第4話 ご愁傷様悪人さん
ある朝。
日が昇り、空が青くなってまだ二時間と経っていない外は肌寒くて、つい両掌を軽く擦り合わせてしまう。
あたしが、直人と一緒に学校へと向かっていると高笑いが独特な男が、道の真ん中で腕組みをしこちらの様子を眺めるようにして立っていた。
「ふうっは、はははは」
青い肌、三メートルを超す巨漢、とがった耳、まだみんな長袖を来ている時期に短パン半袖、そして極めつけは痛くかぶれた方々に愛好されているような黒マントを羽織っていること。
うん。紛うことなき変態だ。
いつも登校の際は余裕をもって出ていくあたしだけど、こんな邪魔者に構っていたら時間までに辿り着けそうにない。ここは華麗にスルーしよう。
あたしは直人にも男を無視するように喚起して、俯きで道の端っこを歩き男の居る通り去ろうとする。
「我は、闇の王国『ダークホール』から来たナスーニョ。現の都最強の戦士雨木キイよ。大人しく我らの軍門に下るがいい」
なにやら訳の分からないことをはざく奴だ。あたしの方向を男は見ているが、きっとその言葉はあたしなんかじゃなくてその向こうの電柱(名:雨木キイ)に向かって話しかけているのだろう。
ほら、証拠にどんどんと私たちが遠ざかっていくに連れて声も一緒に遠ざかっていく。あの電柱が男の話相手に違いない。
「いいのかい、キイちゃん。あの人キイちゃんの名前を確かに呼んでいたけど……」
お人好しの直人は、いらない心配を直ぐする。
いいんだよ。あれはあたしなんかじゃなくて、私たちの後ろにある、あたしと同姓同名の電柱に声をかけているだけなんだから。問題なし問題なし。
あたしは、直人の手を聞いて一歩一歩、歩く速度を加速していく。
「キイちゃん。あの変な男の人がこちらが無視したことに気づいてやって来るよ」
後ろを向くんじゃないよ直人。目が合っちゃたらどうするんだよ。責任もって最後まで面倒見れるのか? 近頃はさあ、無責任な飼い主のせいで野良変質者が増えて社会問題なんだぞ。
だからここは、敢えて関わらないのが正解なの! そう決めたの! たった今。
「おいおい。何処へ行こうというんだ。我の話相手はお前であっているぞ」
ちいっ。
逃走距離にして、僅か一〇メートルで追いつかれてしまった。
こうなったら、いつものような交渉術(物理)で納得して帰ってもらうしかないのかな。
「おっと、なんでも力で解決しようとするのは賢い選択じゃないな」
男はあたしの行動を読んだのか、拳を固めたあたしの右腕へ手のひらを突きだして待ったをかける。
「ドーン!」
そんなことで止められると思ったか。馬鹿め! 私はなんの躊躇いなく、男を殴り飛ばした。
「げふうっ。まだ言うことが残ってたのに」
ちいっ、腰の入れ方が甘かったか? このナスビの人、まだ息が残っている。
「ナスーニョさん。言いたいことってなんですか」
ああ、直人は不用心に不信者に近づいて。危ないってのに。
直人は、腹パンのダメージが深く残る男相手に手を差し伸べて助け起こす。直人は余計なことを……。
「う、うう……。少年よ我の話を聞いてくれるか」
「いいよ。僕でもいいのならいくらでも」
「なら駄目だ。すまんが、このことは雨木キイでなければならんのだ」
なおとが きいてほしそうなめで こちらをみている
嫌だ。関わりたくない。あたしは直人から目線を外してそっぽを向く。
「キイちゃん……」
なおとが せつなそうなこえで こちらへうったえかける
ええーい、無視無視。あたしは耳を塞いでそのまま学校へと向かおうとする。
「お願いだよ。この人、可哀そうだから話を聞くだけでもいいでしょ?」
しかし まわりこまれてしまった!
