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マザーグース風・破滅ざまぁ短編集

メリーさんのひつじはどこまでもついてくる〜“真似”で生きる少女に人生を奪われたので、私は消えることにした〜

作者: 本咲 サクラ
掲載日:2026/03/30

 メリーさんのひつじは、どこへ行くにもついてくる。



 この学園では、“模倣魔法トレース”が推奨されている。

 優秀な魔術師の魔力構造、詠唱、思考。

 それらを解析し、再現する魔法。


 “個性より再現性”。


 それが、この学園の方針だった。



 王立魔導学園。

 その最上位クラスで、私は“原型”として選ばれた。


 「あなたを基準にします」

 そう言って現れたのが、彼女だった。


 無表情で、淡々としていて。

 そして──空っぽだった。



 彼女の魔法は、私と同じになった。


 魔力の流れ。

 詠唱の癖。

 間の取り方。


 すべてが一致している。


 違うのは、顔だけ。


 「参考にしています」

 彼女はそう言った。


 最初は、誇らしかった。

 “真似される側”は、優秀な証明だから。


 でも、

 すぐに違和感に変わった。


 私が新しく組んだ術式を、彼女は翌日使う。

 私が改良した魔法を、彼女は“前から知っていたように”扱う。



 「すごいね、同じだ」

 周囲は、評価する。



 違う、同じじゃない。


 “奪われている”。


 それは継承じゃない。


 私を見ていたことすら隠して、

 最初から自分の力だったように振る舞う。


 その在り方が、気持ち悪かった。



 やがて、

 評価が並ぶ。


 そして、逆転する。



 「複製体の方が安定している」


 当然だ。

 彼女は、失敗しない。


 私の成功だけを抽出して、再現しているから。


 揺らがない。

 迷わない。


 ──だから、“上位互換”と判断される。



 その日。


 私は、自分の魔力を見つめた。


 揺らぎがある。

 未完成な部分がある。


 でも、それは、

 私が“自分で選んできた証”だった。


 そのとき、思い出した。


 ここではないどこかで

 自分で選び、間違えながら生きていた記憶。


 だから分かる。

 これは、進化なんかじゃない。


 停滞だ。


 模倣は、何も生み出さない。


 誰かの後ろをなぞるだけでは、

 “本物”にはなれない。



 「……やめる」


 私は、模倣魔法への接続を断った。


 魔力の公開と 術式の開示を止めた。

 思考も読ませない。

 供給を断つ。



 翌日。


 彼女は、止まっていた。


 魔法が発動しない。

 構築が遅れる。

 詠唱が揺れる。


 「……どうして」

 初めて、彼女の声が乱れた。


 当然だ。

 彼女は、“自分で選んだことがない”。



 それから、

 彼女の評価は段々と落ちていった。


 「最近、不安定だな」

 周囲は、そう言う。



 私は、ようやく理解した。


 模倣魔法は、“成長”じゃない。

 “依存”だ。

 “原型”がいなければ、成立しない。


 そしてこの学園は、

 それを“正しさ”として量産している。


 だから私は、出ていく。


 この場所にいれば、

 “誰かになること”が正しいと錯覚してしまう。


 荷物をまとめる。


 最後に、彼女を見る。


 「……次は、どうすればいいの?」

 彼女は、初めて自分の言葉で尋ねた。


 私は答える。

 「自分で決めて」


 それが、すべてだった。


 振り返らずに、歩き出す。



 メリーさんのひつじは、どこへ行くにもついてくる。


 でも、

 ついていく先がなければ──


 どこにも行けない。

 だから私は、選ぶ。


 誰かの再現じゃない。

 “私のまま”で、生きることを。



 自分で選び、

 自分で迷い、

 自分で積み上げる。


 そのすべてが、私を形にする。


 だから私は、

 たったひとりの自分を、最後まで生きる。

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