強敵が!? 攻撃が通らない!
『マインドフレア』
のうみそが すいとられてしまった
『瞬獄○』
鬼が、鬼が出た! 殺意の波動を纏った鬼が出た!
『まんたーんドリンク!』
そんなあ! せっかくここまで削ったのに。
『ふっかつのじゅもんがちがいます』
どこの「め」と「ぬ」を間違た!? それとも「ね」と「わ」か!? まさか、「ぱ」と「ば」とかか?
『死ぬがよい』
死にました。三秒も持たなかった。
『○ゅうきょくキマイラ』
なんで!? 背中のスイッチ切ったのに、なんで!?
『ばっよえ〜○!』
ばたんきゅー。
『アイテムなぞ……使ってんじゃ……ねぇぇぇぇぇええええええ!』
そんな、ごもったいな。
「糞ゲーじゃねぇか!」
既に幾十と見慣れたゲームオーバ画面。さっきから死にゲー過ぎる。
『ええ〜! これでも、進行不能バグなんてないし。それこそテレポーターの罠で『いしのなかにいる』は、泣く泣くカットしたというのに……』
「それこそ、あってたまるか!」
そんなことされたら、ガチで詰んでしまう。つうか、そんな凶悪なネタを仕込もうと考えていたのか親父は。
いや、今までのも散々凶悪だったけどさ。
まだ最初の村にも辿り着けていないんだぜ? 信じられるか?
『実際全然進んでいないみたいだし、仕方ないから難易度を下げとくか。えーと、難易度を『カオス』から『ベリーイージー』に、っと』
上げすぎだろ。道理で、初回から来る敵来る敵が理不尽に強いわけだ。
『コレでゲームバランスはマシになったはずだよキイ』
本来はマシなのがデフォルトのゲームバランスというものなのではないだろうか。
「親父はあたしにゲームさせたいの? それともさせたくないの?」
こうもゲーム進行を妨げる初見殺し、もしくは難関、あるいは運ゲー要素を盛り込むとはさすがにKOTYを狙っておるとしか思えない。
『だから、難易度下げたじゃん。チートコードも入れまくったよ。試しにそのザコ――マダラヒョウタンガエルを攻撃してみなよ』
あたしはいつの間にか、武器が剣からチェーンソウを持ち替えて、敵と対峙する。
キイの攻撃
マダラヒョウタンガエルは砕け散った
さらに 世界は砕け散った
ついでに 神も砕け散った
Game Over
「理不尽だろうが!」
パワーインフレと呼ぶのもおこがましいバランス崩壊っぷりだった。
○リオRPGをしていたと思ったら、○パロボOGをしていたと錯覚するぐらいに数値の桁が違った。
「元に戻せ!」
『え? でもそんなことしたら、また逆戻りに』
「いいから!」
攻撃するたびにイチイチ世界が滅亡してゲームオーバーするなら、まだ難しい方がマシだ。
敵はエンカウント下手なやつとエンカウントしなければ大丈夫だろう。幸いにもこのゲームはシンボルエンカウント制らしく、フィールド上のモンスターに触れない限り戦闘にならない。
『低レベルクリアプレイはできないことはないけど推奨できないよ?』
うるさい! そんなゲームに誰がしたよ。
あたしはその後、ようやく辿りついた街を取っ掛かりとして、お使いやらクエストを達成していく。
殺しにかかっていたのも最初のうちだけだったたしく、話も終盤にさしかかる頃にはゲームバランスはちょうどよくなっていた。
そんな訳でいろいろ省略。今回、親父がゲームネタを詰め込み過ぎたせいで、全部話そうとしたらキリが無さそうだからね。
そして、私の目の前には玉座に座る魔王がいる。
「予想はしていたけどやっぱりか」
「こういうときは、『世界の半分』を取引に持ちかけるのがいいのかな。キイ」
それっぽい甲冑を装備してはいるが、魔王の顔も姿も全部がそっくりそのまま親父だ。
「やっぱここでキイが来るのを一人待つのはシンドイね。天の声のキャスティングをしていて正解だったよ」
玉座によりかかるどころか、寝そべってさえいながら親父は心底怠そうにしゃべる。
しかし、ここまで来たし、あくまでラスボスの役割だけとはいえ、親父は親父。何があるのか分からない。
「警戒しなくても。何も仕込んでないって。