「この通りだ。話だけでも聞いてくれ!」
ナスーニョは こんしんのどげざをした
ナスーニョのプライドが 1 さがった
ナスーニョのせいいが 4 あがった
なおとは うったえかけるひとみでこちらをみている
つうこんのいちげき!
きいは ついにおれてしまった
「で、聞いて欲しいことってなんなんなの?」
できれば手早く終わらせてほしい。
「ふうっは、はははは」
あっ、そこから始めるんだ。律儀に最初から始めなくてもいいのに。
「我は(中略)軍門に下るがいい」
「ムリ!」
いつも通りの事。世界中どころか異世界中からも、私の持つ力を欲しがってやって来る悪い人たち。
幾らうるさいからって、一度でも受けたら最後。他の奴らまで、なあなあで押しかけにやってくる。その数は今までの比じゃない位の大勢に上るだろう。
こういったことを未然防ぐ為にも後顧の憂いなくバッサリ切るのが一番いい。
「クフフ、始めから断られることなど百も承知。だがこれも見ても平気でいられるかな?」
交渉術(物理)が成功したと思われるにも関わらず、余裕の笑みが崩れないナスビの人。
「だったら目を瞑れば問題ないね。はいドーン!」
「げふっ。おえっぷ――オロロロ……」
正攻法が通じないならと策を講じるタイプを相手にする場合、もっとも効果的な方法……それは人の話をよく聞かないことだ。
何も明かさなければ、世の中何も起きていないのと同じことになる。
「お前、もう少しくらい人の話を聞いてくれないのか? お前の身近に、なにが起こっても知らないぞ」
口端に吐瀉物が残り、スッパ臭くなったナスビの人。膝を曲げて崩れた状態であたしを見上げるその眼は――泣いていた。
「キイちゃん。こんな時になんだけど、こういうのを見ていると、やっぱおじさんとキイちゃんて親子なんだと実感するよ。似てるね」
失敬な。誰があんな、変態オタク鬼畜最終狂科学者と似ているんだよ。一緒にすんなし。
こういった評価をよく他人からもらったりするけど、あたし的にどこがどう似ているのかサッパリ分からない。
「いいかげん話を進めさせてくれないか。こっちも仕事だから要件をささっと終わらせたい。今まで何人も断っているそうだけど、こっちだって仕事だから形式てきにでもしなきゃいけないだよ」
最初の面はどこへやら。完全の風にたなびいて見についたおっさんの顔だ。さっきの土下座姿は板についていた様子だったし、きっとこのナスビの人は色々と苦労を……。
――などと同情してはいけない。それがやつらの作戦なのだから。
「キイちゃん!」
しかし直人が怒った様子でこちらを睨んでくるので、聞きたくなくても聞かないといけない。
「コホン、……あー、あー。……クフフ、始めから断られることなど百も承知。だがこれも見ても平気でいられるかな?」
ホラやっぱり来たよ。テイク3。やっと話しが進んだ途端に、スグに悪そうな顔に切り替えててあたしの方を見る。
そして、ナスビの人の横に原理は分からないが映像が浮かんで、ある光景が映し出される。
「そ……それは!」
その光景にあたしはさっきまでの余裕はなくなってしまった。例えるなら、ロシアンルーレットが輪ゴムから実弾に変わったぐらいに。
「そうだ。お前はよーく見覚えがあるだろ? お前の家の玄関だ。家の中にお前の親父が一人残っていることは知っている」
「まさか……」
あたしが驚いてくれるのが、余程嬉しかったのだろう。ナスビの人は最初の調子を完全に取り戻す。
「そうだ、そのまさかだ。すでにもう我が部下を送っている。いるな、ウッサイナー」
『ウッサイナー』
どうやら、あの映像は声を届けることができるらしい。ウッサイナーと呼ばれて、映像に最初っから映って謎に思っていた黒い影のようなものが返事をした。
「雨木キイに少しお灸をすえないとな……」
「止めて、超止めて。それだけはお願いだから。なんでもするから」
不敵な笑いをあたしに向ける。
次にナスビの人が何を命令するのか分かっている。それだけは何としてでも阻止しないといろいろとマズイ。
あたしの必死の懇願にを関わらず……。
「もう遅い。お前は我を馬鹿にし過ぎた。行け! ウッサイナー」
『ウッサイナー!』
イエッサーと言っているような返事をウッサイナーがして、目の前の映像はここで途切れる。
大変なことになったと、内心慌てて血の気が引いていくのが分かる。急いで家に帰らないと取り返しがつかないことに!
