メリーさんのひつじはどこまでもついてくる〜“真似”で生きる少女に人生を奪われたので、私は消えることにした〜
メリーさんのひつじは、どこへ行くにもついてくる。
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この学園では、“模倣魔法”が推奨されている。
優秀な魔術師の魔力構造、詠唱、思考。
それらを解析し、再現する魔法。
“個性より再現性”。
それが、この学園の方針だった。
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王立魔導学園。
その最上位クラスで、私は“原型”として選ばれた。
「あなたを基準にします」
そう言って現れたのが、彼女だった。
無表情で、淡々としていて。
そして──空っぽだった。
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彼女の魔法は、私と同じになった。
魔力の流れ。
詠唱の癖。
間の取り方。
すべてが一致している。
違うのは、顔だけ。
「参考にしています」
彼女はそう言った。
最初は、誇らしかった。
“真似される側”は、優秀な証明だから。
でも、
すぐに違和感に変わった。
私が新しく組んだ術式を、彼女は翌日使う。
私が改良した魔法を、彼女は“前から知っていたように”扱う。
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「すごいね、同じだ」
周囲は、評価する。
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違う、同じじゃない。
“奪われている”。
それは継承じゃない。
私を見ていたことすら隠して、
最初から自分の力だったように振る舞う。
その在り方が、気持ち悪かった。
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やがて、
評価が並ぶ。
そして、逆転する。
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「複製体の方が安定している」
当然だ。
彼女は、失敗しない。
私の成功だけを抽出して、再現しているから。
揺らがない。
迷わない。
──だから、“上位互換”と判断される。
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その日。
私は、自分の魔力を見つめた。
揺らぎがある。
未完成な部分がある。
でも、それは、
私が“自分で選んできた証”だった。
そのとき、思い出した。
ここではないどこかで
自分で選び、間違えながら生きていた記憶。
だから分かる。
これは、進化なんかじゃない。
停滞だ。
模倣は、何も生み出さない。
誰かの後ろをなぞるだけでは、
“本物”にはなれない。
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「……やめる」
私は、模倣魔法への接続を断った。
魔力の公開と 術式の開示を止めた。
思考も読ませない。
供給を断つ。
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翌日。
彼女は、止まっていた。
魔法が発動しない。
構築が遅れる。
詠唱が揺れる。
「……どうして」
初めて、彼女の声が乱れた。
当然だ。
彼女は、“自分で選んだことがない”。
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それから、
彼女の評価は段々と落ちていった。
「最近、不安定だな」
周囲は、そう言う。
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私は、ようやく理解した。
模倣魔法は、“成長”じゃない。
“依存”だ。
“原型”がいなければ、成立しない。
そしてこの学園は、
それを“正しさ”として量産している。
だから私は、出ていく。
この場所にいれば、
“誰かになること”が正しいと錯覚してしまう。
荷物をまとめる。
最後に、彼女を見る。
「……次は、どうすればいいの?」
彼女は、初めて自分の言葉で尋ねた。
私は答える。
「自分で決めて」
それが、すべてだった。
振り返らずに、歩き出す。
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メリーさんのひつじは、どこへ行くにもついてくる。
でも、
ついていく先がなければ──
どこにも行けない。
だから私は、選ぶ。
誰かの再現じゃない。
“私のまま”で、生きることを。
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自分で選び、
自分で迷い、
自分で積み上げる。
そのすべてが、私を形にする。
だから私は、
たったひとりの自分を、最後まで生きる。