だって私は敵だよキイ? それこそ『ぼくのかんがえたさいきょうのらすぼす』なんてことしてないから。ここまで来られるのなら、普通に倒すことができる難易度だから。
パパだってゲームを愛する一人のゲーマー。ボスを倒して世界が平和になるハッピーンドのゲームのお約束くらい守るよ」
そうかそれなら信用してもいいかな。
――そう思っていた時期がありました。
「いぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
我ながら随分と久しぶりに、自分の可愛らしい声を悲鳴で聞いた気がする。
「ほらほらー。待て待てー!」
あたしは現在、親父の生首と追いかけっこの最中だ。
「なんでその恰好で追いかけてくるんだよ」
「ほら、だって。せっかくタイトルをネタにしているんだから、やっぱラスボスもネタ元に沿ってボスの最終形態はフライング生首がイイかなって」
「いらねー」
「そんなこと言わないで……」
「来んな、グロい、キショい! あたしに血が付く!」
「うりうり〜」
「ひゃぅぅ!」
あたしが親父の生首を克服し、叩きのめすことができたのはそれから時間後の事だった。
* * * * *
「どうしたの!? これはいったい……」
朝、布団から目覚めるとあたしの部屋も、それどころか家の中全てがメチャクチャになっていた。家の中で台風が暴れたといっても信じられるくらいの有様だ。
そういえばと、親父がゲームの前に言っていたことを思い出す。
バーチャルリアリティで体感……体感……体感!
体感ゲームとは詰まる所、体を動かして遊ぶゲーム。
加えて親父は、拡張現実ウンヌンも言っていた。それはつまり、家の中を冒険の舞台として見立てていたという事で。
「糞親父!」
勘が働いて、あたしは親父の下へと急行する。
「グッモーニン、キイ!」
そこには、研究室も全身もボロボロにも関わらず、ケロッとしている様子の親父がいた。
「どうしてくれんの? この家の有様を」
「良いじゃんか。いつもの事だし」
「でも一昨日の晩にさ、こっそりあたしに電話でそろそろ実家から戻ってきますって母さんから連絡が……」
――ピンポ〜ン。
このタイミングで一戸建て住宅に響く呼び鈴の音。
その次に聞こえてきたのはドアを開ける音と即座に閉める音。
「待ってくれ!」
親父は慌てて玄関へと飛び出していくも後の祭り。そのまま、外へと走り出して行きあたしが家に一人取り残された。
足元には紙切れが一枚。内容は一言だけ。
『やはり、実家に帰らせていただきます』
「どうすんのコレ」
家の中は散らかったまま。じきにあたしは学校へと家を出なければならない。ようやく帰ってきた母さんは再び家出。
「母さんと父さんの事はいつもの事だし何とかなる。家の惨事もそう、いつものこと。だったらあたしは学校へ行くことを考えよう」
色々と酷い惨状になった状況を落ち着いて考えながらも、とりあえずあたしは学校へと向かう準備をすすめるのだった。
今となっては結構古くなってしまったゲームのネタを多々詰め込んでみましたが、あなたには幾つ分ったでしょうか。有名どころからなので結構分る人がいるのではないでしょうか。
さて、今回でマッドドーター。一時終了とさせていただきます。
理由は単純明快。
キャラクター設定が全く活かせてないからです。
元々は、キャラありきで作り始めた作品だったので、ストーリーにキャラを生かせる下地が全くできていなかったのです。
キャラとストーリーを上手く絡めればもっと良くなれると思う反面、ストーリーのいい案が未だ浮かんでこないのです。
面白い話にしたい。だから、いったん筆をおいてよーく練り直す時間が欲しいのです。
そんな訳で、いつまでかかるか分りませんが、準備が整うまでは「第一部完!」ってことで休載します。
第二部が始められる目途が立ったら。新規タイトルでいちから……ではないですけど続きを書こうかなと思います。こんな作品にも関わらず一名でずっとお気に入り登録を続けてくださった方、ありがとうございました。
また会いましょう。