「後は、自分の目で確かめるといい。我は高見の見物とい……」
ナスビの人は宙へと浮いてその場からきえようとする。
逃すか!
「お前ぇも来るんだよ!」
――ビタン。
ナスビの人の足を引っ掴んで引きずり下し、アスファルトの地面へと叩きつける。意図してやったことではなかったのだが、勢い余って地面にナスビの人がめり込む。
「だだだ大丈夫ですか」
心配する直人を横目に、めり込んだナスビの人を地面から引き剥がすと、鼻血が出ているやら涙目やら細かい擦り傷やら前歯が一本折れているやらで、再び情けない顔に戻っていた。
「謝る。謝るから、足も洗うから許してよ」
顔面から色んな汁を流して謝るナスビの人。だけど……。
「今はそんなことどうでもいいから。早く一緒に家に戻るよ!」
「へっ?」
また交渉術(物理)が来ると思っていたのだろう。ナスビの人は身構えていたのをといて呆気にとられていた。
「直人も一緒に来て! あたしだけじゃ不安だから」
直人を呼び止めて、というか
事の本当の事態が全く伝わっていなくナスビの人を呆けた状態のまま、私は引きずって直人と共に家へと逆戻りしていった。
帰宅。
今から、学校に向かってもきっとホームルームまでには間に合わない。事の解決を図ろうとすれば一限目にも間に合わない。
まったく、とんだことをしてくれたよ。今回の奴らは。
玄関を見るとまずは破壊されたドアが目に付く。ドアはまるで車が突っ込んできたかのように破裂していた。
玄関を潜ると、置かれていた調度品が廊下床へと広がっている。きっとウッサイナーという奴が乗り込んだときについでに荒したのだろう。
その荒しの後を辿って行くと、親父の地下へのラボへと続いている。
親父のラボに向かうには、この家からでは地下階段を下りるしか、向かう方法はない。
階段は最低限の光量しかなく、ずっと先は暗い。その上立ち昇ってくる変な薬品臭と相まって禍々しい雰囲気を醸し出している。
「ただの階段にしか見えないのに深淵へと繋がっているかのような、我らが居城にも勝る禍々しさはなんだ。ここは現の都にある万魔殿か?」
ナスビの人から大層な評価をもらっているがちっとも嬉しいものではない。無視して、あたしの先導で直人とナスビの人を案内して長い階段を下って行くと、破壊されたラボへと入る扉が姿を現した。
あたしは急いで扉を越えてその先へと進む。
「遅かったか……」
キョロキョロ動く目玉の浮かんでいる培養液、肉だか内臓だかよく分からない蠢く肉塊のようなもの、眼と尾をそれぞれ三つ持つ口の中が紫色したサルなど、精神衛生衛生上よろしくないもの達に入り混じって台に磔にされたウッサイナーを発見。
台の周りには丸鋸・ドリル・点滴・メス・金槌・マイナスドライバー・かゆみ止め・湯呑・ザリガニ……etc。状況からは察せない用途が不明な物ばかり。
そしてこの人……。
「ふひひひひぃひ。なーんて、スンバラスィー日なんだろうか、今日という日に感謝感激雨霰サブマッスィーンガン! この素体は実に興味深いですなぁ。惜しむらくはもう一体欲しかったことだろうな~」
凶器の波動を発するあたしが世界で最も会いたくない狂った人種がそこにいた。どうしようか、回れ右をものすごくしたい衝動にかられています。
実際、回ろうとして右を向こうと顔を向けると。
「…………」
親父の狂気に当てられてナスビの人は卒倒していました。
「さーあ、大人しく改ぞ……いやいや、解剖しましょーか」
「ウサイナーウサイナーウサイナーウサイナーウサイナーウサイナー」
親父に捕まっているウッサイナーは「いやいや」をするように暴れて必死の抵抗を試みている。
「暴れてくれるなよ~。そーんな悪い子には、お注射だぁ~」
親父は注射器を手に取ると、その中に深青色をした体に悪そうな液体を吸い上げて満たしていく。
もがくウッサイナーへ、注射針が刺さろうとした時。
「止めんか! この糞親父が!」
間一髪で、親父のを殴り飛ばし、冒涜的な実験を阻止することに成功した。
「もう、大丈夫だから安心してね」
「ウッサイナー!」
台に駆け寄って縛めを解いてやると、ウッサイナーが泣いてこちらへ抱きついた。よっぽど怖かったのだろう、抱きつかれた際に震えていたのが伝わる。
おーよしよし、怖かったよな。親父から受けた不安を薄めてあげようと、あたしは頭を押さえて優しく包み込むようにしてこちらからも抱きしめてあげる。
親父の実験というものが如何様な物なのか。実体験を通して、よく知っているあたしはよく分かる。この子もあたしと同じトラウマを背負うことになってしまったんだ。
「いやはやなんとも。キイが近くに居たのに、この私とあろう者がすっかり目の前の発見に夢中になってたよ」
何回転もして壁と激しく激突したにも関わらず、何事も無かったかのように復帰している親父。
相変わらずの親父の不死身っぷりを、あたしと直人の方は見慣れているが、ナスビの人はそうではない。
あたしの拳を生で味わったこともあるナスビの人は、自分よりもひどい殴られ方をしても平然としている親父を、信じられないといった表情で眺めている。
「雨木鍵彦……奴は本当に人間か? それに、ウッサイナーは闇の力そのものと言っても。どうして物理的に干渉して捉えることが可能なのだ?」
たぶん人間……だと思いたいけど、あの尋常じゃないバイタリティーには自信がない。あと、そっちの闇の力がどのような物なのかは知らないけど、あの人は基本なんでも有りにしてしまうから深く考えない方がいいかと。
「はっはっは。ギャグ要員ってのはね、よっぽどのことがあっても死なない補正があるのだよ。ミスタ○サタ○とか」
○タンとか……親父がいつも通りの訳の分からないことを言っている。伏字を二つも使っているのに伝わってくるのが不思議。
「それよりも、そいつ逃がしたらいけないじゃないか。せっかく面白い研究材料を見つけたって言うのに。すごいんだよ? こんな安定した状態で存在して、しかも意思をもって物体に寄生するダークマターは。正にロマンの塊じゃないか!」
「これってダークマターなんですか! 初めて見ましたよ」
「そうだろうスゴイだろう? 直人君にならこのロマンを分かってくれると信じていたよ」
親父の言葉に約一名(直人の事)、目を輝かせているものがいたけど、あたしにそんなこと言ってもほだされない。
親父の方が、ダークマターなんかよりも数段非常識な存在だ。そんなことくらいで驚かない。
「アンタたちはさっさと今のうちに出ていく。それとも……またあんな目に遭いたい?」
彼らの事を想って軽く脅すと、一目散に外へと向かってナスビの人とウッサイナーは消え去って行く。
「あーあ、出て行っちゃったか、残念だけどしゃーないな」
残念だと言いながらも、親父は全く残念そうな声をしていなかった。むしろ、先ほどよりも面白そうだ。
何故なのだろうと、そのあとのブツブツ言いだした親父の独り言を聞き取ると、その理由が分かってゲンナリとしてしまう。
「奴らはどこからやってきたのだろう。私の構築した理論上ではこの世には存在しないはずの存在だった。ならば、おそらく次元の薄層の狭間からやってきたと考えた方がむしろ自然。では具体的に、あいつらの世界へと侵入を果たすにはどうしたらいいのか。コレをこうしたと仮定して、アレがああでそうなって……よしこれで行けるかな? 異次元だなんて、心躍らせてくれるじゃないか。待ってろよ実験素体!」
粘着質にも、追っかけるつもりだこの人。ある意味、究極のストーカーだ。そのうち地獄果てまで追っかけをするんではないだろうか。
今回ばかりは、あたしを狙ってきた悪人としては可哀そうな部類に入るだろう。あたしにできることは親父に捕まらないことを、そしてご冥福を祈ることしかない。
「おじさん。さすがにそこまでは、止めておきましょうよ」
私の意思を汲み取ってくれた直人が、「僕にまかせて」と、親父の野望を阻止しようと船を出してくれる。
「どうして諦めないといけないんだい直人君? あんなにも私の知的好奇心を満たしてくれそうなものは久々にお目にかかれたんだよ。だったら追っかけないとそんじゃないか」
子供のようにお眼々爛々に輝かせている親父は、人の話をよく聞かない。これからどうやって阻止しようというのだろうか。
「おじさん。そろそろその辺で止めないとキイちゃんのおじさんに対する評価が低くつきますよ?」
これは良い案だと思う。現段階で親父には、既に下がりようがないくらいの低評価を下しているのだけど。あたしから日々嫌われている親父にとって、これ以上株価を下げたくない想いは大きいはずだ。
「なんだって! キイがパパを評価してくれるだって!? 嬉しいぃぃぃぃぃぃぃぃゼット!」
高かろうが低かろうが、評価されること自体を親父は喜んでいた。ポジティブにも程があるだろうが。
「これは自信あったのに。これじゃダメなのか」
直人も私同様に有効だと思っていた手が通じないと分かって落ち込んでいた。
「直人ぉ。これで考えは終わり? 他になんかない?」
「あるにはあるんだけど、それは……」
なぜだかあたしの方をチラチラと見ては恥ずかしそうに顔を赤くする直人。実に可愛らしい表情だと思うが、今の状況に関係ない。
「なんなんだよ。ハッキリしろよ!」
「ええとさ……」
「もしかしてあたしの協力が必要だったりする? だったらあたしは気にしないから遠慮しなくていい。直人になら、あたしができる範囲でなら何でもしてやるよ」
親父の被害者を、これ以上増やしたくない。そのためなら、多少恥ずかしいことだって我慢できる。
「そうじゃないんだよ。キイちゃんにしてもらいたいことじゃないんだけどでも伝えとかなきゃいけないようなそれはそれでなんかのような……」
なかなか煮えに切らないなぁ。直人の様子がおかしい。そこまで恥ずかしいことをさせるつもりだったのか。
「仕方ないなあ。だったら、見ざる聞かざる言わざるで離れた場所にいるから、それであの親父をどうにかしといて」
あたしはそうして親父の説得を直人に任せ、研究室出口で直人の説得が終わるのを待つことにした。
暫く待っていると、直人が理由は不明だが満足げな顔をした親父を連れてきた。
「キイちゃん。おじさんがようやく話を聞き入れてくれたよ」
きっちり直角九〇度まで頭を下げてあたしに誤る親父。
親父の顔が快眠快食快便を済ませて冷水で顔を洗ったかように清々しい。さっき実験をしようとしていた時までの顔は、本職の人もドン引きの完全に狂った悪人面だったのに。
直人はあの親父をどのようにして説得させたのだろう。実に内容が気になる。
「パパが間違っていたよ。だから直人君とは、仲良くしていてくれ」
なるほど、娘の人間関係を人質にとったと。おそらく直人は親父がそんなのなら、私を絶交だとか縁を切るとかそういったことを言ったのだろう。
それは確かに言い辛い。
けど、恥ずかしくなることではない。どうして直人は赤くなっていたんだ?
「キイが直人君と仲良くしてくれないとパパの密かな野望である『幼馴染とけっ……」
「わー! わー!」
直人が大声を発しながら親父の口を塞ぐ。
「おさななじみとけ……なんだって?」
「何でもないよ。いつも通りのおじさんの訳分からないことだからきっと」
でもどうして、直人が慌てることになるのか?
少し気にはしたけどそれで終わりにした。あたしだって、親父の妄言に時々口を塞ぎたくなる衝動はあるのだから。
「直人!」
「キイちゃん何?」
「今日はありがとう連れて正解だった」
本当は親父に向かうときの心の頼りとして連れてきただけだけど、連れてきてよかったと思う。
「もう学校には完全に遅刻だけど急ごう! 掴まって!」
「キイちゃん!? さすがにその恰好は……」
「喋らない。舌を噛むよ!」
あたしは直人を抱っこして、通学路を疾走しだした。
* * * * *
―おまけ―
「ダークネス大帝!」
「ナスーニョか。よく戻って来れたか。雨木キイの籠絡はどうであった?」
「それどころではありません! 一国も早く城の警護を強化せねば」
「あれほど光の都の侵攻に積極的だったお前が閉鎖的になるなど……向こうの世界で何があった?」
「邪悪です。我らがちっぽけに感じる程の邪悪を見てきました。世界を敵に回しても彼らを敵に回してはなりません」
――ズゥゥン。
ダークホール王国にそびえる悪の居城が激しく揺れる
「まさかもう。……うああああ!」
「待て! お前の言葉は要領を得ないぞ。去る前に、何があったのかをこの私に報告し……」
ナスーニョ逃亡と入れ替わりに、すぐさま兵士の者が城に起こったことを報告しにくる。
「大帝様!」
「今度はどうした?」
「私達の王城の外壁が何者かの手によって破壊されました」
「バカな! 二千年以上もの長い歴史の中で、どんな豪傑であっても破壊されなかった自慢の防壁だぞ!?」
「ですが現に……」
「緊急です! 防壁を破ったものが分かったのですが、どうやら只の人間のようなんです」
新たに兵士が追加の情報を持ってくる。
「ただの人間ごときに何を遅れをとっているのだ。情けない」
「お言葉ですが、その人間ごときに、私ども一兵はおろか警護に当たっていた四天王の皆様すら歯がたたなくでして」
「お前たちもそうだが、あの四天王まで駄目なのか。使えない者どもめ」
「お気を付けください。あの者は不死身を思わせる頑丈さと、我々をもいともたやすく超えるほどの狂気を孕んでございます。決して敵わないと思いませんように。我々はそうやって敗北しました」
「弱いから、勝てそうにないなどというそのような腑抜けた根性が表に現れるのだ軟弱者め」
また新たな揺れが城を襲う。今度はダークネス大帝の居る間の壁が爆発した。
「ウェイヒヒヒ、ウェイヒッヒッヒ。いんや~、行こうと思えば来れるもんなんだねここは、来るまでの所要時間たったの十分からないとはいささじゃつまらなく感じるけど問題があって問題ない。しかし、まるで浪漫の縮退炉みたいな場所じゃないかこの世界そのものは! ……あんれー? こーんな所に特上にいぢり甲斐のありそうな実験素体ハケーン」
自身を超える大きいな驚異を目の当たりにして、ダークネス大帝は、「これじゃ勝てる気がしなくても、しょーがない」と悟ったという。
前話の投稿が十二月の下旬だったので実に二か月ちょい程ぶりの更新です。続きを信じて待って下さった方にはいてくれてありがとうございます。一~二話間が五か月ほど空いていることからもお察しできる通り、本当に不定期です。間がすごく空くだけで、作者が作品をエターナることはありませんので安心を。こんな作品でも最後までお付き合出来ることを願っております。
一二三 五六でした。